この惑星を調査し始めて何年になるだろう。
この間は調査延長まで申請して受理された。
何故、私はこの惑星を調査したいのだろう?
この惑星の住人は、川があれば橋を架け、山があればトンネルを掘る。
彼らがどこへ向かっているのかは、よくわからない。
日本のホッカイドウとアオモリを隔てるツガル海峡に、人々は四半世紀をかけてトンネルを掘った。
そして、新幹線が華々しく開通する予定だった。
だが、深海棲艦と呼ばれる者たちの脅威によって閉鎖されたトンネルは当面無用の長物と化し、青函連絡船が艦娘と呼ばれる兵士の護衛を受けながら今も現役で往還している。
オクツガルイマベツ駅近くで仕事の傍ら、とある喫茶店でカレーを食べていたらそこの女性主人が話しかけてきた。
「あなた、鉄道の関係者? 私は青函連絡船の方が断然好きだわ。」
そして彼女はイシカワサユリの曲を歌うのだった。
インターネットという伝達手段が現れてからも、テレビは今も多くの人に影響を与えている。
テレビという存在は不可解で、視聴率と呼ばれる尺度が重視され、局内で働く人は常にソレに振り回される。
視聴率が絶対正しいとされる保証など、どこにも存在しないのに。
日本の人はイチキュッパが大好きだ。
深海棲艦の侵攻で輸入が一切出来なくなってから、消費者は商品の値段に対して更に敏感になった。
そして、イチキュッパの値札が貼られた商品に殺到する。
本当に必要なモノなど、人生にはさして存在しないのに。
私は現在、ハコダテの基地で家政夫をしている。
ハコダテに住む宇宙人は日本の中でも人数が多く、知人もいるからだ。
業務を終えた後、ヤシロアキの歌を聞きながらぬる燗のニホンシュをちびちびやりながら炙ったイカを食べるのが最近の楽しみのひとつだ。
しみじみ呑むニホンシュはよく沁みる。
思い出がぱらぱらと、絵葉書のように通り過ぎてゆく。
あの、離島での日々を時折思い出す。
医師の真似事をして、地元の人々と交流した日常を。
何故、私は彼らを助けることに奮闘したのだろうか?
外から霧笛が聞こえてきた。
日本製のカセットレコーダーの巻き戻しボタンを押して、ヤシロアキの歌を再度聴ける状態に戻す。
夜はまだ、長い。
この世界の大きな平和は、小さな平和の積み重ねだ。
鎮守府と艦娘たちが、それらを積み重ねているのだ。
おそらく。
私は見届けたいのだ。
この惑星の行く末を。
この、うさんくさくたくましき世界に住む人々にうんざりすることも無いではない。
ただ。
この惑星の夜明けは美しい。
だから、私は調査し続ける。
それが私の使命と信じつつ。