オレ、ホイシュレッケⅨ。
イナゴの力を持った改造人間だ。
ついこないだまで、とある秘密結社で働いていたんだが失職しちまった。
今はとある北の港町で娘っ子たちを抱えながら、細々と生きているのさ。
上級量産型戦闘員として生み出されたオレは下級戦闘員たちを引き連れてアフリカ戦線で転戦し、その後脱走者を粛清する戦力として帰国した。
で、帰国後、秘密結社を脱走したホッパーⅠとⅡを粛清する討伐隊に組み込まれて出撃したんだけど、奴らから返り討ちに遇って壊滅したんだ。
ホッパーたちを支援していた連中は血祭りにあげたが、怒りに燃えた裏切り者たちが暴れ回って仲間たちはバラバラにされた。
火を吐く奴も。
毒の霧を吐く奴も。
指ミサイルを飛ばしてた奴も。
怪光線を放ってた奴も。
苦無を投げてた奴も。
鎖鎌を使ってた奴も。
二刀流の奴も。
みんなヤられた。
でも。
なんで、オレ生きてんだろう?
なんで、オレ五体満足なんだ?
戦闘中に頭を強く打った所為か、最終決戦の記憶が曖昧なんだよな。
くすんだ黄色の筈の手袋が暗い緑色になっているし、違和感がある。
……まっ、いっか。
オレはオレだ。
オレがオレだと認識している限り、オレがオレであることに変わりはない。
秘密結社の本拠地に戻ったら潰れちまっていたし、生き残りの女子戦闘員たちを引き取ったりであの後てんやわんやだった。
戦闘員たちの死体はあちこちにあったが、先輩や同僚や後輩の怪人の遺体は見かけなかった。
幹部連中も見かけなかった。
みんなどこへ行ったのかね?
…………。
こまけぇこたぁいいんだよ。
今が大事。
これに尽きるな。
しっかし、『仮面娘小隊』ってのを作るたあ、大佐もなに考えていたんだか。
ロリっていう噂はホントだったのかねぇ。
ま、あいつらの食い扶持も稼がなきゃなんねぇからてえへんだがよ。
死霊博士も死國大使も行方不明だから、頼れねぇしな。
連絡先くらい教えて欲しかったな。
最近は、深海棲艦とかゆう訳わかんねぇ連中が海で暴れ回ってるしよぉ。
あーあ、ホッパーたちを追いかけてた日々が懐かしいぜ。
……でも、あれから半年くらいしか経っていねぇんだよなあ。
人間社会で偽装生活するために、オレ用の運転免許証とか借家とか用意してもらってたからよかったわな。
郵便局やみちのく銀行にも口座があるし、預金で当面はなんとかなる。
この海沿いの街を拠点として秘密結社を再興……はむずかしいか。
明日は職安にでも行って、講習の予約をするとしようか。
炭鉱も勧められたんだけど、移動が不便になるからなぁ。
オレの身体機能なら鉱夫になるのは問題ないんだが、ホッパーたちの迎撃地点としてはよろしくないんだな、これが。
罠が張りにくいのもよくない。
坑道で戦うなんてもっての他だし。
一番大きな街にある程度近いのはいいんだが、汽車が一日一本だから躊躇するわな。
今更だけど、どうやって身分証明書とか偽造してたんだろう?
……まっ、いっか。
そういや、博士が言ってたな。
究極の闇がどうしたとか九つのセカイがどうしたとか、反転世界がどうしたとか。
あんまりややこしい話だったから適当に相槌打ったけど。
世界征服が浪漫とかいうのも、よくわかんなかったなぁ。
博士とか大佐とか大使とか幹部連中はノリノリだったけどよぉ。
アメリカみたいに世界を牛耳りたかったのかねぇ。
アフリカで現地の武装勢力を潰し回ったのは楽しかったがな。
なんだろうねぇ、女子供を楯にするってのは。
もっと男らしく、バーンとやれっての。
ま、オレの反射速度に追いつくなんてのは百年はええがな。
あの時は随分転戦したなぁ。
ロンメル戦車軍団もびっくりだ。
で、アフリカから戻ってきたら討伐隊。
勇んでホッパーたちの元へ向かったら次々仲間がヤられ、地獄谷で最終決戦。
う~ん、記憶がそこら辺から曖昧になるんだよなあ。
なにがあったんだろう?
生き残った奴らとも連絡を取りたいが、『蜘蛛』とか『蝙蝠』とか『蜂』とか『蠍』とか、歴戦の連中はどうなったんだろう?
意外としたたかなのが多かったから、案外生き残っているかもしれない。
まあ、縁があったらまた会えるさ。
世の中、そんなもんだ。