「君は艦娘を甘やかし過ぎている。」
函館鎮守府へ視察に来た上官の大佐は、執務室で開口一番そう言った。
うちの厳しい駆逐艦三名からは私が甘やかされていると評判なのだが。
「確かに厳し過ぎる鎮守府は問題だが、ゆるすぎるのも問題だ。」
上官の後ろにいるうちの大淀が殺ってもいいですかという表情をしているので、駄目だと小さく合図した。
あちらの大淀は気づいていないみたいだ。
うちの大淀の方がずっと可愛い気がする。
大佐の秘書艦の長門はムスッとしていた。
大佐が私に質問する。
「君はどんな鎮守府がよい鎮守府だと思うかね?」
「艦娘の笑顔が絶えない鎮守府です。」
「軍人の本領は戦果を上げることだ。」
「私は軍属です、閣下。」
「では戦果を強制して、それが出来ない時は提督の資格を剥奪の上転属だと言ったらどうする?」
「即時に記者会見を開いてぶっちゃけまくり、ネットであることあること書きまくって希望者と共に逐電します。」
「ほう、そこまで言うか。……なにを知っている?」
「閣下のお宅は四つあるそうですね。」
「……脅迫する気か?」
「いえいえ、放置していただけるのが一番ありがたいです。函館は食べ物がおいしくて住みやすい場所ですから、ここで近海防衛任務に専念出来れば嬉しいです。」
長門が無言ですうっと近づいてきた。
あ、これ不味いやつや。
さっとうちの大淀が私の前に立った。
「暴力は困りますよ、閣下。」
「なに一撃で済む話だ、君。」
「埃だらけみたいですねえ。」
「君が気にする話ではない。」
「道理で、殉職率が下がらない筈です。」
「皆名誉の戦死を遂げた英雄なのだよ。」
「所謂二階級特進、というやつですか。」
「軍隊では様々な事故があるものだよ。」
「長門さんは疑問に思わないのですか?」
「……。」
「拳を振るう相手を間違えていませんか?」
「無駄だよ。彼女は『教育』してある。そろそろ君には『退場』してもらおうか。」
「大淀さん?」
「はい、生放送はバッチリです。」
「生放送?」
「ええ、まさかこういう内容になるとは思いませんでしたがね。函館駐屯地から陸戦隊がそろそろ到着する筈です。いやあ、近所付き合いって、ホント大事ですね。後、殺人教唆の件で警察も来ますから、よろしくお願いいたします。」
次の瞬間、長門が拳を振るってきたが、それは大淀によって難なく止められた。
「なに? 長門の一撃を止めただと?」
「うちの大淀さんはとても優秀ですから。」
「はい、提督に身も心も捧げています。」
「この『艦娘たらし』めがっ!」
大佐は警察が来たら、いきなり大人しくなった。
ニヤニヤしてさえいる。
なんとかなるとでも思っているのだろうか。
もう既に後ろ楯さえ無くなったことには、全然気づいていないみたいだ。
いや。
そちらの方が都合はいいか。
ここで再度暴れられても困るし。
やれやれだぜ。