はこちん!   作:輪音

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CⅩⅤ:知らぬことは幸せの証

 

 

 

君は羨ましい羨ましいと連呼するがね。

艦娘が実際に膝の上に座ったりしたら、どれくらい大変なのかを全然分かっていない。

 

提督の仕事の大半は執務室での書類作業だ。

朝起きて雷の淹れてくれたお茶を飲んで朝礼をやって執務室で駆逐艦手製の朝食を食べ終えたら、とにもかくにも書類とにらめっこなんだ。

肩車したり愚痴を聞いたりする暇なんざ、ちっともありはしないんだよ。

向こうが勝手にやってしまうんだがね。

小学校低学年の姪っ子を膝の上に乗せるとか肩車するとかなら、そんなに負担は無いさ。

しかし、だ。

中学生の女の子を膝の上に乗せるなんて、そりゃあ負担が著しい。

二名もこられたら、膝がガクガクする程だ。

例えば、夕立と時雨を膝の上に乗せ、白露が背中に抱きついてくる状況で仕事を遂行するのは大変困難だ。

ん?

それでも羨ましい?

甘いな。

休んでいる時じゃないんだぞ。

業務に集中しなきゃならん時なんだぞ。

前なんかちょっとも見えないんだから。

必然的に体を右にかしげて作業することになるんだが、下手をすると腰を痛めるから油断出来ない。

二名も膝の上だと、抱き抱えながら書類作業だ。

もう、訳がわからんよ。

なんでそこまでして作業しなきゃいかんのだ、なんて思いながら書類をやっつけていたら昼が来る。

昼が来ると、膝の上の駆逐艦が当然の如く食事の時間だと告げるんだ。

こちらも食べないとやっていられないからね、一緒に飯を食いに行く。

食堂での席は既に決まっていて、そこに手を引かれていって飯を食う。

まるで駆逐艦包囲網が形成されているような感じがするんだが、まあ、気の所為だろうさ。

他の艦種の娘となかなか話が出来ないのは難点だが、うちは駆逐艦が多いからね。

仕方ないっちゃ仕方ない。

戦艦や空母の連中と飯を食ったのは、あれは何時が最後だったかな?

 

 

そいで、昼飯を終えたらまた書類作業だ。

各種申請やら演習の報告やら遠征の結果報告やら内海外海での任務報告やら、普段からやっていることでも書類書類書類。

これで大型作戦があれば、書類作業は桁違いに増えてゆく。

先日の大型作戦なんざ、こちとらは内海でちょろっと支援しただけなのに書類が八割増しになったよ。

優秀な秘書艦が欲しいよ、切実に。

ん?

うちには書類作業を得意とする艦娘がいないからな。

大淀はどこの鎮守府も手放さないし、困っているよ。

膝の上に乗るような駆逐艦はけっこういるんだがな。

秘書艦の育成には時間がかかるし、誰かいないかね?

で、バタバタやっているとおやつの時間になるのさ。

番茶やら代用珈琲やら国産紅茶やらと手作りのお茶漬けを持ってきた、当番らしき駆逐艦たちとティーブレイクだ。

 

 

夕食は執務室で摂ることが多い。

駆逐艦たちが作ってくるんだよ。

ん?

他の艦種?

さあ?

どうなんだろうな。

今度聞いてみるか。

でも、張り切っている駆逐艦たちを見ていると、他の娘たちにはなかなか言い出せなくてな。

 

夕食を終えた辺りで書類業務が多少でも出来る駆逐艦たちが来てくれたりして、追い込みに入る。

 

日を跨ぐ前になんとか終えて、風呂に入って寝るだけだ。

着替え?

ああ、駆逐艦が用意してくれているよ。

いつもまっさらな下着で感謝している。

そういえば、身の回りはすべて駆逐艦がテキパキとやってくれているな。

電や吹雪や五月雨や漣や叢雲といった駆逐艦たちは他の鎮守府での経験があるから、慣れているんだろう。

まあ、そんな感じで毎日過ごしているよ。

ん?

添い寝?

ああ、朝起きると駆逐艦が隣で寝ていることもある。

寝惚けたのかねえ?

勇敢な駆逐艦といえども、まだまだ子供ってことさ。

添い寝を頼まれることもある。

夜がこわい、って言われたら断る理由も無いだろう?

夜戦が得意な筈の駆逐艦に言われると、確かに違和感はある。

少女を戦場に送っている負い目を感じるからか、つい甘くなってしまう。

本当はそれじゃダメなんだろう。

しかし、私は思うんだ。

あの子たちの笑顔を守るのも、私たち提督の仕事だ。

なんてな。

 

 

 

 

皆さん、集まりましたね。

ではお手元の作戦要項をお読みください。

極秘ですので、読後焼却をお願いします。

 

司令官は女性とお付き合いをされたことがなく、特殊な性癖もありません。

若く、そして未使用です。

エロいお店の経験もありません。

しかも、私たち艦娘に等しくやさしい。

特優等物件ですね。

鎮守府を転々として解体をどうにか免がれてきた私たちは、今こそ総力を結集してかの難攻不落の要塞を陥落させなくてはなりません。

くれぐれも、エロい接触や発言は控えてください。

それは悪手です。

先日ふざけてエロい発言をした重巡洋艦に対し、司令官が切々と注意した事案は対岸の火事ではありません。

それにつきましては、参考資料としまして詳細な報告書が添付されていますので後程熟読願います。

軽巡洋艦、重巡洋艦、軽空母、正規空母、戦艦を演じてくださっている方々の協力あってこその私たちであることを忘れないでください。

鳳翔さんや間宮さんや金剛さんや榛名さんやイクさんなどが、ここにいなくて幸いでした。

 

足場は固めました。

司令官の退任後も共に暮らせるよう、私たちは邁進しなくてはなりません。

慢心は禁物です。

質疑応答が終わりましたら、これからの戦術について協議したいと思います。

 

司令官が、ここが正規の鎮守府ではないことに気づく前に作戦完了しますよ。

 

 

 


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