お陰様で、『はこちん!』も連載一周年を迎えました。
改めまして、皆様のご好意に感謝します。
『艦これ小説』の中でも異端街道を爆走している作品ではございますが、今後ともご贔屓いただけましたら幸いです。
あ~あ。
またやられちゃった。
このブラウザゲーム、一定期間が過ぎると基地への空爆と大進攻が始まるのよね。
東北に残存戦力を掻き集めて、かなり抵抗したんだけどなあ。
ねえ、メトロン。
これ、裏コードみたいなのは無いの?
そげに笑わんといてんか。
いっつもゲームオーバーじゃ、つまんないのよね。
なにこれ?
小型基地拡張コード?
実際使えるの、これ?
……ふーん。
隠しキャラがいるんだ。
そいつらを使えば、上手くいく?
えーっ、大型基地に着任させられないの、そいつら?
……まあ、もっかいやってみる。
進攻初期に人口がどんどん減るのをなんとか防いで、代替エネルギーの開発に素早く着手して、海外交易を限定的にでも復活させないと。
世界の人口が二〇億以下になっても駄目なんだよね。
よーし、いくぞ、おまんら!
突撃じゃきに!
私には変な記憶がある。
何度も何度も艦娘になって、幾度も幾度も轟沈しているのだ。
隣で失神していた司令官が復活したので相談してみたら、「それは俺とお前が出会うための宿命的な記憶なのさ。」などとぬかしたので、三日間床を共にしないと言ったら土下座された。
それは実に見事な土下座だった。
他所の先輩たちや明石さんにも相談してみたが、前世の記憶だとか、他の同姿艦の記憶が混在しているのかもしれないなどと言われた。
遠征や内海哨戒任務をこなす日々に既視感を覚えながら、司令官の私室と同室の子との部屋を往復する生活。
ちょっこし悶々とする日常。
「ねえ。」
「なあに?」
同室の子が話しかけてきた。
普段は無口で静かな駆逐艦。
「気分転換に函館へ行ってみたら?」
「函館?」
「そうよ。あそこのご飯はとってもおいしいし、上手くやれば市内観光も出来るわ。鎮守府内の宿泊施設を利用させてもらえば宿代が浮くし、行ってみる価値はあるわよ。」
「行ってみようかな?」
「ええ、素敵な所よ。」
一人きりでは夜がさみしくなると泣いてすがる司令官に間宮羊羮を約束して、私は津軽海峡を目指した。
函館は風の強い街だ。
鎮守府は大きかった。
今も拡張工事が進められているそうだ。
深海棲艦やメリケン艦娘たちやロシア艦娘たちが普通に廊下を歩いていて、びっくりする。
メリケン艦娘は、まだ建造可能ではない艦ばかりで驚いた。
ロシア艦娘は三名いて、全員肌が真っ白に近い艦ばかりだ。
瑞鶴さんがじゃれついている翔鶴さんも随分肌が白かった。
稀少艦が集まる鎮守府なのかな?
なんとなく見覚えのある気がする。
食堂の厨房。
中華鍋を振るう料理人の隣で、ここの司令官がカレーを煮込んでいた。
彼の作るカレーは、この食堂に於いて人気料理のひとつなのだという。
「今晩は即席提督の作るカレーよ。私はいつもお代わりするわ。」
世話好きそうな案内役の子が、ニヤリと笑った。
他の駆逐艦たちと共に、市内ミニツアーに参加する。
半世紀前にウルトラ警務隊の人たちを乗せて活躍したポインターに乗車し、函館牛乳直営の牧場や立待岬や五稜郭などへ行った。
夕食の時間になり、食堂へと再度向かう。
食事処は大混雑していた。
「また会ったわね。一緒に並びましょ。」
勝ち気そうな駆逐艦の子の後ろに並ぶ。
今晩の献立はカレーライスに自家製の浅漬け、豆腐とワカメの味噌汁に筍と貝柱とブロッコリーの炒めもの。
おいしそうだ。
カレーを匙ですくって、あむっと口に入れる。
あっ!
初めて口にする筈なのに、何故か懐かしい味。
どうしてなのだろう?
胸が痛くなってくる。
「ど、どうしたの? 辛すぎた?」
「ううん、とってもおいしいよ。」
目の前の子があたふたしている。
涙がこぼれ落ちたからだろうな。
「これは幸せの辛さに違いないの。」
「あんた、洒落たことを言うわね。」
明日は、ここの司令官と話をしてみよう。
なにかわかるかもしれない。
このカレーを食べると心がせつなくなる。
イヤじゃないけど、涙が次々に出てくる。
「水を持ってきてあげるわ。」
「ありがとう。」
背中を向けて、水差しを取りに行く彼女。
そうだ。
あの日。
彼女は。
目が覚めると、隣で司令官がぐっすり寝ていた。
うーん、と背伸びする。
なんだか、カレーが食べたい気分ね。
よし、今晩はカレーライスを作るぞ!
私と司令官との二人きりの生活だから、少しは変化をつけないとね。
物資の配給も最近は上手くいっているようだし、張り切っていこう!
よーし、今日も一日頑張りまっしょい!