はこちん!   作:輪音

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たぶん
このセカイは終わっている
おそらく
このセカイは狂っている
きっと
このセカイは願っている
たぶん
終わりの時間を長引かせているだけ
おそらく
飽和したなにかを掻き集めているだけ
きっと
夢を見続けたいだけ

Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか




CⅩⅨ:気合い! 入れて! カレーを作ります!

 

 

 

カレー。

ラーメンと並ぶ、日本人が魔改造した国民食のひとつ。

深海棲艦の進攻によってカレーの原料となる香辛料の輸入は途絶えたが、食に関して世界一の執念を持つ日本人はあらゆる努力を惜しまなかった。

南極観測隊に於いて日本人は他国の観測隊に比べ、三倍の糧食を持ち込んでいた。

異世界に転移転生する日本人は、あらゆる努力を以って日本食の開発をするのだ。

そういった背景の所為か、輸入に依存していた食べ物の幾つかは復旧が早かった。

だがしかし、まだまだ輸入品は高額だ。

現在、少しこだわったカレーを食べようと思うと三〇〇〇円どころでは済まない。

そこそこの味わいのカレーを、二〇〇〇円以下で食べられたら御の字のご時世だ。

都内の某ホテルのレストランに於いて、カツカレーが七〇〇〇円すると騒がれた。

某新聞社本社のレストランでは更に高級なカレーが平然と提供されているそうだ。

奥が深いというか、なんというか。

 

 

 

艦娘の作るカレーは旨いものが多い。

鎮守府へ出入りする者は、カレーの日に当たると大喜びする。

勿論、食堂への出入りを許している鎮守府に限られるのだが。

超々過勤務時間的暗黒形態の運送業のお兄ちゃんがゆっくり食べている暇なんて無いと駆逐艦に言って泣き、持ち帰り用にと持たされたカレーを見て更に泣いた話もあると聞いた。

日本社会の闇は深い。

 

 

小麦粉を最大の原料とする某社の普及品系固形型カレー粉が、現在一箱五〇〇円前後。

食料品店が特価で三九八円くらいにすると、大体開店後一時間以内で完売するらしい。

 

遠征任務でも、香辛料系が最近増えてきている。

先日の大型作戦の成功が、それを後押ししているのだろう。

 

 

 

ある日、大湊(おおみなと)を加えた五大鎮守府の比叡たちが私に相談すべく、函館にやって来た。

姉思いで面倒見がよく、気質がさっぱりとしていて料理上手。

元気いっぱいで、場を盛り上げるのにすぐれ厳しくやさしい。

鎮守府によっては最大戦力だったり、提督の妻だったりする。

そんな彼女たちが一様にしおれていた。

簡単系のカレーを教えて欲しいという。

彼女たちが普段作るカレーは手間暇愛情その他が込められ過ぎて、対費用効果が悪すぎるらしい。

つまりは気合いの入れすぎだ。

そこで、私が業務の合間に作る賄(まかな)い系カレーというかニッチ系カレーを知りたいのだという。

料理の名手たちに教えられることなんて私にはなにも無いように思われるのだが、意外にも彼女たちは熱心に請うてきた。

ならば、調理だ。

別に沢山作ってもいいのだろう?

 

 

食堂の厨房に行くと、李さんが夕食の下拵えをしていた。熱心な人だなあ。

ぞろぞろ行ったので彼は恐縮していたが、そのまま仕事を続行してもらう。

鳳翔と間宮は休憩中のようだ。

 

今回は豚と牛の合挽き、それにキャベツと茸を使ったカレーにしてみよう。

茸を洗って、キャベツと共に刻む。

肉を炒め、次に茸と野菜を炒めた。

鍋に入れた材料をブイヨンと共に煮込み、沸騰したら灰汁取りしてカレー粉や香辛料などで味を調整。

夕方まで寝かせたら出来上がり。

とっても簡単でしょう。

比較的短時間でも大量に作れる。

懐にもやさしい。

物足りないなら材料を追加すればいいし、翌日や翌々日の変化もさせやすい。

 

「私、いつもは香辛料の段階からカレーを作っていました。」

「駆逐艦の子たちの集めてきた具材で作るのが基本ですね。」

「お姉様がイギリス式カレーを好むので、それが基本です。」

 

わいわいと試食する高速戦艦たち。

米は無論、道産だ。

何気に混ざって評価分析している鳳翔と間宮。貴女たち、他所の鎮守府から来たでしょう。

腕利きの李さんが妙に感心した面持ちで私の作ったカレーを試食しているので、なんとなく居心地が悪い。

彼からすると、私の作ったカレーが基本になるんだよな。

鳳翔と間宮はニヤニヤしながら私にカレーを作らせるし。

艦娘たちの要望も多いらしい。

冴えないおっさんの作るカレーが隠れた人気料理だなんて、関係者以外の誰が信じるだろうか?

 

 

いつの間にか駆逐艦たちが集まってきてカレーを食べたいと騒ぎ出したので、これは夕食の分だと説明した。

比叡たちが何故だか頷き合っている。

ニヤニヤしないで欲しいであります。

浅漬けを今のうちに仕込んでおこう。

 

 

夕食は予想よりも激戦になった。

比叡たちにも手伝ってもらいながら、先ずは挽き肉と茸のカレーを大量に作る。

そして馬鈴薯玉葱人参を小さく刻み、別口でことこと煮込んだ。

キャベツと胡瓜の浅漬けをてんこ盛りにした大皿で時間稼ぎし、サラダに軽く炒めた雑魚(じゃこ)を載せドレッシングをかけて戦場へ送り出す。

李さん特製の青椒肉絲やワンタン入りもやしスープも送り出した。

鳳翔間宮足柄の作ったカツやコロッケなど

もばんばん出してゆく。

手伝いの駆逐艦たちも大車輪の勢いだ。

煮込んだ根菜と挽き肉茸のカレーを合体させて、再度火を通した。

カレー粉と香辛料で調整。

次々と空になってゆく鍋。

お代わりする駆逐艦たち。

つられてほかの艦種たちもお代わりする。

殆ど空になった鍋に昆布で作っただし汁を注ぎ、大量のキャベツと挽き肉茸カレーを混ぜ合わせた。

僅かに残った他のカレーも集結させ、煮込んでゆく。

無法板の鹿ノ谷さんがじっくりと炒めた玉葱と和風だしの素で調味し、炊き上がった道内産のご飯にかけて戦場に送り出した。

 

甘いものは李さんが作った杏仁豆腐に、鳳翔間宮が作った白玉団子うぐいす餡添え。

食事が甘味に移ったのを確認しながら、洗い物の作業をどんどん進めてゆく。

食器洗浄器と並行で道具を片付けてゆく。

左右にいる艦娘たちから次々に料理を口に突っ込まれながら、作業してゆく。

行儀が悪いが、致し方ない。

何故だか李さんが感心した顔で私を見ている。

 

 

 

翌日、中華粥を主軸とする朝ごはんを食べた後で比叡たちや紛れて来ていた艦娘たちが帰投した。

やれやれ。

少しは役に立てたかねえ?

 

今日も忙しい日になりそうだ。

新人憲兵たちに、艦娘たちとのお付き合いの仕方を教えなくてはならないのだ。

なんちゃって提督がなんちゃって講師へとジョブチェンジだ。

二〇歳前後からアラフォーまで、彼らの年代は随分と幅広い。

なんでやねん。

妙な要望ばかりが増えてゆく。

そーゆーのは大本営か憲兵本部でやれよ。

しかも指名依頼だ。

異世界冒険者じゃないんだぞ、こちとら。

駆逐艦と付き合いたいんですと真顔で言うおっさんに、どう対処すべきだろう?

声をかけたいけど、二回り年齢差があるから大丈夫だよねと真剣な顔でのたまう連中をどないせえゆうねん。

ちょっとでもやさしくされたら、すぐ本気になってしまう程度に免疫が無いんだぞ。

匙加減が難しすぎて、どないもこないもならんわい。

大本営め、丸投げしやがって。

そんなに都合よく、可愛い子が振り向いてくれる筈なんて無いのに。

わかっているのに、わかっていない振りをしているのかもしれない。

モテない私になにを期待しているのだ?

いっそのこと艦娘の中身をみんなおっさんに……ああ、それはとっくに量産型艦娘でやっていたな。

おっさん専用におっさんを元にしたなんちゃって駆逐艦を増産し、需要と供給を噛み合わせたらどうなるだろうか?

……こわくなってきたのでやめておこう。

それでもいい! と言う輩まで現れないとは言い切れないからな。

どっかの工作艦がこれを聞いて、嬉々としてやるかもしれないし。

せめて、「勘のよすぎる提督は嫌いだよ。」と言われないようにしよう。

……って、誰もそんなことは言わないか。

 

人の欲の闇は深い。

 

 

青森の林檎ジュースにイーストをほんの少し足したものが、そろそろ飲み頃だ。

一パーセント未満の筈だから、法には触れていない。

今夜にでも呑んでみよう。

ぼんやりと、海を眺める。

気がついたら、隣に島風がいた。

中の人はおっさんだが、外見は美少女だ。

 

「今夜、お相伴に預からせてもらうぞ。」

 

腕と指を蔦のように絡めながら、島風は嬉しそうにそう言った。

 

 

 





【オマケ】

「艦娘が抱きついてきても、我を忘れて抱き締めてはいけません。下手をすると、あばら骨を何本かやられます。背骨を折られた提督さえ存在します。」

「艦娘に話しかけるのは自由ですが、一撃で頭蓋骨陥没になる可能性を知らなくてはなりません。」

「艦娘が戦国時代の話や戦車の話や、ましてや漫画やライトノベルやアニメーションなどの話に食いつくとは限りません。後、同意を強制してはいけません。」

「駆逐艦は基本的に好奇心旺盛です。過去や性癖趣味嗜好を追及されたくなかったら、本来的な意味の紳士でなくてはなりません。」

「イヤだ、と言われたら素直にやめましょう。鑑識の人たちをこっそり呼ぶのはけっこう大変なんです。」

「はい、ではお手元の端末の画像を見てください。一枚目、これは駆逐艦に散々付きまとった挙げ句に彼女の姉妹艦たちから折檻された人の末路です。この縛り方を専門の縄師にも見てもらったのですが、素人技ではないそうです。では続いて二枚目。これは駿河問いと呼ばれる縛り方ですが……。」

「皆さん、顔が青いですよ。その程度の覚悟では、着任しても半年もちませんからね。殉職率を下げるのがこの講習の目的ですから、なんとか半数以下にしたいと願っています。」

「さあ、皆さん! 心の防壁の準備は充分ですか? 部屋の片隅でガタガタ震える準備は出来ましたか? では最後に、駆逐艦たちに下ネタをぶちまけてもらいましょう。弥生ちゃん、文月ちゃん、白雪ちゃん、磯波ちゃん、いらっしゃい。それでは自重なしの全力本気モードで好きなだけどうぞ!」


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