大本営主催の『駆逐艦トークショー』は、大失敗に終わった。
ショック療法のつもりが、やらかした結果を招いたと言える。
中学生くらいにしか見えない駆逐艦たちがぶっちゃけまくって強烈な下ネタをガンガンかましてくれたのだが、主な観客の提督は一種も二種も次々と大破した。
横須賀鎮守府は開店休業状態である。
呉舞鶴佐世保の提督が次々に倒れた。
中には担架で運ばれた提督さえいる。
エグいことを言う子もいたからなあ。
けっこうエロいことを日常的に言う子もちらほらいるのに、知らなかったのかなんだかわからないが衝撃的だったらしい。
想定外の事態に弱いなあ。
戦艦棲姫がゲストだったのもよくなかったかもしれない。
彼女もフルスロットルだったしねえ。
呆然としているお偉いさんたちを赤くさせたり青くさせたりしながら、駆逐艦たちが追い詰めてゆく。
ほら、そんなに脅えていたら余計に……。
あっ、一人倒れた。
メディーック! メディーック!
衛生兵! 衛生兵!
『大いなる眠り』と看板を掲げるプリンの名店で、私はロシア人の提督と向かい合わせで黄色い塊に匙を刺す。
横須賀へ仕事に来た際にはなるべく立ち寄るようにしている、呉のカツ丼屋と並ぶお気に入りの店のひとつだ。
我々はマロイという、軍人崩れの大男を待っていた。
彼は欧州方面の情報通ではあるが、色々やり過ぎたためにあちこちから恨みを買っている。
それ故に、そろそろ高飛びしてもらおうかと思っていたのだが彼は時間になっても来ない。
「やられたんじゃないか?」
「やられたんですかねえ。」
約束の時間を三〇分過ぎても来なかったので、我々はピザ屋に行った。
レノックスという、元軍人が経営している飲食店でピザは四角い形だ。
なんでも、軍用艦艇の調理場は狭いので、必然的にそうなったらしい。
ピザを食べ終わった頃、ロシア人の提督の副官たる軍曹がやってきた。
忠実な部下から耳打ちされた彼女はやはりな、という顔で私に言った。
「東京湾にいたそうだ。」
「逃げ損ねたんですね。」
まあ、ロアナプラに逃げたとしても、いつまで生きていられるかわかったものではないのだが。
台湾のお飾り美人なヤン提督と彼女を支える副提督が来日したいそうだ。観光誘致が主目的みたいである。
電子・電気機器に加えてバナナとお茶と珈琲とウイスキーなどを輸入しているが、日本円も欲しいようだ。
アジア各国は日本人が観光旅行で落とす金に期待しているらしいが、まだまだそんなに余裕はないだろう。
爆買いしていた国は内戦状態で、一体何時になったら統一されるのか判断が難しい。
政府が崩壊して国家単位としては存続出来なくなった国さえあるし、予断を許さない状況だ。
オーストラリアは回復に向かおうとしているが、首相が艦娘差別発言をしてしまったために日豪関係は微妙な雰囲気になってしまった。
ニュージーランドの首相はこれを即時に非難。周囲の国々もこれに同調する。
その後艦娘たちは豪州系の任務をすべて拒絶し、首相は辞任に追い込まれた。
オーストラリアの復活が、首相の失言の所為で五年は遅れたと言われている。
やっちゃったよなあ。
近く、彼の責任を追求するための裁判が行われる。
これを欧米各国が知ったら、どう思うのだろうか?
『駆逐艦トークショー』で大破した提督たちは分散入院し、その内の何名かは岡山県の倉敷中央病院に入院している。
一挙に襲われてはたまらんということらしい。
西日本有数の有力病院の売店はかなり大きく、地元パン屋の作ったサンドウィッチを買って地元人気店のマルロクカフェで珈琲を買い、早めの昼食と洒落こむ。
私の目の前の席へ、白衣の若い女医が座った。
彼女はエスプレッソにしたようだ。
知的な瞳を輝かせながら、彼女が口を開いた。
「これからお見舞いですか?」
「ええ。やっと面会謝絶が解除されましたのでね。」
「夢を見すぎじゃないかな、って思いますけれど。」
「可愛い口元から猛毒を放たれたんです。同情の余地はありますよ。」
「あれで毒ですか。どれだけ耐性がないんですか?」
「純情なんですよ。」
「憲兵たちまで大破続出って、外聞が悪すぎです。」
「いつの日にか笑い話になることを信じましょう。」
「ま、それはおいといてですね。」
「はい。」
「函館へ着任したいんですが、許可が下りません。」
「難しいと思います。」
「諦めませんからね。」
珈琲を飲み終わった女医が立ち上がる。
そして。
桃色がかった髪をなびかせ、彼女は嗤った。