「特設航空母艦の春日丸と申します。不束者ではございますが、務めを果たしたいと思っております。」
突然大本営から新型軽空母が着任する旨の通知を受けたが、執務室にやって来た少女はまるで特型駆逐艦のようにあどけない雰囲気を残していた。
一瞬、磯波辺りが軽空母に扮装しているのかと思ってしまった程だ。
赤城に似た赤い袴を着用していなくてセーラー服を着ていたら、見分けが付かないかもしれない。
赤城や加賀や鳳翔といった娘たちの妹だと紹介されたら、そうだろうなと思ってしまうような雰囲気がある。
筆頭秘書艦の大淀と今週の秘書艦の霞と曙が、じっと彼女を見つめていた。
「函館鎮守府へようこそ。貴女の活躍に期待しています。」
「ありがとうございます。誠心誠意務めさせていただきます。」
「それでは早速ですが、任務を遂行していただきたいと思います。」
「はい。哨戒任務でしょうか? それとも、護衛任務でしょうか?」
「厨房です。」
「はい?」
「料理は出来ますか?」
「はい、一通りこなせます。」
「結構です。ついてきてください。」
春日丸級一番艦軽空母、か。
改造したら、大鷹(たいよう)と名前が変わるそうな。
好物は和菓子の三笠らしい。
地方都市のお嬢様っぽいな。
小磯良平によって、姉妹艦共々日本郵船の美少女三姉妹として描かれたこともあるという。
先の攻略戦の報酬艦として、彼女は函館へ着任した訳だ。
なんだか少し怪しくも感じるが、戦力の増強は有り難い。
退役した元艦娘を再訓練するよりも、手間暇がかからない。
以前は艦娘が多すぎると思っていたが、少し考えを改めた。
ここは、素直に受け入れよう。
誰がなにを企図したとしても。
廊下を歩いていたら、龍驤に出くわした。
「おっ、新しい子やな。……もしかして、大鷹か?」
「お久しぶりです、龍驤さん。今はまだ春日丸です。」
「ほう、楽しみにしとるわ。」
「ええ、期待していてください。」
「言うなあ。これからどこへ行くんや?」
「厨房です。」
「今夜は春日丸お手製の料理が食べられるんやね。ごっつ嬉しいわ。提督、この子のご飯はめっちゃ旨いから期待しとってええよ。」
「それは嬉しいですね。」
「龍驤さん、そんなに煽らないでください。」
「ええやん、ホンマのことやし。」
からかう龍驤とからかわれる春日丸。
なんだかほんわりしたものを感じていたら、通りすがりの島風から一撃喰らってしまった。
解せぬ。
食堂の厨房に到着する。
鳳翔、間宮、李さん、鹿ノ谷さんに新任軽空母を引き合わせた。
どんな料理を作れるのかと思って、彼女になにか作ってと頼む。
包丁捌きが流麗だし、フライパンの扱いも安心感が感じられた。
他の四名の目がピカピカ光っているように見えて、少しこわい。
スクランブルエッグとタコさんウインナーと握り飯を出された。
「貴重な卵を使って調理しました。私、洋食も得意なんですよ。」
ほほう。
鳳翔、間宮、李さん、鹿ノ谷さん、私の五名で食べてみる。
フクースナ(おいしい)!
卵のふんわり感、ウインナーの火の通り具合、お握りの固め加減。
料理上手だ。
ハラショー!
よい艦娘が来てくれた。
「材料さえ揃えば、大和さんたちにも負けません!」
それは心強い。
夕食の手伝いをしてもらっていたら足柄や龍田が乱入し、いつの間にか厨房にいた他所の瑞鳳が玉子焼きを大量に作っていた。
いずれもおいしかったので、乱入の件は不問にする。
春日丸が駆逐艦の扮装をした瑞鳳に目を丸くしていて、なんだか新鮮だった。
……毒されているのかな?
何故か翌日大和や武蔵がやって来て、春日丸とハンバーグ対決をしていた。
どこからともなく吹雪型駆逐艦が多数現れて、春日丸に声援を送っていた。
大湊(おおみなと)の清霜が武蔵の補佐役として、下拵えを手伝っていた。
ハンバーグがどれも甲乙つけがたい味わいだったので、引き分け判定する。
一部の艦娘からヘタレ野郎と罵られた。
解せぬ。
そんなこんなで数日経過した。
春日丸も厨房に慣れたようだ。
夜食のうどんもおいしかった。
さて海の仕事に取りかかろう。
春の暖かい日。
桜も満開ナリ。
函館の海に、複数の艦娘が浮かんでいる。
「今日は空母系艦娘による公開合同訓練を行います。」
複数の提督たちが見ている前で、私はそう宣言した。
参加艦娘は鳳翔、加賀、龍驤、雲龍、そして春日丸。
弓から矢を放って航空機に変じさせるは鳳翔と加賀。
呪符を舞わせて航空機へと変化させるは龍驤と雲龍。
それぞれの技が披露される。
さて、春日丸の出番が来た。
右肩に甲板を装備し、鷹匠の如く左腕の革手袋に零戦を載せる。
「春日丸航空隊、発艦!」
パッと左腕から鮮やかに飛翔する零戦隊。
鳳翔、龍驤、春日丸といった三名の軽空母の航空隊が標的に向かい、それを加賀と雲龍の正規空母航空隊が支援する。
やがて三名対二名の演習へと進み、一進一退の攻防戦が展開された。
軽空母対正規空母。
春日丸は戦意に溢れ、先輩たちに物怖じすることなく機体を動かす。
何故か近隣にいた駆逐艦たちにしがみつかれ、私は動けなくなった。
観戦に来ていた提督たちの視線が厳しくなるのを肌で感じて苦しい。
春日丸に関心を持つ提督が何人かいたようで、訓練後彼らに包囲され質問攻めにされていた。
視線で助けを求められたので、彼女の支援に回る。
すると、何故か提督たちから非難された。
解せぬ。
オマケでインディアンぽい恰好のヨークタウンが、発艦と着艦を提督たちに披露する。
カウボーイハットにホットパンツで露出が多く、胸元からブラがチラリと見えていた。
提督らの視線は大型胸部装甲に集中していて、秘書艦たちからどつかれまくっている。
披露後、春日丸同様、提督たちに囲まれる正規空母のヨークタウン。
容赦ない質問攻めに遇いつつも、的確且つ簡潔な返答を行ってゆく。
陽気な彼女が春日丸と腕を組むと、複数の青葉が次々にシャッターボタンを押していた。
その後、なし崩しに撮影会となる。
夜がこわいので添い寝して欲しいと春日丸が言ったのには驚いたが、島風や吹雪や早霜らが私室に乱入してきてしっちゃかめっちゃかになった。
翌朝、長門教官と妙高先生から全員説教されてしまう。
やっと終わって、やれやれと執務室へ向かっていたら春日丸が近づいてきた。
なんだろう?
「私、もっと頑張りますね。」
素早く耳元で囁き、そして彼女は微笑みながら去っていった。