とある研究員が開発した
新型シバフドライブ対応型艦娘の春日丸は
遂にその勇姿を見せた
その性能は
その力は
春日丸な大鷹(たいよう)が
函館に新たな風雲を呼ぶ
Not even justice, I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか
私の名は加賀。
函館鎮守府に所属する正規空母の艦娘。
以前は教育機関で教官職を勤めていましたが、今は一兵士として戦場に赴いています。
やはり銃後にいるよりも前線ですね。
みなぎってきます。
今日は私同様に教官を勤めて今も同僚の戦艦の長門から、内密の相談があると聞きました。
念のため、ということで偽装のために大沼公園へ来ています。
大沼だんごと山中牛乳の組み合わせは、とても素晴らしいですね。
流石に気分が高揚してきます。
汽車の中でも思い詰めた顔をしていた長門が、黙々と公園の中を歩きます。
私も黙ってついてゆきました。
なにか、大きな問題でも発生しているのでしょうか?
あんなにおいしい団子にろくに手を付けないなんて。
残りの団子は私がすべて平らげましたが。
五航戦のお気楽な方の子のようにはなれませんし、なんだか気になります。
長門と共に長椅子に座りました。
彼女はためらいがちに問いかけてきます。
「単刀直入に聞く。春日丸をどう思う?」
「基礎能力は高いですし、訓練に対して真面目に取り組んでいますので将来性を感じます。料理の腕前はかなりのものです。鳳翔さんや間宮さんに近い技術力を持っているものと考えます。彼女はその内、函館鎮守府になくてはならない存在になるでしょう。」
「うむ、そういった点の評価は私と同様だな。妙高も同じようなことを言っていた。だが、お前に聞きたいのはその方面ではないのだ。」
「……まさか、彼女に間諜の疑いがあるのですか?」
「大本営に提督が嫌われているのは現在進行形だ。」
「大淀や風魔や夜叉などが危険要因をすべて排除しているものだと思っていましたが、実情は異なるのでしょうか?」
「吹雪は疑惑があったがシロだ。事務職の元艦娘たちも洗ったが、背後関係は見当たらない。だが、一部情報が一時期大本営方面へ流出していたのは間違いない。現在は流れていないが、意図的な虚報が向こうに知られていたことから、誰かが情報を流していたのは事実だ。だが現在、『彼女』は正しく我が鎮守府の戦力だ。将来的にも裏切ることはないだろう。」
「長門は知っているのですね。」
「確定はしていないがな。春日丸は情報が流れなくなったが故の、後釜の可能性はある。」
「改二まで用意されている最新鋭の軽空母が、ですか? 最新の術式や艤装制御機能が組み込まれた期待の次世代型と聞いていますけれども、そんなに稀少な艦娘を間諜に仕立てるでしょうか?」
「では、こちらが掴んだ情報を伝える。彼女の本来の着任先が佐世保と聞けば、お前も疑惑を持つか?」
「えっ?」
「知っての通り、佐世保鎮守府は空母系艦娘の運用に特に長じている。」
「ええ。あそこは軽空母、正規空母、装甲空母などが揃っていますし、限界突破した赤城さんもいます。私の同姿艦は錬度もかなり高いですから、現在も主力艦隊の一員の筈です。彼女が瑞鶴とあまり仲がいい訳でもないのは心配ですが、互いに歩み寄ってやってゆくしかないでしょう。」
「内定直前に、赴任先を変更させた者がいるらしい。」
「もしかして、なにか不具合でもあるのでしょうか?」
「わからん。春日丸が先行量産型的な扱いの試験艦という可能性も、一応疑ってはみた。馬鹿馬鹿しいくらいに慎重な連中だが、見切り発車をやらかさないとは限らないからな。」
「函館で試験運用して、問題がなければ四大鎮守府に着任させるのかもしれませんね。」
「春日丸が函館への着任を強く希望した可能性もある。」
「彼女は建造されて間が無かったのではないのですか?」
「大本営で初期教育を施したのは確かなのだが、不明点が多くてな。」
「では、空母勢でそれとなく注意しておくようにしてみましょうか?」
「そうしてくれるとありがたい。私が下手に動くと大本営のいらぬ勘繰りが起きるかもしれん。政府の政治屋どもが動き出すと面倒だし、官僚たちが妨害に入ると極めて厄介だ。」
「それとは別……いえ、別ではないかもしれませんが、他に懸念事項があります。」
「提督との距離を縮めようとしている動きのことか? 猪突猛進の駆逐艦をしのぐ勢いと聞いているぞ。」
「ええ。一挙両得の一石二鳥を目論んでいるのか、それとも純粋に好意を抱いているのか? わかりかねる面が多々あるように思われます。もしすべて計略だとしたら……でも、そういう風には……。」
「そうだな、島風が気にしていたから、私も気を付けておく。真っ向勝負過ぎると陸奥からはよく叱られるから、お前たちにこの件は一任する。責任は私が取るから、好きにやれ。なに、この長門、ただでは沈まん。」
「考えすぎだといいですね。」
「ああ、そうだな。お前たちには苦労をかける。」
「いずれ訪れるであろう『戦後』に比べたら、これはまだまだましですよ。」
「ふっ、『独立』も視野に入れた方がいいかもしれん。或いは『作る』か。」
公園内にある洋食屋に寄って昼食をいただき(鳳翔さんや間宮さんに比べるまでもない味でしたが)、函館行きの汽車に乗りました。
がらんとした車内。
広告すらない車内。
好景気はまだ遠い先に思えます。
それでも人は足掻くのでしょう。
それを手助けするのが我々艦娘。
真実の灯りをともすための存在。
春日丸が『仲間』であって欲しいものです。
……。
少し、瑞鶴のように気楽に考えましょうか。
「はっ! 今、加賀さんに呼ばれた気がする! お姉、ゴメン! またねっ!」
「まあ、瑞鶴は本当に函館の加賀さんが好きね。……狂おしく妬けてくるわ。」