「馬鹿なっ! 二個艦隊の艦娘が一体の深海棲艦に瞬殺されただとっ! そんなことがある訳ないだろうっ!」
「コンスコン少将! 白いパーカを羽織った艦種不明の深海棲艦が、この指揮艦に向かって突撃してきます!」
「バルカン砲を撃って撃って撃って撃ちまくれっ! 弾幕を張るんだっ! 奴にハープーンを叩き込めいっ!」
「駄目です! 間に合いません! 少将、今すぐ脱出してください!」
「ええいっ! パンツァーファウストを貸せっ! 儂が仕留めるっ!」
「誰か、少将を緊急避難させよ!」
「深海棲艦が飛んだ?」
「艦橋を潰す気かっ?」
「撃て! 撃て! 撃ちまくれ!」
「ヤラセはせんぞ! ヤラセは!」
北大西洋条約機構きっての猛将のコンスコン少将率いる打撃艦隊はその日すべての艦娘と戦闘艦艇を失い、指揮官及び上級士官全員を喪失した。
この知らせを受けたソロモン諸島に艦隊を展開中のトルケル提督と松波提督は両名ともしばらく沈黙した後、おごそかに復讐を誓うのであった。
『赤騎士』と呼ばれたノースダコタ出身のライオネル提督が白い悪魔との数度に渡る交戦の末、行方不明になった。
『青き隕石』と謳(うた)われた不正規戦を得手とする『ゲリラ屋』のライミ提督が、執念の追跡戦の末に激戦を経て自爆。
『黒い三騎士』と誇りに思われていたカリアリ提督、オルティア提督、マッキャン提督の連合艦隊が、かの深海棲艦を含む艦隊を激しく追い詰めるも全員戦死した。
その三ヵ月後。
ローマ教皇は慈悲深き人類最強級の戦士であり、闇の力と聖なる力の双方を合体させて歯向かう敵対者にぶっぱなす愛の騎士でもある。
アドリア海。
麗しく美しき海上で白い法衣を着た老魔教皇と、白いパーカを着た深海棲艦とその護衛艦隊が激突した。
「私はローマ教皇! 愛と勇気の使者! 世界に安寧をもたらす者! 我が日輪の輝きをおそれぬならば、かかってきなさい! 主に代わってお仕置きですぞ! ティルトウェイト! ザラキ! 千手斬舞! マダルト! ヒャダイン!」
不敗の老魔術師が連続高速詠唱と物理攻撃で、深海棲艦たちに猛攻を加える。
異界からもたらされた爆風が深海棲艦の艦隊を襲い、死をもたらす古代の呪言が彼女たちを覆い、無数の鋭いミスリル銀の如き手刀が彼女たちを突き崩し、氷点下百度を下回る冷気の猛吹雪が深海棲艦たちの心臓を停止させた。
素早く複雑怪奇な魔方陣を展開させ、老魔法使いは神話的法具のトネリコの杖を天に掲げる。
「メテオ!」
赤き隕石群が深海棲艦群を襲った。
瞬時に轟沈してゆく深海棲艦たち。
卓抜した反射神経で、これらを回避する異形の娘。
これがマグネットコーティングの力なのだろうか?
「人類愛のために! 世のため人のため正義のため! 影技! ハーケン(刃拳)!」
影拳な光速拳が乱打され、何名もの深海棲艦が為す術(すべ)もなく轟沈してゆく。
残るは白い法衣の老人と、白いパーカの娘のみ。
晴天だった空がにわかにかき曇り、雷鳴を轟かせた。
「サンダーブレイク! これで終わりにしましょう! 超電磁ヨーヨー!」
雷がヨーヨーの姿に変化し、異形の娘を斬り刻んでゆく。
「超電磁竜巻!」
超電磁の力で空中に拘束される娘。
「超電磁スピン!」
己自身を高速回転させながら、老魔教皇が強力な深海棲艦に突っ込んだ。
「成敗!」
チュドーン! と爆発する敵対者。
正義は勝ったのだ。
「こんな具合でどうですかね?」
函館へやって来た、大本営の青葉とマスターオータムクラウドが嬉々として渡してくれた漫画を読む。
……ダメだろ、これ。
「ローマ教皇庁からの許可は下りないでしょうね。」
「えーっ、人類の危機に馳せ参じるローマ教皇ってカッコいいじゃないですか!」
「そうですよお!」
「却下です。」
「じゃ、じゃあ、ゾンビと深海棲艦がはびこるロンドンでローマ教皇率いる枢機卿たちとスイス衛兵隊の活躍を描い……。」
「却下です。」
「教皇様は最強の戦士なんですよ! それを宣伝しない手は無いでしょう!」
「ダヴィンチコードで秘匿された情報を開示する危険性は考慮すべきです。」
ヴァチカン。
一騎当千が基本仕様のスイス衛兵隊と全員腕っこきの魔法使い(女性と付き合ったことさえ無い故に)である枢機卿たちが集うサンクチュアリ。
人類最後の砦だ。
その教皇庁地下。
猊下(げいか)と枢機卿たちは極秘に入手した漫画を読み、皆で大笑いしていた。
「猊下の動きがとても宜しいですね。」
「今現在はあそこまで動けませんよ。」
「内容は面白いのですが、販売許可は無理ですな。」
「我々も参戦出来たらよかったのに。」
「猊下の暗黒卿の側面を知られなくて幸いでした。」
「私は常に人々の平和を祈っておりますよ。その合間に、暗黒面について考えることは多々ありますがね。」
「理力(フォース)と共にあらんことを。」
闇が一瞬膨れ上がったが、それはすぐに終息した。
にこやかなる教皇。
黒く見えた法衣は、既に純白の輝きに満ちている。
「国際社会は速やかに回復されなくてはなりません。」
教皇は威厳ある気配で周囲の空間を満たしながら宣言した。
「私自身が動かなくてはなりますまい。」
そして、ヴァチカンが動き始める。
欧州各国に散っていた騎士団や放浪騎士らにもそれは通達され、彼らは十字軍に赴く戦士の如く準備を進めるのであった。
人類の逆襲はなるか?