はこちん!   作:輪音

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CⅩⅩⅩⅦ:おっさんミニミニツアー

 

 

「司令官は明日お休みなのよ。貴女が独占するいわれは無いわ。」

「貴女だって、本音では独占したい癖に。正直になったらどう?」

「提督の休日は私が守ります。この鉄拳にかけて!」

「フッ、守りきれるかな? 私の予測演算能力をなめないことだ。」

「即席提督は守ってみせる!」

「なんちゃって司令官を守るのは私よ!」

 

夜更けの暗闘。

その戦いの激しさを提督は知らない。

 

 

 

 

今日は私の休日。

提督稼業もお休みだ。

何故か私の休日占有権を巡って暗躍する艦娘が複数発生したらしいけれども、なんとまあ物好きなことだ。

こんなおっさんと一日一緒にいるだなんて楽しい筈も無かろうに。

同性のみで出掛ける旨伝えたら、何故だか男装する艦娘が現れた。

それも何名もだ。

なんでやねんな。

混乱する事態を収束させるのに丸一日消費した。

なんてこったい。

 

それはともかく。

あまり遠くでない限りは外出出来る。

護衛抜きでゆっくりと出掛けたいな。

輸入雑貨商の美濃柱さんと鎮守府の厨房で腕を振るう李さんと共に、道南を少し歩いてみることにしよう。

 

行き先はどこにしようか?

江差もいいな。

毎朝早くに江差行きのバスが出る。

松前方面に行くのも捨てがたいな。

 

話し合いの結果、先ずはトラピスト修道院へ行って特製ソフトクリームを食べようという話になった。

北海道新幹線計画は深海棲艦の侵攻によって頓挫し現在凍結中だが、函館駅舎は改装され道南の玄関口として観光客を待ち受けている。

北斗市の新函館北斗駅や青森の奥津軽いまべつ駅は、五年後の開通を見込んで建設中だ。

上手く行くのかねえ?

キタカやイコカやスイカなどが、函館駅の改札口で使えるようになったらいいんだけどな。

将来函館駅はJRでなくなるために、そういう予定は無いのだと人づてに聞いた。

事実だとしたら、なんとも言えない話だ。

以前訪れた北陸の金沢や富山は有人改札だったが、今はどうなのだろう?

あちらも新幹線を通そうとしているようだが、どうなるのだろうか?

金沢富山間のひなびた風景を思い出す。

日本が復興した時にかの地はどうなる?

ただでさえ経済が西日本中心になりつつある社会で、北海道東北北陸はどうなるのだろうか?

……日本は本当に豊かだったのだろうか?

なんだかモヤモヤする。

 

早朝の道南いさりび鉄道に乗り、我々三人は修道院目指して小さな旅に出掛けた。

 

渡島当別(おしまとうべつ)駅に到着。

ステンドガラスが特徴的な駅舎である。

小さな駅舎を出ると、目の前は道路だ。

道路は左右の世界をつなげ、その向こうには民家や漁港などがあり、その先は津軽海峡。

風が強く、そして冷たい。

私たちは右へと曲がった。

殆ど車が通らずに所々ひび割れた道路を、私たちはてくてく歩いた。

しばらくして標識が見える。

トラピスト修道院へ至る標。

線路を渡り、我々は更にてくてく歩く。

その内、学校が左側に見えてきた。

学童の声が聞こえる。

ポプラは台風でやられたらしく、かなり伐採されていた。

『ローマ街道』の表記を見かけ、美濃柱さんと私は顔を見合わせる。

 

「ローマに続いていたら面白いですね。」

「案外、亜空間とか不思議空間でつながっているのかもしれません。」

「帝政ローマ時代に続いていたら、どうなるでしょうか?」

「特殊能力でも無い限り、大変なことになるでしょうね。」

 

もしそうだったら、より面白いな。

李さんはいつもの少し困ったような顔で微笑んでいるが、周囲を興味深く見回している。

そういや、李さんの調理能力ってなんだかチートっぽい感じがする。

……考えすぎか。

たゆまぬ研鑽の結果だよな、あれは。

 

「艦娘たちの遠足にはよいかもしれませんね。」

「まさしく北海道、という雰囲気があります。」

 

石畳の道。

左右には巨木が何本も立ち並ぶ。

旅人たちの想像する北海道の姿。

巨木の向こう側には農場がある。

修道院直営の農場なのかしらん?

 

修道院が見えてきた。

これぞ北海道、という感じだな。

駐車場には車が一台あるだけだ。

その近くに直営売店があり、私たちは早速ソフトクリームを買うことにした。

ひとつ五〇〇円。

良心的な値段だ。

コーンとカップが選べるというので、三人ともコーンを選ぶ。

このコーンはトラピストクッキーを使っているため、とても風味がよい。

クリームを口に運んだ。

濃厚な香りが鼻腔をかすめ、喉を通って胃へと落下してゆく。

旨い。

結局、二個食べた。

 

 

昼にはまだ少し早い時間に函館駅舎へ戻ってきた。

 

「お昼はナポリタンのおいしいお店でどうでしょうか?」

「いいですね。」

 

駅からてくてく歩き、公共放送を自称する放送局の支社近くにある喫茶店で昼食を取ることになった。

 

午後からさあどうしようかと三人で顔を突き合わせる。

ナポリタンは深みのある味わいで、これにスープと生ハム添えポテトサラダが付いてくる。

旨い。

 

三人で話し合った結果、函館どつく方面へ歩いてゆくことにした。

その道筋で、外国人墓地近くのイタリア料理店に行くのもいいな。

 

喫茶店を出て、市庁舎方面へ足を向ける。

ぶらぶら歩くのもいい。

 

さあ、ゆるりと行こう。

 

途中、どこかで見たような少女たちに道を聞かれたり話しかけられたりしながら、私たちはミニミニツアーを堪能した。

 

 

 

 

「提督ってああいうのが好きなのかな?」

「司令官の好みを押さえるのも重要よ!」

「女学生なぞと話をしなくていいのに。」

「なによ、結局追っかけじゃないのよ。」

「ただの見守り隊よ。ただ見守るだけ。」

「障害は即刻排除が基本なだけだから。」

「あのイタリア料理店っておいしいの?」

「ちょっと高かったけどおいしいわよ。」

「提督さんはイタリア料理好きですか?」

「ティラミス戦艦の影響があるのかも。」

「何時の間にあんなお店に行ったのよ?」

「たまにはああいうお店も悪くないわ。」

「提督の真似っこに熱心なだけっしょ。」

「今度提督と一緒に行きたいわ。フフ。」

「司令官が店を出て、歩き始めました。」

「私の偵察機で捕捉は充分に可能です。」

 

 

尚、尾行はバレバレだった模様。

 

 

 

 


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