はこちん!   作:輪音

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午前一時五三分に大幅加筆して編集しました。
午後八時丁度に、後書き部分にオマケとして扶桑姉様無双の巻を追記しました。
姉様の活躍をご堪能くださいませ。



CⅩLⅠ:ケッコンしていた娘たち

 

 

嗚呼

どうか

提督

あの駆逐艦の

夜の目を見ないで

視線はもう夜戦完了よ

 

 

 

ケッコンカッコカリを果たした艦娘は、確かにその時点に於いては幸せだろう。

だが、ケッコンしていた娘が幸せかどうかと問われたら過去形になるであろう。

以前絆を結んでいた提督或いは司令官と称される男性、もしくはその他の性別の相手と既に離別しているのだ。

死別かもしれない。

基本的に、ケッコンカッコカリをした相手とは死ぬまで添い遂げなければならないからだ。

意外と重たい内容だが、死地であればあるほどケッコンカッコカリの需要が大きいらしい。

慎重にならざるを得ない筈の提督たちも、需要を感じて血迷ってしまうのか。

命の危機を感じると、生きてきた証や血を残したくなる傾向が強まるという。

 

オットカッコカリと離別した艦娘の中には、自分自身を制御出来なくなって深海棲艦の群れに突撃する者もたまにいるという。

まるで殉死だ。

 

それが鉄底海峡解放戦までの『常識』だった。

最近は艦娘も変わりつつあるらしい。

サイコンカッコカリやサイサイコンカッコカリの娘も出始めている。

これが進化なのか?

 

 

 

函館鎮守府は他の鎮守府泊地警備府鎮守府カッコカリなどから訪れる艦娘がやたらに多い。

艤装や装備の点検修理は、基本的に大湊(おおみなと)と共同もしくはどこかからやって来た明石や夕張や北上や秋津洲(あきつしま)がやっている。

 

だがしかしばってん。

それじゃ回らなくなりつつあった。

大本営に前から打診しているのだが、工作艦や建造開発設備は必要に思われる。

元艦娘の再就職率が高まっていて、再訓練で函館を希望し使っている艦娘も少なくない。

 

「工作艦が欲しいですね。」

 

大淀のそばで、そう言った。

すると彼女はなにを勘違いしたのか、深刻な表情で私の顔面を両手で覆った。

これこれそこな娘、なんばすっとですか。

 

「私ではダメなのですか、シロウ?」

 

誰がシロウやねん。

 

「私は貴方だけの剣であり、貴方だけの楯です。それでは満足いただけませんか?」

 

なんだか妙なスイッチが入っているな。

 

「落ち着いてください、大淀さん。現状では工作系の手が足りないでしょう。そういう話です。」

「そこへ颯爽と現れるホームセンター北上様だよ。」

「提督……貴方は……。」

「待って待って、大淀さん。その大剣はどこから出したんですか? 北上さんも煽らないでください。」

「今ならケッコンカッコカリしていた北上様がただで着任するよ。提督との夜戦もばっちり対応出来るからとってもお得だね。」

「提督……未経験の私では役立たずなのでしょうか?」

「落ち着いて落ち着いて大淀さん。誰かある! 誰かある! 出合え! 出合え! 特一級緊急事態である!」

 

 

 

明日は他所の六つの鎮守府が合同で艦隊を組み、函館の艦隊と模擬戦を行う合同演習の日だ。

艦娘が一名しかいない鎮守府はその性質から艦娘の実力を十全に発揮出来ず、また、艦娘を建造や海域回収(ドロップ)やその他の合法的方法で入手出来ない場合は機能不全に陥りやすい。

それ故の函館鎮守府主導の合同演習であり、提督同士または艦娘同士の交流を図る狙いもある。

要は、函館に面倒を押し付けてるってことよね。

なんで函館は事務がやたらに充実しているのかと思っていたら、ファックスが常時稼動しているし、電話もよく掛かってくる。

函館は厄介な面々の顔役で世話役で調整役ってとこかしら。

あの即席提督だけじゃ、右往左往するだけよね。

あたしがしっかり、あいつを支えてやんなくちゃダメなのよ。

あたしが、あたしが妻の一人として頑張らなきゃいけないの。

あーあー、面倒だわ。

あーもー、面倒だわ。

いやんなっちゃうわ。

ま、だいぶん馴れたけど。

さてと、演習の準備に取り掛かりますか。

 

「あ……あの……曙ちゃん?」

 

振り向くと潮と虎……じゃなくて冴えないおっさんがいた。

冴えない加減じゃ、あたしの旦那といい勝負ね。

あの人も、虎のように襲ってくれたらいいのに。

……無理か。

そんな甲斐性があったら、今頃指輪持ちだらけだし。

そうなったらそうなったで、暗闘が今以上酷くなる。

やれやれだわ。

 

「『今度の』提督はずいぶん年上ね。」

 

あはは、と力なく笑う潮。

苦笑いする平凡な中年男。

 

「ち、父です!」

「む、娘です。」

 

おーおー、短期間で仕込んだわね。

少し雑談する。

指輪持ちのあの子は、おそらく即席で仕立てられた提督と父娘のように仲良く立ち去った。

 

 

性格的にはとってもいい子なんだけど、まるで魔性の艦娘に囚われたかのような提督が次々に……。

 

「あの……。」

「あ、ご免なさい、扶桑さん。その、気がつかなかったわ。」

「ふふ、気にしなくていいわ。だって私は今幸福ですもの。」

 

色っぽい人だなあ。

なんかフェロモンがぐわーっと立ち昇っている感じが漂ってくる。

まさに女は海、ね。

私の中でお眠りなさい、ってとこかしら?

数いる扶桑さんの中でも、一番エロいと言われるだけのことはあるわ。

うちの即席提督に近づけないようにしないと。

万一があるとヤバい。

 

「『今度の』提督はずいぶん若いんですね。」

「ええ、こんな情けない私にもよいご縁があったのよ。ありがたいことだわ。」

「若輩者ですが、彼女と共に支え合いつつ暮らしてゆきたいと思っています。」

 

どうやら、よく出来た人のようだ。

うちの旦那もこれくらい言えたらいいんだけど。

ちょっと雑談する。

指輪持ちの彼女は、その若き提督とまるで兄妹のように仲良く立ち去った。

 

 

しかし、六箇所の鎮守府と演習なんて相当変よね。

言わんとすることはなんとなくわかるんだけど、作戦行動に関する見解に指揮系統の統一に意識の擦り合わせに不測の事態への対応をどうするかとか、課題が多すぎる。

たぶん、それら全部をひっくるめて馴れとけってことなんでしょうけど。

……もしかして、大本営は大攻勢を企図しているというの?

……中東方面への打撃艦隊が強化されるって噂もあるけど。

 

「あ、あの……。」

「ご免なさい、神通さん。全然気が付かなかったわ。」

「いえ、もっと早くに声がけしたらよかったんです。」

「神通、ぺこぺこすんな。お前は別に悪くない。そうだろ、駆逐艦。」

「そうですね、私もそう思います。ところで、私の名前は曙です。」

「あー、解体寸前だったところを、お前のことをちっとも知らない素人丸出しの抜けたおっさんに拾われたんだろ。運がよかったな。」

 

ああ?

なんやのん、こんくすたーけは。

めんたまほじくり返して、どつき回したろか。

なんやち、血ぃ見せたろか。

零式防衛術の餌食になりたいんか、このぼん。

 

「おーおー、怒っとる、怒っとる。お前の同姿艦お得意の罵倒は無いのかよ。」

「お望みでしたら、演習でたっぷりお聞かせいたします。嫌と言うほどまで。」

「あ、あの、提督、お止めください。」

 

命拾いしたわね。

業務連絡を簡潔に済ませる。

憎たらしい顔をして立ち去る擬似提督。

ぺこぺこ謝りながら立ち去る神通さん。

長くないわね。

 

「あの人もいいところがあるんですよ。」

 

立ち去る直前、彼女はそう言った。

ということは悪いところが一杯あるってことじゃないの?

指輪持ちにしちゃ、酷いのを選んだわね。

 

 

念のため、今のうちにテイトクニウムを補充しておこうかしら。

 

「どこへ行くつもりかなー、ボノたんは。ははーん、どーせ、ボノたんの愛するご主人様に物陰からいきなり飛び掛かって抱きつくつもりなんでしょ。ボノたん、なんておそろしい子!」

「あの、漣(さざなみ)ちゃん。そういうことを言うのはよろしくないわよ。」

「かーっ、祥鳳さんはハートじゃ勝ち目が無いほどグラマラスですけんのう。」

「そ、そんなことは……。」

「あーもう、リングネームがアマゾネスって感じですよね。」

「そこまでだ、漣。彼女をからかうな。」

「うわーっ、ご主人様もやっぱり大きい方がいいんですかー!」

「大きな声でとんでもないことを言うな。それに祥鳳の提督はまだ少年だ。刺激の強い言葉で翻弄するんじゃないぞ。」

「あの……祥鳳さんの提督はどちらに?」

「君たちのところの艦娘たちに連れ去られて、今頃は一緒に食堂で試食会に参加している筈だよ。」

 

大人な感じの提督に癖だらけの漣。

ショタ提督に女盛りの祥鳳さんか。

これなら長くやっていけそうかな?

 

「おやおや、ボノたんはショタでもありましたかな。ムフー。」

「さりげなく自分の提督にセクハラしてんじゃないわよ、漣。」

「こういう行為をすると、ご主人様は無茶苦茶喜ぶのですよ。」

「息を吐くようにデマを言うんじゃない、漣。その手を離せ。」

 

おお、ツッコミ力も抜群だ。

これなら割合にもつかしら?

漣はさみしがり屋だしねえ。

指輪持ち二名となんちゃって提督一人を見送った。

 

 

「よーっ、曙! 提督とはエロいことしたかい?」

 

振り向きざまに、回転脚で攻撃を仕掛ける。

ちいっ、踏み込みが甘かった。

流石は指輪持ち。

頭がエロくても、戦闘力の高さは侮れない。

 

「おおっと、剣呑、剣呑。てことはまだなんも無しか。そろそろ襲いなよ。」

「深雪、お前はなんということを勧めているんだ。」

「大丈夫、大丈夫さ。ただのじゃれあいだからさ。」

「あんた、指輪持ちだからって余裕ぶっこいてんじゃないわよ。」

「へへーん、あんたもあたしみたいに早く既成事実を作りなよ。」

「…………え? ちょっと、深雪。」

「バレなきゃ犯罪じゃないし、法整備も進んでいるからね。」

「あー、曙。このことは内々で済ませてくれないか。」

「ええ、これ以上身内から逮捕者を出したくないわ。」

 

たぶん、誘ったのは……。

 

「よーし、司令官。明日は深雪スペシャルでがつんがつんと言わせるから、楽しみにしておいてよ。」

「張り切り過ぎて、他の子とぶつかるんじゃないぞ。」

「わかってる、わかってる。深雪様にお任せあれ。」

 

まー、そこそこ見栄えがある提督か。

でもね、あたしの夫の方がいい男よ。

 

 

 

明日は全員ギャフンと言わせてやる。

あたしの愛する提督のため、全力を尽くすから。

……でも、指輪持ちっていいよなあ。

 

 

 

その日、函館鎮守府の売店ではおもちゃの指輪がやたらに売れたという。

 

 

 

 

今以上これ以上愛されたいけど、あの即席提督はその娘を見るような瞳のまま

消えそうに燃えそうな山葡萄色の心を貴方に知らしめ、そのまま押し倒したい

青鈍(あおにび)色の夜の海に揺れながらじっとじっと好機を狙っているのよ

ラブパッションを内に秘め、恋の砲撃戦を撃ち鳴らしながら

 

 

 

 




【オマケの姉様無双】

演習が無事に終わった翌日の、函館鎮守府の講堂。
那珂ちゃんの演奏会にも使われ、音響設備が整っている。
其処に今、白いドレス姿の扶桑がいた。
その姿はまさに艶やかにしてあでやか。
美しすぎるとこわくなる。
そんな雰囲気さえあった。
ドレスの両手に翼を装備。
飛べない筈の、艦娘の心を飛ばすためのツクリモノ。
しかし、飛ぼうとする心意気は人々に伝わるだろう。
だけどいつか、気づくことだろう。
その背中に本物の羽があることを。
鳥籠からやがて飛び立つであろう。
フェロモンの如きなにかしら色っぽい気体が、大盤振る舞いで撒き散らされているみたいだ。
扶桑がツクリモノの羽を広げる度に、彼女の周囲から吐息が漏れる。
周囲で彼女の世話をする駆逐艦たちの顔はみな一様に赤い。
準備が調ったのか、満員御礼どころかはみ出してさえいる観客に向かって扶桑は懐かしの名曲を歌い出した。
それはまさに真昼の蜃気楼。
『姉様命』の鉢巻きをした山城群がヒートアップして絶叫する。
西村艦隊の面々が灯火を振って応援する。
警備や見学に来ていた男性陣は次々に魅せられてゆく。
歌詞の二番に入った頃には観客総立ちになって姉様姉様と連呼し、皆を魅了した。

歌い終わっても観客の興奮は冷めやらず、盛大なアンコールが唱和される。
姉様はその要望に応えて、台湾出身の歌姫の曲や八〇年代の名曲を歌った。
「おえりゃあせんのう。」と嘆く警部が出てくるドラマのエンディングテーマや、当たり前と信じていたことの表と裏が逆さまなトランスの曲まで歌われた。
意外とマニアックな選曲だったが、聴衆は大興奮しその威力は抜群だ。
最終曲は、運命さえまだ知らない残酷な神話になっちゃいそうな名曲。
パトスを放出した彼女の熱気が並み居る観客をことごとく打ち倒した。
それはまさに姉様無双。
扶桑はこの日、歴史を作った。


ちなみにすべての扶桑がこういった感じかと言われると、それは個体差がありますのでという話になる。


翌日。
大破する艦娘やおかしくなった男性が続出したため、『姉様は人前にて歌ったらアカン令』が函館鎮守府の提督より言い渡された。
あまりにも影響が強すぎる、というのがその劉備玄徳……もとい理由である。
その日、扶桑姉様はとても煌めいていた。

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