はこちん!   作:輪音

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神戸
そこは函館同様開国により生まれた街
新設される鎮守府が波乱を巻き起こす
人の営みを豊かにする張りぼての基地
幾つもの鎮守府を巻き込み嵐が起こる
風都箱館の提督はこれに対抗し得るか

Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか




ⅩⅤ:おっさんは垂水に出張して元艦娘たちから熱烈接待されちゃいました!

 

 

鎮守府の提督は、コンビニエンス・ストアの店長に近い面がある。

本式の教育を受けた正式の提督は、自分自身の土地で建物の権利を持った店長。

私たちなんちゃって提督は、借りた土地の雇われ店長。

お雇い外国人ならぬお雇い提督だ。

待遇面は雲泥の差があるけれども。

せめてもの救いは美女美少女に囲まれての日々を送れることかもしれないが、不祥事を起こしたらタダでは済まない。

目の前の美酒を呑めない酒呑みのようなものか。

激戦地の南方に送られて、消息不明になった先輩は意外と多い。

同期の連中は今のところ脱落者がいないようだが、未来のことは分からない。

海外の泊地に行った者もいるが、来年以降も無事でいて欲しい。

確かに我々はなんちゃって提督だが、使い捨てにされてなんとも思わない訳がない。

量産型艦娘でやったことを、我々促成栽培提督でも行う大本営。

人脈を作り、艦娘の力を高め自衛するための力を備えるべきだ。

偉いさんは嘘つき揃いなのだから。

 

 

 

全国からの取材や宣伝活動でてんてこ舞いの日々を送っているが、そんなある日、呉第六鎮守府の提督をしている先輩から電話を貰った。

 

「静岡の鎮守府が下田か清水か沼津かで揉めた話は知っとるか?」

「ええ、新聞にまで載っていましたね。」

「静岡県人はもっと理知的で大人しいんかと思うとったがのう。」

「たぶん燃えちゃったんでしょうねえ。」

 

そう。

静岡県に鎮守府を作る際、どこに作るかでかなり拗(こじ)れたのだ。

焼津や熱海は早期に脱落したが、下田と清水と沼津の三つ巴が生じた。

お互いの地元民が、妙に燃えてしまったことが遠因として挙げられる。

そしてそれは県全体の問題となり、静岡は三つに分割されてしまった。

結局、沼津と清水は下田との広報戦に破れた。

下田側に相当優秀な軍師が付いていたらしい。

新聞・雑誌・テレビ・ネットを散々賑わせた結果、下田鎮守府が問題を孕みつつも漸く発足するに至った。

以前函南(かんなみ)辺りに住んでいた時に親切にしてもらった経験からは想像が付かないが、人間、大金が絡むと大変なことになるのがよくわかる。

現在北の国でも北海道新幹線計画が凍結中だけど、新函館北斗駅及び駅前ホテルの設立を目指していた北斗市が財政的に大変な状況なので他人事ではない。

長野県や山梨県など内陸部の県からも鎮守府設立の嘆願書が幾つも横須賀の大本営に来ていて、担当者たちを辟易させているらしい。

内陸鎮守府設立の動きさえあるらしいが、『戦わない鎮守府』なんてなんの冗談だろう?

政治経済が絡むと人はドロドロになる。

大金が絡むと真顔で嘘を吐く連中がどこからともなく現れる。

海千山千のしたたかな連中が、甘言を弄して田舎の人々を騙してゆく。

そしてペンペン草も生えない荒れ地が残される。

やだねえ。

 

 

 

「神戸が今大問題なんじゃが。」

「なんとかなりませんかね。」

「なんとかして欲しいんじゃけど。」

「なんともならないんじゃないですか。」

 

新設鎮守府で今最大に揉めているのが京阪神地区の神戸だ。

私がなんちゃって提督になる半年前から騒ぎになっていた。

垂水に設立されると聞いて、筒井康隆の小説が好きな身としてはニヤリとする。

彼なら、この状況をどんな小説にしてくれるだろうか?

垂水になんとか決まったのはよいのだが、今度は管轄する鎮守府で揉めている。

地理的には舞鶴になるのが当然と思えたが、神戸の人々からすると京都の人々の風下に立つことは我慢ならないらしい。

舞鶴イコール京都ではないと思うのだけれども、なんかややこしいしがらみがあるみたいだ。

静岡は内ゲバで済んだが、神戸は呉に声をかけた。

引き算をした結果、舞鶴よりマシだと思ったのだろうか?

この事態に舞鶴の面々が激怒した。

そこは四大鎮守府でも特に武闘派の提督が揃っており、前々からの呉との肉じゃが本家分家論争も相まって更にややこしい事態に陥った。

呉としてはとばっちりもいいところである。実際、中四国地方の鎮守府を監督するので手一杯だし、舞鶴は近畿北陸圏を担当することが前から決まっている。

決まりを破ったのは神戸だ。

神戸は隣県の岡山との文化的なつながりを主張して、ならば呉に管轄してもらうことに問題はないと超理論をかました。

正直、訳が分からない。

なのに、舞鶴の血の気の多い連中が呉を批判する。

勘弁して欲しい、と呉の面々はうんざり顔である。

穏健派の提督が多い呉に於いて神戸からの説得は不発気味で、もっとあちらと仲よくしろと遠回しに言われたらしい。

そりゃそうだよな。

ただ、地元民の腹立ち苛立ち確執は、離れた都道府県民には通じにくい側面がある。

 

で。

 

先輩は暗躍することによって、神戸の矛先を大湊(おおみなと)に変えてしまった。

そして、事態はこれで限りなくややこしくなってしまう。

しかも、垂水鎮守府に着任予定だった提督が大阪人であったことも問題の悪化に拍車をかけた。

大阪人にとって神戸はお洒落なお出かけ用の街で憧れる面があるけれども、神戸人にとっては複雑な気持ちになるそうだ。

人事部が同じ近畿地方だから問題なかろうと安易に考えたのが不味かった。

逆に遠隔地の方がよかったのに、と人事部の面々は散々責められたそうだ。

大湊の提督は私に声をかけてきて、私が担当者になりそうな気配を感じる。

 

揉めるのは地方だけではない。

都会だって揉めるし、金の絡み方が地方よりもずっとややこしくなるから、問題は大抵長期化するし遺恨も残りやすい。

斯くして、隣接して仲の悪い地域は絶えないこととなる。

そんなことをしている場合じゃないのに。

 

見識のある人々が危惧していたように、やがて大阪が絡んできた。

それが五ヵ月ほど前の話。

大阪にも鎮守府が欲しいと府知事が発言したのだ。

市民が街中で話題にするのとは全然重みが異なる。

確かに地方の近海の安定化と地域活性化がなんちゃって鎮守府のお題目だが、都会がそれを求めるのはなにか違うような気がする。

そして、舞鶴が再度激怒した。

 

「世界の平和を守るための基地をなんや思うとるねん!」

 

まさにこの一言に集約される。

前々から苦々しく思っていた舞鶴が怒り狂うのもよく分かる。

多大な犠牲を払った誇りある存在が、経済のための張りぼてになる。

それはとても許しがたい気持ちを喚起してもおかしくない。

舞鶴の提督たちからしたら私など紛い物だろうし、艦娘を引っかけるろくでなしに思われているかもしれない。

困ったものだ。なにもしていないのに。

大阪府知事の発言を東京都知事が支持したことから更に事態は悪化する。

都知事はついでのように、東京都にも鎮守府が欲しいねえとのたもうた。

とても軽い口調で。

ねえ、じゃねえよ。

これには全国の提督が怒った。

都知事がろくでなしだった所為もある。

あの野郎、官能小説をへらへら書いてりゃいいんだよと言う者までいた。

間の悪いことに、その直後に都の主催する鎮守府関係の式典で多くの提督が欠席した。

それでも式典に出席したある巨乳の重巡洋艦へ気軽に話しかけた都知事は、彼女から辛辣にこう言われた。

 

「バカめ、と言って差し上げますわ。」

 

それは残酷に全国へ生中継され、都知事は大いに面目を失った。

 

大本営からも東京都に対して正式に苦情が入り、彼は「そんなつもりはなかった。」と抗弁した。

以前から懇意にしていた右翼系の人々も呆れてそっぽを向く。

彼らの方が余程純粋だった。

危機感を覚えた経済界からも詰問状を突き付けられ、したたかな放言毒舌系老年政治家も流石に窮してしまった。

彼の主導で設立された銀行の不正融資問題が何件も明るみになって追い打ちになる。

更にバビロン・プロジェクトの諸問題が取り沙汰され、彼の政治生命がどしどし削られた。

その上都内での催しに於いて艦娘たちの欠席が相次いで発生したため、後三期くらいやるつもりだったのではないかと思われる官能小説家は不承不承に引責辞任した。

それは鎮守府の力が都知事を上回ることを示した事例となった。

 

しかし、都民の受難は続く。

歴史学者だった副知事が急遽後任の都知事になったが、バビロン・プロジェクト関連の献金疑惑と横領疑惑とでじきに退陣。

元厚生労働省大臣の現都知事は、元艦娘たちの愛人疑惑で現在大騒ぎになっている。

高級寿司店並びに天麩羅店の領収証が切っ掛けとなって、彼は釈明に奔走していた。

 

「退役した元艦娘たちの福利厚生面を向上させるため、私は相談に乗っていただけです。」

「公金をどんぶり勘定している訳ではありません。」

「経費は適切に使用しています。領収証をいつも貰うのは昔からの癖です。」

「バイアグラを箱単位でなど買っていません。」

「何人も一晩で相手に出来る筈がないでしょう。」

「愛人は一人もいません。いないと言ったらいないんです。」

「誰ですかっ!? 今、私を絶倫親爺などと蔑んだのは!?」

「私は情事に溺れてなどいません! 絶倫親爺という悪評は事実無根です!」

 

厚生労働大臣時代から愛人契約をしているとの一般女性の激白が女性週刊誌ですっぱ抜かれ、議員時代から派手に銀座で遊んでいたとの証言もあり、都知事周りの金の動きを調べるべく現在東京地検特捜部が動き始めている。

彼は近々起訴されるかもしれない。

元艦娘を富裕層に斡旋しているという噂の業者の存在を追うべく、憲兵隊の動きも活性化している。

函館にも問い合わせが来たくらいだ。

これから大変なことになるだろうな。

 

東京に鎮守府を作る話は複雑怪奇な経緯を経て、警視庁管轄の特艦二課として設立されることになった。

 

 

 

近日行われる箱館五稜郭祭の警備の打ち合わせの合間を縫って、私が神戸の垂水に出張することと相成る。

なんでやねん。

私では役に立たないと思うんだけどなあ。

リラの花咲く街で、一緒に行きたいと文句を言う面々にお土産を約束して青函連絡船に乗る。

東北新幹線東海道・山陽新幹線を経由して新神戸で降りると、神戸鎮守府が近々創設されることを記したポスターが見えた。

地下鉄のポスターも神戸鎮守府のことを大々的に宣伝している。

あれ?

特に問題は起きていないようだが?

なにがどうなってんの?

 

垂水駅に着いて、建設中の鎮守府を見学する。

建設関係者は順調に作業を進めていた。

デモ隊もなく、シュプレヒコールする者もなく、アジテーションする者もいない。

なんだ、これ?

 

三宮まで鈍行で戻り、駅舎近くのカフェで珈琲を飲む。

 

「お客さん、もしかして鎮守府関係の人? 提督じゃないですか?」

 

給仕の可愛い女の子から、いきなりそう言われた。

周囲を刺激しないために私服で来たんだけど、なんでわかったんだろう?

 

「よくわかりましたね。」

「私、元艦娘ですから。」

 

ああ、成程。

 

「提督さんみたいな人の元に付きたかったなあ。あの、どこの鎮守府ですか?」

「函館です。」

「あ、『艦娘たらし』の。やっぱり。」

 

なにがやっぱりなんだろうか?

しかし、どこまで広がっているんだ、その渾名?

 

「函館かあ。いいなあ。」

「神戸の方がなにかと便利ですよ。」

「うーん、そっかなあ。」

「ところで、神戸鎮守府は問題になっていないんですか?」

「別になにも問題ないんじゃない? 騒ぐ人なんて、建設前にちょっといたくらいよ。騒いでなにもかも失うなんて、そんなの勿体ないじゃない。」

「確かにそうですね。」

「騒いでいるのは極々一部の人とマスメディアの人たちだけ。世の中、案外そんなものよ。嘘ばっかり。」

 

 

 

待ち合わせ場所は芦屋のイタリア菓子専門店を指定した。

ここのケーキはとてもおいしいのだ。

この店ではシベリア鉄道を利用してイタリア産の干し果実やイリーの珈琲を入手しており、その情熱には頭が下がる。

ウラジオストクからマスクヴァ(モスクワ)。

マスクヴァからパリ。

パリからローマ。

崩壊した世界の中で政体を維持するのは難しいことだと思う。

EUが現在は悪い方に作用しているみたいだが、欧州は努力し続けるしかないだろう。

かの地も課題が多い。

 

深海棲艦の侵攻以降、幾つもの勢力に分裂して無政府状態になったロシアの中で、ウラジオストク鎮守府は同地域の治安維持を担当する重要拠点になっていた。

其処は新潟鎮守府と連携して欧州とのつながりを保っている。

武闘派の元艦娘による自治組織はかなりの戦力を有していた。

出稼ぎに来る外国人たち、犯罪組織、商人たちが混沌を生む。

ウラジオストクは昔の上海みたいな街へ変貌しているそうだ。

舞鶴鎮守府が管轄しているロシアの交易は、国際的なつながりを維持したい日本国政府から重要視されている。

 

彼らからしたら、問題発言を繰り返す老齢政治家を一人斬り捨てるのはなんでもないことだろう。

 

ウラジオストクからシベリア鉄道を使って欧州戦線に向かった提督や艦娘たちも、かなり活躍していると聞く。

マルタ島やスエズなどに鎮守府を置いて奮闘しているらしい。

世界平和のため。

地球の人たちのため。

少しは私も見習いたいものだ。

 

 

 

早めに着いたにもかかわらず、神戸鎮守府の面々は私が到着してすぐにやってきた。

艦載機を飛ばしたのか?

相手の提督は若く、穏やかな感じの青年であった。

お土産のマルセイバターサンドが好評でよかった。

 

以下、神戸鎮守府の戦力。

お洒落重巡洋艦の熊野と鈴谷。

軽空母の飛鷹(ひよう)。

駆逐艦の叢雲(むらくも)、陽炎、霞。

なかなか贅沢な陣容だ。

 

ケーキと紅茶を楽しみながら、提督と会話する。

現地情報と余所の情報とで齟齬が生じているな。

ここのクッキーはおいしいから、お土産にしよう。

 

「流石、『艦娘たらし』ね。女の子が好きそうなところをよく知っているじゃん。」

「ええ、流石、と言っておきますわ。」

 

鈴谷と熊野がそう言った。

 

「函館の私がべた褒めするからどんな奴かと思ったけど、冴えない割にはなかなか気が効くわね。」

 

これは叢雲。

 

「函館の私が気を許しているからって馴れ馴れしくしないでよね、インスタント司令官。……ちょっと、陽炎。あんた、なにやってんのよ。」

 

これは霞。

 

「噂の司令の膝の座り心地を確かめているんじゃない。悪いわね、もらったわ!」

 

食べられちゃった。

あーあ。

これは陽炎。

初対面で膝の上に乗ってくるなんて、戦艦棲姫みたいだ。

気さくで明るい子だな。

なんでこんなに馴れ馴れしいのだろう?

 

「それで座り心地はどうなの?」

 

飛鷹が陽炎に問いかける。

私は新型の椅子なのかね?

 

「割といいわ。癖になる前に降りとこっと。作戦完了よ!」

「おそろしい力量ね。こうやって、函館の私を陥落したのね。私はやられないわよ。やらせはしないわ。」

「叢雲さん、誤解を招く言い方はやめてください。私は『艦娘たらし』ではありません。」

「悪い奴は決まってそう言うのよ。」

 

賑やかなお茶の時間。

雰囲気はよいようだ。

これなら問題はないだろう。

この後は神戸市役所と兵庫県庁の担当者や市長や県知事に会って会談すれば終了か。

明日は神戸市立博物館と灘の兵庫県立美術館に寄って、蓬莱の豚まんを買って帰るとしよう。

手帳を見ながら予定を頭の中で組み立てていたら、ふと強い視線を感じた。

ひょいと頭を上げると、提督と視線が絡まった。

ん?

違和感を覚えるが、一瞬でそれは消えた。

人柄を計られたのかな?

神戸鎮守府側に問題なしとの判断をして、彼らと別れた。

近々演習しましょうと約して。

 

……別れた筈なのだが、何故貴女がいるんですか、陽炎さん?

 

「護衛よ。」

「私なぞの命を狙う輩なんていませんよ。」

「その油断は慢心じゃないかしら?」

「平々凡々なおっさんに注意を向ける人なんていませんよ。麗しき艦娘が一緒の方が逆に狙われやすいのではないですかね?」

「私のこと、嫌い?」

「そこで何故好き嫌いが出てくるのがよくわかりませんが、嫌いではありませんよ。」

「よかった。じゃあ行きましょう。」

 

なんだろう。

艦娘たちに出会ってから、主導権はずっと彼女たちが握っているみたいに思える。

……気の所為(せい)だな。

 

 

 

お偉いさんたちとの折衝は歓談レベルで終了した。

神戸市並びに兵庫県側は舞鶴鎮守府と対等な立場で対話出来るとして、互いに尊重することを盛り込んだ契約書を作成するそうだ。

拍子抜けする。

他所で聞いたあの騒ぎはなんだったのだ?

まあ、拗れまくるよりは余程いいのだが。

 

 

 

「晩ごはんはどうするの?」

「なににしましょうかね。」

「まだ決めてなかったの?」

「ええまあ……なんで皆の元に戻らないんですか?」

「私、邪魔?」

「いいえ。」

「だったらいいじゃない。」

「この辺りで適当に夕食を食べて、ホテルへ戻る予定です。」

「じゃあ、それでいいわよ。」

「私と一緒に行くつもりで?」

「陽炎になにか落ち度でも?」

「それ、妹さんの台詞です。」

「いいじゃない。こんなに可愛い子が一緒なんだから。」

「函館の面々が知ったら、どつかれまくりそうですよ。」

 

結局、三宮地下迷宮にある中華料理店で夕食。

 

「私ね。こう見えて、クラムチャウダーが得意なの。」

「ほう。」

「この炒飯おいしいわね。こういうお店を知っているってことは、何人もの女の子たちを取っ替え引っ替えデートに連れてきていたんでしょ。」

「そんな事実はありません。話を作らないでください。」

「あっ、もしかして艦娘専門? マニアックね。」

「神戸鎮守府の話よりも、私の風評被害の方が遥かに酷かっただす。」

「ええーっ、一杯聞いたわ。敵対勢力の戦艦棲姫さえ手玉に取る、『夜の帝王』とか言われているわよ。テクニシャンなの?」

「あだ名が何故か増えていますね。私は童貞です。」

「うっそだー。」

 

食事を終え、陽炎を提督の元に送ろうとした。

すると、カフェで出会った娘に再会する。

なにこの偶然。

 

「あら、提督さん。さっきぶり。」

「おや、今晩は。」

「なに、彼女?」

「ええ、そうなの。」

「ちょっとそこのお嬢さん、話を捏造しないでください。」

「あー、なーるほど。それで私と早く別れたかったのね。」

「モテるわね、提督さん。」

「二人ともなにを言っているんですか。」

「じゃあ、この時間からは大人の時間ね。元町駅近くにいい呑み屋さんがあるのよ。一人で行くのもつまんないから、提督さんも行きましょ。」

「じゃあ、私は帰るね。お邪魔みたいだから。」

「えっ、そんなことはありませんよ、陽炎さん。でも遅くなりますから送ります。」

「提督さん、他の子たちも来れるって。知名度が高いわね。メールを送ったら、すぐ了承の返事が来たわ。」

「他の子たちって誰々ですか?」

「司令って噂通り絶倫なのね。」

「その噂ってなんなんですか?」

「じゃあ、最初は元提督が経営している元町駅近くのお店で呑んで、二次会は神戸駅近くの元艦娘がやっている焼き鳥屋さんに行って、その後は情熱的な夜ってどう?」

「なんかいつの間にか具体的な予定が組まれている? 二次会までは付き合いますよ。」

「お、大人の世界だわ。やるわね。」

「やっていません。さあ、陽炎さん、帰りましょう。」

「提督さんの携帯端末に私の電話番号とメールアドレスを登録しておいたわ。その子を送ったら連絡ちょうだい。後で会いましょう。」

「いつの間に?」

「やっぱり彼女じゃない。」

「今日会ったばかりです。」

「えっ、速攻で口説き落としたの?」

「私はエロい人ではありませんよ。」

 

 

 

なんだか、大変なことになったぞ。

 

元艦娘たちと賑やかな夜になって貞操の危機を覚えたが、童帝力でなんとか凌いだ。

 

 

 

翌日は何故か神戸鎮守府の面々を引き連れて、美術館と博物館を巡る破目に陥る。

なんでこうなった?

事務処理で多忙な提督から頼まれたのも大きいが、なんだか全員が馴れ馴れしい。

お昼はこじんまりとした洋食屋。

海老フライとハンバーグの定食。

彼女たちも満足したようだった。

 

三宮駅舎内にあるケーキ屋のクレープを奢って、そして別れた。

 

いやはや、濃厚な二日間だった。

こういうのはこれで終わりにして欲しい。

 

「あら、提督さん。もう帰るの? 寂しくなるわね。」

 

振り返ると、昨夜散々交流した元艦娘たちがいた。

 

そして、彼女たちはやさしく微笑んだ。

 

 

 

 


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