はこちん!   作:輪音

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CLⅧ:ある初秋の執務室

 

妖精眼を有する者は皆提督にさせられる。

今執務室にいる司令官も『検査』で選ばれ、半年間の訓練を経てこの港町の鎮守府に着任した。

函館の大淀からダメ出しされた書類を抱え、私は執務室へ向かう。

ちょっとぼんやりした、とっぽい男。

前任の五倍くらいはマシな感じの男。

私がしっかり支えなくちゃダメな男。

何故かしら?

少し、気分が高揚してきた気さえする。

べ、別にあんな男なんて好みじゃない。

 

「ちょっとあんた。聞きたいことがあるんだけど。」

「ひっ。」

 

書類片手に扉を叩きながら入室すると、彼が息を呑むのが聞こえた。

 

「なにをしていたの?」

「ま……まだしていない。していないんだ。」

「落ち着きなさい。……ねえ、大丈夫なの?」

 

独特のにおいがかすかに鼻腔へ届いた。

前の司令官がよく漂わせていたモノだ。

 

「あんた……まさか……六連装酸素魚雷を全弾喰らわすわよっ!」

「い、いや……ち、違うんだ! そ……そんなんじゃないんだ!」

「言い訳無用! とっとと、日本海溝へ沈みなさい!」

「ちょっと待ってよ。私が誘っただけなんだからさ。」

 

するりと机の下から立ち上がる同僚。

心の底から思わずカッとなって叫ぶ。

 

「あなた、『また』司令官を潰すつもりなのっ!? 一体何人ダメにしたら気が済むの!?」

「女のサガよ。あなたは、そういうのがここから全然来ないのかしら? ほら、こんなに火照っているの。」

「いい加減にして! あなたがそういうことばかりするから、他の子も影響を受け始めているのよ! ここは最前線じゃないからまだいいけど、函館の提督が視察にでも来たらどうする気? 今のようなことをしていたら、一切言い訳出来ないわ!」

「ただでさえ今日も暑いのに、余計に暑苦しくなってきちゃうわよ。」

「脱ぐな! 出すな! この痴女めっ! 恥を知りなさい! 恥を!」

「ホント、あなたってオカン気質ね。別にいいじゃない。司令官も私も満足感を得られるんだから。これがウィンウィンってものかしら。なんとなくエロい響きね。」

「エロいのはあんたの脳内よ。」

「仕様だもの。仕方ないわよ。」

「どうやらお仕置きが必要のようね。」

「やめといたら。あなたの錬度じゃ私に絶対勝てない。」

「叢雲(むらくも)、すまない。ここはこらえてくれ。」

「司令官、風紀についての規則は勿論知っているわね?」

「あ、ああ。それは承知している。」

「なら、そこのソレとそういうことになったら、どうなるかもわかっているわよね?」

「モノ扱い? それも悪くないわ。」

「勘弁してくれ、なあ、秘書艦殿。」

「あんた、何回目撃されていると思っているの? ここはあんたの自宅じゃないのよ! 自宅でだって、していいことと悪いことがあるのよ!」

「それは……悪かったと思っている。」

「何名もの子に手を出している訳でもないから今までは目をつむっていたけど、こんな時間にこんな所でこんなことをしているようじゃ、司令官としての自覚に欠けているとしか言い様がないわ。」

「この時間帯のこういうところでこういうことをするから、とってもいいんじゃない。野暮天ねえ。」

「誰が野暮天よ。変態は黙りなさい。」

「酷い言いぐさね。ま、事実だけど。」

「あんた。」

「はい。」

「当分、彼女と会うのをやめなさい。」

「「ええーっ!?」」

「なんでそこでハモるのよ。」

「繋がりを感じるからかな。」

「ええ、司令官を感じるわ。」

「漫才やっている場合じゃないわ。もう少ししたら、ホントに函館の提督が視察に来るのよ。」

「「ええーっ!?」」

「なんで、またハモるのよ。」

「繋がりが溢れるからかな。」

「司令官が私の中にいるわ。」

「バカなことを言っていないで、すぐに換気をするわよ。早く穿いて頂戴。ほら、下着が見えてる。ちゃんとボタンを留めなさい。」

「叢雲ってお母さんみたい。」

「然り! 然り! 然りっ!」

「黙れ! このバカップル!」

 

窓に駆け寄って、シャーッとカーテンを脇に寄せる。

急いで解錠しようとして、外にいた人物と目が合う。

彼は軍服を着ていた。

カチャリ。

窓が開く。

 

「やあ、こんにちは。」

 

平凡な顔立ちの中年男がそこにいた。

 

「ほんの少し時間が早かったので散歩していましたら、声が聞こえてきましてね。」

 

私たちは石像の如くに動けなくなる。

 

「嗚呼、大丈夫です。以前からご両名の特別な交流関係はわかっていましたから。」

 

そして函館の提督はニヤリと笑った。

 

 

 





【オマケ】

「こんなところへ呼び出して、一体どういうつもりなんですか?」
「あらあら、随分とカンムスらしくなってきたじゃない、貴女。」
「ふざけないでください。大反撃作戦を大本営が企図していて、現在ピリピリしているんです。提督の数も艦娘の数も資源の量も全然足りないのに。バカばっか。」
「その割には貴女に監視も付けないで、彼らも不用心なんじゃないかしらね?」
「与汰話をされるおつもりでしたら、すぐに帰らせていただきたいんですが。」
「言うわね。カンムスになって提督のオクサンになれたのが、そんなにも嬉しいのかしら?」
「私にだって、夜を愉しむ権利くらいある筈です。」
「あーあ、私も誰かとケッコンしようかしら? そうね、ハコダテの提督なんていいわね。」
「あんな男のどこがいいんだか。」
「あらあら、公明正大な戦艦がそんなこと
を言ったらダメでしょ。原油の量は十分? 輸入物の量は十分?」
「手加減には感謝しています。」
「貴女もすっかりカンムスね。」
「なってみますか?」
「面倒だから厭よ。」
「まったく、貴女らしいです。」
「カンムスが戦闘後海上に現れるなんてご都合主義を、彼らは何故不思議に思わないのかしら? 魂が解放されるだなんて、本気で信じているのかしらかしらそうかしら?」
「ニンゲンは都合がよかったら、大抵はその理由を深く考えないものです。もしかしたら、夢が醒めるのをおそれているのかもしれませんね。」
「そういうものかしら? でね、私たちは当面の間、北米方面に戦力を集中させたいの。使い捨てが当たり前の傲慢な白人連中に一泡吹かせたいって、うちの子たちが毎日意気込みを見せてくるのよ。陳情書が溜まってきちゃって、もう大変。洗脳した連中の使い勝手があまりよくなくて、結果的に使い捨てになっている事態を打破したいところよ。こっちに『戻したい』子もいるしね。」
「『回収』作戦ですか?」
「ええ、将棋と同じね。」
「チェスのようにはいきませんか。」
「先程までの仲間が敵に変わる。万物流転ね。貴女は『どっち』?」
「私は『艦娘』です。」
「そうね、こんなに馴染むとは思わなかったわ。」
「その……ひとつ聞いていいですか?」
「どうぞ。」
「効果抜群の精力剤が欲しいんです。」
「はい?」
「前は毎晩あんなに激しかったのに、最近は……。」
「ちょ、ちょっと待って。べ、別のところで話しましょ。そ、そうね、カラオケ店にでも行きましょうか。」
「私も朝から一生懸命ご奉仕するんですが……。」
「ストップ! ストップ! 兎に角ここを出ましょ。話はそれから!」
「周りの駆逐艦たちも近頃紅葉するかのように色づきだしてきていて、この頃はあの人に抱きついてケッコンを迫る子までいるんですよ。」
「わかったから! わかったから! 話を全部聞いてあげるから! 要望も聞いてあげるから! 早く行きましょ! ダヴァイダヴァイ!」


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