丸山君は函館在住の中学二年生。
ちょっと夢見がちな男の子です。
たまに自称暗黒少年になります。
妹と一緒に世界征服を夢見ます。
お布団の中にて野望が輝きます。
兄妹はとっても仲がいいのです。
団地で父母妹と一緒の生活です。
団地妻に大興奮する男の子です。
近所の鍛蜜お姉さんの部屋にはよく泊まりに行っていました。
丸山克弥君はエロエロなお姉さんにメロメロだったからです。
時々妹と一緒にお泊まりしていたので、今も交流があります。
一緒にお風呂に入ったことは、ここだけの秘密事項なのです。
そのことでからかわれては赤くなったり大きくなったりです。
少年の夢は提督になって沢山の艦娘たちとケッコンすることです。
今年の春、偶然艦娘に出会って運命だと勘違いしてしまいました。
たまにあることですね。
ガンバレ、丸山克弥君。
それから丸山君は提督になるため、毎夜自主トレに励んでいます。
妄想の中で彼は勇猛果敢な提督になり、艦娘たちを鋭く指揮したり和ませるために雑談したり激しい訓練をしたり深海棲艦を自ら単身で成敗したりしています。
実物のおっさん提督を遥かにしのぐ大活躍です。
体をやわらかくしなくてはならないと、毎朝九州産の黒酢を飲むことは彼にとって必須のことです。
そして、アマレス部で体を鍛えることも忘れません。
丸山君の学校でのアマレス部は男女混合ですが、丸山君は唯一人の男子部員として頑張っています。
一々一部のことは気にしていないフリをしています。
女子は容赦がありません。
時折高校生のお姉さんたちにも揉まれますが、なんとか頑張っています。
開き直って平然としたフリの丸山君はお姉さんたちから見透かされていて、練習中は色んなイタズラをされます。
これも修行だと丸山君は耐えています。
うらやまけしからんと男子たちからはやっかまれていますが、それどころではないのです。
丸山君の妹のあまねちゃんは小学五年生で、少しおしゃまなおませさんで大好きなお兄ちゃんにかまってもらうのが生き甲斐です。
同じ団地に住んでいる親友のたまきちゃんにおっさんな彼氏が六人もいると知って、この頃はちょっぴり焦っています。
錯乱したあまねちゃんはお兄ちゃんにデートしようと言ってしまいました。
やさしいお兄ちゃんはいいよ、と俳優のように甘い声で言いました。
元道警の下伊那氏が空き部屋だった丸山君の隣部屋に引っ越してきたのは夏前です。
なんだか少し怪しい感じの下伊那氏は、ビデオ撮影と写真撮影が趣味の男性でした。
メリケン少年サックと出会ったのもこの頃です。
サックはざっくばらんで唐竹割りのような若者。
アメリカンジョークを連発するのが玉に瑕です。
丸山君とサックは会った直後親友になりました。
ある朝、丸山君は奇妙な気持ちで目覚めました。
鍛蜜お姉さんやアマレス部の女子たちや同級生たちやたまきちゃんに、揉みくちゃにされた夢でした。
穿いていたブリーフを洗面所で洗います。
これはなんだろう?
丸山君にはその辺りの知識がありません。
今年三二歳になるお母さんに見つかりました。お父さんにも見つかりました。
キレイなお母さんがニヤニヤしています。
出勤前のお父さんもニヤニヤしています。
「今夜はお赤飯ね、あなた。」
「今晩はお赤飯だ、おまえ。」
「あの夜を思い出すわ、あなた。」
「素敵な夜だったよな、おまえ。」
今もラブラブパワフリャア全開な夫婦は、少年が大人の階段を登り始めたので大層喜ばしく思いました。
今夜はより一層燃え上がると思います。
函館でお赤飯といえば、甘い豆のご飯。
翌日の夜、お赤飯で祝われた丸山君の住まいに同じ組の刈谷さんが挨拶に来ました。
同じ団地に住む生真面目な彼女は、お赤飯のお礼に来たのです。
長い髪の少女はミニスカートを穿いていました。
刈谷さんに好意を持っている丸山君は、彼女から部屋を見たいと言われて素直に案内します。
ベッドに座る少年に密着するが如くに腰かける、学年一の美少女が無防備です。
少なくとも、一見そうと見える恰好です。孔明の智謀知略をとくとご照覧あれ!
いろいろと見えてきそうで、丸山君の心臓がバックンバックン音を鳴らします。
「キスする?」
唐突に刈谷さんは言いました。
まるで朝ご飯の話をするみたいに。
咄嗟に返事が出来なくてアワアワする丸山君。
不敵な笑みを浮かべながら肉薄する刈谷さん。
ちなみに処女です。
ポケットの中には三個あるし、問題なしです。
足は既に絡めており、手は彼の腰に回し済み。
逃がさへんで。
童貞殺しの必殺技を見よ。
肉食系少女は狩人になる。
あずさ二号で突撃ナリヨ。
あと三センチ、というところであまねちゃんの妨害が入りました。
愛する兄の元へ向かう妹。
愛ゆえに!
ほんのかすかな舌打ちが聞こえた気がして、丸山君は思わず端正な刈谷さんの顔を見つめます。
それは普通の顔。
女のかぶる仮面。
「また明日ね。」
焦ってはいけません。
狩りは何時でも出来るのですからね。
刈谷さんは至極あっさり帰りました。
機会なら、これから何度でもあるわ。
何故か大いにむくれたあまねちゃんとお風呂に入りながら、丸山君はたまきちゃんの彼氏たちの話を延々聞かされました。
たまきちゃんののろけ話にうんざりしているようにも見えましたが、うらやましいとも思っているようです。
おっさんキラーたまきちゃん、おそるべし。
学校でふとしたことから、丸山君は函館のおっさん提督と遠縁なのだと嘘をついてしまいました。
いわゆる、やらかしちゃった、ですね。
思春期の暴走は稀に痛々しくあります。
丸山君は刈谷さんやアマレス部の女子たちと共に、放課後函館鎮守府へ向かいます。
おっさん提督は作業服で門の掃除をしていました。あまりにも似合っている姿です。
周囲には沢山の艦娘がいます。
皆で清掃活動に従事中でした。
これが僕の目指すべき桃源郷。
丸山君はそう固く信じました。
おっさん提督が聞いたら、じゃあ代わろうかと言ってしまいかねません。
ある意味地獄に近似する世界も、見方が変われば天国に見えるようです。
丸山君はとても純粋なのです。
女子たちが丸山君をじっと見つめました。
刈谷さんだけは目の色が異なるようです。
丸山君は汗びっしょりになっていました。
おっさん提督は自分自身のことにはとってもとっても鈍くてダメダメですが、こういう時はおそろしく勘が冴えます。
シャリア・ブルもびっくりです。
見えた! と提督は感じました。
それこそが、提督たちに共通する異能なのかもしれません。
「あ……あの!」
勇気を振り絞った声を発する丸山君。
「やあ、久しぶりだね。お茶でも飲んでゆくかい? 勿論、皆さんもどうぞ。」
まるで血縁の男の子に話しかけるような声音。
親戚の伯父さんみたいな感じのやさしい声音。
事前打ち合わせする余裕は一切なかったのに。
おっさん、ナイスだ!
この時点で、中学生はおっさんに惚れました。
チョロいぞ、丸山君!
劉玄徳もかくやのハイパーたらしビームを全方向に無指向発射し、周囲の艦娘たちを鼻血ならぬオイル漏れさせながら、おっさん提督はにこやかに微笑みました。
キラリと光る男のやさしさ。
それはまさにマップ兵器也。
おっさん提督の本気ナリヨ。
中破大破続出の人間兵器也。
艦娘たちが次々に倒れます。
マジかよおっさんみたいな。
中学生たちの背後で、用意周到な大淀がカンペをおっさんに見せます。
彼女でさえもほんのりとオイル漏れしていました。
軽く頷くは提督。
こういう純粋な子の夢をけして壊してはいけない。
おっさんは青春ドラマにノリノリで乗っかります。
気分は中学生日記なのであります。
燃やせ燃やせ真っ赤に燃やせ魂を。
青春万歳!
「克弥君も大きくなったね。もう中学二年かい?」
「は……はひぃ!」
やさしさ光線最大火力放射一二〇パーセント。
それはアガペー。
神仏もたらす愛。
雲間がたまたま切れて、たまたま太陽光がおっさんを西洋の宗教画のように照らしました。
ブンドルさえも美しいとため息をつきそうな一幕。
人間の女の子にも多少は効果があるようです。
赤く頬を染めた子さえいるのです。
これは大変危険なおっさんですね!
これで疑う子はいなくなりました。
おそるべし、ノリノリのおっさん!
丸山君は嬉しすぎて泣いています。
お茶会イベントも無事クリアです。
その日、丸山君は絶対提督になるのだと改めて決意しました。
刈谷さんのしっとり見つめる視線にちょっとも気づかぬまま。
次の日から、丸山君は二人の可愛い女の子と登校するようになりました。
めでたしめでたし。