二年程、南方で提督をやっている。
鉄底海峡解放戦以降膠着状態が続いていた戦局も、インド洋方面が解放されつつある昨今では見通しがよくなりつつある。
俺の率いる艦娘は他所の壊滅した泊地の人員も引き取っているから、三艦隊一八名と意外に多い。
個性の塊が一八名分ともいうが。
毎日毎日アクの強い娘たちと付き合っているが、もう正直なところうんざりだ。
提督として着任した頃は、可愛い娘たちと一緒に戦えて大変嬉しく思っていた。
思っていたんだ。
だが。
女の子と付き合ったことすら無い俺に、彼女たちの気持ちなんてろくにわかる訳が無かったんだ。
すれ違いにすらならず、彼女たちの思惑に沿うよう、必死に努力する日々。
その努力は結果に結び付いていない。
それは俺がイケメンではないからだ。
事実、艦娘たちからは微妙な評価を貰っている。
転属続出まではいかないが、現に何名かは泊地から出ていった。
俺の元では、満足に戦えないと思ったのだろう。
武闘派の艦娘は全員転属した。
ここにいるのはそうでない娘。
「将校殿、将校殿。」と慕ってくれていたあの娘との日々が懐かしい。
辞職願自体は意外と簡単に受理される。
無事に受理された場合の話ではあるが。
「いくら美人だ美少女だ、って言っても人間じゃないだろ、あいつら。ちょっとやさしくしたらやたら構ってくるし、少しでも冷たくあしらったら泣いたり悲しそうな顔するしよ。どうせえいうんだ。まっ、提督なんぞ仮のもんだからさ、適当にやり取りして受け答えしてりゃいいんだ。でもな、最近アパートに誰か入った形跡があるんだよな。警察に言う程じゃないとは思うんだけど、なんか薄気味悪いぜ。まっ、気にする程でもないか。兎に角、あいつらには節度を持って欲しいよ、節度を。」
そんなことを言った同期は現在行方不明。
一体、どこへ行ってしまったのだろうか?
我が泊地は島の洋館に拠を構えていて、それはコロニアル様式とかいって植民地時代の建物らしい。
太平洋戦争の頃は、日本軍が基地として使っていたそうだ。
戦後は持ち主がころころ変わって、深海棲艦が侵攻してきた直前までは大陸の金持ちの別荘だったらしいが、持ち主はとっくの前に船で逃げて島民たちの眼前で沈められたという。
深海棲艦たちは島の連中に手出しせず、手を振って去ったとか。
えらく余裕だな。
そんなこんなでうやむやの内に使っている訳だが、致し方ない。
なんだかもやもやするがね。
地元の爺さんたちは問題ないと言っているが、どこまで信用していいかわからない。
艦娘たちも地元民たちもなにを考えているのか、よくわからない。
大本営から時折指示される後方支援任務や撹乱任務、たまにある大手泊地を経由しての査察。
袖の下を要求しないだけマシか。
台風が来ると身動きが取れない。
島の産物はサトウキビに果実だ。
それと芋に幾ばくかの穀物など。
後は魚を取ったり時に豚を焼いたり。
島の人間にとってはそれでいいとか。
あー、唐揚げ食べたい刺し身食べたい和食食べたい。
蕎麦やうどんが食いてえ。
嗚呼本土に戻りたいなあ。
……提督辞めよう。
そうだ。
提督稼業なんざ、辞めちまえばいいんだ。
なにも、俺が提督をやらなくたっていい。
もうイヤだ。
うんざりだ。
辞める辞める辞めてやる。
こんな生活、もうイヤだ。
司令がまた動作不良を起こした。
これで六回目だ。
試験的に導入された試作品だけど、そろそろ寿命なんだろうか?
帰りたい帰りたいってうわ言のように言うんだけど、どこへ帰るつもりなんだろう?
近隣の大型泊地に連絡して、明石さんに急遽来てもらい、応急措置をしてもらった。
かなりガタが来ていると言われる。
潮風が電子頭脳を狂わせたのかな?
アイドル支援用のP型モデルを発展的改良させたのが司令だけど、不具合を頻発するようになってきていた。
記憶の混濁が始まっているし、都合のいい捏造(ねつぞう)まで行い出している。
まあ、記憶の捏造は人間もやるけど。
しきりに提督を辞める提督を辞めると繰り返すので、初期化してもらうことにしようと総員の同意を得た。
デフラグすれば、多少はまともになるかもしれない。
それでもダメなら……。
俺は少し記憶喪失になっていたらしい。
私室には心配そうな顔をした艦娘たちがずらりと並んでいる。
皆いい子たちじゃないか。
早く元気にならなきゃな。
最近頭の中にモヤがかかっていたような感じだったが、今は秋晴れのようにすっきり爽やかになってきた。
じゃれつく娘たちの頭を撫でながら、一日も早く元気になろうと誓う。
提督稼業を張り切らなきゃ。
よし、復調したら頑張るぞ!