はこちん!   作:輪音

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CLⅩⅦ:ハッチーモッチーステーション

 

それは宵の時間から始まる艦娘ラヂオ。

 

「えーと、今夜から始まる『ハッチーモッチーステーション』です。進行役はハッチーこと初雪と。」

「モッチーこと望月でお送りします。」

 

ガサガサバリバリ。

 

「このお煎餅は香りがよくって、美味しいねえ。」

「香川県の志満秀ってとこの海老煎餅だってさ。」

 

バリバリバリバリ。

 

「あれ、制作統括がなんか髪を振り乱して、紙を振り回しているよ。」

「もういい歳なんだから、落ち着いた方がいいのに。えっ? 放送中にものを食うな? あっ、なんか追記している。」

「いちいちカンペの文章を音読するな? あれ? 頭抱えちゃったよ。」

「あ、そうだ、モッチー。お客さまがいるんだよ。」

「そうなんだ。じゃあ、呼ぼう。」

「ミセス・ダイヤです。どうぞ。」

「ミセス・ダイヤだ。さあ、時と場所を選びな。決闘の時間だ。」

「ハードボイルドですねえ。」

「そこに痺れる憧れる。」

「よせよ。兵が見ている。」

「モッチー、なにか質問して。」

「オッケー。あの、金ご……ミセス・ダイヤは紅茶好きだそうですが、やはりスリランカ産やインド産やアフリカ産などがいいんですか?」

「そうだな、海外産はヴェトナム辺りだと融通が効きやすいが、香りはインドやスリランカに今一つ及ばんな。オーストラリアやニュージーランドは生産量が違うし、オーストラリアは砂漠化と失言で国力が低下中だ。安定した輸入は厳しいだろうね。国産紅茶も悪くないぞ。私は緑茶も飲むし、最近は西日本のお茶に少々こだわっている。」

「そんなにも違うんですか?」

「飲めたらそれでいいのに。」

「実際に飲んでみるといい。」

 

カチャカチャコポコポコポコポ。

 

「あっ、制作統括がまた髪を振り乱して、紙を振り回している。」

「ええと、無言の時間を作るな? あれ、また頭を抱えてるよ。」

「一曲流し、その合間にお茶と茶菓子を味わってみたらどうだ?」

「流石、ミセス・ダイヤ。」

「では、一曲目。那珂ちゃんの『私の彼はミラクルアミラル』。どうぞ。」

「ほう、茶柱か。これは縁起がいい。」

 

 

「お茶もお菓子もおいしかったねえ。」

「じゃ、そろそろ終わりにしよっか。」

「お前たち、フリーダムだな。まだ時間があるだろう。」

「「あっ、そっか。」」

「なにか話でもすればいい。提督の話とか。」

「ええと、じゃあ、函館の提督は総受けなのかどう……あれ、制作統括が血相変えて怒っているよ。」

「総受けでも誘い受けでもいいのに。」

「そういうことを言っていると、後で怒られるぞ。」

「じゃあ、函館の提督が絶倫大王という噂について……え? ダメなの?」

「ケチだねえ。」

「お前たち、わざとやっているのか?」

「仕方ないなあ。では二曲目。高橋洋子さんの『魂のルフラン』です。どうぞ。」

「ハッチー、このお饅頭おいしいよ。」

「ぶれないな、お前たちは。」

 

 

「お便りを読め読めって制作統括がうるさいから、モッチー、一通読んでよ。」

「えーと、普段艦娘同士ってどんな話をしているのか教えてくださいってさ。」

「私が答えよう。色恋とエロい話とお洒落と噂話と美容に関するものが多い。」

「色恋の話はしないなあ。」

「お洒落よりゲームだね。」

「その内、必要になるぞ。」

「「それはないですね。」」

 

 

「お別れの時間になりました。最後の曲は加賀さんの『立待岬』です。お聴きください。進行役はハッチーこと初雪と。」

「モッチーこと望月でした。本日のお客さまはミセス・ダイヤでした。ありがとうございます。」

「どういたしまして。時と場合が許せばまた来てもいいぞ。」

「「「それではまた来週。」」」

 

 

 





【オマケ】

相模湾での釣果(ちょうか)が著しかったらしく、函館へ宿泊に来た艦娘たちから複数種の魚を貰った。

イナダ
ヒラソウダ
ゴマサバ
マアジ
イトヨリダイ
カイワリ
アマダイ

鳳翔や間宮などの料理上手たちがキラキラ輝きながら、ゴマサバの味噌煮やヒラソウダの漬けやイナダのしゃぶしゃぶを作ってくれた。
刺し身の盛り合わせは豪勢な感じで、あっという間に食べ尽くされる。
マアジやアマダイの炭火焼きも旨かった。
李さんは刺し身をおっかなびっくりで食べているが、悪くないらしい。

私の漬けた浅漬けも好評のようだ。
岡山県産の塩、香川県産の塩、長崎県産の塩と三種類の国産塩を使っている。

おでんに肉饅頭などもある。
あるのだがすぐになくなる。
旨い旨いと皆が食べるから。
お陰で厨房は戦場であった。
自前の中華鍋を振って、野菜炒めを作る。
何故か私の作った拙い一品が人気なのだ。
渡された野菜や茸を鍋に投入して炒める。
よそから修行に来たパティシエや和菓子職人が綺麗な盛り付けをして、珠玉の逸品を完成させている。
ううむ、あれは無理で御座るよ。
試食を頼まれ、手伝いの駆逐艦にアーンしてもらった。

「くっ、何気に自然に我らの心を折りにくるとは、流石ハレム王。」
「お嬢さんは元気かなあ、となんとなく望郷の想いが募りますね。」
「おい、自慢か! 彼女自慢か!」
「やだなあ、お嬢さんは小学生ですよ。」
「きさん、光源氏を気取うとるがやき!」
「なにしょん、あんたら。はよう作らんと間に合わんよ。」
「い、言われなくとも!」

仲よさそうだな、あの人たち。
口も手も同時に動かしている。
器用なものだ。

「はい、アーンしてください、司令。新作の芋タルトです。」
「とてもおいしいです。道産の芋二種類に栗を混ぜているんですかね。」
「当たりです。ふふふ。」

後ろから何故か殺気を複数感じるが、調理中で手が離せない。

「こちらのういろうもどうぞ。」

軽空母の春日丸が爪楊枝に刺した練り菓子を私の口に入れる。

「これは春日丸さんの自作ですか? やさしい甘味ですね。おいしいです。」
「提督を想いながら作りました。」

グハァ! という声が聞こえてきた。

「メディーック! メディーック! 衛生兵! 衛生兵!」

誰か怪我でもしたのか?

「気にされなくていいんですよ。」

出来立ての野菜炒めが盛られた皿を運びながら、可愛い系軽空母は軽やかに去った。



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