はこちん!   作:輪音

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戦艦
それは海戦の花形
戦艦
それは憧れの存在
駆逐艦が夢見るは大型艦
駆逐艦が憧れるは大戦艦
きっとみんなを守るから
きっと強い剣になるから
駆逐艦は努力重ね続ける
彼女は夢を叶えられるか

Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか






ⅩⅦ:戦艦になりたい駆逐艦

 

 

 

あたしはきっと戦艦になる

きっとそのうち戦艦になる

今の所駆逐艦の力しかない

しかし

しかし

きっとあたしは戦艦になる

その日を夢見て力を溜める

訓練訓練訓練訓練また訓練

いつか

いつか

いつの日にか戦艦になるから

きっとみんなを守ってみせる

きっとみんなの力に変われる

その日のために

その日のために

今はいろんなことを試している

今はいろんな知識を蓄えている

あたしは清霜

趣味で大戦艦をしている駆逐艦

 

 

 

 

箱館五稜郭祭は盛況の内に終わった。

二日間ともそれはきれいな青空の下。

初日は城内の奉行所にてお菊人形状態。

二日目は何故かパレード参加になった。

 

大湊(おおみなと)の清霜が明石謹製FRP製戦艦級艤装をまとい、左右にローマと戦艦棲姫を従え、その後ろに大淀・足柄・霞が付き従い道を練り歩く『戦艦清霜とお助け隊』は大いに受けた。

『清霜応援隊』と幟(のぼり)を掲げた、どうみても艦娘な少女たちと青年とおっさんによる混成隊が、道端で賑々しく旗を振っていた。

 

うちの鳳翔・龍驤及び小樽の隼鷹と釧路の千代田による『ミニミニ航空ショー』も大ウケしたし、小樽の天龍とうちの龍田のダンダラ仕様な演武も見応えがあった。

 

釧路の初霜率いる、うちの叢雲・曙・島風並びに稚内の漣(さざなみ)・満潮による混成駆逐隊も評判がよかった。

 

全国から来た青葉たちが、それらの様子をあちこちで激写していた。

 

二日間の彼女たちの働きを労うため、翌朝貸切りレトロバスに乗って函館空港とトラピスチヌ修道院へ向かう。

湯の川のラーメン屋で炙り豚骨の味噌ラーメンを食し、コーヒールームきくちでシャリシャリ感のあるモカ味のソフトクリームを食べた。

その後、全員を百貨店の丸井今井で開催されている『魅惑の九州展』に誘う。

 

念のため、鎮守府は自動防衛機能を入れておいてある。

妖精たちがすこぶる張り切っていたのが印象的だった。

侵入しようとする不審者や不埒者は瞬殺されるだろう。

 

ひらひらとリラの花舞う、春の午後。

 

催事場内の小さな食堂で長崎皿うどんを食べた。パリパリの麺にソースや酢や辛子を付け、野菜たっぷりのそれをわしわし食べる。

すぐ近くの屋上で、福岡産八女茶を使った抹茶ほうじ茶合体ソフトクリームを平らげてゆく面々。

天気は晴天で、少し冷たい風が吹いている。

屋上は独占状態だ。

はしゃぐ艦娘たち。

走り回る駆逐艦群。

これが平和なんだ。

不意に涙がこぼれそうになり、慌てて空を見上げた。

この笑顔をずっと守りたいものだ。

 

さて、帰ったら狙撃砲の試射が待っているぞ。

 

天草・鹿児島・長崎県大村市のひじき、沖永良部島のザーサイ、などなどを購入した。

行ってみたいな、九州各地。

そして、沖永良部島産の珈琲を飲むのだ。

 

 

 

横須賀鎮守府から大口径狙撃砲の評価試験を依頼されて以来、大湊の清霜がうちへ入り浸るようになっていた。

 

「ねえ、司令官。この砲を射てるようになったら、あたしは戦艦になれるかな?」

 

きらきらした、無垢な瞳で私を見つめる清霜。

大淀や足柄や霞がめっちゃこっちを見ている。

 

「そうだな、清霜ちゃんの野望に一歩近づけることは確かだろうね。」

「えへへ。でも司令官、あたしをちゃん付けで呼ばないで欲しいな。」

 

またもや視線を感じる。

そちらを見ると、大淀が『流れのままに! 否定は無しの方向性でよろしく!』と書いたホワイトボードを持っていた。

君はADか。

 

「清霜さん。」

「他人行儀だよ、それじゃ。清霜って呼んで欲しいな。」

「困りましたね。誰も呼び捨てにしていないのですが。」

「私は呼び捨てにされても困らないわ。」

「ローマさん? 小樽へ帰ったんじゃなかったんですか?」

「観戦武官で残ったのよ。」

「確かに艦船武官ですね。」

「戦艦級の兵器だから、私がいてもいいでしょう。」

「うちには戦艦棲姫さんがいるのですが……。」

「彼女を使うことは出来て、私は出来ないの?」

「えーと……その……。」

「あたしをそろそろ戦艦にしてくれてもいいのよ。」

「あの、お二方……。困りましたね。」

 

横須賀、大湊、呉の三名の明石がひそひそ話をしている。

工作艦が必要なのはわかるが、なんでこんなにいるんだ?

 

「あれ見ましたか、横須賀さん。なかなかやりますね。」

「そうですね、大湊さん。この目で見ると納得します。」

「流石、『艦娘たらし』。他所の鎮守府の子もお構い無しですか。」

「明石さんたち、事実無根のことを言わないでください。私は誰も誘惑していませんよ。」

「呉鎮守府で艦娘たちを虜にして、転属希望者を続出させたのに?」

「なんです、それ? 初耳です。」

「えっ?」

「えっ?」

「あの、近々着任しますよ。」

「なにも聞いていませんね。」

「えっ?」

「えっ?」

 

 

「噴進誘導弾なミサイルは駄目ね。」

「初速が上がる前に撃ち落とされるわ。」

「或いは無反動砲化してみれば実用化が出来るかも。陸上自衛隊で採用されている対戦車砲のカールグスタフを参考にしてみたらどうですか? 函館駐屯地で見せてもらうという手もありますよ。」

「デイビス式、クルップ式、クロムスキット式とそれぞれ試してみますか。」

「重巡洋艦級砲撃の出来る狙撃砲の方が現実的ではありませんか?」

「こんなこともあろうかと、それは既に用意してあります。」

「では早速、清霜ちゃんにガンガン射ってもらいましょう。」

 

 

 

「腕によりをかけて、朝ごはんを作るから! ひじきおにぎりは霞が担当ね!」

「何時までうちにいるつもりですか、清霜ちゃん。」

「あたしが戦艦になるまでよ!」

「もしもし、明石さん、そろそろ清霜ちゃんを迎えに来てもらえますか?」

「ねえ、司令官。なにしてんの? なに? なに? なになになに?」

「明日は明石さんが来てくれるそうです。そろそろお帰りなさい、清霜ちゃん。」

「えーっ!」

 

 

翌日。

大湊の明石と夕張は、『清霜戦艦化計画』と記された分厚いファイルを片手に私の目の前で熱弁した。

『艦娘火力強化計画』の一環として、清霜がその被験体に選ばれたらしい。

おそらく、うちの大淀が手を回したのだろう。

過保護だからなあ、彼女。

島風の独立浮遊型砲台を参考に、ファンネルみたいな感じでやれば火力は上がるとのことだ。

脳波制御用の猫耳カチューシャが用意されていた。

後は装甲か。

バルジ増設。

 

 

「拡散波動砲はどうですかね?」

「三段空母化して、艦載機で火力を上げてみるのもアリですね。」

「なにを言っているんですか。」

「デスラー砲もいいですよね。」

 

ちょっと君たち、自重しなさい。

 

「イナーシャル・キャンセラーとバスター・コレダーはどうでしょう?」

「縮退炉を基本装備にしたいわね。」

 

「ユウバリ・システムを使って、搭載火力の増強を図りましょう。」

「カチューシャやベーゼンドルファーを載せてみたらどうかしら?」

「噴進弾発射装置四〇門なんてどう?」

「無反動型大口径砲三門増設したら?」

 

 

清霜が戦艦になれる日はまだ遠いようだ。

 

 

戦艦になりたい

たった一言

心から叫びたいよ

きっといつかは

戦艦になり

輝けると

信じているよ

 

 

 






【オマケ】


どうしてあげたら
艦娘たちは幸せに生きられるのだろう
どうしてあげたら
艦娘たちは笑顔を絶やさないのだろう
どうしてあげたら
艦娘たちは安定して暮らせるのだろう


どうしてあげたら
提督は幸せでいられるのかしら
どうしてあげたら
提督は笑顔を絶やさないかしら
どうしてあげたら
提督をずっと独占出来るかしら



とうとう国外の鎮守府に着任するよう、辞令を受けた。
解体処分待ちだったことを考えたら、温情と言えよう。
酒に溺れる軽空母にやたら攻撃的な口調の重巡洋艦に司令官を罵倒し過ぎた駆逐艦。
新しい同僚たちは不安材料ばかりだ。
転属先は、駆逐艦六名に軽巡洋艦二名のこじんまりとした鎮守府。
何名もの量産型艦娘が戦没し、何人もの提督が行方不明になったり戦死したりした曰く付きの鎮守府。
まあ、戦いの中で没するのも悪くない。

かなり温かい地域の、鎮守府の執務室。
私たちは四名、横一列に整列する。
左右には軽巡洋艦一名と駆逐艦三名ずつ並んでいた。
皆が挨拶してゆく。
最後が私になった。

「卯月だぴょん。司令官、とっても素敵な人で嬉しいぴょん。」

……しまった。
またやってしまった。
無意識という奴はほんと、手に負えない。

「な、なんちゃっ……。」
「ありがとう!」

司令官は突然私を抱き締めた。
想定外のことに私は混乱する。
周囲の艦娘が苦笑いしていた。

「君のような可愛い子に素敵だって言われて、とても嬉しい。これからも頑張るからよろしく頼むよ。」
「わ、わかったぴょん。対空は任せて欲しいぴょん。爆撃では沈まないぴょん。」

……やってしまった。
私はこれから無事にやっていけるのだろうか?
司令官の熱視線があつい。




とある鎮守府の会議室。
提督と多数の艦娘たち。
大型のホワイトボードには『よくある鎮守府という誤解に関する対策会議』と書かれている。
提督が最初に口を開いた。

「よくある鎮守府というとあれか。暴食の赤城に五航戦と仲が険悪でツンデレの加賀、夜戦を叫びまくる川内にクレイジーサイコレズな大井やビッグマウスの天龍ってとこか。」
「ちょっと待ってください、提督。私のみならず、正規空母の赤城は確かに入渠時間が長いものの食べる量は普通です。丼何杯も食べたりしません。」
「そうです、提督。私が提督のことを愛しているという誤った風潮はどうにかならないかしら?」
「そうよ、提督さん。こんなに素敵な加賀さんが提督さんを慕う訳ないでしょう。」
「べったりくっつくのを止めなさい、五航戦の妹の方。」
「そんな冷たい加賀さんも素敵。そうよねえ、翔鶴姉。」
「ええ、勿論よ、瑞鶴。」
「五航戦の姉の方も早く離れなさい。」
「あたしは夜戦が得意だけど、毎晩叫ぶようなことはしないなあ。それより妹がエロいとかウザいとか言われる方が厭かな。」
「わ、私はエロくありませんっ!」
「えー、だってこないだも神通ちゃん、提督と一緒に……。」
「それ以上言わないでください!」
「ちょっと神通さん。後でお話しましょう。」
「加賀さんの提督さんへの愛が今ここに!」
「殺りました。」
「殺したらダメでしょう。提督は共通財産なんですから。ところで、北上さんを大切に思う気持ちがどうして同性愛に結びつくのかしら?」
「北上至上主義が曲解されているからじゃないか? で、俺のビッグマウスとはなんだ?」
「天龍ちゃんが口ばっかりの小心者だと思われているってことでしょ。」
「ふーん、まあどうでもいいや、そんなことは。それより出撃したい。」
「ところでさ、あたしは別に四六時中呑んでいる訳でもないのに、なんでアル中扱いが多いの?」
「実際、艦娘でもアル中率一位が隼鷹だからでしょ。」
「えっ、そうなの、飛鷹?」
「私も、いつも玉子焼き玉子焼きってやっているんじゃないんだけど。」
「でも瑞鳳さんはよく司令官の私室に玉子焼きを持って行きますよね。」
「「「「えっ?」」」」
「不知火になにか落ち度でも?」
「そういや、不知火はよく司令官の私室で寝ているよな。」
「「「「えっ?」」」」
「司令官の隣ですとよく眠れますので。ちなみに私以外の駆逐艦の面々は毎晩異なります。そうそう、瑞鳳さんと龍驤さんが何故か夕雲型の制服を着て司令官の部屋に入るのですが、あれは司令官の趣味なのでしょうか?」


そして聞こえるは男性の悲鳴。
室内は騒然となり、やがて騒乱は収まる。


「ちょっと待ちや! うちのちっパイネタや似非関西弁ネタはなんやねん! ……あれ? 誰もおらへん。」
「私が童貞狩りをしているなんて、そんなことはありません! ……誰もいませんね、龍驤さん。」
「提督、このビッグセブンが駆逐艦に溺れるながもんとはどういうことだ? 誰もいないな。会議は既に終わったのか?」
「ここで会議しとるゆうとったけどなあ。しゃあない、みんなでホルモンでも食べに行こか。おいしい店知っとんねん。」
「高雄も一緒でいいかしら?」
「陸奥も一緒で構わないか?」
「ええで。みんなで食べた方が旨いからな。ほな行こか、愛宕に長門。」





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