【駆逐艦たちの戦果、幾つか】
◎いわゆる正妻戦争に於いて単騎抜け駆けを決行し、提督と駆け落ち
◎数時間でちょっとした学校くらいの大きさの鎮守府を物理的に破壊
◎満身創痍になりつつも姫級深海棲艦に肉薄し、零距離砲撃で相討ち
◎提督を分解
◎転属を繰り返してはその都度無邪気系天然エロスで提督を翻弄し、鎮守府内の不和を発生させて互いの不信感を煽り、鎮守府を壊滅または物理的に消滅させた
◎提督を初見殺し
◎戦艦正規空母が居並ぶ中、最強武勲艦で提督の秘書艦で正妻で不動の第一艦隊旗艦
手堅い。
交戦しながら、横須賀鎮守府の中堅提督は内心唸った。
巴紋が九つある板倉九曜に蔦が絡む丸。
熊の可愛い手形がその隣に並んでいる。
北の港町に拠点を置く鎮守府の紋章だ。
それが全艦艇に施されたのが彼の艦隊。
その中に一際大きな戦闘艦艇があった。
函館鎮守府提督座乗の青色の艦隊旗艦。
超長距離用光学兵器を備えた大型戦艦。
現在、完全なる敗戦は一回のみの戦績。
「おのれ、ちょこまかと!」
高速型巡洋艦群に翻弄されて分断されたところへ駆逐艦群の雷撃を受け、何隻もの味方艦船が撃沈された。
横須賀の中年提督は陣形を立て直して突撃させようと試みるが、神出鬼没の次元潜航挺がちまちまと艦艇の推進部を破壊し、動けなくなった艦船を敵艦隊があっさり撃破している。
虎の子の空間戦闘機は、空母ごと超長距離用光学兵器の餌食になっていた。
時間をかければかける程敗色濃厚になる。
青ざめた顔で、それでも中堅提督はなめていた男の艦隊へ砲撃を命じた。
艦娘の技術は根本的根幹が解き明かされていると言い難い状況だが、それでも応用面に於いて社会へ多大に貢献している。
政府は表層的に不満を持つ若年層対策として、五感変換型擬似現実的電脳遊戯の開発を積極的に推し進めていた。
いわゆる、フルダイブ型ゲームである。
最初に医療現場でのリハビリテーションへ手を付けて安全面の印象操作を行った政府は、娯楽としてのゲームを派手に推奨した。
貴方も勇者になれますよ。
貴女も姫様になれますよ。
異世界で暴れてみませんか?
ちやほやされてみませんか?
ゲーム世界から現実世界へ戻ろうとしない『未帰還症』対策として一定時間以上は連続的に遊べない仕様が組み込まれることは必須科目となり、安全対策が何重にも施されることを開発元は義務付けられる。
現在、こうしたゲームは大歓迎され、社会に浸透しつつあった。
警鐘を鳴らす人もそれなりにいるが、多勢に無勢の状況だった。
鎮守府の提督たちが宇宙艦隊の戦いを繰り広げているのは、大本営からの公式命令である。
実用性の試験中という名目だ。
ここは横須賀大本営。
横須賀鎮守府に隣接する場所。
函館の提督の勢力を落とす狙いもある。
お前は悪目立ちし過ぎたのだよ、とばかりに何気ない風を装って追い落としにかかった。
逃がしはせん、逃がしはせんよ。
選良たる優良な提督一種たちの猛攻に、単なるおっさんが勝てる訳も無い。
その筈だ。
先日の大型作戦が成功したのも四大鎮守府の攻勢で敵方が大半の戦力を失ったからであり、また、四大鎮守府を含む他の鎮守府泊地警備府の艦娘たちが自主的に参加したからである。
函館の提督の影響力は削ぐべきじゃ。
取り返しのつかない事態になる前に。
大和型艦娘四名が戦列を並べて砲撃する様は大本営直属の青葉によって撮影されており、大本営側はちゃっかりそれを宣伝材料に使っていた。
広大な宇宙空間を舞台に戦闘艦艇が火花を散らす。
これぞ漢の浪漫ナリヨ!
そう信じ、雪辱戦とばかりに四大鎮守府でも血の気の多い提督は嬉々として函館の提督と交戦した。
艦艇数は同数の一万隻。
なに、半数でも負けはせんよ。
エリートたちは、彼を侮った。
蓋を開けてみればどうだ、と横須賀の提督は歯噛みする。
あんな素人などにっ!
函館の提督の戦法は特に目立つところがない。
要所々々に空間機雷をばら蒔いたり、側面から別働隊が砲撃雷撃したり、逃げたと見せかけて側面から不意打ちしたりするくらいだ。
厄介なのは、一点特化型攻撃だ。
火線を集中させて、旗艦を狙い撃ちする。
空間戦闘機や高機動の巡洋艦群による撹乱で旗艦周辺の艦列を乱した後、苛烈な砲撃雷撃を加える。
単純だが、大抵の提督が引っ掛かった。
旗艦を討ち取られた方が負けなのだから、函館の提督の勝率は意外と高い。
引っ掛からない提督へは、堅実な防御陣を敷いて持久戦を強いる。
焦れた方が負けだ。
序盤から激烈な攻撃を加えた呉第六鎮守府の提督率いる漆黒の艦隊以外で、函館の提督を完全に打ち負かせた提督は今のところいない。
四大鎮守府でも上位に属する提督がひょんなことで負けでもしたら、最悪艦娘たちが転属してしまう。
それは絶対に避けたい事態だ。
大本営の意図にそぐわぬ故に。
横須賀の中堅提督は打開出来ない事態にイライラする。
このままでは時間切れである。
大画面でゲームを眺めている部下たちはどう考えているだろうか?
上官は?
同期は?
後輩は?
出世に響く筈はないが、噂にはなる。
負けられない。
負けたくない。
艦橋で必死に指示を飛ばす。
レーダーの観測員が叫んだ。
「提督! 次元潜航挺が!」
「なにっ!?」
僅か一隻の小型艦艇が旗艦近傍の空域に現れ、レーザー水爆をこれでもかとばかりに発射した。
私はうなだれる失意の提督へ声をかけようと近づいたが、手のひらを突き出され、無言で拒絶される。
白けた雰囲気の艦娘たちを引き連れ、彼は自身の執務室へ向かうようだ。
悪いことをした。
「勝ち逃げはさせんよ。」
振り返ると、横須賀でも上位に属する提督が無表情で立っている。
背後にどす黒いオーラが渦巻いて見える。
まるでシスの騎士だ。
あのう、私はそろそろ函館へ帰りたいんですがね。
青葉とマスターオータムクラウドは興奮していた。
この新しいコンテンツ。
函館の提督を宣伝するのになんとも好都合な品だ。
巧みに勝ちを譲られているとも気づかない提督は、大画面で勝利を確信して吠えている。
耳障りな程に。
わかりやすい人物だわ。
彼の配下の艦娘たちはじっと戦況を見つめ、小声で批評している。
携帯端末をいじっている艦娘がなにか打ち込み、画面をしばし見た後再度打ち込みしていた。
やがて、横須賀のアラフィフ提督が函館のアラフォー提督へ果敢な攻撃を仕掛ける。
旗艦周辺は楯艦を厚く配備しているので、火線を集中させても通りはしないだろう。
時間切れの判定勝ちに持ち込むつもりらしい。
艦娘たちがひそひそ話をしている。
眉をひそめる艦娘さえ何名かいた。
艦隊戦は全国各地の鎮守府泊地警備府へ同時中継されており、なんちゃって鎮守府へは後日データを送る予定だ。
いい歳をした提督がうんざりするような発言をする。
元々は商事会社のやり手だったらしいが、業界自体が昭和の悪癖を継承しているために罵詈雑言も通常使用らしい。
青葉たちがその様子をにこにこと見つつ、素早く手帖にペンを走らせる。
横須賀の提督が完全な勝利を確信した直後、函館艦隊が猛然と突撃を開始して旗艦方面へ集中砲火を浴びせた。
吹き飛ぶ楯艦数隻。
旗艦艦橋が揺れる。
数発喰らったくらいで沈む筈もない。
だが、被害を気にすることなく函館艦隊は第一戦闘速度で突っ込んでくる。
横須賀艦隊の艦艇がどんどん撃沈された。
初めて見せる猛将の姿だ。
艦娘たちの歓声が上がる。
「ええい、小癪な! 撃て! 撃て!」
そして、乱戦が始まった。
老齢に差し掛かった提督は、己が負けることなど考えていない。
最後の足掻きに過ぎない。
そうだ、あの旗艦を沈めればいいだけのことだ。
「撃て! 撃て! 撃ちまくれ!」
私は英雄になる男なのだぞ!
負ける筈など有りはしない!
そして。
函館艦隊旗艦の超長距離用光学兵器が、敵艦隊旗艦へ向けて火を吹いた。
電子時代の龍の息吹の如くに。