はこちん!   作:輪音

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今回は六一〇〇文字少々あります。
ほんのりエッチな内容になっております。
ショタ提督はこういう形だったら成立するかなあ、と思って書いてみました。
今回の主題は『みんな、おかしい』です。
ちなみに、別にBL好きではありません。
念のため。



CLⅩⅩⅤ:ならちんにショタ提督着任す

 

 

奈良県奈良市中心部に、かつて一世を風靡した奈良ドリームランドという遊園地があった。

今は廃墟である。

解体して再建築するのに多大な費用がかかるため、長い間誰も入手し得なかった。

そんな廃墟遊園地を大本営が購入する。

勿論、値切り倒したそうな。

内陸県に後方支援型鎮守府を建造し、福利厚生の充実に努めるという中期計画だ。

なんか胡散くさい。

函館鎮守府に一極集中する流れを変えたいそうだが、はてさてどうなることやら。

まあ、大仏や阿修羅ちゃんや鹿を見物して柳生の里に行ったり蘇我入鹿の墓に行ったり、葛城古道を歩いて一言主神社に参拝するのも乙なものだろう。

奈良の菓子屋は旨いところが多い。

古民家カフェでランチも悪くない。

ここはそういう観光拠点になるかも。

京都も大阪も近い。

三重和歌山滋賀もそれなりに行ける。

買い物をするなら大阪へ行くらしい。

奈良県警の若い警官がそう言ってた。

 

鎮守府ですらなく、警備府でもない。

敢えて言うと、保養地のみの施設か。

まんま遊園地だよな。

追加して宿泊棟と大浴場を設置かな?

次期首都と噂される京都の動きに比べ、奈良の動きは対照的なまでにゆるやかだ。

多くの奈良県の人がおっとりした気質なのも、おそらくは関係しているのだろう。

ここは建築制限があって、高層ビルを建てられない。

奈良市はいにしえの気配を多く残した、そんな街だ。

今度、平城京に行ってみよう。

サモトラケのニケの像が市内高校に移転したのは残念だ。

 

 

ともあれ、俺は志願して艦娘になった。

男でもなれる、紙装甲が特徴の艦娘乙種だ。

俺の名は天龍。

ふふ、怖いか?

そして、妖精の見える小学六年生がお飾りの提督として奈良鎮守府に着任する。

名前は仁藤瞬。

そいつが俺の提督だ。

……おいおい。

俺はガキの子守りかっての。

女顔のぽやーっとした奴だ。

ガキの初期艦兼秘書艦かよ。

まあ、乙種とはいえ軽巡洋艦になれたのは運がいいらしいからよしとすっかな。

俺と同じ乙種で同期の天龍は刀マニアらしく、本物の刀を持て持てと強く勧めてくる。

他のホンモンの天龍たちも刀を買ったりするらしい。

 

現在は全国各地の妖精たちが集結し、廃墟遊園地を鎮守府にすべく突貫工事の真っ最中。

防音用の遮蔽結界が働いているらしく、騒音は外へ漏れない。

驚異の技術力だよな。

俺たちはそれを監督指導するって寸法だ。

仮設住居に住み、朝はガキを起こして飯を作って食わせ、学校へ連れてゆく。

仲よく手をつないでいこうとガキが言う。

まあいいか、と思ったら恋人繋ぎしやがった。

こいつ、出来る!

俺は男だけどな!

 

「お姉ちゃんが出来てうれしい!」

「バーカ、俺は男だっての。」

「今は艦娘だよね?」

「女の姿はしてっけど、魂は男だ。だから俺は男だ。」

「そうなの?」

「そうだよ。」

「じゃあ、おにねえちゃんだね。」

「俺が鬼みたいに聞こえるじゃないか。」

「ではさらに短くして、お姉ちゃんで。」

「ん? ん? あれ?」

「早く行こう、お姉ちゃん。」

「お、おう。」

 

 

入っちゃあかんよと立て札をしても、それを意に介さない阿呆はどこにでもいる。

頭がおかしいと指摘するのは簡単かもしれないが、そういう輩は大抵それを認めないか開き直るかだ。

まあ、俺を含めてみんなおかしいんだ。

誰しも狂気という凶器を内包している。

そういうのを抱き締めて、生きている。

 

侵入しようとするバカは意外にも多い。

即時に無力化されるのにわかってない。

捕縛した連中を見張るのも仕事だった。

気絶状態から復活すると、連中はなんだか元気になっている。

目が爛々としていた。こいつらヤバい。

 

「拙者、本物の天龍殿を見るのは初めてで御座る! 感激で御座る! 握手してくだされ! さすればこの手は一生洗わぬ!」

「生きててよかったのう。よかったのう。さあ、思いっきりなじってくだされ! 怒鳴ってくだされ! 罵倒してくだされ!」

「踏んでください! お願いします! お願いします! お願いします! お願いします! 出来たら、蔑んだ目付きでっ!」

 

変態ばっかりじゃねえか。

露骨に深いため息を吐く。

何故だか、大喜びされた。

 

「お姉ちゃん、ただいま!」

 

下校したガキが抱きついてくる。

さりげなく、俺のケツを揉むんじゃねえ。

デコピンしたら何故かにこにこしている。

お前も同類かっ!

お巡りさん、こいつらです!

 

「おふう! ショタ提督は実在したので御座るかっ! なんと眩しい! 目がっ! 目がっ!」

「まさかまさかのショタ提督が実戦配備されていたとは、この海のリハクの目を以てしてもわからなかったですぞ!」

「これを眼福と呼ばずして、一体なにを眼福と呼べばいいのだっ!」

 

もうやだこいつら、とっとと引き取りに来てくれ、奈良県警の人。

 

 

「えへへへへ。」

「そんなに揉んで楽しいか?」

「うんっ! 鼻血が出る程!」

「即答かよ、おい。」

 

一緒に風呂に入りたいって言うので、男同士のスキンシップかと思っていたら紛れもなくエロ目的だった。

斜め上の行動ばかり取りやがるよなあ。

よくも悪くも欲望に忠実だな、こいつ。

はあはあ言ってやがる。

 

「明日からお前と一緒に入らねえ。」

「ど、ど、どうして?」

「男の乳で喜ぶ奴と入りたくない。」

「じゃ、じゃあ、だ、抱きつくだけなら大丈夫じゃない?」

「あのなあ、そんなところをこんな具合にしておいてなに言ってんだ?」

「ぼ、僕、初めてはお姉ちゃんにささげるんだ!」

「いらん。」

「ひどい!」

「お前な、俺は男だぞ。」

「うん、わかってるよ。」

「全然わかっていない。」

「大丈夫だよ、僕、もう子供を作れる体なんだ。お赤飯も炊いてもらったんだよ。」

「ガキがガキ作ってどうすんだ。艦娘は妊娠しないぞ。擬似子宮しかないからな。」

「じゃあ、明石さんか夕張さんに頼んで、人工子宮をお姉ちゃんに埋め込んでもらおうよ!」

「そういう発想に至る、お前がこわい。」

「ねえ、最初の子は女の子がいいかな?」

「バカ言ってんじゃねえ。話を聞けよ。」

「夫としてやさしく尽くす所存ナリヨ。」

「いらん。」

「ひどい!」

 

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん。」

「なんだ?」

「おやすみのチューしよう!」

「しない。」

「なんでっ!?」

「する理由がない。それと鼻血を拭け。」

「夫が妻とチューするのは当たり前なんだよ。」

「お前といつ結婚したんだ。バカなこと言ってないで、さっさと寝るぞ。」

「じゃあ、婚前交渉?」

「どこでそんな言葉を覚えるんだ?」

「隣の席の桜ちゃんが教えてくれるんだ。」

「女子かよ!」

「五人と付き合ってんだって。」

「掛け持ちかよ!」

「僕はお姉ちゃん一筋だって断ったんだ。」

「告白されたのかよ!」

「お姉ちゃん。」

「なんだ?」

「チュ、チューチューしていい?」

「さっさと寝ろ、このませガキ。」

「やさしくしてね。」

「誰からそんな言い方を習った? その桜ってガキか?」

「ナンパしてきた女の人。」

「ナンパされたのかよっ!」

「僕、昔からよく女の子や女の人からナンパされるんだ。」

「自慢かよ!」

「でも、僕はお姉ちゃんに出会って知ったんだ。真実の愛を。」

「それも、そのナンパしてきた女子から教えてもらったのか?」

「ううん、隣のクラスの如月ちゃんさ。」

「もしかして、お前、モテモテなのか?」

「うん。でも、僕の眼に映っているのはお姉ちゃんだけだよ。」

「はいはい、わかったわかった。寝るぞ。すぐ寝ろ。」

「冷たいなあ。でも負けない! それが愛だからっ!」

 

 

妖精の棟梁や幹部たちと意見交換する。

大本営の示した予想図と、現場に合わせての予想図との食い違いを擦り合わせてゆく。

 

「殆ど遊園地だな。」

「せっかくのりっぱなゆうえんちです。これをいかさないてはないでしょう。」

「ちばけんのしせつにはまけません!」

「させぼにもまけてはならぬのじゃ!」

「かんむすのらくえんをいまここに!」

「じゃあ、そういう方向で。」

「かしこまりもうした!」

 

遊園地の周囲は城塞のような石造りの高い外壁で覆われ、なんだか欧州の城塞都市みたいになっていた。

その外壁の内側を蒸気機関車が一周出来る作りだ。

モノレールさえも走れるようにするとか。

馬車も走らせると、妖精たちは鼻息荒く息巻いている。

真ん中の城が本棟で、ロマンティックな形だ。

ここはちょっとした城下町みたいになりつつある。

職員は全員民族衣装っぽい制服になる予定である。

中世ヨーロッパ風にして欲しいとの、熱く激しい要望に応じているそうな。

日本人の大好きな魔法と剣の華やかなる欧州異世界風味、ってとこらしい。

だが、煉瓦のように固いパンや塩っ気のないスープや萎びた野菜は勘弁な。

 

 

近隣住民への事前説明会はとっくに終了していたが、それでこちらへの問い合わせが無くなる訳でもない。

現場へわざわざやって来て、独自の持論をかますおめでたい人間は跡を絶たない。

しかもそれが地元民とは限らないのが厄介だ。

別の都道府県から遠路はるばる金を使ってやって来て、その上でいちゃもんを付ける奴らの頭の中身がよくわからない。

 

「何故私たち一般人は、この施設の利用が出来ないんですか?」

「ここは艦娘専用の施設ですから、それは出来ない仕様です。」

「自衛隊だって解放日があるんです。それくらいしたってかまわないでしょう。」

「そういったご意見は、大本営に行かれて直接おっしゃってください。」

「大本営ではすげなく断られたから、ここまで足を運んできたのです。」

 

このおっさん、めんどくさいなあ。

なに考えているんだろう。

大阪か千葉にでも行けよ。

答えられないことばっかり聞いてくる。

わざと、そういうことをしているのか?

だとしたら、相当性質に難がある。

粘着質って言うんだっけ?

 

「奈良県庁に専門の課がありますので、あちらで……。」

「あそこでは、話にさえもならなかったんです。」

 

うわあ、たらい回しかよ。

とても細かく、しつこい。

なにをしたいのか、さっぱりわからない。

しかも、自分自身の考えにやたらと自信を抱いている。

その根拠が全然わからん。

兎に角食い下がるので、結局いつもの奈良県警の人たちに来てもらった。

お世話になっております。

おっさんが突如暴れ始めて大変だった。

「うきゃーっ!」って叫んだ時は、一体何事かと寸時誰も対応出来なかった。

いきなり殴られた、リーダーで太っちょの警官がきょとんとしていた。

そりゃ、びっくりするよな。

威力妨害とか公務執行妨害とかなんとかで、おっさんは四人がかりで確保されていた。

俺だったら即時に鎮圧出来たが、開業前は手出し絶対禁止令が出されている。

大本営と奈良県双方から。

法律的に問題があるとか。

なので、奈良県警はこうした事態にも踏ん張らないといけない。

担当の警官たちがとても友好的なので、それは実際ありがたい。

彼らは奈良鎮守府専属で、全員が激戦的競争率に勝ったらしい。

人一人取り押さえるのに意外と人数がいるようだが、彼らの表情には達成感が見られる。

礼を言ったら、全員顔が赤かった。

体温がかなり上がっているのだな。

担当の若い警官と打ち合わせを含め和やかに会話していたら、ガキが帰ってきた。

 

「お姉ちゃん、僕がいない間に浮気したらダメだよ!」

 

真っ赤になって怒っている。

なに言ってんだ、こいつは。

目に青痣を作った警官は苦笑していたが、それさえわかっていない。

まあ、ガキだからな。

変な奴は意外と多い。

だが、排除ばかりしていては選民思想と大して変わらないだろうな。

毒電波受信系危険人物がここへ来ないことを祈るばかりだ。

 

「ははは、では、お邪魔虫は即刻退散しますね。」

「責任者が失礼なことを言いまして、大変申し訳ありません。」

「いえいえ、お気になさらず。」

 

丸っこくて眼鏡をかけた警官はめっさにこにこしながら、軽騎兵の如く軽やかに立ち去った。

「あのなあ……。」

「僕は学校や他の場所で誘惑の波状攻撃に耐えているのに、肝心のお姉ちゃんが他の男の人と話をしているっておかしいよ!」

「お前な、その言い方は病んでる感じがするぞ。それにだな、あの人とは単純に警備関係の打ち合わせをしていたに過ぎん。」

「本当?」

「ホントだ。今日、妙なのが来て往生したんだ。お前、後であの人に謝っとけよ。」

「わかった。で、お姉ちゃん、大丈夫だった?」

「どさくさ紛れに乳に触るんじゃねえ。」

「うれしくてつい、ね。」

「お前、束縛系かよ。そんなんじゃ、嫌われるぞ。」

「えっ? えっ? 今日はエッチなことさせてくれないの?」

「ナチュラルにエロい内容を会話にぶっこむんじゃねえ。『今日は』ってなんだ、『今日は』って。」

「よかった。」

「よくない。」

「お姉ちゃんにエロいことをしていいのは僕だけなんだ!」

「あのなあ、俺は男。体は艦娘だけど、男なの。お前、ホモか?」

「お姉ちゃんの魅力にメロメロになっている、あわれな子羊さ!」

「つまり、外見が女なら中身は関係無いのか。」

「なに言ってんの、お姉ちゃん。その一見やさぐれているけど、実はとってもやさしい性格込みで好きに決まっているじゃない。好き過ぎて時々鼻血が出るけど。愛のトリコロールだから仕方ないよね。なめないでよね。あっ、でもお姉ちゃんの舌で丁寧になめてくれるのは全然かまわないよ。鼻血、なめりゅ?」

「途中までいい感じだったのに、最後で台無しだな。」

「しまった! 僕、芸人体質なんだ!」

「うん、知ってた。しかもボケ担当。」

「お姉ちゃんの突っ込みは素敵だよ!」

「はあ。」

「そんな冷たいとこにもキュンとするんだ!」

「じゃあ、後でな。」

「どこへ行くの!?」

「見回りだ。いつもやってるだろ。」

「あっ、そっか。つい……へへへ。」

 

ジャラッ、ガシャン。

 

「ポケットから手錠が落ちたな。」

「う、うん。」

「なにに使うつもりだったんだ?」

「え、ええと……へへへ。」

「誤魔化すな。俺にそれを使うつもりだったのか? 犯罪だぞ。」

「ち、ち、違うよ! 桜ちゃんにお願いして借りただけなんだ!」

「借りた?」

「その、束縛するより、してもらおうかなって……。」

「ヘンタイ。」

「えへへへ。」

「罰として、一週間混浴も添い寝もしないからな。」

「な、なんでっ!? お姉ちゃんは僕が嫌いなの?」

「この状況でそんなことを言える、お前の分厚い面の皮が羨ましい。」

「え?」

 

前途多難だ。

中身のイカれた奴らがひょこひょこやって来るし、そうした連中には通常の論理が通用しねえ。

どこかの配線が焼き切れているのか?

 

他の艦娘が着任したら、そいつらにこのエロガキを任せよう。

うん、それがいいな。

足早に見回りに移る。

走ってきて手を繋ぐガキ。

まあ、これくらいならいいか。

 

人手不足を痛感する。

調理担当、警備担当。

清掃担当、管理担当。

これから集めないと。

函館に打診しとくか。

飯を作るのが上手い艦娘でもいたら、そいつを送ってもらおう。

 

「結婚式は……ケッコンだったら……初夜は……夜戦を……いっそ…………。」

 

ガキが小声でなにか呟いている。

こいつの情操教育も必須だよな。

あ~あ。

龍田でもいてくれたら、と思う。

会ったことの無い艦娘の顔が思い浮かぶ。

不思議な感覚だが、艦娘とはそういうものらしい。

姉妹艦のいる艦娘はお互いの縁が強く、惹かれ合うのだとか。

 

「龍田さんのことでも考えてた?」

 

ガキが無表情に平坦な声で言った。

何故か少しゾクリとする。

 

「人手が要るんだよ、わかるだろ。」

「なんだあ、そっちかあ。」

 

心底ホッとした顔で、俺の上官は無邪気に笑った。

一見愛らしく見える顔と声で。

 

 






『女装と半ズボンのよく似合うショタ提督が、女体化して武装少女化したイケメン眼帯系男子に一目惚れしてちょっこしヤンデレっぽくなってしまった件について』(小説家になろう風)

少しあやういショタ提督ですが、兄貴系きれいなお姉ちゃん(中身は男)に一目惚れして舞い上がっているだけです。
たぶん。
次回は引率軽巡(中身は男)の選ぶ色気の無い下着に、小学六年生がダメ出しする話になる……かも?


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