思わずニヤリ、であります。
皆様、ご高覧いただきまして本当にありがとうございます。
今回は七〇〇〇文字程あります。
俺の名は天龍。
奈良鎮守府唯一の艦娘だ。
但し、非正規なんだなこれが。
甲種でなくて乙種なのである。
なんちゃって艦娘の俺だが、男だった頃の営業経験を活かして鎮守府を賑わせるつもりだ。
仕える上司は小学六年生の仁藤瞬。
顔は可愛いが中身はエロい親爺だ。
俺もいい歳だったんだが、それを言ってもあいつは意に介さない。
まごうことなき変態だ。
変態の鑑と言えるかもしれないな。
大物かもしれないが、ちっと油断すると胸だのケツだのを揉もうとする。
明らかなセクシャルハラスメントなので注意しているが、是正は難しい。
ずっとずっと厳しい態度の艦娘を送ってもらおうかと思う今日この頃だ。
奈良県奈良市北部にあった遊園地の奈良ドリームランドは先日まで廃墟だったが、現在妖精たちによる工事で保養型鎮守府に生まれ変わろうとしている。
艦娘専用滞在型遊園地って訳だ。
外壁は欧州の城塞都市の如く、石造りの高き城壁で覆う構造。
その内側を小型の外周機関車が一周する。
約一〇分の小さな小さな旅が出来る汽車。
機関車は二両あり、この外周機関車が復活した暁には是非とも乗りたいとの要望が地元勢のみならず全国から殺到している。
一般市民からマニアまで期待を寄せているのがよくわかる逸話だ。
今のところは受け入れるような感じで対応している。
北側に大門があり、入るとすぐにメリケン開拓時代風の凝った中央駅舎『アン・シャーリー駅』と近畿圏物産館『キンキンストア』と催し物会場の『マキシマムアリーナ』を改装したり建築したりしている。
園内真ん中に主棟たるシュロス(独語:城)を構え、宿泊棟や天然温泉『はらいその湯』などを周囲に配置する予定だ。
街並みは異世界的中世欧州風味が喜ばしいとのことで、そうした規格で統一された雰囲気をもたらすように妖精たちが創意工夫している。
魔法発電所を敷地内に有し、『魔石』と呼ばれる石を燃料として使うことで膨大な電力を園内に供給する。
そういう設定だ。
よく出来ている。
試作型イレーザー・エンジンを二基備えていて、循環魔力がどうとか太陽光を最大限活用出来るので一万年は稼動可能とか与汰話を妖精どもが熱弁して訳がわからん。
「妖精の声に耳を傾けきっちゃうと狂ってしまうよ。」と糸目の教官から習ったが、これがそうなのかもしれねえな。
シュロス近くにあるアトラクション施設の地下迷宮は『狂王の試練場』と呼ばれ、迷宮支配者の倭斗菜さんが無理無茶無謀な冒険者たちの到来を多数の魔物や罠と共に手ぐすね引いて待ち受けている設定だ。
彼女は現在仕込み中で、その内部下を率いてやって来る予定だ。
ま、ぶっちゃけて言うと、お化け屋敷の異世界風味ってとこか。
『カシナート亭』附属の窓口で発行される冒険者カードが、自動的に行動を記録してくれるという驚異的技術の塊だ。
一見そう見える。
種を明かすとだ。
迷宮各所にカメラが仕掛けてあって、冒険者の行動をスパコンのデータ部門へ送り、それが蓄積されてカードに上書きされるのだ。
よって、迷宮から出ないと冒険者カードに行動記録は反映されない。
迷宮前では誇り高きオークの騎士マスコと華麗なるエルフの姫騎士リーシャとの一騎討ちが定期的に行われ、名物となる予定である。
その両名は現在仲よく打ち合わせ中だ。
迷宮近くの一軒家に暮らす予定だとか。
現在は仮設住居で暮らしており、有能極まる警備係でもあった。
何時の間にこいつら来たんだろうと思いながら、挨拶を交わす。
双方共かなりの演技派で、愛想もいい。
きっと人気が出るだろう。
しかし、迫真の雰囲気だ。
どちらも異世界の住民みたいに見える。
余程上手いメイクを施しているんだな。
俺もエルフっぽい耳を付けてみたいぞ。
あと、チンピラ三人組の『加里屋』『織手屋』『升屋』があちこちに出没して、冒険者にいちゃもんをつけたりやられ役になったりするらしい。
いわゆる『お約束的悪役』または『安全な悪役』ってとこか。
全員かなり腕が立つそうだが、ここでは悪役に徹するそうだ。
やるねえ。
そういう奴らは好きだぜ。
ランクが黄金級とか言っていたけど、よく出来ているよなあ。
まさに小物の鑑だ。
悪役に誇りを持つ。
胸が熱くなるぜよ。
今度一緒に酒を呑もうじゃないか。
『カシナート亭』は冒険者たちのたまり場になる予定の酒場だ。
ここで冒険者登録して地下へ潜るように定められている。
時折イベントを起こす想定で、常駐者たちとの事前打ち合わせは綿密にしないといけない。
二四時間休みなしに営業するので、酒好きな艦娘は喜ぶだろう。
『白い子馬亭』は宿泊施設で、『馬小屋』『簡易寝台』『エコノミー』『スイート』『ロイヤルスイート』の五種類の等級から部屋を選べる。
『オルタンス商店』は、オルタンス夫人と呼ばれるチャキチャキのドワーフが経営する商店になる予定だ。
本来は武具専門店だが、迷宮探索に必要なモノは一通り揃っている。
荷物預り所でもある。
『カントウ医院』は緊急医療にも対応出来る施設で、呪法による治療並びに蘇生術に重きを置いているという設定だ。
迷宮内では怪我が起きないよう、浅い層は『幽霊』のマーフィーが、深い層は『地獄の道化師』のフラックが巡回警備を行う。
しかし、不測の事態が絶対に起こらないとは言えない。
ハイマスターを上忍とする、忍者隊の活躍に期待しておこう。
そういった怪我や急病などに即時対応するのが、この医院だ。
常時高位のハイプリーストが駐在し、治療体制は万全を期するようになっている。
彼らは近々やって来るのだが、どれだけ演技が上手いのか今から楽しみでもある。
どこから連れてくるのだろう?
オラ、ワクワクしてきたぞっ!
やっぱ、事務局は必然必須必要だ。
俺とあのガキでは管理しきれない。
函館鎮守府に電話して提督に相談し、大本営に要望書を提出する。
提督と電話でやり取りしていたら、何故かガキが滅茶苦茶怒った。
なんで怒られたんだろう?
子供の独占欲ってやつか?
園内西区域では、東芝製の跨座型モノレールの『スペースライナーⅢ』を走らせる予定だ。
鉄筋ローマンコンクリート造りの高架駅。
総延長八〇〇メートルで、八の字型に走る無限軌道。
現在、三代目車輌を東芝の物好きな技術陣が張り切って作っている。
何故か、日立の技術陣が悔しがったとか。
ちなみに、モノレールの線路の下はちょっとした人工湖で、海賊船『黒真珠号』並びに潜水艦『轟天』の乗り場がある。
園内を走るロープウェイのスカイウェイも期待されている乗り物のひとつだ。
両端の駅に係員が二、三名ずつ必要らしい。
岩山を模した構造物を貫くスカイウェイ。
この構造物では、ボブスレーと呼ばれるジェットコースターが走れるようになっている。
木製ジェットコースターの施設があった辺りは、大きな宿泊棟の『ホテル・カリフォルニア』が建設されつつある。
モノレールも外周機関車もロープウェイもジェットコースターも、某メリケン系遊園地の模倣品らしい。
商業目的外なので、うやむやの内にやらかす所存のようだ。
中心部を馬車鉄道が走る。
東区域には大型プールと密林遊覧船の施設がある。
ちなみに遊覧船の名は『カルーソー号』。
北区域は、メリーゴーラウンドやティーカップ(或いはコーヒーカップやマグカップ)の施設。
後は追々だ。
奈良鎮守府傍には、奈良テレビ放送の本社がある。
挨拶に行ったら、好意的反応だったので安心した。
間宮羊羮の効力は絶大だぜ!
こういうとことは、地元の奈良県庁や奈良県警共々仲よくしとかないとな。
奈良県の知名度向上にも出来る範囲で貢献しよう。
鎮守府出入り口近くにはコンビニエンスストアがある。
採算が取れるのか?
こちらとしてはありがたいけどよ。
陸上競技場や球場やテレビ局などが近隣にあるので、なんとかなるのだろう。
たぶん。
何故か、加賀や鹿島が働いていた。
俺の如き乙種でなく本物の艦娘だ。
艦娘関連商品をかなり置いていた。
期間限定らしいのだが、これは新しい試みなのだろうか?
函館鎮守府の提督のイメージビデオって売れるのかねえ?
メイキング付きの限定版は予約時点で完売したそうだが。
鎮守府近くには明治時代から続いている植村牧場があるため、新鮮な低温殺菌牛乳やソフトクリームやクッキーや最中やアップルパイやバウムクーヘンなどが気軽に購入出来てありがたい。
般若寺へ散策した時に真向かいだったのでガキと一緒に立ち寄ってみたが、牛乳がすこぶる旨かった。
濃厚な味わいがとてもよい。
これからも、贔屓にしよう。
現在、配達して貰えるように交渉中だ。
警備はオークの騎士とエルフの姫騎士とが加わった為、だいぶんやりやすくなった。
あの二人、いつもあのメイクをしているが大丈夫かね?
大本営の青葉が宣伝促進用に両名を撮影していたが、双方迫真の演技だった。
いいねえ、痺れるねえ。
奈良市に異世界風の街が出来つつある。
開業に向けての挨拶回りや折衝、交渉、根回し、調略、諜報などを行っているが、人員を早急に揃えたい。
元艦娘や艦娘乙種辺りが望ましいけれども、幅広い人材を求めたいところだ。
いっそ、妖精まみれの楽園にしちまうか?
悩ましいところだ。
そんなドタバタの日常的な午後、学校から帰ってきたガキが抱きついてきてさりげなく乳を揉んできた。
デコピンしておく。
ええ加減にせえよ。
なんとも頭が痛い。
早く艦娘が欲しい。
叢雲(むらくも)、曙、霞、満潮辺りがいいかもしれない。
気弱系だとエロガキの攻勢に耐えられないだろうし、気の強い艦娘の方が安心出来る。
龍田の申請もしておこう。
あいつがいたら、と思うと会ったこともないのに安心感が高まってゆく。
これが艦娘になるってことなのかね?
設備維持の関係があるから明石か夕張辺りは欲しいし、事務関連に強い大淀も欲しい。
鳳翔の如き料理上手も欲しい。
申請自体は出しているが、受理されるかどうかは大本営の匙加減次第だ。
近畿圏に詳しい人材も欲しい。
人脈の構築を更に高めようか。
「やっぱり、函館に一度行かないとダメだな。呉にも行こうか。」
「新婚旅行だねっ!」
「なにが新婚旅行だ、マセガキ。お前とは恋人同士ですらない。」
「同志! そんなことを言われるとどうしていいかわからない!」
「誰が上手いことを言えと言った。」
「イエーイ!」
「それ、昭和のノリ。」
「なんてこった!」
「仕事なんだから、俺が一人で行く。」
「浮気するつもりじゃないよねっ!?」
「バーカ。考え過ぎだ、エロガキ様。」
「お姉ちゃんの処女は僕のモノだっ!」
「訳わかんねえことを言ってねえで、お前は学業に専念しろ。そもそも俺は男だ。」
今日も仁藤坊やがノリノリでお馬鹿を炸裂させている。
だから、どさくさ紛れにケツをむにむに揉むなっての。
ペシ、と手の甲を叩いたら痛みも愛だよねとほざいた。
鉄の神経、お許しをっ!
「俺が出張に行っている間は……どうすっかなあ。」
「ナンパしてきたお姉さんたちの家を渡り歩くよ。」
「お前が言うと、全然洒落にならんからやめれや。」
「大丈夫! 最終防衛戦は何度も何度も繰り広げてきたけど全て成功させているからっ!」
「お、おう。」
うーん。
この件は後回しか。
オークのとこに預けるかと何気なく呟いたら、「くっ、殺せ!」と言われた。
解せぬ。
「取り敢えず、お姉ちゃんの下着を買いに出掛けようよ。」
「なんで、そういう話になるんだ?」
「だって、お姉ちゃんの下着が全然エロくないんだもの。」
「それがお前となんの関係がある?」
「可愛いお姉ちゃんには、お洒落な下着が似合うと思う。」
「実用一点張りで構わないだろう。」
「慢心、ダメ絶対!」
「それなんか違う。」
結局、一日中下着下着とわめくので致し方なく出掛けることにした。
甘いかな?
近場でいいかなと思っていたら、ガキは神戸に行こうと言い始めた。
渋々承諾する。
気のせいだろうけど、こいつの罠にどんどん嵌まっている気がする。
……気のせいだな。
そうだ、こいつがそんなに難しいことを考えられる筈もない。
約束の日曜日に、早朝から出立する。
奈良駅に近いホテル地下のパン屋で出来立てのパンを幾つか購入し、列車の待ち時間の合間に乗降場で朝食を取った。
お茶は魔法瓶から注いでガキに渡す。
「愛を感じるよ。」と朝から通常運転のガキ。
奈良線で奈良から木津まで行き、木津から片町線に乗り換え大阪尼崎を越えて三ノ宮駅へ到着。
マネケンのワッフルを食べる。
高架商店街をぶらぶら歩くか。
学生時代もぶらぶら歩いたな。
高架下の三宮一貫楼で豚まんでも食べて、下着を見るか。
「デートだねっ!」
「なに言ってやがる。俺たちは男同士だ。あと、さりげなく乳を揉むんじゃねえ。」
このエロガキめ。
鉄製のブラでも頼んどくか。
「今、鉄製のブラでも頼んどくか、とお姉ちゃんは思った。」
「おお、大当たりだ。」
「そんなことをしたら泣くからね!」
「こんな時、どんな顔をしていいかわからんな。」
「笑えばいいと思うよ。」
「あははは。」
「なんでホントに笑うの!?」
「どないせえ言うねん。」
下着専門店は意外と多い。
エロガキが興奮してハアハア言うので、大変困った。
店員たちは苦笑するか、或いはガキを注意するかだ。
更衣室に一緒に入ろうとするので、入ったら罰を与えると言ったら散々悩んだ末にようやく諦めた。
上官が変態過ぎて泣けてくる。
ガキに任せると派手で過激なモノしか選ばないので、比較的清潔感があって日常的に使えそうな品を数点購入した。
ガキは何故か「試合に勝って勝負に負けていたんだよん。」と落ち込んでいる。
不本意だ。
折角付き合ったのに。
オサレな店で昼を食べたいと言ったので、後輩がやっている洋食屋へ行った。
俺はエブフライ定食、ガキはハンバーグ定食を頼んだ。
ポタージュの腕がよくなっている。
喉越しがより滑らかで香りがいい。
カルパッチョもよりよい味わいだ。
デザートのサヴァランも旨かった。
後輩は俺の姿を見て真っ赤になる。
余りの変貌に驚いているんだろう。
ガキが何故だかおかんむりになる。
こいつ、割と短気だよな。
もっとしたたかにならんといかん。
駅に近づくと機嫌が直ったようだ。
「よーし、これから有馬温泉に行こう!」
「三ノ宮からだと片道二時間はかかるので却下。」
「温泉は心の保養地だよ!」
「お前のギラギラした視線がこわい。」
「大丈夫! まだやらないから!」
「なにをだ。」
「そんなこと、恥ずかしくて言えないよ。」
「俺はお前の存在が恥ずかしい。」
「もう、お姉ちゃんは照れ屋さんなんだから!」
「お前のその図太さには敬服せざるを得ない。」
「ほめられた!」
「誉めてない。」
「わかった! お姉ちゃんは僕が大好きだけど、その気持ちをいつもいつも押し殺しているんだね!」
「どうやったらそのお目出度い結論に達するのか、お前の思考経路を知りたい。」
「お布団の中でこっそり教えるよ。」
「そうか、す巻きにされたいのか。」
奈良に戻ると、夕暮れが辺りを支配していた。
頭にターバンを巻いた、怪しいおっさんのハッサンが二頭立ての馬車で待っている。
これも名物にする予定だ。
馬はユニコーンだそうだ。
そういう設定なんだろう。
それっぽい雰囲気がある。
まるで本物みたいだなあ。
このおっさんもいつの間にかいた人物だ。
送迎車の準備も順次進めないといけない。
観光客らしき人々が馬車を撮影している。
平和が戻りつつあるのだろう。
各都道府県の復興も格差が広がっている。
俺の所属する鎮守府もどきは、復興に向けての試験的存在とされている。
マスメディアへの対応がけっこうめんどくさいが、奈良テレビ放送との連携である程度の負担減は可能だろう。
向こうの担当者の男性は、何故か赤くなりながらもそれを請け負ってくれている。
一種の観光資源になるからな。
報連相はきっちりしておこう。
索敵の出来る軽空母も欲しい。
鳳翔は調理専門にして、龍驤や隼鷹(じゅんよう)や飛鷹や祥鳳辺りが欲しい。
鎮守府警備府泊地でくすぶっている艦娘を引き抜くか?
函館にケッコンしていた艦娘がまだ何名もいるらしいから、一名は送ってもらおう。
開業前見学会の催しを県庁艦娘課と広報課の双方合同で打診されているから、函館鎮守府の李さんを送ってもらうか。
絶品中華で度肝を抜くのも悪かねえ。
炒飯定食で食にうるさい関西人たちを黙らせ泣かせた、って伝説がホントかどうかこの目で確かめたい。
そうだ。
屋台を出すっていうのもどうかねえ。
粉もんが中心になるのも関西らしい。
アメリカンドッグやホットドッグやたこ焼きにお好み焼きに太閤焼き(作者註:今川焼、ふうまんとも言う焼き菓子です)。
綿飴、リンゴ飴、焼き鳥、牛串、おでんにソーセージにフィッシュ&チップスにドーナッツにフレンチトーストに芋煮。
馬車の中でいろいろ考えていたら、ガキが話しかけてきた。
「もう! お姉ちゃんは仕事のことばっかり! 僕をもっと構ってよっ!」
「だったら、もっと男前になるんだな。今のままだと単なるエロガキだ。」
「ふん! 僕だってやる時はやれるんだよ!」
「期待しないで、見守っていてやるよ。」
「ところでさ。ねえねえ、これ見てよ。」
ガサガサと紙袋から黒い布を取り出した。
レースがあしらわれていて、割と高そうに見える代物だ。
「今晩、これ着てくれない?」
黄昏の闇に半分覆われながら、無垢なる笑みでガキはそう言った。