はこちん!   作:輪音

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今回は八七〇〇文字程あります。

『孤独のグルメ』が混ざってしまって、さあ大変。
提督は、無事に大阪まで辿り着けるのでしょうか?
伏兵的登場人物まで現れ、どんどん混沌化します。

たまたまやで、たまたま。



CLⅩⅩⅩⅡ:明日に向かって、にほんかいっ!  (後編)

 

 

結局、九名で大阪へ行くことになった。

両名の優劣が付けられなかったのじゃ。

勝負で白黒付けないとは何事かと批判もされたが、この三名に期待するのが無理難題だ。

ネヴァダも空気読む子だしなあ。

鳳翔間宮が双方喜んでいるので、これでよかろうなのだ。

おそらく。

双方双得。

結果よければすべてよし。

黒石市の林檎も飯綱(いいづな)町の林檎も購入量を増やそう。

七飯町や余市の林檎も手配しておくか。

なんだか鎮守府の雰囲気が沈鬱になっているようにも思えるが、気のせいだろう。

 

鎮守府本棟二階でカッフェを営む熊からも行きたい旨打診があったが、先日引き取った子熊二頭が彼から離れようとしなかったのと政府側から安全上の関係からやめてちょーよとの通達があったので敢えなく断念になる。

大阪商工会議所の面々はおもろがって、連れてき連れてきと言っていたのだが。

大阪へ向けて、鳳翔特製かすていら、間宮羊羹、そして李さん特製月餅を発送。

根回し、根回し。

 

 

出発日早朝。

未明からの吹雪と時化(しけ)で青函連絡船は一時欠航。

函館空港から東京方面への航空機は、まだ定期便を出せる程復活していない。

小樽鎮守府の提督から過日貰った、ヘリコプターのミル24(西側名称:ハインド)を使うことになった。

貰ったのは全部で四機。

内、二機を今回使おう。

念のため、ロケット弾ポッドやミサイルポッドはパイロン(作者註:翼下懸架装置)から外しておく。

シチリアの空の色で染められた機体には、白丸に函の字有り。

唐蔦丸に板倉九曜の巴紋と、熊の手形みたいな熊紋が塗装済。

津軽海峡及び周辺海域の哨戒任務に、試験運用し始めている。

青森空港と三沢基地と函館空港とに連絡して、早速乗り込む。

 

三〇分程で青森駅周辺の上空に到着。

着地点の安全性を確認しながら、次々飛び降りる艦娘たち。

ワイルドだ。

まるで戦国自衛隊だぜ。

気分は武田勝頼ナリヨ。

安全索も装備しないで。

ラペリングですらない。

ネヴァダが李さんと共にすっと降下する。

私も鳳翔間宮に抱き付かれて飛び降りる。

ちょ、待てよ!

ヒエエエーッ!

近くで見ていた群衆から、何故か拍手が沸き上がった。

イベントだと思われたようだ。

 

新青森に着く。

東北新幹線の切符の時間を変更してもらったが、まだ一時間少々余裕がある。

さあ、買い物の時間だ。

我が軍勢に檄を飛ばす。

 

「さあ、買いまくれっ! 時は来た!」

「「「「イエス、マイロード!」」」」

 

 

 

其処は青森県の誇りが凝縮された空間。

林檎。

林檎ジュース。

日本酒。

干物。

海産物。

お菓子。

その他。

売り子の面々は、独特の気配を持つ少女たちが函館鎮守府の艦娘であると直感的に理解した。

なにしろ、買い方が違う。

箱単位が当たり前の様子。

販売勢は試食を強化する。

それは圧倒的な買い物だ。

農家の手作りジュースが、農家の収穫せし自信ある林檎が、大人しそうな青年小料理屋の若女将ふんわり巨乳お姉さんの三位一体な承認でごっそり買われる。

送り先は道南を拠点とする軍事基地。

領収証も発行するから、間違いない。

次々に自慢の品々を説明する青森勢。

鋭い質問が、三者からエルフの狙いすましたような矢のように放たれる。

それは必殺の矢。

それを堂々と受ける青森県民。

鋼の楯を持つ重戦士の如くに。

品質総量値段送料が彼女たちの脳内で素早く計算され、購入金額が決定する。

提督は財布役としてあっちに行っては伝票を書いてはカードで支払い、領収証を貰い、こっちに行っては雑談しつつ試食した。

他の面々はフリーダム。

フリーダムフリーダム。

風の色のように散開す。

 

 

 

さて、残された者たちはどうなったか?

道南にズームイン!

 

函館鎮守府の食堂。

必死の形相で料理を作る鳳翔間宮。

大淀発の募集に呼応した料理上手。

それぞれ歴戦と自負する料理上手。

大手の鎮守府から志願した者たち。

しかし、既に彼女たちは後悔をしていた。

同姿艦として、腕試しのつもりであった。

そんなに腕が違うものかと思ってもいた。

大量においしく作るのは至難の業である。

四大鎮守府はシステマチックな食事風景。

それに飽きたらない勇者が挑戦している。

だがしかしおかし。

状況は彼女たちの想像を遥かに上回っていた。

李さん特製月餅を食べて過酷さを理解したつもりだった。

今までの功績常識がまるで通用しない。

そこまでいつの間にか差が開いている。

まあ、よその鳳翔さん間宮さんたちだから仕方ないよね、という空気がなにより屈辱感を増幅させる。

言われずとも、わかるものだ。

絶讚はされずとも一定の評価は勝ち取る、という所期目標さえ達成出来ない。

辛辣なことは一切言われない。

寧ろ、気遣われてさえいる。

叢雲曙霞の言い方も可愛い。

それが悔しい。

悔しいのう、悔しいのう。

佐世保のハンバーガー、舞鶴の和菓子、横須賀の洋菓子、呉のお好み焼き。

それぞれの必殺技の筈の食べ物。

うん、おいしいよ、との評価だ。

違う。

違う。

そうじゃない。

そうじゃないのよ。

いずれも苦戦を強いられている。

鬼神すら震え上がるような鬼気迫る様相で料理を作る軽空母たちに給糧艦たち。

提督が作っておいた浅漬けをおいしそうに食べる光景すら、厭(いと)わしい。

そんなに。

そんなに。

そんなにも違うのか。

涙が目蓋に浮かんだ。

だからいかんのだ、と日本料理界の重鎮だった鹿ノ谷は思うのだが、これもまた経験。

敢えて言わぬ。

ゆうてわかろうものか。

これは試練也。

きっと、彼女たちの糧になるだろう。

厨房の責任者である彼は、鳳翔たち間宮たちへそれぞれの鎮守府で振る舞われる郷土料理を主に作るように指示している。

一応過去の献立表は見せたが、基本的に重複禁止を言い渡していた。

同じ土俵で勝負してはならない。

自分の土俵に相手を寄せるのだ。

それは料理上手たちの自尊心を傷つけたが、小破程度のものだった。

けれども。

今は中破以上の損傷を受けている気分だ。

負けてはならじ。

負けてはならじ。

大阪へ行った面々が帰ってくるまでに、胃袋を掴んでみせる。

悲壮な決意と共に、彼女たちは勇壮に戦いの協奏曲を奏でた。

緊迫した表情が穏やかになった時、おいしいと評価されよう。

視野狭窄を通り過ぎて覚醒した時、胃袋が掴めるかもしれぬ。

震える助手の春日丸。

泰然自若の龍田足柄。

眼鏡を光らせる大淀。

 

まだだ。

まだやれる。

胆力ある料理人たちを震えさせつつ、鳳翔間宮たちは新たな仕込みに入った。

 

 

 

昼前には東京駅到着。

本日はこの街で宿泊。

だから、東海道新幹線兼山陽新幹線には乗らない。

今日これから乗るのは特急わかしお。

大原までおおよそ一時間強の小旅行。

東京から海沿いを走ってゆく列車だ。

提督候補生時代に、沿線の茂原市内の山奥で教育を受けていたのが懐かしくさえ思えてくる。

 

 

海沿いの町、大原に到着。

研修時代に外出許可を得た際、当時現役だった長門教官と共に歩いた大原漁港を覗く。

みかん大福を一緒に食べた。

そんなことを思い出したり。

あの頃は平和な関係だった。

艦娘たちからは冷やかされた。

教官も秘密にしていないしな。

むしろ、自慢にさえしている。

伊勢海老やサザエが見えるぞ。

うわっ、このサザエ! 特大。

この空腹、もう玄海灘だぞい。

 

「お兄さんたち、食うんだったら、隣で食えるよ。」

 

よし、食べよう。

刺し身にしてもらったり、焼いてもらったり、味噌汁にしてもらった。

旨し。

干物乾物を購入し、函館に送ってもらう。

 

この辺で艦娘のような少女が見られると聞いたが、今はいないようだ。

少し歩く。

なつかしい風景。

おや?

肉屋直営の定食屋が見えた。

食べてゆこうか。

ほう、いすみ市は米や豚肉で有名なのか。

豚肉塩焼きライスとミックスフライを頼もう。

フライは三種選べるから、鯵とメンチとコロッケにした。

……あれ?

初霜みたいな女の子が注文を取りに来た。

……気のせいかな?

艦娘……ではないのか?

少し違う気がする。

島風に視線を向けるが、さあ? といった顔をされた。

……いいのかなあ。

一応報告はしておこうか。

 

焼くにおい。

揚げるにおい。

いすみ育ちのやわらかポーク。

皆でわしわしとおいしく戴く。

旨し。

 

いすみ鉄道の大原駅で汽車に乗った際、乗務員から房総横断記念乗車券を購入。

これは前進方向に限り、途中下車自由な当日のみ有効の乗車券。

 

いすみ鉄道。

それは第三セクターで経営される関東地方路線のひとつ。

ただでさえぼろぼろになりつつある関東圏諸藩に於いて新機軸を続々と打ち出し、年々予算が渋くなってゆく行政との攻防戦で一進一退を続けている戦巧者たちだ。

全国で青息吐息の第三セクター路線が多い中、健闘している部類の存在。

八年前に廃線の危機を迎え、深海棲艦の侵攻後も二度目の危機を迎えた。

観光列車強化策としてムーミン列車を走らせ、昭和のディーゼル車のキハ52をも走らせている。

 

国吉駅で下車して、駅舎構内にあるムーミンベーカリー&カフェでまったり。

この辺りは若い移住者もちょこちょこいるそうだ。

東京からエクソダスした人たちだろう。

そうした人たちにこの喫茶室は需要があるという。

まあ、そうなるな。

手作り感に充ちたセカイ。

パンを買ったり、紅茶を飲んだり。

次の汽車の待ち時間さえ楽しめる。

恋のガパオ弁当とやらが一つ残っていたので、買ってみて皆で少しずつ分け合う。

旨し。

ムーミングッズを買う艦娘もいる。

私も手土産に幾つか買っておいた。

大淀たちが少しでも喜ぶといいな。

黄色い汽車に再度乗って大多喜へ。

 

『房総の小江戸』大多喜は本多忠勝公の治めていた城下町。

いすみ鉄道で息を吹き返しつつある町。

地方活性化はとても馬力のいる仕事だ。

オンリーワンを目指さないと余計大変。

先月は大多喜お城まつりを開催して、大いに盛り上がったそうな。

駅の売店は千葉土産や地元の産物を販売している。

地元産の米も売っていたので、二〇俵ほど買って函館に送ってもらう。

文具店にもなっていたので少し物色。

 

駅舎近くに『メキシコ珈琲』という喫茶室があったので、興味本位で入ってみる。

昔、勝浦・御宿・大原を含むこの一帯は、本多忠勝公が治めていた領地。

その頃、メキシコ人たちが房総半島沖で遭難し、漁師たちに助けられた。

彼らを公が保護し、新規建造した船で船乗りたちを故郷に帰したという。

故に、大多喜とメキシコとは交流があるのだそうだ。

現在は深海棲艦によって断絶しているが、交流が再開出来る日を楽しみにしているという。

どこか老将の趣さえある店主はやさしい声でそう言った。

彼が淹れてくれたスマトラの珈琲は、少しほろ苦かった。

 

折角なので、駅舎から右に歩く。

大手門を潜り抜けて城へ向かう。

現在は総南博物館となっている。

初めて見る城に興奮する子たち。

お城だお城だ、と喜びはしゃぐ。

 

大多喜は稀少な天然ガスの産出地で、それを利用したガスカーの町内循環型観光バスも走っていた。

 

土産物屋で何故か皆木刀に興味を示す。

ネヴァダがチャンバラソードね、と言った。

ふふふんと木刀を振る吹雪と龍驤。

買おうかどうしようかと悩む面々。

雲龍と島風がじっと眺めて悩む悩む。

それを微笑ましく見つめる鳳翔間宮。

李さんは異国情緒の品々を見つめる。

君らは昭和の中学生か。

 

酒屋にいすみ市で醸されている木戸泉を置いていたので、夷隅郡の岩の井なども含めて房州産の日本酒を函館に送ってもらう。

 

豊乃鶴酒造を見学。

興味深く話を聞く。

今度鎮守府でも企画するかな?

大多喜城の特別純米酒を購入。

 

老舗の和菓子屋で、大多喜名物最中十万石を購入。

 

別の老舗和菓子店で、季節限定の大多喜芋ようかんを購入。

 

 

上総中野からは小湊(こみなと)鉄道に乗り換える。

立派に黄色く色づいた大イチョウの木を越えて走る。

秋の夕暮れは釣瓶落とし。

赤い夕日に、照る山紅葉。

時折森の中を抜けながら、汽車はもくもくと走っていった。

景色はいいのに、人が乗らない。

地元民が使わなくてはならない。

だが、なかなか上手くいかない。

むう。

上総牛久駅で一旦下車。

缶入りドロップを購入。

駅舎からてくてく歩き、お菓子屋へ。

ここの牛久饅頭八坂太鼓が目標物だ。

黒糖と葛を使い、皮はもちもちナリ。

パンやケーキも販売されている店舗。

みたらしだんごもごっそりと買った。

皆で食べたらあっという間に消える。

そういうものだ。

 

牛久駅から五井駅まで移動。

そして、都内へと戻りゆく。

 

 

宿泊は有楽町駅近くの洋式旅籠。

レディースプランで意外とお徳。

中で洋琴を弾いている初老の男性が、『フライミートゥザムーン』を軽やかに奏でる。

部屋に一旦荷物を降ろして、老舗の和菓子屋へ向かった。

新幹線は早朝発なので、今買っとかないと間に合わない。

予約しておいてよかった。

新宿から中央本線に乗り換え阿佐ヶ谷へ。

駅舎に程近い、こねこや。

ここのどら焼きが旨いのだ。

赤飯や餡蜜や草だんごやみたらしだんごも購入。

皆の熱い要望に応えた形だ。

わーい、みたらしだんごとみたらしだんごがかぶっちゃったぞ。

えっ?

牛久の団子はもう食べきった?

商店街をぐるりっと歩き回る。

ちょこちょこっとした買い物。

案外、こうしたことが楽しい。

 

阿佐ヶ谷から新宿までは中央本線。

新宿から上野までは山手線。

上野から浅草までは銀座線。

 

 

夕食は友人が営む洋食屋で。

小さな城塞を貸し切りだぜ。

今朝、鰤(ぶり)の幼魚であるイナダが釣れたそうだ。

今宵はそれを食べられる。

ありがたや、ありがたや。

江戸・帝都・関東の誇りを魅せよう、と彼は宣言した。

いよっ、大統領!

……洋食、なのか?

 

 

大皿に刺し身の盛り合わせ。

イナダ、クロダイ、アジだ。

旨し、旨し、旨し。

ぷりっぷりだぜい。

 

浅蜊と葱を味噌仕立てにして、飯にかけた深川丼。

はらり、と載せられた刻み海苔との相性も抜群だ。

 

胡麻油を使った天麩羅と掻き揚げ。

天麩羅は天然穴子、カワハギ、茨城産ピーマン、川越産薩摩芋。

掻き揚げは小海老と三つ葉。

三つ葉と云えば葵。

ほほう、やるじゃないか。

 

生のピーマンに肉団子。

これを合体させて食べるのだ。

 

麻婆茄子。

焼き餃子。

ザーサイ。

横濱流か。

 

関東煮はおでんと同様の食べ物。

ちくわ。

ごぼ天。

はんぺん。

手羽元。

大根。

茹で玉子。

厚揚げ。

餅巾着。

 

とどめの甘味は豆かん。

旨し!

 

李さんと鳳翔と間宮がなにやら話し合っている。

これでまた旨いものが食べられるぞ。

計算通り。

くくくく。

 

銀座線で上野まで戻り、そして有楽町へ。

ガード下の焼き鳥屋で、少しきこしめす。

サラリーマンたちのぼやきぼやきぼやき。

本社が大阪になるとぼやく会社員もいた。

 

翌早朝。

……昨晩は大変だったなあと思いながらの朝風呂。

甘噛みの形跡があちこちに出来ていた。

あんなに悪酔いするとは思わなかった。

少し湯がしみる。

同室の李さんが驚いていた。

朝風呂はリリンの文化だよ。

李さんのが大きくて驚いた。

嫁さんの世話もしないとな。

はて、どんな子がいいかな?

 

艦娘たちは全員ケロッとしていた。

……えっ?

代謝機能か?

代謝機能がそんなに違うのか?

 

洋式旅籠(はたご)のバイキング。

こうした宿泊も朝食も初めてという、初めて尽くしの体験が彼女たちになにをもたらすのか?

興味は尽きない。

 

「好きなもん取ってええんか?」

「好きなものを好きなだけ。これは夢?」

「取り過ぎて食べきれないのは勿体無いので、食べられる分だけ取ってそれから考えましょう。時間はまだありますから。」

「よーし、食べ尽くしちゃいますよ、司令官。」

「話を聞け、吹雪。提督、別に全部食い尽くしてもかまわないのだろう?」

「それは言ったらダメだよ、島風。」

「提督、あちらでは好きなように卵を焼いてくださるそうですよ。行きましょう。」

「提督、ちょっとわからないことがありますので私に教えてください。こちらへ。」

「アドミラルが引っ張り凧な件。」

「どれも、たいへん、おいしそうです。」

 

珈琲紅茶は従業員が注いで回る方式。

私はトマトジュースや林檎の生ジュースやポトフなどを選び、クロワッサンやワッフルやスコーンも皿に載せる。

李さんはお粥が気になったようで、一緒になって選ぶのを手伝う。

彼に説明しながら選んでもらうと、何故か周囲の人たちも同じ料理を取っていた。

オムレツはチーズとマッシュルームを入れてもらい、ウェルダンで焼いてもらう。

鰤(ぶり)の西京焼きも選んでみた。

皆でどれがおいしいあれがおいしいとやり取りする。

和食も洋食も充実している。

温野菜。

冷野菜。

都心部の宿泊施設はどこも経営が厳しいそうだが、この苦境へ如何に立ち向かうかが大切だと思う。

バイキング初心者たちに教えながら、食べ物選びを手伝った。

シリアル系を中心にしたネヴァダも、どうやら満足のようだ。

うん、この生ジュースは長野産のシナノスイートっぽいなあ。

呟いたら、従業員からその通りですと言われた。

一気に皆からおお! と言われ恥ずかしくなる。

 

「みんなと一緒に食べてみたいですね。」

 

ぽつりと鳳翔が呟いた。

全員頷く。

ああ、その通りだよな。

 

 

レトロ感溢れる東京駅でパチパチ撮影し、新幹線に乗り込んだ。

 

 

大阪到着。

さて、大阪商工会議所の面々や府庁の職員や鉄道関係者などと会談か。

会談の時間までまだ少し余裕がある。

よし、豚まんを食べようかな。

どこかでお昼にかやくご飯定食も悪くないな。

イタリアンの旨い店は……ええと。

と思った、その時。

上空から飛び降りて、私に抱きつく黒髪の娘。

音もなく忍び寄る黒い影!

親方、空から女の子がっ!

 

「司令はん、会いたかったわあ。」

「お久し振りですね、黒潮さん。」

「なんや他人行儀やなあ、ウチと司令はんの仲やん。」

「それこそ他人でしょう。」

「うわ、いけずやわ、ホンマ。でも、そないなとこも気になるんやけどねえ。」

「ははは。」

「司令はん、ウチの豚まんをあげるわ。ほらほら。おっぱいでぬくめといたんやで。」

「…………口に突っ込んでから、あなたはなにゆうとんですか。」

「気にせん、気にせん。」

「提督、誰ですか、この女。」

「ちょっと殺っちゃっていいですか。」

「うわっ、なんや殺気駄々漏れやん。」

「おい、そこのジャリ。うちらをなめとると、痛い目遭うで。」

「先輩、すみません。ウチの司令はんに久々におうたもんで、テンションが上がってもうて。」

「貴女の提督じゃない。私の提督。」

「まあまあ、まあまあ、まあまあ。」

 

一触即発になりそうな雰囲気を壊さねば。

 

「この子はちょっと人懐っこいもので、まあ許してあげてください。」

「大阪鎮守府仮所属の黒潮です。よろしゅう頼みます。」

 

ん?

なにか今、不穏な発言が……。

あれ?

 

 

お昼ご飯はたいそう賑やかなものになった。

 

 

会議室に到着。

お土産を渡す。

呉第六鎮守府所属の子たちが来ていた。

オブザーバーってとこか。

会談そのものには出ないが、大阪鎮守府の梃子入れをするために派遣されたそうな。

顔見せと挨拶回りか。

三名と少ないが、いずれも手練れ。

先輩が選んだ艦娘だ。

かなり強いのだろう。

 

「呉第六鎮守府所属、分遣水雷戦隊旗艦の香取です。よろしくお願いいたします。」

「同じく、分遣水雷戦隊の五十鈴よ。提督さん、よろしくね。」

「同じく、分遣水雷戦隊の初霜です。よろしくお願いします。」

 

やはり、違う。

この初霜とあちらの推定初霜は、雰囲気からして違うな。

じっと見つめていたら、初霜の顔が段々赤くなってきた。

いかん、いかん。

『調整』してもらったが、油断するとこれだ。

思うに任せないものだ。

 

 

会談が始まる。

他の子たちは、今頃黒潮の先導で大阪うまいもん紀行開催中だろう。

確か、十三(じゅうそう)へ行くとか言っていたな。

 

鉄道関係者のワフ・スハネフ氏が口を開いた。

彼は欧州の交通事情に詳しい日本鉄道愛好家。

大阪から日本海側の緒都市を繋ぐ『日本海』を復活させ、それが一定の成功を修めつつある状況になったら第二弾を放ちたい旨の話を聞く。

それは夜行特急列車『彗星』。

大阪発、鳥取・米子(よなご)・松江・下関・大分・宮崎などを経由して鹿児島中央へと走る夜行列車。

 

第三弾も企画中で、それは夜行特急列車『さくら』。

大阪発、姫路・岡山・広島・博多・熊本・川内(せんだい)などを経て鹿児島中央に到達する夜行列車。

 

企画している時は、そんなに悪くならないと思ってしまうんだよな。

 

地方活性化の話になる。

私は千葉県いすみ鉄道の事例を話した。

皆で八坂太鼓や最中十万石や大多喜芋ようかんやこねこやのどら焼きを食べながら、鉄路の活発な利用や小旅行企画や物産展、観光客誘致、土地の特色魅力を積極的に宣伝する話などした。

黒石の林檎や飯綱(いいづな)町の林檎、北海道の産物、観光企画展。

柔軟な発想力。

新しい考えを頭から否定するのではなく、よくよく検討してみる。

東京の時代が終焉を迎えつつある世の中にて、どう動いてゆくか。

刀剣を擬人化した物語に感化され、博物館へ足を運ぶ女子もいる。

アニメーション作品と提携を結び、地域振興へと結び付ける方策。

鉄道女子アニメの企画も、検討されているようだ。乗り鉄女子か。

 

 

会談初日終了。

あと二日ある。

それでお役御免の予定だ。

大本営への報告書が多くなりそうだ。

函館の大淀に電話をかけて様子を聞くが、別段問題ないらしい。

気にしていた食事の件でも、よその鳳翔間宮たちが頑張ってくれているという。

ありがたいことだ。

彼女たちの様子を聞くが、意気軒昂で大変意欲的能動的に粉骨砕身なのだとか。

食糧をあちこちで買って発送した件も伝える。

 

さて、カルビとホルモンを堪能しようか。

今日会談した大阪の人たちの一部と一緒。

一軒貸し切りにしてくれているのだとか。

よーし、鶴橋で焼肉ナイトフィーバーだ。

喰うぜ喰うぜ喰うぜ。

ツンツン、と後ろから肩をつっつかれた。

振り向くと黒潮がいる。

 

「ウチも食うてみる?」

 

とびっきりの笑顔で、彼女はそう言った。

 

 





ワフ・スハネフ氏の元ネタですが、ブルートレインの車輌記号とレフ・トルストイから来ています。
鉄道ファンではありませんが、人の名前っぽいので出してみました。

今回は『野球狂の詩』に加え、アニメの『SHIROBAKO』や『大正野球娘』も参考にしました(本編未視聴ですが)。

実在感をあまり失わない程度に、『あるかも知れない』や『あったらおもろいやん』や『兎に角やってみよう!』を突っ込むのが『はこちん!』の基本線です。

それぞれの土地の特色を活かすことで、日本の地方が元気になっていくといいなあとの思いを話の中に込めました。

……なんだかどんどん『日本再発見!』みたいになっているような気が……。

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