はこちん!   作:輪音

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呉から転属してきた練習巡洋艦と空母と駆逐艦たち
それは新たな展開を芽吹かせる
『夜の帝王』『難攻不落の北壁』と更に異名を増やす提督はどこを目指すのか
追う艦娘
追われる提督
愛と恋と嫉妬と独占欲とが渦巻く函館鎮守府
恋愛展開破壊者の提督に艦娘たちは苦戦する
添い寝
混浴
膝枕
あーんしてあげる
もーっと頼ってもいいんですよ!
春の雪深く峻険な未登峰を踏破せんと試みるは初心者恋愛クライマーたち
滑落したら真っ逆さま
下を見るな
上を見ながら登るんだ
風都函館にて彼女たちは嵐を巻き起こせるのか
ダメ提督製造艦娘たちの本領は発揮されるのか
函館で飲む珈琲は時に甘ったるい

Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか




ⅩⅩ:呉から来た娘たち

 

 

呉第六鎮守府の先輩から電話がきたのは、メリケン艦娘たちが着任して三日目のことだった。

 

「あんな、呉からの転属娘たちじゃけど、なんとか人数を一桁に抑えといた。」

「ありがとうございます。」

「鹿島と第五鎮守府の子だけとはいかんかったわ。もう、むちゃくちゃじゃ。」

「そんなに大変だったんですか。」

「本気の本気になった駆逐艦は、あっさりとんでもないことしよるけえおっとろしいんじゃ。あっけらかんと覚悟決めよるし、元々好奇心旺盛で無邪気じゃから、その進撃を止めるのは至難の業じゃ。ある意味無敵艦種じゃけえ。」

「……お疲れさまでした。」

「なあ。」

「はい。」

「来月以降でええけえ、あと二〇名くらい受け入れてくれんか?」

「無理ですよ。現状でも許容量をとっくに超えているんですから。なんちゃって鎮守府の人数じゃないですよ。そもそも先輩、そんなに受け入れるな南方へ送られるぞって言っていたじゃないですか。」

「そうじゃったのう。ははは。」

「なにかそちらであったんですか?」

「呉の提督たちやその秘書艦たちや、うちの鳳翔が心痛やらなんやらで寝込んでいるくらいじゃ。」

「それ、大変な事態じゃないですか!」

「こげなことが他所に知れたらぜってえおえんけえ、誰にも言うなよ。現在進行形で呉は絶讚業務停止状態じゃ。舞鶴や佐世保が継続して業務の一部を肩代わりしてくれとるが、あちらも厳戒体勢になっとる。」

「承りました。」

「『最終兵器おっさん』って呼んじゃるわ。」

「やめてください、訳がわかりません。」

 

一体、なにが起きたんだろう?

呉から帰ってきた大淀もなんだかぐったりしている。

膝枕しながら業務したら半日で復活した。

彼女の復活後、膝枕を要求する艦娘が殺到して大変だった。

 

 

 

その更に三日後。

呉から移籍してきた艦娘たちが執務室に横一列で並んでいる。

 

◎練習巡洋艦の鹿島

◎駆逐艦の早霜、磯波、皐月、菊月、望月

、子日(ねのひ)、嵐

◎空母の雲龍

 

総勢九名が私をじっと見つめている。

何故かもじもじしている子さえいた。

その視線だけで穴が空きそうだった。

もうなにがなんだか。

これ、私が悪いのか?

 

隣にいる本日の秘書艦の龍驤が、こそっと小声で耳打ちしてくる。

 

「なあ、キミ。おっぱいの大きい子がええんか?」

「えっ?」

 

艦娘の聴力だと、これくらいの距離ならば僅かな音も聞き逃さない筈だ。

何故今それを問う?

ほら、皆聞き耳を立てている。

皆、胸を寄せ上げし出したよ。

 

「メリケンのおっぱい大きい子たちに迫られて、満更でもない顔しとったやん。」

「事実無根です。」

「鼻の下延ばしとったやん。」

「していません。」

「ほんまか?」

「ほんまや。」

「でも男の人やしなあ。そういうのホンマは好きなんちゃうの?」

「胸の大きさが決定的評価につながるとは限りません。」

 

少し残念そうな表情になる艦娘と誇らしげな表情になる艦娘とが発生する。

うん、龍驤君、後でお話をしようか。

何故今私にぴったりくっつくのかね?

 

剣呑な空気になってきた。

さっさと挨拶をしようか。

 

「皆さん、函館鎮守府へようこそ。私がここの提督です。ここは深海棲艦ありメリケン艦娘ありの混沌とした場所です。大切なのは普段からお互いを思いやり、戦闘では無事に生きて帰ってくることです。華やかな勝利とは無縁の鎮守府ですが、結束力の強さで全国一を目指しましょう。」

 

そして、皆にトラピストクッキーを一箱ずつ渡した。

 

「心ばかりの品です。味わって食べてください。では、解散。」

 

あれ?

解散って言ったのに誰も執務室を出ていかない。

何故みんな、私の周りへと集まってくるのかな?

何故みんな私の体に胸を押し付けてくるのかな?

やめなさい、はしたない。

これこれ、おっさんの顔を舐めてはいけないよ。

おっさんの指を、そこへ誘導してはいけないよ。

あんまり悪戯が酷いと、おっさん怒っちゃうよ。

 

 

 

「新人さんたちにも困ったものですね、龍驤さん。」

「あれだけされて、それを困ったものだと言える神経に感心するわ。」

「ところで、そろそろ膝の上から降りて欲しいのですがね。」

「変形してきたからか?」

「変形してきたからです。」

「仕方あらへんなあ。」

「どさくさ紛れに触らないでください。」

「はいはい、せや、今夜添い寝してええか?」

「この間は強く抱き締められたから、体がみしみし言いましてね。」

「威力調整するからええやろ。」

「あと、お触りは無しですよ。」

「ちぇっ、しゃあないなあ。」

「あのっ! 今! 添い寝と聞こえましたけど! 提督さんと添い寝出来るんですかっ!?」

「鼻息荒いで。聞き耳立てとったな、鹿島。」

「な、なにを根拠にそんなことを……。」

「ウチは軽空母やで。」

「これは紙? 飛行機の形? 式神? 艦載機!? ま、まさか、私を監視していたんですか?」

「ちっ、ちっ。そないケチな真似はせえへんよ。提督はんの身辺警護や。艦娘装った鉄砲玉が来んとも限らんしな。弾除けが必要やろ?」

「私は提督さんと不健全で淫猥でふしだらな関係になって、色欲にまみれた日々を送りたいだけなんです!」

「うん、素直でええな。キミ、添い寝は一名追加や。」

「鹿島さん、ちょっとお説教します。そこにお座りなさい。若い娘がなんと淫らなことを言っているんですか。」

「あーん、藪蛇だったわ!」

 

 

 

夜になってもこの鎮守府はざわざわしている。

みんなアドミラルアドミラルと連呼している。

 

「ソイネ・システム? なによそれ。」

「アドミラルと一緒に眠って、英気を養う方法のことよ。」

「エナジードレインなの、それ?」

「ある意味生気を吸っているのかもね。」

「セックスをするってこと?」

「それはしないんだってさ。」

「一緒に眠るってそういうことじゃないの?」

「日本人は世界的にエロいので有名だけど、これはなんか違うみたい。」

「ネヴァダは興味ないの?」

「べ、別に興味ないわよ!」

「ふーん。」

「興味なんかないわ! 私は別にアドミラルとセックスしたいと思っているんじゃないんだから!」

「ネヴァダさん、声が大きいですよ。」

「あっ! ア、アドミラル?」

「貴女のように魅力的で可愛らしいお嬢さんが、セックスがどうのと大きな声で叫ぶのは感心しません。」

「あうう。」

「アドミラルって、誰とでもソイネするの?」

「希望者がいますから。手は出しませんよ。」

「それって、私も出来る?」

「今夜でなければ。」

「じゃあ、明日がいいわ。」

「わかりました、シカゴさん。」

「えっ? シーツー、なにを言っているの?」

「そんなに驚くことじゃないでしょ、ネリー。」

「じゃあ、あたしも試してみようかな。」

「では、ヨークタウンさんもご一緒で。」

「ヨーキー? 貴女まで、どうしたの?」

 

こんな冴えないおっさんのどこがいいんだろう?

わからない。

わからない。

わからない。

 

気づくとすぐ傍にアドミラルがいた。

 

「体のお加減がすぐれないんですか、ネヴァダさん?」

「だ、大丈夫だから! き、気にしなくていいから!」

「そうですか、もし調子が悪くなったらすぐに言ってくださいね。大湊(おおみなと)から明石さんに往診に来てもらいますから。」

「アドミラルの看護がいいわ。」

「えっ?」

「あっ!」

「へえ。」

「ほう。」

「な、なんでもないわ! おやすみ!」

 

 

 

別に好きでもなんでもない。

なんでもないと言ったら、なんでもない。

頬が赤いのも火照った感じなのも、全部全部気の所為!

私はネヴァダ。

誇り高き戦艦。

あんなおっさんに屈したりしないわ!

 

 

 

 


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