加賀です。
函館鎮守府で、正規空母兼空母系教官兼提督の嫁候補として働いています。
私たちは艦娘として日々愛する提督の元で研鑽を積んでいますが、その肝心要の彼は私たちへ一向に手を出そうとされません。
そんなに私たちには魅力が無いのでしょうか?
解決の糸口を見つけるべく、大湊(おおみなと)の赤城さんに電話してみました。
経験の豊富な彼女ならば、私たちになんらかの光明を与えてくれることでしょう。
しばし雑談の後、本題に入ります。
「提督が私たちに手を出してくださらないのです。どうすればいいでしょうか?」
「そりゃあもう、夜這いですよ。勝負下着を装備して開幕爆撃すれば、石頭な提督も一発轟沈です。」
「ヨバイ、ですか? それはなんでしょうか?」
「夜這いはですね、提督のお布団に潜り込んであっはんうっふんな行為をすることです。」
「それは添い寝の一種でしょうか?」
「添い寝の発展系ですね。」
「添い寝でしたら、日替わりで皆が何度も何度も経験しているのですが……。」
「ふぇ?」
「毎晩二名ずつ波状攻撃を重ねているのですが、一向に陥落しません。」
「え? あのう……函館の提督はその、もしかして女性に興味がな……。」
「あります。形状変化も毎回確認出来ています。興味が無い筈ないんです。」
「えっと、そうなると、おそろしく理性が強いかよほどのヘタレか……。そうだ、混浴です。何名もの艦娘と混浴して密着すれば、石部金吉な提督も瞬殺出来ますよ。」
「既に提督は何度も何度も艦娘たちと混浴しています。密着は何度も何度も行っています。」
「ふわっ? ず、ずいぶんと手強い方ですね。」
「はい。他になにかよい手立てはないものでしょうか?」
「ええと……そうです、呉第六鎮守府の鳳翔さんに聞かれてみては如何でしょうか? 人妻ですし。」
「ありがとうございます。そちらに聞いてみますね。」
「お役に立てなくてすみません。」
「いえ、攻略の手掛かりを得られました。ありがたく思います。」
「はい、お電話変わりました。鳳翔です。」
「函館鎮守府の加賀です。いつもお世話になっております。」
「いえいえ、こちらこそお世話になっております。」
「今回はですね、是非とも鳳翔さんにお聞きしたいことがあってお電話させていただきました。」
「私でお役に立てることでしょうか?」
「はい、単刀直入にお聞きしますが、鳳翔さんはどうやってそちらの提督とケッコンカッコカリされたのでしょうか?」
「あらあら。なかなか手こずっておられるようですね。」
「お知恵をお貸し願いたいのです。」
「その願いを叶えるのは難しいですね。」
「秘匿事項なのでしょうか?」
「いえ、私の場合は提督から求婚されまして。」
「やられました。」
提督とのケッコンへの道は、どうやらまだ遠いようです。
「加賀さーん!」
大本営で働いている、五航戦の妹の方が遊びに来たようです。
彼女を空母系教官として指名したのは私ですが、何故ここまで慕われるのでしょうか?
私が彼女の愛を受け入れたら、提督も或いは、私たちの求愛を受け入れてくれるのではないでしょうか?
……私はなにを考えているのでしょう。
無邪気にしがみついてくる彼女と共に、食堂へ向かいます。
そうだ。
今晩は提督との添い寝の日です。
今宵は褌(ふんどし)ではなく、エッチな下着とやらを装備しましょう。
胸部も晒(さらし)ではなく、色っぽいブラジャーを着けてみましょう。
これで少しは提督も興奮してくれるでしょうか?
「どうしたんですか、加賀さん?」
「提督をどう攻略しようかと思ってね。」
「あら、簡単ですよ。」
「えっ?」
彼女の姿が夕闇に紛れ、なんだかあやふやに見えます。
「問答無用でヤっちゃえばいいんです。」
「瑞鶴!」
「はい?」
「そこのところをみんなの前で詳しく!」
「はい?」
私は携帯電話を取り出し、緊急メールを送ります。
「講堂へ行くわよ!」
「えっ? なに? えっ? あの、加賀さん、一体なにを?」
盲点だったわ。
こんなことに気づかないなんて。
緊張した面持ちをした鎮守府の面々が、次々に講堂へやって来ました。
彼女の言葉を謹聴しなくては。
「では瑞鶴、先程の発言を詳しくみんなの前で話してちょうだい。」
「えっ? あの、ヤるって話をですか?」
「そうよ。」
「でも、私……。」
「大丈夫。みんな、口の堅さは確かよ。話しにくいことでしょうから、経験談だけではなく一般論を交えてくれていいわ。」
「あの、私……。」
「貴女が誰とどう繋がっていようと、誰も非難しないわ。なにがあっても私が貴女を守るから、安心して。」
「そ、それはありがたく思いますけど、あの、ち、違うんです。」
「なにが違うのかしら。」
講堂に艦娘が集まってきました。
一〇〇名以上はいるようですね。
「私……私……処女なんです。」
「……え?」
「その……私、耳年増なだけで、経験なんて一切無いんです。」
「それにしては、さっき自信たっぷりに言ったわよね。」
「こんなことになるなんて、思いもしなかったんです。」
「瑞鶴。」
「はい。」
「女は度胸よ。」
「加賀さーん!」
結局、第三者からの観点から見た私たちと提督についての意見報告という感じで無難にまとめました。
メールで詳しい内容を告げなくて、本当によかったです。
一旦腹を据えた瑞鶴は流石に大本営で講話に馴れていたことから、流暢に思ったことをきれいにまとめて話してくれました。
かなり好評を得られたようで、一安心しました。
しつこくない程度に提督とさりげなく一緒にいられるよう、より一層頑張らないといけないですね。
瑞鶴がぶうぶう言うので、彼女に持たせる手土産は奮発しました。
間宮羊羹が二棹と李さん特製月餅一箱で済んで、ほっとしました。