はこちん!   作:輪音

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今回は『不健全鎮守府』の犬魚様の『ハッスルリターンズ』(延長戦)に対応する、『はこちん!』仕様の話です。
今話は八〇〇〇文字程あります。


【『甘き死の香りよ、来たれ』に於ける元ネタ(順不同)】
◎魔法使いの嫁
◎太陽の牙ダグラム
◎キン肉マン
◎聖闘士星矢
◎BLEACH
◎GetBackers-奪還屋-
◎ドーベルマン刑事
◎天元突破グレンラガン
◎アルスラーン戦記
◎ストリートファイターⅡ
◎ドラゴンボール
◎嘉門達夫氏『鼻から牛乳』
◎池上彰氏
◎秘密戦隊ゴレンジャー
◎魁!! 男塾
◎もーれつア太郎
◎プリキュア
◎装甲騎兵ボトムズ
◎破裏拳ポリマー
◎ルパン三世
◎リングにかけろ
◎修羅の門
◎Fate
◎BASTARD-暗黒の破壊神-
◎エンジェル・ハウリング
◎ウィザードリィ
◎女神転生
◎ウルトラセブン



美しい娘たちを集めた監獄
提督を監禁隔離するための
それが鎮守府
高い塀もなく
深い堀もない
高電圧の柵もなければ
看守さえも存在しない
九州のこの基地にあるのは
澄みきった大気と
汚れなき山野に海
福岡タワーで行われる死の舞踏会
甘き毒を撒く薔薇と零下一四〇度の対決
吐く息どころか
五臓六腑さえも
凍らせる闘技場
毒殺か凍死か
その狭間にある
限りなく薄い
不安定な一線
ポリマーリンゲル液
鉄の血液さえ
凍りそうな戦場で
男たちは笑う
暗い愉悦にたゆたいながら

『甘き死の香りよ、来たれ』後編
Not even justice, I hope to get to truth.
たとえ生き延びたとしても
その先が極楽とは限らない





CCⅨ:甘き死の香りよ、来たれ(後編)

 

 

鈴谷・村雨組対陸奥・春雨組。

最終対決の火蓋が切って落とされた。

熱い声援が次々に沸き起こる中、鈴谷と村雨のドロップキックが陸奥と春雨に炸裂する。

普段から交流のある鈴谷・村雨組に対し、普段は接点の無い陸奥・春雨組。

時間が経過する毎に後者の不利が強くなってゆく。

しかし、わるさめな春雨つまり春雨カッコカリには負けられない理由がある。

眼鏡提督はイタリア艦や潜水艦とは関係を持ったのに、自分は抱いてくれないのだ。

女として、それは許せない所業。

同じ境遇と思った早霜が乗ってこないのは意外だったが。

 

「真の妻とは、地母神の如く寛容でなくてはなりません。夫が何名関係しようと、それは欲望に引き摺られた結果。許すことが大切なんです。提督はとてもモテる方なのですから。」

 

わからない。

わからない。

許せない。

許せない。

ダカラ。

ワタシはフクシュウのオニになる。

 

「ねえ、春雨ちゃん。憎しみはなにも生まないわよ。」

「わかっています。理屈ではわかっているんですが。」

「いい女はね、男を振り回すくらいしないと。」

「今は振り回されてばっかりです。」

「罪なオトコね、提督も。」

「絶対、諦めませんから。」

「でも、今は戦いの最中。それは後にして頂戴。また今度、ザッハトルテを食べながらでも聞くわ! いいわね、逝くわよ!」

 

陸奥は春雨の足を掴み、自身を中心にぶんぶん振り回し始める。

鈴谷・村雨組にも一定の損害を与えた。

だが。

 

「足が痛い! 足が! 陸奥さーん! 足がもげそうです!」

 

そういうことになった。

 

「キャメルクラッチ! これでお仕舞いよ! 春雨!」

 

地味によく効くキャメルクラッチを鈴谷が仕掛け、春雨は伸ばした手を陸奥に近づけることさえ出来ない。

 

「おねーちゃん……。」

 

かすかな声が村雨に届く。

 

「これで終わりよ! 死すべし、春雨!」

 

とどめを刺そうとした鈴谷の無防備な延髄に、背後から村雨のヤクザキックが炸裂した。

 

「ぐはあっ! なにすんのよ、村雨! 味方を攻撃してどうすんの! あんたが手を下したくないっていうから、あたしが春雨にとどめを刺してその後陸奥さんをツープラトンで撃破するって打ち合わせしたじゃん。ちょっと、村雨! なにしてんの?」

 

妹を抱き起こすは姉。

それは麗しき姉妹愛。

 

「春雨、お姉ちゃんは間違っていた。残虐提督に従って、小遣い稼ぎしようとしていたダメお姉ちゃんを許してくれる?」

「……うん、だから……。」

「わかってる。私も貴女と同じプリキュアだもの。」

「明石さん、ストレッチャー!」

「わかりました、我が提督! すぐに入渠させるわよっ!」

 

「鈴谷さん。」

「なに?」

「……悪いんだけど、コンビは解消するわ。」

「仕方ないね。」

「わかってくれる?」

「わかるよ。だから。」

「そうね。だから。」

「「これより死合いとまいりましょう。」」

 

凄惨を極める死合いが始まった。

互いに容赦なき急所攻撃を繰り広げる。

衣類は既にすべて破れ、なにも身に付けないままの姿にて少女たちは笑顔で死闘を行うのだった。

 

「カイトス・スパウティングボンバー!」

 

鈴谷が村雨を空中に勢いよく投げる。

激しい気流が起こり、村雨は姿勢を変えることすら出来ない。

 

「……受け身が……取れな……。」

 

鈴谷が村雨を空中で捕まえ、荒々しい関節技を極める。

そして、鈴谷は更に体全体が損害をこうむるような体勢で関節を極め直し、村雨を勢いよく海面に叩きつけた。

 

「ぐはあっ!」

 

吐血し、倒れる村雨。

女の子の大切なところをおっぴろげにしたまま。

彼女の意識は既に刈り取られている。

だが。

 

「勝っ……グフッ!」

 

勝った筈の鈴谷も吐血し、大切なところをおっぴろげにしたまま倒れた。

 

「ストレッチャー! 明石さん! 夕張さん! 急いで!」

「「はい、我らが提督!」」

 

「なんじゃ? 鈴谷がなんで倒れる?」

「いい質問ですね。」

「サミダライデン、なにか知っておるのか?」

「傲慢なるあの技はですね、使った反動が

大きいんですよ。」

「そうなのか?」

「あれは、『孤独を知る者』しか使えません。鈴谷さんでは使いこなせぬも道理。」

「五月雨……?」

「そうそう、これ、全国放送されていますからね。生中継で。」

「はっ? へっ? そんなんワシ、聞いてへんぞ! 五月雨!」

「今、言ったでしょう。」

「ふざけんなよ、お前!」

「卍固めっ!」

「ぐはあっ!」

「普段提督らしいこともしていない癖に、なにを言っているんですか? 函館提督の方が余程仕事をされていますよ。」

「ぐぬぬ。」

「大開脚した両名はどちらも戦闘不能。つまり。」

「つまり?」

「えっ? 私の勝ち?」

 

茫然と事態の推移を見守っていた陸奥が驚いた顔をする。

途端、演習終了のサイレンが鳴り響き、函館側の勝利が確定した。

 

 

 

しかし、このままでは終わらせんよ。

今度は提督同士のセメント対決じゃ!

ワシは函館提督を挑発し、煽り、奴が勝っても負けても九州旅行の際に最大の便宜を約束するとゆうて渋々ながらも闘いを了承させた。

……あれ?

なんかワシ、思いっきりやらかしたような気がする……。

うんにゃ、今は闘いに集中すべきじゃ。

 

 

 

闘いの舞台はここ、◎岡国際センター。

一九八一年に建設され、深海棲艦侵攻以前は◎リショイサーカスの興業が毎年夏に行われていた。

県によると、来年か再来年くらいには復活させたいらしい。

これには函館や小樽の鎮守府などが絡んどるんじゃよなあ。

ぐぬぬ。

ちなみに秋には大相撲が開催され、貰った券はありがたく上客に使わせてさせてもらっとる。

どすこい。

 

 

提督同士の闘いが始まった。

彼らの戦闘領域は半円状の強力な結界で覆われている。

それをなし得たのは、英国から訪日している骨頭の魔法使いと彼の嫁の協力あってこそだ。

おいしいもので釣られたおさな妻の頼みを、溺愛する夫は拒むことが出来ない。

彼と彼女が施した六重結界は強固で、広域爆裂呪文のティルトウェイトと無属性型破壊呪文のメギドラオンの連発に耐えるという。

おそらくはバブアーであろう緑色したコートを着た赤毛の少女と、燕尾服に黒いコートを着た英国人風男性が二人のおっさんをじっと眺めていた。

 

「彼らはかなりやるね。」

「結界で彼らの武技を無事に防げるでしょうか?」

「大丈夫。僕は妻を全面的に信じているからね。」

「ありがとうございます。帰りに絹女給(シルキー)さんへのお土産を買いましょう。」

「それはいい提案だ。ハカタの屋台に行くのもいいね。」

 

人外と人の子の夫婦。

外気は零下をとっくに下回っていたが、彼らの周りはほの温かくさえあった。

それを見て羨ましそうにする娘がいれば、ケッと悪態を小声で呟く娘もいる。

それがこの鎮守府クオリティ。

 

 

黒眼鏡提督が叫ぶ。

 

「……思い出した! 思い出したぞ、中佐! 聖域(サンクチュアリ)近くのロドリオ村で貴様の話を聞いたことがあるっ! 聖闘士訓練生で、確か大怪我をしたが故に国許へ帰されたという凍気遣いの存在をっ! 水瓶座(アクエリアス)の座を継承する予定は無かったものの、チャールズの樫の木座(ロイヤル・オーク)の聖衣(クロス)を纏(まと)うことが許された白銀聖闘士のことをっ! 東シベリアはコホーテク村に住む水晶(クリスタル)聖闘士や、廬山周辺に住む王虎とも親交がある男の話をっ! まさかっ! まさか、生きていたとはっ! 冥闘士(スペクター)に暗殺されたと聞いたのにっ! それにチャールズの樫の木座の聖衣は聖域にあるっ! アレは未だ主を得ていな………貴様、もしや認識阻害の術を……そうかっ! 乙女座(バルゴ)! 乙女座が関与しているのかっ! そうかっ! 貴様は『チャールズの心臓(コル・カロリ)』!」

「ご名答、とお答えしておきます。その名はとうに捨てましたが。」

「カーッカッカッ! 面白い! 面白いぞっ! 極東でロイヤル・オークのコル・カロリと死合いが出来ようとはなっ! 魔香気にさらされて死ぬがいいっ、中佐!」

 

結界内では気温がじわじわ下がっていた。

既に零下三〇度。

光速拳の乱打が互いに放たれる。

函館提督が魔法の詠唱を始めた。

ほほう、と英国の魔法使いが彼をじいっと眺める。

 

《通るならばその道 開くならばその扉 吼えるならばその口》

 

「ほう、精霊召喚か。よかろう、先手はそちらに取らせちゃる。」

 

《作法に記され、望むならば王よ 俄(にわか)にある伝説の一端にその指を》

 

「おーおー、大気が震えよる。ふん、その程度でワシを倒せると思うたか。甘く見られたものよ。」

 

《概然なくその意思を もう鍵は無し》

 

「来るか? よし、来い!」

 

《開門よ、成れ》

 

鎧に似た外殻をまとった、人の背丈を倍ほども上回る銀色の巨人が出現し高らかに吼えた。

 

「ふっ、『破壊の王』かよ。『完全体』とまともにやり合えば危ういな。だが! 破壊精霊であろうと、この黒薔薇には耐えられまいて! 我が薔薇の真価を知るがいい! ピラニアンローズ!」

 

顕現した破壊精霊と貪欲な猛魚群のごとき渦巻く薔薇とが、真っ向からぶつかり合う。

短くも激しい応酬の後、悔しげに咆哮しつつ消えてゆく猛撃の精霊。

 

「どうやら、不完全体のようじゃったの。未熟者めが。半端な技など、このワシには通用せぬと思い知れ! ん? 冷気が高まって気温がどんどん下がっとる? 謀ったな、中佐! 精霊は時間稼ぎかっ!?」

 

零下六〇度の中、函館提督は無言で微笑んで魔法風を巻き起こしながら詠唱し始める。

東シヴェリアはオイミャコン村やコホーテク村くらいの気温だ。

彼にとっては懐かしくさえある寒さ。

 

《ザーザードザーザードスクローノーローノスーク》

 

「ちっ、凍気を織りまぜて古代語魔法の詠唱とは小癪な真似をするじゃねえか、喰らうかよっ! 魔宮薔薇(デモンローズ)! くっ、幻影かっ?」

 

砕けた氷の結晶が黒く渦を巻いて、黒眼鏡提督を包み込む。

 

「ぐはぁ!」

 

カリツォー。

氷の輪。

それが彼を拘束している。

凍気を操る聖闘士の基本技であり、敵対者を動けなくする利点は大きい。

本来のカリツォーは白いが、提督の毒薔薇の影響で色が黒くなっていた。

 

「こんなものがっ! ワシにっ! 通用するかよっ!」

 

《漆黒の闇に燃える地獄の業火よ》

 

「不味いっ! スネークバイトッ! 圧力強化! むんっ!」

 

提督を包んでいた氷の輪が砕け散り、それらは彼の足元へとまとわりついてゆく。

 

《我が剣となりて敵を滅ぼせ、爆霊地獄(べノン)!》

 

詠唱完了した古代の魔法が貪婪(どんらん)に黒眼鏡中佐へと襲いかかる。

 

「不完全じゃが試す価値はある! ライトニングボルト!」

 

彼は、本来獅子宮(レオ)の黄金聖闘士が得意とする光速の牙を撃ち放つ。

直線的な光速の軌道を見せる光の束が地獄の監獄めいた炎とぶつかり、対消滅した。

 

《滲み出す混濁の紋章》

 

そして、新しく紡がれる詠唱。

先程魔法風が吹き荒れ、魔宮薔薇の毒素は既に爆霊地獄の影響で焼き尽くされていた。

今はぴりぴりした気が辺りに立ち込め、提督の動きを阻害している。

猛吹雪がそれに追い討ちをかけ、眼鏡提督の体力を奪い続けていた。

 

「おいおい、今度は鬼道か。引き出しの多いおっさんじゃの。だが、詠唱破棄が出来んおまんに……む? 足元が氷結しとる? 何時の間に?」

 

《不遜なる狂気の器》

 

「じゃが! 固定砲台として撃ち放題じゃが! 喰らえっ! 刹那五月雨撃ち!」

 

黒眼鏡提督の鋭い手刀がひゅんひゅんと振るわれ、おっさん提督を斬り刻まんとする。

しかし、氷の結界がそれを阻んだ。

 

「防御結界かよ。ほんま、猪口才(ちょこざい)な奴よ。ワシはチョコボールな、駅弁様式どんとこいじゃが。」

 

余裕を見せるためか、腰をかくかく振る残虐提督。

 

《湧き上がり 否定し痺れ 瞬き眠りを妨げる》

 

「獅子の牙! ライトニングボルト! ちっ、また幻影かっ! ……まさか、ワシは認識阻害を喰らっとるのか? ならば、先に足元の氷を砕く! ……なに? 何故、砕けん?」

 

提督は判断力がかなり低下している。

自覚症状、まったく無きままに。

結界内気温は既に零下一四〇度。

あと一〇度低ければ、青銅聖闘士の聖衣(クロス)さえ破壊し得る程の極低温である。

 

《爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形》

 

足元に拳を何度も何度も何度も何度も何度も何度も叩きつける黒眼鏡提督。

だが、氷は割れない。

 

「ぐおっ、なんじゃ、この氷の硬度は? まるで永久凍土じゃが!」

 

《結合せよ反発せよ 地に満ち己の無力を知れ!!》

 

「まさか、呪禁を施した氷か? くっ、不味いっ!」

 

《破道の九十 『黒棺(くろひつぎ)』!!》

 

「ぐああああっ!」

 

漆黒の四角く棺めいた空間が、黒眼鏡提督の全身をくまなく包み込んだ。

だが。

一拍置いて。

ヒビが入り、術が打ち砕かれる。

 

「流石に効きませんか。」

「いや、少しは効いた。」

「少しですか。」

「少しだけな。」

「では、これは如何でしょうか?」

 

函館提督がとっておきの呪文の詠唱を始める。

 

《カイザード アルザード キ・スク・ハンセ グロス・シルク》

 

「また古代語魔法か! 懲りん奴めっ!」

 

《灰塵と化せ 冥界の賢者》

 

「こちらも小宇宙を高め、そげなもんはきさんに打ち返しちゃる! 高まれ、ワシの小宇宙! 来たれ、セブンセンシズ!」

 

《七つの鍵をもて開け地獄の門!》

 

「む、ヤバい! じゃが!」

 

《七鍵守護神(ハーロ・イーン)!!》

 

「ギャラクシアン・エクスプロージョン!」

 

双子座(ジェミニ)の黄金聖闘士が最も得意とする、破壊系の必殺技が放たれた。

強烈な威力の応酬。

破壊と破壊の力とが真っ向からぶつかり合い、半円状の結界を大きく揺さぶった。

結界が膨大な破壊の渦に耐えきれず、自壊してゆく。

咄嗟に上空へ上空へと威力を逃がしてゆく函館提督。

その無防備な背後から襲いかかる、残虐黒眼鏡提督。

 

「隙あり、じゃ! クカカ! マッスルスパークを喰らうがいい! どこまでも甘い男よの。甘い甘い夢を見ながら、無念を噛み締めつつ逝くがいいわ! とうっ!」

 

函館提督を背後から抱え、空高く跳躍する残虐提督。

彼の右膝が函館提督の首を締め上げ、両手もそれぞれ捻り上げられている。

黒眼鏡提督の左足は函館提督の左足に巻き付いて、これを締め上げていた。

 

「死すべし、函館提督!」

 

このまま落下すれば、函館提督の敗北間違いなし。

だがしかし。

函館提督の自由になっていた右足から延びる凍気が、質量を持って残虐提督の背に叩き付けられた。

 

「ぐはあっ!」

「ダイヤモンドダスト!」

「ぐはあっ!」

 

拘束を逃れた函館提督の凍気が残虐提督の顎を捉え、更に上空へと吹き飛ばす。

咄嗟に氷の板をその場に作り、函館提督もそれを蹴って更に高みへと飛翔した。

そして叫ぶ。

 

「伝家の宝刀!」

 

函館提督の足が残虐提督の首を締め上げ、彼を悶絶させる。

函館提督は両手を地面に向け、逆さになったまま落下した。

気絶したままの残虐提督は受け身も取れない。

着地と同時に、黒眼鏡提督へと莫大な負荷が注ぎ込まれる。

 

「ロビンスペシャル!」

「ぐああああああっ!」

「ホーロドニー・スメルチ!」

「ぐあああああああああっ!」

 

間髪を容れず、凍気遣い系聖闘士の必殺技たる凍気のアッパーカットが残虐提督を直撃する。

精力絶倫な残虐提督は再度上空へときりもみしながら吹き飛び、ぐしゃりと地面に叩きつけられた。

ふらふらになりながらも、懐から白薔薇を取り出す残虐提督。

 

「ワシは……ワシは負ける訳には……。」

 

函館提督は両手を組み、頭上に掲げる。

絶対零度の凍気がそこに集まり、小宇宙が高まってゆく。

音もなにもかも、止まったような空間が顕現した。

そして放たれる、凍気遣い系聖闘士最大の必殺技!

死すべし、残虐提督!

黒眼鏡中佐はかすかな力を振り絞り、薔薇を投げようとする。

そのおそるべき胆力!

 

「ブ、ブラッディロー……。」

「オーロラ・エクスキューション!」

 

彼の背後に青い服を着た金髪碧眼の女神の幻影が現れ、エクスカリバーを振るった。

雪の結晶を美しく振り撒きながら、絶対零度に近い凍気が剣圧と共に残虐提督を打ち砕き容赦なく凍らせてゆく。

 

「ぐあああああああああああっ!」

 

血を吐いて、崩れ落ちる残虐提督。

眼鏡も割れて、その素顔が見えた。

白目を剥いている。

度重なる凍気に加え、幾つもの大技と必殺技とを喰らった残虐提督は流石に昏倒していた。

衣類はその分子結合を維持出来なくなり、すべて失っている。

ウホッな人大歓喜の図であった。

ちなみに、低体温症寸前である。

彼の手から白薔薇が滑り落ちた。

小宇宙で守られた必殺の薔薇が。

一瞬遅ければ、あの死の薔薇を喰らっていたかもしれない。

危うい勝利だった。

函館提督は薄氷の勝利に、冷や汗をかきながらも安堵する。

と。

すたすたと巨大なスーパーブラックホークぎんぎん丸出しの眼鏡提督の傍に来た五月雨が、げしげしっと彼を蹴って転がした。

あ、あれ、肋骨が何本か折れたよな、と鎮守府の面々は愕然として隠れ狂猛系筆頭秘書艦をおそれながら見つめる。

彼女は拾った白薔薇を、素早くぷすりと彼のア◎スへ一気に挿した。

ほんの一瞬の凶行だった。

だが、誰も止めなかった。

そして、赤く染まる薔薇。

嗚呼っ! 阿部氏!

薔薇族!

 

「勝者! 函館提督!」

 

一瞬遅れ、歓声が上がる。

次々に艦娘たちに抱きつかれる提督。

そして、彼は思った。

あれ、これって演習とは全然関係無いじゃないか、と。

 

 

 

「あー、肩痛いわー、ワシ、マジに肩痛いわー。」

「うっさいですね、提督、鯖折りしましょうか?」

「そう言いながら、関節技を極めないてくれっ!」

「あら、自動防御機能を解除していなかったわ。」

「五月雨、お前、マジでなにもんなんじゃいな?」

「提督程の、不思議人物ではありませんけどね。」

 

函館鎮守府との死闘が終わって数日後。

ワシはスポーツ新聞のエッチな欄をしげしげ読みながら、身体の節々の痛みと戦っていた。

五月雨に◎ロンパスを背中に貼ってくれとお願いしたが断られ、致し方なく早霜君と春雨君とに貼って貰った。

両者が何故か上機嫌だったので、その理由を訊いたが教えてもらえなかった。

女の子はよくわからん。

艦娘もよくわからんの。

 

「五月雨、茶を淹れてくれ。」

「はい、どうぞ。」

「なんぞ、これ?」

「せんぶり茶です。提督の腐りきったハラワタの中にある毒素を、全部排出してくれますよ。」

「普通の茶をくれ。」

「では、はいこれ。」

「なんじゃいこれ?」

「どくだみ茶です。」

「まあ、これでもええか。……苦いな。」

「苦いからこそ、人は生きていられるんです。」

「わかったような、わからんような。」

 

今回は稀少な映像が撮れたとのことで、英国の魔法使い協会から感謝状が贈られてきた。

青葉をベッドの中で褒めたら大喜びしとったが、なんかようわからん。

結局、魔法使いたちからの外圧もあって演習で負けたことはチャラにしてもらえた。

ワシの地位に変化は無くなり、大本営の幾人かが人事異動で旭川や沖縄などに飛ばされたらしい。

ええとこじゃがな。

くくく。

 

青葉がなかなか面白い写真を撮ったとのことで彼女の部屋に行って何枚か焼き増ししてもらい、ついでにワシの私室でイチャイチャした。

ポーラやイヨとも関係が出来たし、退役後のことをそろそろ考え始めなくてはならないかもしれない。

 

ちなみに鈴谷は未だベッドから起き上がれないとのことで、訪問時に少し慰めておいた。

時折鈴谷は腰が腰がと喚き、部屋に戻ってきた熊野に追い出されてしもうた。

本調子になったら、お互い親しむことにしよう。

 

ワシは今回の演習で、地球上での活動時間に制限が出るようになってしもうた。

若き日は終わった、ゆうことじゃな。

恒点観測員としての仕事に支障をきたす訳にもいかんが、まあ、深海棲艦がおらんくなるまではなんとかもつじゃろ。

 

「あら、提督。今夜のご都合は如何でしょうか?」

 

優雅な足取りで香取先生が近づいてくる。

眩しい笑顔じゃ。

ワシは彼女の、いや、彼女たちの笑顔を守らんといかん。

 

「おお、香取先生。どうとでも都合をつけますよ。先生のためでしたら。」

 

冬の日差しが窓を伝って、優雅な先生をより一層輝かせる。

 

「では、今夜は五名でお部屋に伺いますね。」

「お待ちしております。」

 

なべて世はこともなし。

 

 




【オマケ】

冬の午後の執務室。
五月雨がニャスコへ行って、鹿取先生が給湯室へ行った空白の時間。
修復された安来鋼の扉を叩く上品な音が聞こえ、陛下が入室された。

「アドミラル、少しよろしいでしょうか?」
「これはこれは陛下、こんなむさ苦しいところへわざわざお越しにならずともワシの方から……。」
「よいのです。」
「は、ははあ。」

陛下がワシの傍に立った。
なんだか、緊張するのう。

「アドミラル。」
「はい。」
「誰にも知られないようにしていただきたいことがあります。」
「はい?」
「私はアドミラルの使用済みの歯ブラシが一本欲しいのです。」
「歯ブラシ、ですか? 歯ブラシでしたら、最高級の豚毛が使われたものを早急にお取り寄せしますが?」
「アドミラルの使ったモノが是非とも欲しいのです。そして、私は貴方を感じたいのです。」
「は、まあ、その、至極光栄であります。しかし、ワシのそんなモノでよろしいのでしょうか?」
「よいのです。ではいただきますね。」
「は、はい。」
「それとですね。」
「あの、なにか?」

陛下がワシをいきなり抱き締め、耳元で囁いた。

「今度、二人きりで王様ゲームをしましょうね。」
「陛下? ……お戯れを。」
「ふふふ。」

陛下はワシの耳たぶをペロリと舐め、優雅に去っていかれた。

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