悪徳の街から流れ着いたは
美しき殺戮者たち
洗練された技術が
立ちはだかる敵対勢力を無力化する
彼女たちは楯
イージスの楯
おっさんを守る剣にして楯
書類の改竄が彼女たちを正当化する
巡る巡る因果は巡る
敵を倒せと皆が言う
無邪気な戦闘機械が障害を駆逐する
血と鉄と硝煙のにおいにむせながら
娘たちはそっと呟く
たまには平和も悪くない
彼女たちは刹那の安寧を慈しみつつ
今宵も夜戦に酔う
明日も明後日も
ロッタとアマーリエの
地獄巡りに付き合っていただこう
Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか
東南アジア某国にある背徳の港町、ロアナプラ。
犯罪見本市とも呼ばれる、悪徳の街。
荒くれどもが夜を闊歩する犯罪都市。
その魔窟も深海棲艦の侵攻以降は羽振りが悪くなり、犯罪の質が下がったとも言われる。
だがしかしばってん、最近頭角を表している集団があった。
その構成員は年端もいかぬ少女ばかりだが度胸は満点、鉄火場もなんのそのという恐れ知らずの鉄騎兵。
紅く染めた肩章を付けていることからレッドショルダーと呼ばれる彼女たちは、瞬く間にロアナプラの一角を牛耳るようになった。
嘗てその勢力の強さを誇ったロシア人たちも、今は北の国に去ってしまっている。
黄巾党の末裔を自称する越南人の酒場でも喧騒の日々は遠い夜になりつつあった。
武装少女たちが御輿に担ぐは冴えないおっさん。
白く古い型の軍服を着たおっさん。
だが、彼こそは無類の忠誠心を持って戦う少女たちの心の支え。
それがおっさん。
一見人畜無害そうなおっさんが一度指を向ければ、そこは少女たちの狩場。
悪徳の街は新しい時代を迎えようとしていた。
風強き深夜。
その悪の巣窟の街から函館に流れ着いた、うら若き娘が二人。
一人は長身の娘。
三つ編み巨乳眼鏡っ子でメイド服、と属性てんこ盛りである。
一人は小柄の娘。
あどけない表情の東欧系美少女は人形みたいな雰囲気だった。
貨物船の船長に礼を言うと、長身の娘は大ぶりの傘と大型のスーツケースを持ち、小柄の娘は大きな包みと肩掛け鞄を持った。
二人は姉妹であるかのように、仲良く並んで鎮守府方面に歩き出した。
私がその報告を大淀から聞いたのは、風の冷たい雨降る午後のことだった。
雷の音はもう遠い。
「提督専属メイド?」
「ええ、提督も今後はなにかと命を狙われるかもしれませんから、最凶級殺戮系戦闘員二人を私の裁量で雇用することにしました。」
「ちょっと待って、大淀さん。今とてつもなく不穏な単語が幾つも聞こえたんだけど。」
「『常識』が通用しない相手なんて、この世にはごろごろいます。人間の敵は人間ですから、そんな連中は『猟犬たち』が始末するのが最適解でしょう。提督が殺られてからでは遅いんです。『先々の先』と二階堂流兵法にもありますし、仮面将校も『戦いとは常に二手三手先を読むものだ』という感じの発言をしています。」
「なんだかどんどん物騒な話になってきていますよ、大淀さん。」
「提督、貴方のお……お体は私たちのモノです。」
「今、なんといいかけました。それに、私は貴女たちのモノではありません。」
「対人戦闘の専門家は重要ですよ。」
「函館を戦場にするつもりですか?」
「提督に仇なす者すべてに鉄槌を!」
結局、大淀に押し切られる形で戦闘員たちを受け入れることになった。
勇猛さで有名な群馬県人や集団戦に強い栃木県人も候補だったらしい。
夜、寝転びながら中身がおっさんの島風に相談してみたが、結果的に『まあ、いいんじゃないか。』と抱きつかれながら言われた。
隣でスースー眠る最速駆逐艦。
寝るのはっやーい!
その翌々日。
巨乳三つ編み眼鏡っ子メイドと人形系美少女メイドが執務室で私に挨拶する。
「私がこの鎮守府の提督です。よろしくお願いします。」
「ロッタ・ミルマスカラスです。よろしくお願いいたします、ご主人様。」
「アマーリエよ。よろしくね、ご主人様。」
「大淀さん。」
「なんでしょう、提督。」
「何故、アマーリエさんを抱っこしているんですか?」
「だって、この子こんなにも可愛いじゃないですか。」
落ち着きたまえ、大淀。
彼女はどうやら、だいぶ前から手を打っていたようだ。
本日の秘書艦の島風が私に耳打ちする。
「彼女たちはかなり強い。」
「ほう。」
「試してみてもいいかな?」
「人と艦娘とでは、相手にならないでしょう?」
「たまに、人を超えた戦闘力を示す者がいる。」
「ほう?」
演習場での模擬戦闘は驚きの連続だった。
弾丸を斬り落とし榴弾を蹴り飛ばす島風。
ロッタのスカートの中からは手榴弾が幾つもこぼれ落ち、傘は散弾銃に早変わりし、四五口径の二丁拳銃で暴れ回った。
アマーリエも体格に似合わぬ巨大な機関銃をばんばん射ちまくり、手斧をぶんぶん振り回した。
三名が乱戦で楽しそうに雄叫びを上げながら、フルスロットルで走り回っている。
うちの元々の面々は、興味深そうに眺めていた。
戦艦棲姫やメリケン艦娘勢も興奮して見ている。
呉からの転属組がポカンと口を開けて見ていた。
なんだ、これ?
人外対決か、これは。
「思った以上の掘り出し物ですね。これで提督の貞操も安心です。」
大淀がにこにこしている。
これこれ、そこの娘さん。
欲望が駄々漏れで御座る。
青空に射撃音と爆発音とが高らかに響く。
嗚呼、なにかが思いっきり間違った方向に進んでいるような気がする。
「なにあれ、なにあれ、司令官! あれだけ動けたら、あたしも戦艦になれるかな?」
背後の清霜が、興奮した声で私の背中に飛びつく。
言っとくが、君の所属は大湊(おおみなと)だからね。
視線を感じ、そちらを見ると戦艦のネヴァダがいた。
彼女は何故か赤い顔になり、ぷいとそっぽを向いた。
もっと人間関係……じゃない、艦娘関係をよくしないとな。
彼女の近くに行こうとしたら、ぐいと別の子に引き寄せられた。
おうっ!
豊かな双丘に顔が包まれる。
「雲龍さん、これはなんの真似ですか?」
布地の極めて少ない衣装をまとった航空母艦に問う。
「私の妹の天城はね。戦後人々の役に立つべく函館に来たの。」
「それは知りませんでした。」
「でもね、彼女は様々な理由からあまり役には立てなかった。」
「そうでしたか。」
「だから、二度目の機会をあの子に与えて欲しいの。呉第一鎮守府から呼んで欲しいの。提督の一言にはあの子を呼べるだけの力があるわ。その代わり、私の体を好きにしてくれていいのよ。提督の望んだことはなんでもするわ。どう?」
「雲龍さん。」
「ええ、なにかしら?」
「私は自分自身の立場を悪用する輩が大嫌いでね。」
「そう。」
「貴女も自分自身を売るような真似をしてはいけません。」
「提督だから言ったのよ。」
「私が相手でもです。」
「固いのね。」
「そういうことをしてはいけません。」
「好みだわ。」
「離してくださいませんか。」
「厭だと言ったらどうするの?」
「ウチが相手や。」
「「龍驤さん!」」
「ウチの大好きな人をようも好き勝手してくれたなあ。許さへんで。」
「どうするつもり?」
「演習場で勝負や!」
「受けて立つわ。このジョイスティックにかけて。」
「どさくさ紛れになにしとんねん!」
「これはとてもいいものよ。前から目を付けていたの。」
「せや。だから好き勝手に揉み揉みしたらアカンのや。」
「君たち、真っ昼間からなにを言っているんですかね。」
「その勝負、私が預ります!」
「「「鳳翔さん!」」」
「勝負といえば、味勝負。丁度姉川さんと老川さんが札幌にいます。あの二人に函館へ来ていただいて、公正に判定していただきましょう。」
「ええで、ウチがどれだけ料理をしてきたか教えたるわ。」
「呉の間宮さん直伝の秘伝の技を見て驚かせてあげるわ。」
「提督、料理はなんにします?」
「そうですねえ。ネヴァダさん、なにか食べてみたいものはありますか?」
「わ、私? ア、アドミラル! な、何故私に聞くの!?」
「一日も早くこの鎮守府に慣れていただきたいのと、おいしいものを食べていただこうという気持ちからです。」
「そ、そうね。ア、アドミラルはなにか料理を作れるの?」
「ええまあ、カレーくらいでしたら作れます。」
「じゃ、じゃあ、それが食べたいわ。」
「決まりですね。では味勝負はカレー対決! 龍驤さん、雲龍さん、提督の三つ巴の仁義なき戦いがここに繰り広げられます。」
「ちょっと待ってくれへんか、鳳翔さん。そないなことされたら、提督に手伝ってもらえへんやんか。」
「あら、そうでしたね。でも心配ご無用です。提督の助っ人はわ……。」
「ネヴァダがやるよ。」
「「「「ヨークタウンさん!」」」」
「ちょ、ちょっとヨーキー! なにを言っているの!」
「アドミラルと頑張りなよ。いやかい?」
「べ、別に、いや…………じゃない。」
「よし、アドミラルの支援は我らアメリカ隊が行わせていただく。よろしいか、ホーショー。」
「…………仕方ありませんね。」
「あたしも司令官を手伝う!」
「よし、キヨシモも一緒だ。」
「あっ!」
「どうした、ホーショー?」
「い、いえ、なんでもありません。では勝負は三日後。場所は食堂。足柄さんはカツ担当でお願いします。」
「任せといて! みなぎってきたわ!」
なんかあれよあれよという間に、とんでもないことになっていた。
あれ、また動けなくなった。
袖を掴まれている。
「アドミラル。」
真っ赤な顔のネヴァダが、私を睨みながら言った。
「戦うからには勝利一択よ。アメリカ人は勝つことに貪欲なの。」
「おいしいカレーを心がけますよ。」
「もし負けたら、私の言うことをひとつ聞いてもらうわ。」
「貞操以外でお願いします。」
「な、なにを言っているの!」
「よかった。エロいことじゃないんですね。」
そう言うと、何故か七面鳥のように顔色を変える金髪碧眼少女であった。
ふと気配を感じて振り向く。
武装メイドなロッタがすぐそばにいた。
「わたくしはいつもご主人様のすぐそばにいますよ。」
「あたしもよ。」
目線を下げるとアマーリエがいた。
なんだかどんどん賑やかになってゆく。
まるで魔王の手のひらで踊っているみたいな錯覚をおぼえる。
いや、弱気になってはいけないのだ。
みんなの過ごしやすい環境を整える。
それが我が仕事。
我が戦。
温もりを信じあう函館の仲間。
彼女たちのためにすべてを賭けて、やるぞ力の尽きるまで。
例え嵐が吹こうとも。
例え大波荒れるとも。
ドン!
「おうっ!」
「提督さん、私も精一杯手伝いますからね。愛情たっぷりのおいしいカレーを作りましょうね。」
いきなり抱きつかれた。
まさに、鹿島アタック。
積極的だな、この子は。
どんな対決になるやら。
振り向くと、ネヴァダが私を睨んでいる。
微笑むと、何故か赤い顔で去っていった。
なんかよくわからん。
年頃の子は難しいな。