はこちん!   作:輪音

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間接的表現を心がけましたが、食事中に読まれない方が無難かもしれません。
エグい話への耐性が低い方、又、想像力妄想力が高めの方はご注意ください。
何気にすっ飛ばした回になりました。

今回は三五〇〇文字程あります。



CCⅩⅠ:或いは、猟奇的結末に至るケッコンカッコカリ

 

 

明け方。

まだ日も差さない応接室で、茶を飲みながら小説についての打ち合わせ。

民明書院のトトメス二世さんと新作についての打ち合わせ。

艦娘たちを主役にした話が欲しいとの要望が打ち出された。

 

「第一巻は『駆逐艦の夏』、第二巻は『潜水艦の匣』、第三巻は『ヲ級の骨』で如何でしょうか?」

「何処かで聞いたような題名ですが。」

「ライトノベル界隈は熾烈な競争ですからね。提……先生の書かれる作品は少々難解と言われているでしょう。そこんとこをもう少し突っ込んだ感じの話はどうかと思うのですよ。」

「香蘭社さんに怒られるのがオチじゃないですか?」

「なに、もう少し読者層に受ける題名が見つかればそちらに差し替えます。」

「いいんですかね?」

「話題性が無いと、あっという間に失速しますから。先生には、学生層より歳上である社会人層を引っ張っていただきたいんです。」

「まあ、そっちの方がやりやすいです。」

「取り敢えず題名はカッコカリで、艦娘小説を書いておいてください。そうですね、今は比較的安定しているんですよね?」

「残念ですが、そうした情報はお伝え出来ません。」

「まあ、それはうち専属の草に任せておきますか。」

「ほう。」

「来月までに五〇枚はいけます?」

「ちょっと難しいですね。」

「東京を含む、関東圏のおいしい和菓子洋菓子を掻き集めてきます。」

「う~ん。」

「では、稀少な調味料も調達しましょう。」

「なんとか頑張ってみます。」

「しれっと交渉上手で御座いますな、お代官様。」

「なんの、主ほど真のワルではないわ、越後屋。」

「「うはは。」」

「では先生、こちらのこねこやのどら焼きはお早めにお召し上がりくださいね。」

「いつもありがとうございます。もうすぐに帰られるのですか?」

「函館観光したいところですが、出来ないところが宮仕えの厳しい定めですね。」

「ではせめてものお土産に、間宮羊羹と月餅とクッキーの詰め合わせをどうぞ。」

「あ、これ、大人気なんですよ。市販されないんですか? きっと売れますよ。」

「原料を厳選して作っていますから、大量生産には不向きなんです、これらは。」

「ありがたや、ありがたや。」

「アップルパイも付けておきますね。」

「これはどなたが?」

「近所のパン屋さんで今朝焼かれた品です。おいしいですよ。」

「おお、流石は『食の都』。隠し球が沢山ありますね。」

「港までうちのポインターで送らせます。」

「ありがとうございます。ではまたメールを送りますね。」

「はい、ではそのように。」

「長寿と繁栄を。」

「長寿と繁栄を。」

 

 

 

「うわぁ。」

 

思わず声が漏れる。

その現場写真群は江戸川乱歩翁的というか、横溝正史翁的というか、両者が喜びそうな雰囲気に溢れていた。

ちなみに、水木しげる翁がそういった写真を随分と集めていたそうな。

これを見るのが朝食の前でよかったというか、なんちゅうか、本中華。

 

「これが、ここ半年以内に艦娘たちと性的にこじれて亡くなった、提督たちのむくろです。」

「うわ、これ、ねじ切られていますね。」

「ああ、これはですね。関係した駆逐艦たちに取り押さえられた提督が、散々懺悔しながら……。」

 

 

妙に詳細な説明を受け、ぐったりした気分で食堂へ向かう。

ちょっと胃がむかむかしているけれども、なんとか食べられないこともなさそうだ。

だいぶん慣れてきたみたいだ。

臓物をぶちまけろ! 的な写真もあったが大淀は平然としている。

彼女が話しかけてきた。

 

「提督たちの補充を強化している大本営ですが、教育は上手くいっていないようですね。」

「艦娘の脅威がきちんと説明出来ていないのでしょう、おそらくは。」

「胸部の大きさがどうこうと無礼な発言をして、駿河問いの刑に処せられた提督も何名かいます。」

「その提督たちはどうなりましたか?」

「今現在も生存は確認されています。」

 

食堂が見えてきた。

喧騒も聞こえてくる。

中へ入ると大混雑していた。

所属艦娘の員数を遥かに超えちょるがね。

 

「多いですねえ。」

「提督を失った艦娘たちもいますから。」

 

ヤった、とは言える訳がないもんな。

ここで身元を一度きれいにして……。

……。

さてと、いつもの中華粥にしようか。

李さんにお嫁さんの世話をしようかと思っているのだが、はにかみ料理人の彼は恥ずかしがってなかなか話に応じてくれない。

その李さんは周りの艦娘たちに丁寧に説明しながら、見事な腕前を披露していた。

 

私に気づいた彼はぺこぺこ頭を下げる。

止めて欲しいのだが、なかなか聞き入れてもらえない。

彼は意外と頑固なのだ。

そんな彼は、繊細な料理を生み出す魔法使いだ。

先日の出張は、彼に大きな刺激を与えたらしい。

鳳翔間宮も彼に負けまいと、日々研鑽を積んでいる。

よかたいよかばい。

中華粥を受け取る。

ふわっと海の香りがした。

今日は魚粥か。

昨日は鶏粥だった。

付け合わせとして添えられた、彼お手製のピータンやザーサイなども旨い。

添えられた小盛りの上海風焼きそばはあっさり目の味付けで、あんな写真を見た後でも普通に食べられた。

おそるべし、李さんの魔法。

集客に悩むホテルや料理店からの引き抜き合戦が今も多いのも、大いに頷ける話だ。

生搾りの林檎果汁水を飲み、ほっと一息。

国産烏龍茶のやさしい味わいもよかたい。

 

食べ終わるのを待っていたらしい、大井が近づいてきた。

彼女はしっかりしていて、潰滅した某鎮守府の艦娘たちを率先して鼓舞しまとめてきた経緯がある。

そうした艦娘たちをまとめ役に任じて戦闘群(カンプ・グルッペ)を形成し、教官に鍛えてもらっていた。

新しい鎮守府が出来た時に、彼女たちの力は大いに役立つことだろう。

そして、その提督とより良い関係を構築してもらいたいと考えている。

 

「提督、身体検査の件ですが、今お時間はよろしいでしょうか?」

「ええ、いいですよ。……身体検査?」

「ええ。……大淀さん?」

「今日、これから、提督にお話する予定でした。」

「身体検査は今日の午後からですよ、大淀さん。」

「あまり事前に話すと、先手を打たれて自衛隊駐屯地に行かれたかもしれませんから。」

「それはまあ、そうですけど。」

「あの、話が見えてこないのですが。」

「今日から三日の予定で、艦娘たちの身体検査を実施します。」

「その、艦娘って、身体検査が必要なんですか?」

「車だって、車検がありますよね。似たようなものです。」

「それもそうですか。」

「あの、提督には立会人をお願いしたいのですが、大丈夫でしょうか?」

「立会人? 剣術試合の?」

「シグルイも御前試合もやりません。普通に艦娘たちが検査されるのを見ていただくだけでいいんです。」

「まあ、それくらいでしたら。」

「では、おおよそ六〇〇名の艦娘たちに通達しておきますね。」

「ちょっと待って、大淀さん。数字がおかしい。」

「提督に体の隅々まで見られるのは、なんだか恥ずかしいですね。」

「ちょっと待って、大井さん。なんだか妙なことを口走っておられますが。」

「大丈夫ですよ、提督への物理的接触は厳に戒めていますから。」

「安心材料がそもそも無いですね。」

「眼福でしょう、もっと喜んでいいんですよ。」

「眼福と考えていたら、首が空を飛ぶんじゃないですか?」

「それでは、私はこの辺で失礼します。」

 

彼女は入浴道具を脇に抱えていた。

 

「これからお風呂ですか?」

「ええ、じっくりねっとり見つめられるんですから、磨きをかけませんと。」

「そんなことをしたこともありませんし、するつもりもありません。」

「ふふふ、即答されるなんて、提督は照れ屋さんなんですね。」

 

食堂を出ると、風呂に向かう艦娘がけっこう多い。

大井だけではないらしい。

複数の鎮守府警備府泊地の子をまとめて一気に検査するらしいが、よそのおっさんにマッパを見られたら困るのではないだろうか?

大淀に聞くと、既に混浴で見られているし別段問題ないという。

問題だらけじゃん!

私がどれくらい興奮するかで、自分自身の提督と比較する娘もいるそうな。

訳がわからないよ!

ふと気配を感じて振り向くと、航空戦艦とイタリア戦艦がいた。

 

「近々君の鎮守府に配属となるから、よろしく頼む。明日は君にすべて見られることになる。恥ずかしいな。」

「今まで何度も見ていますよ。……この函館に所属? 貴女が?」

「フラれて追い出された。同業者に負けたということだ。」

「は?」

「提督、私も函館所属になるからよろしくね。」

「えっ? 小樽はどうなるんです?」

「あっちはガングートが配属になるの。」

 

なんだか大変なことになってきちゃったぞ。

 

 

 


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