はこちん!   作:輪音

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この世にて生きる艦娘たちは
歴戦艦も新造艦もどの艦種も
さみしいココロ持つ娘ばかり
そんなココロの隙間を埋める
提督候補生たちを集めました
なになに、お代はいりません
皆様の笑顔こそ報酬なのです
契約をたがえなければ大丈夫
さてさて艦娘ライフのために
素敵提督さんを探しましょう
わたしの名はニャルラトホテプ
人呼んで『這い寄る混沌』です
または運命神リーネンカーモン
わたしの取り扱う品物はココロ
人や艦娘のココロで御座います
オーッホッホッホッホッホーッ
ドーン!
ゲート・オブ・バビロン!




CCⅩⅢ:天龍さんと提督候補生

 

 

 

 

「お前、俺の提督になれ。」

「はい?」

 

函館鎮守府内の大きな講堂。

三〇〇名ほども艦娘がいる。

全員、ジャージを着ていた。

僕は妖精が見えるということで、提督候補生になれる資格を得られた。

得たんだけど、流石に中学一年生じゃすぐすぐ提督になれる筈も無い。

早めの春休みを貰い、艦娘たちと契約してじっくり提督になるらしい。

一部の人たちが『学徒出陣』の前例になるって怒っていたけど、国土が焦土になってからじゃ遅いんじゃないかな?

今回は僕みたいな学生ばかりが集められていて、艦娘たちと交流していた。

 

僕の目の前にいるのは眼帯を着けたお姉さん。

ええと、天龍さんだったかな?

 

「おっと、自己紹介がまだだったな。俺の名は天龍。ふふ、俺と契約して魔法乙女になるがいいぜ。」

「あの、僕、男子ですが。」

「おう、ぽっちゃりしていて旨そうじゃないか。」

「僕、食べられませんよ。」

「ウマソウだ。ほれ、未来少年に出てくるだろ。」

「え?」

「なんだ、知らねえのか。後で一緒に見ようぜ。」

「は、はい。」

「よし、決まりだ。これからはお前が俺の提督だ。覚えておけ。」

「はい、よろしくお願いいたします、天龍さん。」

「かてえなあ。かてえのはここだけでいいんだ。」

「あ、あの。」

「大丈夫、後で『親交会』をしようぜ。」

「え、あの、その。」

「心配すんな。俺に任せておけ。全部教えてやっから。」

「はい。」

「ちょっと天龍。」

「なんだよ、曙。」

「そいつ、あたしたちも目をつけてたんだけど。」

「じゃ、みんなで一緒に幸せになろうよってか。」

「もう! そういうアニメネタは本来この漣(さざなみ)の本領なのですよ。なあ、やらないか?」

「ふぁ?」

「漣、手付きエロ過ぎ。ほら、この子、怯えているじゃない。」

「ぼのたん、ええかっこしいやね。」

「ぼのたんゆうな!」

「はいはい、あんたたち。その辺で止めときな。ここの曙がこっちを見てるよ。私は朧(おぼろ)。別名、ミラージュ。レッド・ミラージュって呼んでもいいわよ。」

「なんであんたが、『最強の幻想』を名乗るのよ。」

「いいじゃん、目標は高く果てしなくよ。ほら、潮(うしお)も挨拶しときなさいな。」

「あ、あの、潮です。よろしくお願いいたします。」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」

「あっれー、ご主人様、さっそく『魔性の潮』のおっぱいをガン見しておられるで御座る。」

「え、あの、ええと、すみません。」

「中一じゃ、仕方ないわよ。」

「くう、なんも言えねえ。」

「台詞の使い方がおかしい。」

「よし、水雷戦隊が出来たことだし、函館提督のとこへ登録に行こうぜ。」

「「「「おう!」」」」

「は、はい。」

 

 

艦娘たちに引っ張り回され、てんてこ舞いに陥った。

賑やかな集いも終わり、あてがわれた部屋に入った。

 

「あ、あの。」

「なんだ?」

「天龍さん、ここ、僕たち提督候補生の部屋なんですけど。」

「知ってる。」

「その、艦娘の皆さんにはそれぞれの部屋があるんですよね?」

「そうだぜ。」

「そろそろ戻らないと不味いんじゃないですか?」

「気にすんな。」

「あ、あの。」

「なんだ?」

「その、天龍さん。不味いですよ。」

「気にしない、気にしない。窓から出ていくから問題ねえよ。」

「あ、あの、天龍さんはどうして僕を提督に選んだんですか?」

「それを今から、じっくりと教えてやるよ。ふふ、こわいか?」

 

 

 

大本営も手段を選ばなくなってきた。

彼らと連携した横須賀がかなり横槍を入れてきたけれども、呉へ若人(わこうど)たちを送る手筈が整えられて一安心だ。

あそこには先輩がいる。

上手いことをしてくれるだろう。

初期案がなんともえげつなかったからな。

目の前には天龍。

ケッコン経験のある、歴戦の軽巡洋艦だ。

ケッコン経験艦娘もかなり減ってきたな。

彼女はニコニコしている。

余程嬉しかったのだろう。

艦娘にとって、相性のいい提督と一緒にいられることはなによりの幸せなのだから。

話を振ってみる。

 

「かなりのアタリを引いたみたいですね。」

「おう、シンクロ率八割以上ってとこか。」

「それは素晴らしい。ですが、あまり派手に動かないでくださいよ。あなたのような武勲艦の動きは、よくも悪くも影響範囲が大きいんですから。」

「わかってるって。」

「今度は『壊さない』でくださいよ。お願いしますから。」

「えへへ、それもわかってるって。」

「いきなりあんなことをするのはちょっとねえ。」

「なんだよ、提督と一緒に名作アニメの鑑賞会をやっただけじゃないか。知ってるか? 天空の城の話って、未来少年の後の世界なんだぜ。あの特務眼鏡がインダストリア行政局長の子孫とはねえ。最初知った時はびっくりしたもんだ。俺が好きなのは船長だがよ、ああいう奴は面白いよな。」

「そういうことにしておきますか。」

「そういうことにしておいてくれ。」

「で、実際、どうです?」

「潜在能力は高いと思う。あっという間に水雷戦隊が出来たしよ。他に艦娘が増えるかも知れん。早めに呉へ行った方がいいかもな。」

「艦娘が七名以上になったら、早急に呉へ異動してもらいましょう。出来ますよね、大淀さん?」

「はい、手続き用の書類は既に用意してあります。」

「じゃあ、俺はこれからアイツと朝飯に行ってくるぜ。」

「『食べ過ぎ』にはくれぐれもご注意ください。」

「わかってるって。昨日はついつい気分が高揚しちまってよ。」

「では、よろしくお願いいたします。」

「おう、任しとけ。」

 

何故かこのあと、大淀からぎゅっと腕をつねられた。

そして。

函館所属の艦娘たちから妙な誘惑をされたのだった。

解せぬ。

 

 

朝起きてジャージに着替えると、天龍さんと第七駆逐隊の子たちが迎えに来てくれた。

これから一ヵ月半の訓練を経て、二年生に進級したらいわゆる『週末提督』になる。

場所は広島県の呉。

提督関連の施設が一番充実している地域だ。

艦娘と学校に慣れなきゃ。

呉鎮守府に仮所属しながら提督業務を学び、先輩提督たちからいろいろ教えてもらうのだ。

大学は選択式。

 

やさしい天龍さんが僕には付いている。

駆逐艦たちも一緒だ。

もう、なにもこわくない。

 

 


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