はこちん!   作:輪音

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CCⅩⅩⅥ:提督研究会

 

 

横浜アリーナを埋め尽くすが如き艦娘たちの群れ。

それはまさに群集。

大規模作戦でも展開するのかと言えそうな程、艦娘たちが殺気だっている。

いや、真剣に話へ耳を傾けているだけだ。

そう信じたい。

 

「はい、では皆さん、お手元の資料を見ながらお聞きください。」

 

最近ええ男を捕まえたばかりの練習巡洋艦が、にこやかに教鞭をぶんぶん振った。

亜音速の刄が周囲の羽虫を斬り刻む。

それに気付かぬまま、説明に移った。

 

「では、まだ艦娘と接触していないけれども提督の資質がある人物の紹介に入ります。」

 

巨大映写幕に投影された人物たちを説明する眼鏡っ子巡洋艦。

その言葉に淀みは無い。

私は大淀と共に演壇近くのパイプ椅子に座りながら、なんで函館からわざわざ呼ばれたのだろうと自問自答する。

 

提督候補者たちの簡単な説明がされる。

妖精くノ一隊の働きは皇室忍群を上回る程だ。

大本営広報課の青葉衣笠姉妹の諜報活動もなかなか鋭い。

既に誰か接触しているかいないか。

性格はどうか?

残虐性や卑劣な気質はあるか?

嘘つきか否か?

趣味嗜好はなにか?

女性の好みはどうか?

童貞か否か?

現在進行形で付き合っている同性異性は存在するか?

食べ物の好みは?

モテるかモテないか?

浪費家か?

変態性はありやなしや?

艦娘に好意はありやなしや?

浮気性か?

絶倫か?

 

質疑応答はすべての説明が終わった後だ。

 

説明が小学生に入ると、キャアキャアと歓声を上げる娘たちが増えた。

適性と気質と希望と要望と欲望その他。

様々なものがどろどろと積み重なって、提督になる者をじわりじわりと蝕んでゆく。

 

 

若くて自信家で差別的で高圧的な若手提督を見てきたためか、転属希望の駆逐艦は意外と年配の提督を選ぶ傾向が強い。

性的に花開いていない娘たちが保護者を願うような感じだ。

単に歳上好みな場合もあるので一概には言えないけれども。

 

転属希望の戦艦は、自分を評価してくれそうな質実剛健系提督を選ぶ傾向が強いように見える。

 

転属希望の空母系艦娘は、堅実安定的提督を選ぶ傾向が強いように見える。

 

一部の巡洋艦系艦娘や駆逐艦は、小学生や中学生を選ぼうとすることに強い意欲が示されることもある。

理由はよくわからない。

おとなしくて可愛い感じの子が特に人気である。

弟を望むようなものか。

逆光源氏だ。

たまに戦艦や空母の艦娘が、これに強い意欲を示すこともある。

おそらくは個体差なのだろう。

 

「それでは、これより函館鎮守府の提督による講演を行っていただきましょう。題して、『艦娘から提督へ接触する際の留意点その他』です。提督、お願い致します。」

 

いきなり、練習巡洋艦がとんでもないことを言い出した。

謀ったな、シャア!

傍らの大淀をじっと見つめる。

 

「事前説明したら、理由を付けて逃亡されたでしょう?」

「当たり前です。」

「皆様、拍手を!」

 

途端、沸き起こる万雷の拍手。

致し方なし。

そうして、私は日々鈍感であるかのように演じる提督たちへのやさしい対応を願いつつ、艦娘たちへ切々と語り始めることにした。

よりよき未来になればいいなと思いつつ。

今夜は焼鳥を食べたいな、と考えながら。

 

 


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