我が函館鎮守府内の厨房がおそろしいことになっている。
雑誌やテレビジョンくらいでしか知らないような有名料理人たちが、気合いバリバリで飯を作っている。
南蛮人や紅毛人や金髪碧眼の人間などもいて、万国博覧会かここは。
複数の鳳翔に間宮、伊良湖に速吸に雷に古鷹に夕雲に大鯨に……。
あれ?
俗に『お艦』とか『お母さん』とか呼ばれる艦娘が勢揃いしている感じだ。
それに全国各地並びに各国の料理人が引き寄せられたってところかな。
うーん、なんとも贅沢な布陣だ。
あれ?
先輩?
呉第六鎮守府提督の先輩がいる。
なして?
「ワシ、人質やねん。」
「はい?」
一体全体どういうことだ。
「決起したのです、私たちは。」
「間宮さん?」
「あー、大本営の間宮なんじゃ、彼女。」
「一番ここにいたら不味い類いの艦娘じゃないですか!」
「大丈夫、大丈夫。一番のんきでマイペースで最強提督の函館提督が保護しとんじゃ。誰も手は出せんて。それに、彼女は前にも来とるがな。」
「なにげに酷いこと言いますね、先輩。まあ、滞在をむげに断る訳にもいかないでしょう。」
「あんなあ。」
「はい。」
「頼られたら断れない性格、なんとかした方がええで。」
「なによおんで、先輩! たーけたことよーたらおえりゃあせんが!」
「まあ、そげん怒らんでええが。」
「えくねえです!」
「そげなか。」
「そうですよ!」
「ま、気にしょうたらおえんわ。」
「おえんのは貴方ですよ、先輩。」
間宮たちから話を聞くと、先日の『提督めしコンテスト』に憤慨した彼女たちはこぞって函館へ逐電したのだという。
な、なんだってー!
「気合い入れるわよー!」
「「「「おーっ!」」」」
群馬名物の焼きまんじゅうを食べながら、彼女たちは勇ましく叫んだ。
これ、けっこう旨いんだよな。
黒糖などを使った濃厚な風味の味噌ダレをかけた、餡なしまんじゅう。
おっ、これは餡入りか。
旨い旨い。
大本営と四大鎮守府は、揃って程なく白旗を上げた。
徹底抗戦するつもりだった厨房の艦娘たちの怒りを知って、歴戦の提督たちが皆おののいたという。
まあ、そうなるな。
次々に使者が訪れたけれども、私は不干渉を貫いた。
薮をつついて蛇が出てきても困るからな。
函館鎮守府は現在関東圏味覚祭になっていて、水沢うどんやら宇都宮餃子やらが乱舞する事態だ。
風の強い午後の執務室。
千葉の南京豆や埼玉のはにわさぶれを食べつつ、合間に焼きまんじゅうを頬張る。
焼きまんじゅうって、なんだか癖になりそうな味だな。
先輩たちはまだ函館にいて、今日はお好み焼きを作っているらしい。
後で食べさせてもらおう。
先輩の作るお好み焼きは、なまら旨いからな。
川越産の薩摩芋を使った芋けんぴを食べ、岡山県産の煎茶を飲んでから大淀が言った。
「厨房の艦娘たちが労務提供拒否したら、人間たちはことごとく白旗を掲げましたね。」
「意外な弱点でした。」
「あんな姿を全国に晒したんですから、艦娘たちが怒るのは当然です。」
『提督めしコンテスト』の評判は悪く、審査員たちの傲慢さはネット上で炎上する程だった。
だから出たくなかったのに。
出場した提督たちの釈明に納得出来なかった厨房担当の艦娘たちが、ここにいるって訳だな。
「君たちには失望したよ。」と、平坦な調子で提督たちにのたもうた艦娘もいたそうな。
「まだまだ追い込みますよ。」
キラキラリ、と眼鏡を光らせて大淀が宣言する。
彼女の周囲にいる妖精たちがオーッ! と叫ぶ。
お手柔らかに願いたいものだ。
翌日。
四大鎮守府からどんどん艦娘がやって来てしまい、大変困った事態に陥った。