はこちん!   作:輪音

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CCⅩⅩⅨ:大井っち、更に困惑する

 

 

 

私が大井という軽巡洋艦級艦娘にメタモルフォーゼして、一ヵ月半経過した。

おっさんが美少女になるという、この驚くべき展開を戦前誰が想像し得たか?

いや、いない。

原料が男の場合に建造すると艦娘乙種へと変化する訳だが、その乙種は九割以上が駆逐艦なのだとか。

しかも、その駆逐艦たちは均質的な性能になるのではなく、まるで乱数で決められたかのような激しい個体差がしばしば発生するらしい。

口の悪い者は『どんぐりの背比べ』と評するようだが、それでも体力値に最大約八倍差が生じるのはある意味おそろしいとさえ思う。

乙種Ⅲ級、乙種Ⅱ級、乙種Ⅰ級と区分けされているなどという、口さがない噂まである程だ。

その細かく仕分けされた等級によって、所属先が決まるとかなんとか。

まさか、な。

でも、そう言えば私は先日熱烈に勧誘されたけれど、他の同期は……。

う~ん。

 

私の時が特に酷く、まるでテーブルトークRPGでファンブルを繰り返したかのように低性能な個体が量産された。

建造器の近くにいた役人や軍服連中などの小さな舌打ちが、何度も何度もかすかに聞こえてきた。

知っているか、人間のヒトたち。

艦娘の聴力って人間以上なんだ。

みんなにあんたらの舌打ちが聴こえているんだよ。

そいつらを思わず建造器の中に突っ込みそうになったことが、何度あっただろうか。

彼らというか彼女たち同期生はごくごく短期的な訓練の後に泣き喚きながら容赦なく初陣を強制的に経験させられ、その殆どがまともに砲撃も出来ないままに沈んだという。

生き残った彼女たちも、二、三発明後日の方に撃っては殆どが敵駆逐艦の的になったとか。

虚実入り乱れて、どこまで本当のことだかよくわからない。

デマゴギーだと信じたい。

 

あいつら、何発か撃ってもいいですよね?

執務室で秘書艦業務の傍ら。

そう言ったら、提督がひきつった顔をしていた。

ちなみに、先輩にあたる北上や駆逐艦たちも殺る気満々だった。

人間どもめ。

早急な広域海域の解放が必須項目なのは理解出来るが、だからと言ってそれが犠牲者を増やしてよい理屈にはならないだろう。

犠牲者を増やす連中が正義を唱えるのかと思うと、吐き気さえしてくる。

正義、って一体なんだろう?

 

 

数多のシカバネの上に平然と立てる連中のハラワタを引き摺り出してヤリタイ。

オロカナ、オロカナモノたちめ。

 

 

あいつら、魚雷の的にしていいですよね?

提督に進言したら、真っ青な顔をされた。

過激なことはしないで欲しいと、泣いて頼まれた。

むう、残念無念ナリ。

みんな殺る気満々だったのに。

提督を泣かせるつもりは無かったので、大丈夫ですよと微笑んでおく。

人間どもめ、と何の気なしに呟いたら何故か更に怯えられてしまった。

失敗、失敗。

 

近日に迫った函館へのお使い任務を頑張ろう。

楽しみだと言ったら、北上がすんごい目をして私を見つめた。

失敗、失敗。

だはは。

ゴメンね、北上さん、と言ったら途端にデレデレされた。

ふっ、チョロい。

 

北上に抱きつかれながら、眠れない夜を過ごす。

あちらではなにを食べようかな?

李さんの中華粥に鳳翔さんのフレンチトーストに間宮さんの羊羹。

それから……それから……。

あちらの提督の手料理も密かな人気とか。

『提督めしコンテスト』で出された定食。

あれもおいしそうだった。

大本営広報課が作った『北の国おいしい指南書』を、何度も何度も読み返してしまった。

小樽市内のロシア料理店群や東欧諸国料理店群にも、一度は行ってみたい。

釧路のヒトたちはイクラをふりかけみたいに食べるそうだが、私もやってみたい。

北上が行こう行こうと熱烈に誘ってきたので、行けたら行こう。

たまには誘いに乗らないと、ずっとずっと不機嫌になるからな。

女の子って難しい。

女の子に成り立ての自分では、わからないことだらけだ。

どういう下着がいいんですかね、と提督に相談したらあたふたされた。

函館の提督に相談してみようかな?

 

ぼんやり考えている内に、気づいたら明け方近くになっていた。

幼児のようにはだけた胸でチューチューする北上を叩き起こし、哨戒任務の用意を始める。

 

さて、今日も殺りますか。

ふふふ。

 


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