潜り込めるか
鉄壁の函館
守る騎士王大淀
攻める妙高先生
提督と彼女には
過去があった
提督を
手強い提督を
愛しい人よ
私は貴方に会いたかった
Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか
中森明菜の『スローモーション』と『セカンドラブ』を熱唱する。
場所は函館鎮守府内の講堂。
これで五回目のやり直しだ。
市内女学園の吹奏楽部に全面協力してもらい、懸命に歌った。
リテイクが出る度、演奏している女学生たちに詫びを入れる。
間宮の淹れてくれたお茶で喉を潤しながら何度も何度も歌う。
マスター・オータムクラウドのダメ出しは意外に厳しかった。
横須賀第一鎮守府から来た彼女の仕事にかける情熱を感じる。
歌唱撮影後、好奇心旺盛な女学生たちから質問攻めにあった。
彼女たちが帰った後、今度は全国各地の鎮守府から訪れている『浪漫鹿鳴館』の面々より質問攻めにあう。
なんじゃい、これは。
ネヴァダから渡されたタオルで顔を拭く。
ふう。
拭き終わると何故か次々手が伸びてきた。
一体なにをしているんですか、貴女がた。
現在進行形で起きている事象に鑑み、全国各地の鎮守府で浮き足立つ艦娘たちの気持ちを安定させるべく、私は駆逐艦の秋雲たちや重巡洋艦の青葉たちに協力しようと決めた。
このままでは流石にいかんだろう。
放置は出来ない。
まさか私一人の判断行動で全国の鎮守府が崩壊するとは思えないが、出来そうな提案は採用するべきだろう。
ちなみにカレー対決は後回しになった。
私に出来ることなど大してない。
だからこそ、力を出せる場所があるならば能動的に行動すべきだ。
話し合いの結果として、『最終兵器提督』と題を付けられた艦娘系週刊誌『しゅうむす』の緊急特別企画號の発行が決められた。
これが私たちの打つ手だ。
だがしかしばってん。
予約だけで初版三〇〇〇部が完売とは、正直な所訳がわからない。
予約特典が効いたのかな?
増刷確定っておそろしい。
鵺の鳴く夜はおそろしい。
ひとりで二冊も三冊も買ってどうするというのか?
元艦娘の問い合わせが大本営の広報室に殺到して、一時は回線がパンクしたそうだ。
なんかよくわからん。
どこにそんな需要があるんだとうちの艦娘たちに言ったら、散々な迄に説教された。
呉第六鎮守府の先輩に相談したらゲラゲラ笑われた上、全面的に協力するように厳命を受けた。
さて、次は市内観光案内か。
洋式建築群、五稜郭、トラピスト修道院、トラピスチヌ修道院、大沼公園。
壬生狼の扮装をさせられ、街を歩く。
一体全体なんの罰ゲームだ、これは。
でも、移動するのにバス五台って意味がわからないよ妙高先生。
「ところで、何故先生がここにいるんですか?」
「足柄が粗相をしていないかと心配になりましたのと、提督の顔を見たかったからですよ。ふふふ。」
「先生、柔らかいです。」
「当てているんですよ。」
誰かの歌声が聞こえる。
かすかな響き。
せつない響き。
最後の魚雷が
撃てなかった海域
燃える砲塔
熱い大破です
市内での撮影は二日かかった。
映画かドラマの撮影だと思ったらしい一般市民の方々が、女の子たちからちやほやされる私を見つめてひそひそと会話をしている。
うん、一人きりでご飯を食べる人の話じゃないんだ。
あそこまで男前じゃないし。
湯煙の彼方にいる、元殺し屋の人の話でもないんだ。
あそこまで精悍じゃないし。
あの子は元艦娘だな。
段々なんだかそういうことがわかるようになってきた。
市内のとある温泉を借りきって、早朝からハードな撮影。
ふやけてしまいそうだ。
ハンドタオルだけにて最終防衛線墨守状態で撮影。
誰が得をするんだ、こんなの。
何故こんなに観衆がいるんだ?
入浴状況を延々撮影されて、おけつも撮影される。
「おけつをなんでそんなに撮影するんですか?」
「大丈夫です! 大丈夫です! チンギスハンの人もクウガの人もペロンと出していますけど、特に問題はありません! もう少しハンドタオルの面積を小さくしてください!」
「なにをゆーとりゃーすかね、おみゃーさんは。」
間宮特製のアイスキャンデーやフランクフルターを頬張った。
ローションをべっとり塗られてぬるぬるした。
なんだこれ。
シャワーを浴びたりベッドでごろごろしたり。
訳わからん。
妙にリアルな造形の哺乳瓶らしきものを吸う。
艦娘たちの為だ。
艦娘たちの為だ。
そう言い聞かせて撮影に臨む。
みんな、どうしてそんなに真剣な顔で私を見つめているんだい?
上半身になにも身につけていない状態で、超ロングインタビューを受けた。
風邪を引きそうだ。
へくし。
グラビアアイドルって大変だなと改めて感じる。
懐かしい気持ち苦い気持ち。
心中を吐露する。
心のトトロ。
トロお待ち。
なんちて。
ギリギリの攻防戦。
幾つか誤魔化した。
私にだって墓場に持ってゆく話は幾つかある。
「ところで何故貴女がここにいるんですかね、我が師匠の加賀さん。」
「ただの通りすがりの一航戦よ。是非とも覚えておいて愛しい弟子。」
「そうそう、横須賀第二鎮守府の瑞鶴さんが教官の後任なんて面倒だからイヤだ! ってかなり怒っていましたよ。」
「やりました。」
体験した、というよりは理解を超えていたのだけれども、あ……ありのまま起こったことを語るとこうなる。
私は普通のイメージビデオみたいな映像作品を作るのだと思っていたが、いつの間にか入浴させられていておけつを延々撮影された。
そもそも、おっさんのけつを見たい子なんているのかねえ。
みんなの視線が獰猛だった。
その上、上半身になにも着ていない姿でインタビューを長々と受けた。
実際、私もなにをさせられたのか今一つよくわからなかった。
頭が変になるかと思った。
催眠術とか島風の速さを超える、もっとおそろしいものの片鱗を味わった。
ま、我が小枝は断じて写していないそうだから、その辺りは信用しようか。
やれやれだぜ。