はこちん!   作:輪音

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『不健全鎮守府』の書き手たる犬魚様より許可をいただきまして、今回はちょいエロ展開なのであります。
あちら程の行間エロスはありませんが、幕間(まくあい)的な雰囲気を感じていただけましたら幸いです。


今回は五一二四文字あります。




CCⅩⅩⅩⅢ:れんせん!

 

 

負の感情は時として

人を狂わせるほどの

甘美なる毒薬となる

その毒性知らぬまま

美酒の如く飲み干す

後悔する判断力すら

酩酊して忘れ去って

千鳥足にて闇を歩む

本当に大切なものを

皆失ったとも知らず

愚かしきを分からず

小手先のみを信じて

暗い河に流されゆく

己は間違っていない

そのように誤認して

 

 

 

 

九州某県にある鎮守府。

武闘派の狂犬が揃っている軍事基地。

先日は四大鎮守府のひとつたる佐世保に喧嘩を売って、一部機能不全にまで追い込んだ。

その後、日本人大好きむにゃむにゃもにょもにょで曖昧にし、実戦を想定した演習だったと公式に発表した。

そうしたのだが、鎮守府関係者たちはみな実際になにが起こったのかを知っている。

狂犬的猟犬たちが高笑いしつつ、大型鎮守府の艦娘たちを駆逐したのを知っている。

 

春の夜半の、執務室に隣接する私室。

そこは女と男の匂いが充満していた。

ガスライターがシュボッと甘い火の息を吐き、眼鏡鬼畜系中間管理職のくわえた煙草の先端を赤く染める。

肺の奥まで煙を吸い込み、中年男は龍の息吹きの如くに煙を吐いた。

提督。

男はそう呼ばれる職務に就いている。

階級は中佐。

独身。

駆逐艦たちとすこぶる仲がよく、時折昼寝さえ共にしていた。

その中には将来ケッコンするつもりの者さえ存在すると、某重巡洋艦系消息筋は伝えている。

彼が関係した艦娘は複数に及び、今宵も二名と寝所を共にしていた。

爛(ただ)れた考え方を持ちながらも指揮能力はあるが故に、その男は提督の地位に踏みとどまれている。

国産並びに欧州経由の桃色映像作品を平然と部下たちの見ている前で購入する彼は、まさしくマスラオだ。

海外艦娘たちからの積極的誘惑に屈しないがためにその苛烈さは日毎にいや増しているが、今のところは首が物理的に繋がっている。

彼の首を狙う艦娘も存在するため、常に油断出来ない状況だ。

 

「本懐である。」

 

そう、彼は闇に向かって独り呟いた。

享楽的に刹那を楽しんでなにが悪い。

ツクリモノたちに囲まれた檻暮らし。

役得なくば、とてもやっていられぬ。

明石に頼んだオモチャも直入荷する。

江戸時代は同心がぶっちぎりで死亡率第一位の仕事だったけれども、今は提督がそれに該当する。

だから、なんだ。

匙加減を間違えてはかなくなってしまった奴らは、不幸と踊っちまったんだよ。

 

「ワシは死なん。死ぬものかよ。」

 

再び、彼は闇に向かって呟いた。

獰猛な表情で笑いながら。

 

 

 

「ねえ、提督。」

 

紫煙のたゆたう真っ暗な室内で、陽気な重巡洋艦が話しかけてくる。

 

「なんだ、鈴谷。」

「提督って普段は鬼畜で偉そうでエロくて自分勝手だけど、なんだかんだいってけっこうやさしいところがあるよね……あた。なんでオデコを叩くかなあ。」

「お前が随分と調子に乗っているからだな。」

「さっきまで提督に乗っかっていたけどね。」

「ふん、上手いことを言ったつもりか。」

「旨いものを食べに行くのは好きだよ。」

「じゃあ、これも好きなのか。」

「もう、しなびちゃってるね。」

「ちくわ大明神。」

「い、今聞こえたのは誰の声じゃ?」

「さ、さあ、あたしは知らないよ。」

「……仕切り直すか。」

「……そうしよっか。」

「お前が激しすぎるからじゃ。」

「提督だって激しかったよね。」

「なめるな。しかし舐めろよ。」

「アハハ、やっぱり提督だね。」

「夕張は失神したまんまじゃ。」

「提督が責めに責め立てたからじゃない?」

「ふん、実に弱っちいのう。」

「目が覚めない程責められたからでしょ。」

「こ奴はすぐいくからのう。」

 

 

禁煙だ健康だ、などと言っていた言論のために生産量が落ち込んでいた煙草だが、昨今の輸入不足もあって国内生産量は増量の傾向にある。

紅茶が年々増産されている今の状況と似ていた。

提督になったうま味のひとつが、物資の優先供給だ。

函館の提督は、市内の飲食店や食料品店などにも物資を回しているとか。

阿呆じゃのう。

 

近頃は物資の供給が安定化の様相を見せている。

煙草などの嗜好品をロアナプラにある闇市で買わなくてよくなったと喜ぶべきか、それともうま味が減ったと嘆くべきか。

煙草の包装は現在簡素化していて、半世紀前のそれに近い。

印刷も安めだ。

まるで、昭和四〇年代のようにも思える。

今の人類は半世紀前に逆戻りか。

数年内に昭和五〇年代相当の社会にすると政府は宣伝しとるが、まあ、無理じゃろうな。

街中での喫煙者が白眼視されるのは以前からだが、筒井康隆の『最後の喫煙者』みたいな事態には陥らないだろう。

おそらく。

投石も無いし、腐った卵やトマトをぶつけられることも無い。

たぶん。

なにがこわいとゆうて、自分自身を普通だとか善人だとか思い込んどる連中じゃ。

容易く煽動されて過激に叩きまくるのも、大概はそういった『正義の味方』じゃ。

正義って、なんじゃいな。

 

戦前まではふんだんに使われていたプラスチックも、今では高級素材になりつつあるらしい。

プラスチック軸の大量生産系ボールペンは供給量が格段に減り、元々一〇〇円の品が一時期一本一〇〇〇円くらいにまで高騰しとった。

今も鍵付きの硝子棚に入れて売っとる店がある。

当たり前にあちこちにあったモノが、いつの間にか高嶺の花になってゆく。

『安物』と無知な奴らに馬鹿にされていた品々が、『高級品』化してゆく。

普通に独りふらふら夜歩き出来たセカイは終わりを告げ、ある意味世紀末的なセカイが顔を見せとる。

ひっそりたたずむ個人文具店が盛況になったと聞いて、まっこと驚いたもんじゃ。

化学製品であるボールペンの替芯も今や貴重品となり、経費節減のためか万年筆を使う者が増えたという。

変われば変わるものだ。

もしかしたら、この世の終わりがじわじわ近づいとるのかもしれんのう。

 

有能極まる秘書艦の五月雨は、煙草のにおいを毛嫌いしておる。

このうまさがわからんのかのう。

街でも喫煙出来る場所は少ない。

戦前、大阪駅に行った時は駅舎前に吸い殻が沢山捨てられとって、こんなんだから嫌われるんじゃと思うとったが人の意識なぞそうそう変わるものでも無い。

時代が変化したのに意識を変えられない、または変えようとしない頑迷な連中の末路は哀れなものになるだろう。

歩き煙草をしていたり自転車に乗りながら煙草を吸っている人間が、バットのようなモノやバールのようなモノで襲われることもある。

喫煙者狩りとは実に物騒なことじゃ。

まあ、ワシなら返り討ちにするがの。

 

輸入があんまし出来んくなって飼料ががた減りになってしもうて食肉の供給がおえんくなった結果、地域によってはジビエな獣肉を推奨ようになった。

兎。

猪。

鹿。

熊。

ヌートリア。

その他。

獣肉はかなり癖があるから、他の肉と合挽き肉にしとるようじゃな。

化学調味料で誤魔化すのは常套手段。

人間の舌は簡単に騙されるもんじゃ。

『僕は食べ物にこだわりがあります』と誇らしげにゆうとる輩が、平然と混ぜもんだらけの果汁飲料水とか缶珈琲とかを誉め称えたりするからのう。

エスキモーが即席麺旨いと言うのとは、訳が違う。

別々に語らねばならぬもんを同列に並べるからおかしくなるのに、意図的かどうかはわからんがまぜこぜにする奴は存在する。

提灯持ちには気を付けんとのう。

昨日まで怒鳴っとった奴らが今日はにこにこしとったら、正直気持ち悪い。

猟師を残酷じゃなんじゃと非難しとったもんたちが、手のひら返し。

呆れる程にくるりくるり。

鯨肉を食べるのは文化です、と言うもんが鎮守府に来た時は思わず苦笑いしてしもうた。

佐世保を紹介したから、今頃はあちらさんに赴いて自説を熱心に述べとることじゃろう。

迷惑をかける奴は自己主張がやたらと激しくて人の話に耳を貸さんから、実に往生する。

そんなに言いたいことがあるなら、本でも書けばいいのに。

 

狩りガールゆうんが、この頃の流行りだそうじゃ。

そんなん、こないだの狩りの時にはおらんかった。

都市伝説?

都会だけ?

実質的には、役場の若いもんや警察官や自衛官やワシみたいなんがてっぽう持ってぱんぱん殺っとる。

おっさんまみれのちょい若いもん添え。

まあ、じいさんだらけよりはマシじゃ。

昔は因縁付けの爺いが多かったらしい。

いつの時代もどこにでも阿呆はいるな。

最近は『北関東猟師特例法』に倣(なら)って、『北九州猟師特例法』を制定しようとの向きもある。

東京都の都知事が遺憾を表明しとるが、現状を全然理解しとらん。

獣害がだんだん深刻化しとるのに、ちょっとも分かろうとしない。

時代の変化に対応出来ない政府なんぞ、地方にとっては害悪になりかねんからの。

ま、折り合いをつけて欲しいのが本音じゃが。

狸や狐や鴉は臭いが、食えんこともない。

香辛料を使い加工して、誤魔化すところがちらほらあるという。

どこまで本当かはわからんが。

 

函館の提督が都会の連中の非道さや狡猾さを怒っとったが、えげつない連中がおるからこそ大きな社会が成立するんじゃ。

大会社や総合商社がエグい商売をするからこそ、豊かな社会を形成出来るというに。

そういや、どっかの時計製作会社が売上不振の時計店を切り捨てて騒がれとったな。

 

日本の商社は世界的にえげつないのが知れ渡っとるけれども、外国では今まさに冷酷な程買い漁っとるいう話を聞く。

あまりにも地元民を怒らせて、殺された商社員も複数おるらしい。

まあ、自業自得じゃな。

おおかた、公衆の面前で地元民を罵倒でもしたんじゃろ。

 

経済的理由と政治的理由で踏み込めなかった『聖域』が、最近崩壊しつつある。

やりたい放題であちこちと癒着しまくっていた総合商社。

会長や幹部が醜態を晒した、公共放送を自称する放送局。

芸能界で各種多量発信型情報媒体に圧力をかけ続けていた事務所。

そうした悪徳の伏魔殿へ颯爽と乗り込んでゆく、東京地検特捜部。

時代が変わりつつあるのかもしれん。

或いは矛先かわしの一環かもしれん。

政府批判軽減化の可能性もあるしな。

わからんのう。

 

やたらと文句を言うことが権利と思うとる連中はなんやかんや喚いていたけれども、慣れてくるとそれらは当たり前になってくる。

人間はどんな異常にでも対応してしまうからの。

そしてどんどん過激化してゆく。

より強い刺激を求めて。

人間は簡単に麻痺する。

バブルの頃にいい目を見た連中も時々あれやこれや喚いとるが、あんまり喚き過ぎてたまに闇討ちされとる。

阿呆じゃのう。

 

この一年で、二〇万人以上が死亡或いは行方不明になっているという。

確認出来ているだけで、そのくらいの人々がいなくなっているという。

そんな話を、大本営にいる『知人』が話してくれた。

本当かどうかはわからん。

わからんから、せめて生きている内は楽しもう。

 

 

「おい、鈴谷、もう出んぞ。二桁なんて無理に決まっとろうが。痛い。痛い。今夜は打ち止めじゃ。止めろ。そして寝ろ。」

「ねえ、提督。」

 

鈴谷が俺に向かって微笑む。

ゾクリとする程の妖艶さだ。

 

「リシュリューやアイオワとヤったって、ホント?」

「このアホウ。海外の連中には手を出しとらんわ。」

「ふーん、その割には、英国駆逐艦の子と随分仲良さげに見えるけど。何度も何度もチューされたんでしょ?」

「あっちがじゃれとるだけじゃ。」

「ホントに?」

「そうじゃ。」

「岡山県総社市?」

「訳のわからんネタは止めんか。」

「じゃあ、サービスしてあげる。」

「痛い痛い、流石にもう出んわ。」

「出してよ、性戦士なんでしょ。」

「どこでそんなやり方を覚えた?」

「ちょっとエッチな●●●イト。」

「●ニ●イト?」

「なんでそうなるのよ。」

「全員、明日から閲覧禁止じゃ。」

「なんでよ?」

「天使の浜風ちゃんや暁ちゃんに、酷い悪影響を及ぼしたらどげんすんじゃ。」

「あはは、女の子の会話の半分以上はエロ話よ。」

「それはお前ら一部のもんだけの話じゃろうが。」

「駆逐艦の子たちだって、いろいろ知ってるって。香取先生が提督のやり方をあれこれ教えていたもの。」

「な? は? はあっ? おま、お前、鈴谷、そんな、そんなバカなことを……。」

「うっそピョーン。」

「スネークバイト!」

「ぐはあっ!」

「あ、あのなあ、い、言っていい冗談といかん冗談があるんじゃぞ。か、香取先生ネタは絶対禁止じゃ! 絶対にすなよ! ネタ振りじゃないぞ! 香取先生に彼氏がおるネタなども絶対絶対絶対禁止じゃ! やるなよ! やるなよ! やったら、即時に●河問いじゃ!」

「うくく、効いた効いた。」

「艦娘の回復力は化物か。」

「提督の回復力も化物ね。」

「こ、こらっ、やめんか。」

「やめませーん、ふふふ。」

「テイトクー、やりましょうよ。」

「ゲエッ、夕張! 復活したか!」

「逝くよ、夕張!」

「よくってよ、鈴谷さん。」

「「今! 必殺の! ツイン・キューティー・アタック!」」

「ぐはあっ!」

 

 

 

翌朝、大幅に寝過ごした中年男一名と艦娘二名は香取先生から正座説教を一時間受けた。

 

 


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