最初はもっと凝った話にする予定でしたが、こんがらがってしまったので簡単な構成で全面的に修正しました。
松輪泊地の提督と艦娘はいつの間にやら、変更しています。
以前いた、こんたまやおっさん艦娘たちはどうなったのか?
それは歴史の狭間に消えゆく、謎のひとつかも知れません。
今回は約四〇〇〇文字あります。
※一部加筆訂正しました(午前七時)。
「おい、漣(さざなみ)。起きろ。おい。」
「むにゃむにゃ、ご主人様、これ以上ヤられたら私は壊れちゃいます。むにゃむにゃ。」
「なにすっとぼけたこと言ってやがる。お前はとっくに壊れているだろうが!」
「褒めてもエッチなことしかしませんよ!」
「そこで何故威張る。」
「提督の初物をいただいたからに決まっているでしょう。」
「初物ゆうな。」
「ドーテー?」
「茶番はいいから、早く離れてくれ。今日はここ松輪泊地司令官として、陸海空混成部隊たるマトゥア基地のお偉いさんと話し合いだからな。」
「あの、それがですね。」
「なんだ、早くしろよ。」
「抜けなくてですねー。」
「はあっ? 痙攣してんのか、そこ?」
「イヤー、まいっちんぐですね。」
「冗談こいてる場合じゃないぞ。」
「弛緩剤を打ってもらったら一発なんですけど。」
「ウソだろ?」
「ウソじゃないんだな、これが。」
「向こうの軍医に頼むって訳にもいかんしなあ。」
「ご主人様。」
「なんだ?」
「こういう時は、素数を数えたらいいんですよ。」
「サーザーナミー!」
「ご……ご主人……様、そ、そういう……プレイはまた……今度に……しましょう。」
「あーあ、えらい目に遭った。」
「死ななくてよかったですね。」
「まったくだ。」
「死んじゃう人もいますし、死んじゃった提督の死因でも上位らしいですよ。」
「は? 艦娘にヤられたって話はそっちなのか?」
「どっちなんですかね。ご主人様はどっちがいいですか?」
「殺すなよ。」
「私は毎晩ヤられていますけどね。」
「しかし、ロシア人たちもよくこんな島に基地を作ったよな。」
「対地攻撃型ヘリコプターを惜しみなく投入していますしね。」
「ハインドだけじゃなく、ハヴォックの最新型もあったしな。」
「対深海棲艦攻撃能力が一定数、もしくはそれ以上あるんでしょう。おそらく。」
「ええっと、ロシア語で黒い鮫を意味するチョールナヤ・アクーラもあったな。」
「単座ヘリで、北大西洋条約機構側の名称がホーカムでしたっけ。」
「戦闘ヘリの見本市って感じだ。」
「バレてもかまわないってとこが、実に太っ腹ですよね。」
「まさかスペツナズの連中とお前が仲良くなるとは思ってもみなかったぞ、漣。」
「ムフー、もーっと誉めてもいいんですよ、ご主人様。」
「何人も相手にしていたのに、全員ノしてしまうんだからな。」
「ふっふーん、訓練されたとは言え、人間に後(おく)れを取るようでは到底深海棲艦とは戦えませんからね。」
「ところで、函館に頼んだ艦娘の件はどうなっている?」
「大本営が情報流出の可能性をごちゃごちゃ言っていて、大淀さんがバールのようなモノかエクスカリバーのようなモノでちょめちょめしてくれたんですけど、その後艦娘乙種を送ろうとか言い出してまたどつかれていましたね。」
「アラスカ方面へは一向に進軍出来ていないしな。あそこまで行けたら、カナダを経由してメリケンに連絡が取れるのに。」
「第五次気球作戦も失敗しましたしね。島の近海は敵駆逐艦級しか出てこないのでなんとかやれていますけど、稀にメリケン艦娘の装備らしきちっちゃな残骸が漂着していますね。九割九分九厘は、ロシア軍が目の色を変えて回収していますが。」
「メリケン側も上手くいっていないんだろう。共同戦線が張れないのは痛いな。それと、敵さんに高高度迎撃機があるのにはびっくりしたなあ。」
「大淀さんによると、駆逐艦三名、軽巡洋艦一名、軽空母一名をなんとか捩じ込んでくれるそうです。」
「おお、そいつはありがたい。で、いつ来れる?」
「時期未定です。」
「……まあ、そうなるな。で、ロシア艦娘の開発ってどうよ?」
「わかりませんねえ。明日の晩御飯はスペツナズの人たちと食べますから、その時にでもそれとなく聞いてみます。」
「お、おう。」
「日露交流協定だかで泊地建設権をもぎ取ったまではよかったが、ロシア軍のマトゥア基地側に作ってもらう破目に陥るとは思わなかった。しかも、やたらに手際がいいんでやんの。」
「完全に手玉に取られていますよね。以前の泊地は更地になっていましたし、前任の提督や艦娘乙種たちはどうなったのやら。」
「流石に向こうから推挙された事務員は全員断ったがな。」
「可愛い子ばっかりでしたね。」
「おう、日本人好みっぽい子を揃えていてびっくりした。」
「そういうとこがおそロシア。」
「ウクライナの子もベラルーシの子も可愛かったなあ。」
「東西ロシア帝国が協同作戦しているってことなんでしょうねえ。」
「仕掛けられた盗聴器は発見出来たか?」
「執務室以外のは、全部処理しました。」
「よし、それでいい。」
「焼酎が大人気だったな。」
「ほんと、よく呑みますね、ロシア人って。」
「アルコールだったらなんでも喜ぶって聞いたけど、とうやら本当のようだ。」
「ロシア人の離婚原因の上位らしいですよ。」
「ほーん。」
「ロシア人って、三回結婚するそうですし。」
「ほええ。」
「二〇歳前後で初婚、四〇歳前後で再婚、六〇歳前後で再々婚が多いとか。」
「成程。」
「そう言えば、提督。モテていましたよね。」
「えっ?」
「やだやだ、このご主人様、鈍感主人公系?」
「おお、このイカれ駆逐艦。上官に向かって鈍感野郎とは何事だ? アアン?」
「ちょ、ちょ、ご、ご主人様。そんなとこを激しく掻き回したら痛いですよ!」
「オラオラオラオラオラオラ!」
「うわあっ!」
「一緒にお出かけ出来て嬉しいです、ご主人様。」
「ここは昔、豊原市って言われていたんだっけ?」
「樺太統治時代の話ですね。今はユジノサハリンスクと呼ばれるサハリン州州都ですよ。」
「へえ、稚内から定期連絡船が出ているのにも驚いた。」
「戦前は定期便として飛行機も飛んでいたそうですよ。」
「ふーん。」
「まあ、稚内からは港町のコルサコフまでなので、そこから豊原までは自動車での移動になりますが。大泊と呼ばれていたコルサコフからは車で北へ四〇分。そこが、豊原市と呼ばれていたユジノサハリンスクです。」
「漣、いつもと口調が違う。」
「ここ豊原市は札幌市をお手本とした街で、碁盤目状の街並みが特徴です。」
「平安京みたいなもんかな。」
「平安京エイリアンは関係ないですよ!」
「おお、やっぱり漣だ。」
「街中心部の西端にはユジノサハリンスク駅があります。」
「そういや、函館の提督が一度乗ってみたいって言っていたな。」
「ご主人様も乗ってみたいですか?」
「そうだな、鉄道旅も面白そうだ。」
「では護衛が揃って休暇が取れてから乗車しましょう。」
「今は無理か。」
「日程的に合いませんし、誘拐されても困りますから。」
「まあ、そうなるか。」
「自由市場に寄ってから帰ろうぜ。」
「そうですね、ロシアの実情を知るにはいい場所です。」
「駅に近いのがいいよな。」
「それは大きな利点です。」
「函館の自由市場みたいに屋内型なんだな。」
「真冬に外ではやっていられないでしょう。」
「おっ、海産物に野菜や果物だけじゃなくて、日用品や衣類もあるんだな。」
「ここでなるべくルーブルを使いきってしまいましょう、ご主人様。」
「ソヴィエト時代じゃないんだから、外貨持ち出しとか言わないんじゃないか?」
「ルーブルが急落したら、大損ですよ。」
「よし、漣。あの店から寄ってみるぞ。」
「アイアイサー。」
「ピロシキを売っているぞ。」
「ピロシキって元々はウラル料理で、本来この辺の食べ物ではないみたいです。」
「長野のおやきみたいなもんかな?」
「おお、この素朴な感じがいいですね。」
「これは……サハリン風餃子?」
「餃子系の食べ物は意外と多いですよ。」
「へえ。」
「挽き肉を使った肉団子系の食べ物も世界各地にありますし、おいしいものを食べたいのは万民共通の願いでしょう。」
「やだ、この漣とってもインテリゲンチャ。」
「インテリゲンチャってロシア語ですよ。」
「そうなの?」
「そうです。」
「この街ってゆったりした感じだよな。」
「都市設計に余裕があったからでしょう。」
「理想の街作りってやつかな?」
「日本人向きではないかも知れませんね。」
「そうか?」
「日本にはこういう街並みが無いでしょう?」
「遠い街だから、素敵に見えるのかもしれないな。」
「そういうものかも知れませんね。戦前は函館の三分の二くらいの人口一八万人がいたそうですけれども、今はええと、七、八万人くらいらしいです。」
「なあ、漣。」
「なんです、ご主人様?」
「俺の勘違いでなければ、けっこうモテている気がする。」
「そりゃあ、身なりのいい日本人を見かけたら粉もかけたくなるでしょう。」
「そういうもんかな?」
「そういうもんです。」
「日本統治時代のものって、建物以外はあんまり残っていない印象だな。」
「どちらかというと、旧ソヴィエト時代の残滓が濃いように見えますね。」
「街中に堂々と幾つも廃墟があるように見えて、ずいぶん驚いたよ。」
「たぶん、やたらと頑丈に作っているんでしょう。形さえあれば使えるっていうのがロシア人流なのかも知れませんね。」
「日本人とは正反対に見えるな。」
「日本人はきれいごと好き……間違えました、きれい好きですから。」
「今のはわざとだろ。」
「噛みました。」
「いいや、絶対わざとだろ。」
「神はいた。」
「いるんだろうな、人の心の中には。」
「ご、ご主人様がまともなことを言っているだと……。」
「お前は俺をなんだと思っているんだ?」
「エロい人。」
「即答するなよ。否定はせんが。」
「大丈夫ですよ、ご主人様。」
「なにがだ。」
「帰ったら、いっぱいいいことをしてあげますから。」
「お、おう。だが、帰ったら一番にしなくてはならないことがある。」
「ロシア軍基地の人たちへの、付け届けですか?」
「その前に、盗聴器の確認だ。」
「夜の歌を聴かれるのは嬉しくないですしねえ。」
「お前はいつも通常運転だな。」
「もーっと誉めたっていいんですよ、ご主人様。」
「ではぐるりと回って泊地に戻るか。」
「イエッサー!」