奥田万つ里氏版で慣れていたので、藤崎竜氏版ベルゲングリューンには驚愕しました。
ビューローはヤられてなくてよかったです。
まさに『衝撃のアルベルト』ならぬ、『衝撃のベルゲングリューン』!
載宗(たいそう)もびっくりなのであります。
基本的には道原かつみ氏版が一番好きです。
メルカッツ提督は奥田万つ里氏版が好みナリ。
追儺(ついな)、という行事がある。
節分の元になったとかいう宮中行事。
戦前散々批判されていた恵方巻きという地域行事が、戦中の今では諸事情で派手に出来ない昨今。
『追儺研究会』という団体が、何故だかわからないけれども函館で試験的に開催してみようと言い出したのが先日。
歴史的に考えると、奈良か京都で行うのが筋なんじゃないかと思ってはいたのだ。
「沢山いるから作り甲斐があるわね。」
弁財天と名乗る女性が作るインド料理は艦娘たちに好評で、厨房は現在香辛料の匂いで満たされている。
何故だか鳳翔間宮両名も李さんも鹿ノ谷さんも、彼女がいて当然のような顔をしていた。
他に六名のお爺ちゃんやおじさんたちが艦娘たちになにやら手品めいたものを見せ、それは大変喜ばれる要因となっている。
なんぞこれ。
あの追儺の再現会で『福は内!』と叫んだ時から、この異様な事態が継続していた。
鬼コスプレをした駆逐艦たちが無邪気に抱きついてくるようになってきていて、それはとても困った事態である。
同期と電話した際にその話をしたら、呪詛を喰らってしまった。
なにがいけなかったのだろうか?
あの子たちはまだまだ子供だよ?
それと、長門教官が虎縞ビキニを着た時は驚愕した。
「うち、ダーリンのことが大好きだっちゃ!」
教官に突撃された私は、妙高教官と鹿島と龍田に助けられなかったらおそらく大破着底していたことだろう。
レンズ豆のカレーをもりもり食べる面々を見ながら、野菜の炒めものを作ってゆく。
弁財天と名乗る女性は、翌日向けと思われるカレー用の香辛料を組み合わせていた。
彼女たちはいつまでここにいるつもりなのだろうか?
その美貌の女性がこちらにくるりと向いて微笑んだ。
「明後日には立川に向かっちゃうから、安心していいわ。」
「左様でございますか。いろいろとお世話になりました。」
「変わらなかったわね、提督は。」
「えっ?」
「変わらない方がいいのかもね。」
「はあ。」
彼女たちが鎮守府を去った後、なにもなかったかのように日常が戻ってきた。
鬼コスプレをする駆逐艦は見かけなくなったし、長門教官が虎縞ビキニになることもなくなった。
弁財天と名乗る女性から貰ったカレー粉を使って猪肉のカレーを作ったところ、大好評であった。
「なんだかとってもインドっぽいカレーだね。この味は初めてだよ。」
自称カレー通という、九州のとある鎮守府所属の重巡洋艦がとても感激したような表情で言った。
彼女は休暇で函館にいるのだが、弁財天と名乗る女性が作るカレーを毎食完食していたのになあ。
厨房の片隅で、ひっそりとカレーを口にする。
やわらかな辛味と奥深い複数の香辛料が口中に広がり、やがて余韻を残しつつ彼方へと消えていった。
それは道南産の米にとてもよく合う味でもあった。
「なんやのん、しけたツラして。こないに旨いもん食うといてから。」
陽気な軽空母がいつの間にか隣にいて、同じカレーを食べていた。
そうだ。
試しに聞いてみようか。
彼女なら聞きやすいし。
「先週毎日作られていたカレーに比べて、如何ですか?」
「キミ、なに寝ぼけたことゆうとん。今日のは久々のカレーやんか。みんなハッスルして食うとるやろ。」
彼女は屈託の無い表情で、きっぱりと言った。
不意に、明日は私がドーナッツを揚げようかと思った。
鳳翔間宮や厨房にいる料理人たちの腕前には程遠いが、婆ちゃんと昔一緒に作ったあの懐かしい味の揚げ菓子を。
ホットケーキミックスで作る、あのカリッとして素朴な味わいのお菓子。
皆が皆喜ぶとは限らないけれども、何名かは喜んでくれるかもしれない。
そうなったらいいな。
試しにその場で何個か揚げてみたら、瞬く間に駆逐艦たちが殺到してきて大変だった。
一応、提督稼業にも自由時間はある。
建前上、あることになっているのだ。
遣り繰りが下手だとなくなるのだが。
余暇というには微妙な時間なのだが。
ちっとも無いよりは遥かにマシだな。
最近、レトロゲームが楽しいのだ。
たまにはTVゲームもしたくなる。
かつて傑作機と謳われたゲーム機。
今では歴史に埋もれつつある名機。
頑丈なそれは、時間を超えて輝く。
せがた三四郎のあの逞しきが如く。
私室の中が青春時代に満たされる。
シェンムーのはかない夢のように。
「死にたい奴から前に出なさい! スネグラーチカ!」
必殺の凍気攻撃が敵を貫く。
並みいる雑魚敵を一掃した。
「また随分懐かしいピコピコをされているんですね、提督。」
ピロシキを持った鳳翔が現れる。
礼を言って、さっそく頬張った。
鹿肉の風味が口の中に広がった。
牛肉の赤身の如き味わいだった。
旨い。
流石だ。
国産紅茶も香りがやさしく旨い。
「実家から荷物が送られてきましてね。その中にあったんですよ。」
「ふふふ、提督はこういう女性がお好きなんですか?」
勇ましい『火喰い鳥』が、画面の中で暴れ回っている。
クワッサリー。
凜とした副隊長。
背中を任せるに足る名狙撃手。
彼女の存在がどれ程心強いか。
「えっ? いや、その、あはは。」
「私もこのような髪の形と色にしたら、愛してくださいますか?」
「ええと、鳳翔さんはそのままでも充分に素敵だと思いますよ。」
「うふふ、本当ですか?」
「ええ、本当ですとも。」
嫉妬か?
冗談か?
ボルシチを作ってくれることになった。
「私、負けませんから。」
去り際に、彼女はそう言った。
「……テメエ、まだのこのこと生きていやがったのか! 明日までに死んじまえ! 午前と午後の二回に分けてな! わかったか、この穀潰しが! くだらねえ夢ばっかり追いかけてんじゃなくて、現実を堅実に追いかけろ! ちったあ理解出来たか、このうすらとんかち!」
編集長が怒鳴りだす。
いつものことだった。
取材は遅々として、進展していない。
牧場へもう一度取材に行くべきかな?
「なんちゃって司令官って、そういうマニアックなゲームが好きなの?」
霞がおにぎり二個とお新香と味噌汁とお茶を持ってきた。
毎日、誰かが私を太らせようとうまいものを持って来る。
そんな疑いさえ感じられる程だ。
ふっ、わかっているぞ。
肥えさせて食べる気だ。
……そんなバナナラマ。
「昔遊んだゲームなんですよ。実家から荷物が送られてきて、懐かしく思ってちょっと遊んでいました。」
「ふーん。司令官が好きだって言ってたから、鎮守府内では近頃『ツインピークス』ごっこや『Xファイル』ごっこが爆発的大人気よ。」
「ほう。」
「クーパー捜査官みたいに珈琲とドーナッツの組み合わせを頼む子が激増して、おやつ時は甘い匂いで胃もたれするほど。チェリーパイは、原料の関係で苦戦しているみたいだけどね。」
「あの北欧の激安ジャムを使ったら、今一つでしたね。」
「かといって、国産のサクランボを使うと味が違うんでしょ。難しいわね。ふう。」
霞は少し疲労して見えた。
「モルダー、あなた、疲れているのよ。」
「ええ、どこかの司令官が振り回してくれるせいでね。」
霞はそして、なにやら得体の知れない笑みを浮かべた。