半年近く前に放置した書きかけの話を、力業でなんとか完成させました。
こうした完成未満の書きかけは幾つもあります。
日の目を浴びないモノは存外幾つもあります。
まるで、闇夜を滑走する深海棲艦たちの如く。
大抵のそれらは二〇〇とか三〇〇とかの文字数で、なかなか続きが思い浮かばなかったりします。
切っ掛けがあれば電撃戦で仕留めるのですが、案外こうした未完成品は難敵が多いです。
艦娘とは死狂いするモノたちである。
演習を見るとよくわかる。
一見女学生の如き、うら若き娘たちが嬉々として鬼気迫る様相で仮想敵たる相手へ突撃するのだ。
それは狂気。
狂喜を伴う狂気。
まごうかたなき狂気。
あどけなく饅頭やケーキなどを頬張る駆逐艦も。
放課後に走り回る陸上部女子のような巡洋艦も。
胸乳を震わせる一部の空母や戦艦も。
皆等しく戦場に於いては怪異である。
駄文書きだった私が提督になったのは偶然の産物といってよく、たまたま鎮守府開放日に興味を示してのこのこと出かけたら幼い娘に捕まった。
父娘くらいに歳の離れた感じの娘は、私のことを司令官呼びする。
駆逐艦に属する艦種だと、彼女は自身をそう自己紹介してくれた。
勿論、それはカンムスジョークの類だと考えたから、祝祭日に相応しく彼女の指揮官のように振る舞おうと考えた。
まるで艦娘のように振る舞う娘が社会問題化している現実を、私自身が彼女にひしひしと感じ取ったからでもある。
それが、大きな誤りだった。
いや、いずれは間違える予定であったのかもしれない。
偶然、それが早まっただけなのかもしれない。
数名の中学生めいた女子に囲まれ、年甲斐もなく頭に血が上ってしまう。
女性経験の無い私に、女の子との付き合い方がわかろう筈など無かった。
しごく生真面目そうな娘。
ほっぺのぷにぷにした娘。
面倒見のよさそうな少女。
そういった可愛らしい娘たちが、無邪気に私にまとわりつく。
こんなパッとしないおっさんの、一体どこがいいのだろうか?
やがて鎮守府関係者らしき人々の前に連れてゆかれ、妖精とやらのよく出来たぬいぐるみと会話した。
それが致命的な判断上の失策であったと、今ならば思う。
直ぐ様執務室へ連行され、提督になることを要請される。
いや、あれは要請ではない。
体のいい、強請だったのだ。
言葉遣いはやわらかだったが、有無を言わせない口調だった。
初めて見る提督は穏健な感じの中年で、私を気の毒そうに眺めている。
この開放日は結局のところ、提督候補生ホイホイであったのだと言う。
つまり、私は大間抜けなのだった。
ほんの一握りの救いのひとつは、その提督が私と同じ小説投稿サイトでの同志だったことだろう。
タヴァリーシチ!
提督候補生になって、関東圏の山奥で勉強しだして半年間の詰め込みを強要される。
ガチョウをフォアグラ化する時の如く、毎日毎日なんやかやを詰め込まれていった。
二人の脱走者が発生した時は、まあそういうこともあるだろうさという感じだった。
半日後に無事確保されたと聞いた時は思いきり吹いたが。
とある小説投稿サイトで発表している作品に、熱心な読者が付いてくれるようになったことはとても嬉しいことだった。
しかも、複数。
話を投稿する度に感想をくれる。
実にありがたいことだ。
訓練期間の間毎日私を逆ナンパしてきた艦娘たちと、メールのやり取りをした。
同期の連中からは嫉妬され、実に大変なのだった。
毎日見せろ見せろと、何度も何度も何度も何度も言われたものだ。
到底、見せられるものか。
何時からか、あんな画像を何枚も送ってくるようになったりして。
お父さんは悲しい。
『横須賀待機衆』とかと揶揄される大本営勤務ではなく、即席教育後、すぐに基地が宛てがわれた。
そこは海辺にある民宿を改造した警備府だという。
このご時世でそういった建物を利用しようという人間は先ずもっていないし、増加中が懸念される住所不定の不逞な人間の数を抑制する意図もあるらしい。
あの日私を捕まえた娘たちと一緒に、その民宿改造型警備府へと向かう。
ひなびた感じの建築物には小さな表札が付いていて、警備府の名が明記されていた。
何処か手慣れた感じで、娘たちは私を中へ引き込んだ。
彼女たちは皆にこにこしている。
そして何故か、その内の一名が警備府玄関を施錠してしまった。
あれ、と思っている内に手を引かれた私はどんどん奥へ連れてゆかれる。
少し薄暗い、なにやら鰻の寝床めいた建物の奥へと。
それは、意外と広く感じられた。