題名と内容に多少のズレが存在する場合もございます。
予めご了承ください。
今回は四九〇〇文字ほどあります。
「技術班が組み込んだ試験型ゲシュタムジャンプを使ってみたが、『巨人』どもの打撃艦隊は振りきれたか?」
長距離侵攻系試験偵察機のザルツ人機長が、ジレル人の航宙士に問いかける。
ジレル人自体稀少な存在の筈だが、新型電子探索装置試験運用のために彼女はこの機へ臨時的に配属されていた。
航宙士兼情報将校が彼女の立場である。
ガミラス人だったならば、既に佐官だったろうに。
灰色の肌と長い耳を持つ彼女は、緊張しながら問いに答える。
「はっ、その、振り切れた模様ではあるのですが……。」
「はっきり言え。……いや、はっきり言ってくれ。ここには一等市民などいないから、話し方に気を付けなくてよいのだぞ。」
試験的に装備されたゲシュタムジャンプ(宙間跳躍)可能な推進機関に無理をさせたためか、異常が発生しているようだ。
機の制御用に調整・配備された機械化兵のレイターは先程から速やかな修理を行うよう、乗員たちに何度も何度も訴えている。
『彼』は人工知能を備えた有機系自律型人造兵士の内の一体で、体組織は人工オルガネラ(細胞小器官)によって作られたナノマシンで構成されていて自己修復機能も所有する。
先日行われた偵察任務で五体いた機械化兵の内の二体が完全損壊し、残る三体もそれぞれかなりの損傷を受けた。
その三体を元に母艦で再組み立てが行われ(艦長は勿体無い精神の持ち主だった)、その時に試験偵察機の制御機能も与えられている。
『無駄に高性能』が機長の評だ。
見慣れない謎の艦隊の強行偵察。
それが彼女たちの主任務だった。
『巨人』と称される、巨大生命体たちの操る高火力系武装戦力。
見逃すことなど、出来はしない。
激しい砲撃をかいくぐって手近な駆逐艦らしき戦闘艦艇の電脳を乗っ取り、同士討ちに至らしめることさえ成功した。
それはまさに早業だ。
データリンクした母艦へと情報を電送した後、最大加速で遁走する。
猛追撃してくる敵の戦闘ポッド。
座標を確定しないまま、宙間を跳躍したのは偵察機。
やがて、彼女たちは星々の煌めく世界へと到達する。
駆逐艦も哨戒機も無人偵察機も見当たらない星域に。
「見慣れない星系だな。」
「辺境星系の模様です。」
「一つだけ、水で覆われた惑星があるようだな。」
「『巨人』の電脳に情報がありました。テロンという星ではないでしょうか?」
「テロン?」
「はい、『巨人』の駆逐艦に電脳侵入した際にこの星系の情報がありました。」
「あの極めて短時間の間にそんな情報まで奪取したのか。流石は情報将校だ。」
「滅相もありません。」
「謙遜はいい。で、その星に知的生命体は生息しているのか?」
「可能性は高いものと思われます。」
「よし、わかった。全員に告ぐ! 傾聴せよ! これより我々は辺境惑星のテロンに向かうが、くれぐれも『義勇兵』としての誇りを忘れるな! 以上!」
「「「はっ、かしこまりました!」」」
水の惑星に近づく、長距離侵攻系試験偵察機。
「衛星軌道上にプロープを放ち、救難信号を日に一回発信するように設定しておけ。」
「はっ、プロープ三号と四号の射出準備を整えました。」
「既に射出した一号と二号の調子はどうであるか?」
「一号は残念ながら、大型惑星の重力圏に囚われて地表へ落下した模様です。二号の方は安定期に入った模様です。こちらは既に第一回目の信号発信を終了しています。」
「よろしい、副長。三号はテロンの衛星の軌道上に展開させ、四号はテロン自体の衛星軌道上に展開させよ。」
「はっ、プロープ射出手順を開始します。」
「念のため、全プロープには光学迷彩を掛けておくように。原始的な望遠鏡でも発見し得るからな。」
「はっ、すぐに展開させます。」
偵察機は細長い列島の北部へと向かい、そして無事に着水した。
「大気組成を調べてみましたが、肺呼吸に問題は無いようです。」
「それはなによりだ。副長、移動を開始するぞ。」
「かしこまりました。」
雨がちの函館の夏。
小樽の提督経由で入手した、戦闘ヘリのミル24西側名称ハインドの試験飛行を行っている。
シチリアの空の色した悪役めいた迫力の機体が、鈍色(にびいろ)の空を飛ぶ。
私の傍らにいる男性がにこにこしていた。
「そんでよ、提督さんよ。俺たちもあいつに乗れるのか?」
「ええ、その時間は取ってあります。」
「聞いたかっ、野郎どもっ! 大人しくしているんだぞ!」
「隊長が一番大人しくありませんよ。」
「「「然り! 然り! 然り!」」」
「おい、てめえら! 後で懲罰房にまとめて叩き込むぞ!」
曇り空に明るい笑い声が響く。
空間騎兵隊に所属する猛者群。
習志野の空挺部隊を上回る錬度の陸戦隊。
今はタクティカル・アーマーと呼ばれる戦術甲冑の試験運用その他で、函館鎮守府に仮在籍している。
毎日毎回飯ウメーッ! 飯ウメーッ! と叫びつつ、曙や叢雲や霞たちにちょっかいをかけてはどつかれていた。
そう言えば一度、龍田から追いかけ回されて必死に逃げていたなあ。
彼らの傍らには、杭打ち機を装備した二足歩行兵器が鎮座している。
それは人の姿を模した、人の倍以上の大きさの巨人。
四メートルくらいか?
「このデカブツは対戦車……じゃなくて対物型大口径狙撃銃の二〇ミリを何発か喰らったら、お陀仏だからなあ。対戦車ロケット弾だったら、一発でお釈迦だぜ。運用をちゃんとしなけりゃ、只の動く棺桶に成りかねないってお荷物扱いの厄介な代物でさあ。」
足元に謎の三つ穴があって、杭打ち機が装備されている。
この穴はお洒落なのか?
意匠家のこだわりだそうで、『ブチ穴』と呼ばれていた。
二輪車のように変形させたいという、そんなお偉いさんの意見まで飛び出したそうな。
どんだけ浪漫思考やねんな。
艦娘たちが興味深く訓練を見つめるさ中、一隻の連絡用舟艇めいた乗り物が近づいてくる。
なんとなく地球製っぽくないな。
あちこちで、艤装の安全装置を外す音が聞こえてくる。
「殺っちゃってもいいのかなあ、いいよね、いいよね、たまには思いっきり殺っちゃってもいいよね。普段、こんなに大人しく振る舞っているんだから。」
吹雪がなんだか物騒な内容を呟いている。
「なあ、提督さんよ。ありゃあ、なんだ? 深海棲艦の新型兵器か?」
「はて? 戦艦棲姫さん、どうでしょう?」
傍らの姫級深海棲艦に問いかける。
「あんな兵器は見覚え無いわね。」
「提督、下がってください。第一種警戒体勢発令! 提督は私がお守りします!」
大淀の声に皆が艤装を臨戦体勢に設定変更してゆく。
「これは演習ではない! 繰り返す! これは演習ではない!」
長門教官の声が凛と響く。
ハインドが素早く引き返してきた。
砲撃銃撃光学兵器噴進式誘導弾などの発射は見られない。
攻撃が目的ではないようだ。
バールのようなものを持った大淀が、素早く私の眼前を防御する。
ファンタジーの女性騎士みたいな武装。
青いドレスに銀色の甲冑。
近接戦闘用の艤装なのか?
長門教官と加賀教官が同じく私の眼前を固め、妙高教官と足柄とネヴァダとシカゴと航空戦艦とローマとが突進していった。
鳳翔龍驤雲龍翔鶴ヨークタウンといった航空母艦たちも迎撃体勢に入り、軽巡洋艦や駆逐艦たちが我々の外周を素早く防御する。
「偵察機の警戒網をくぐり抜けてやって来るとは、欺瞞(ぎまん)装備が余程優秀なのだな。」
島風がキリッとした顔で密着しながら言った。
彼女の他、曙と叢雲と吹雪と霞とが私に密着している。
正直重いのだけれど、思いを考えるとそうは言えない。
この状況でもにやにやしたりぷんすかしたりしていられる空間騎兵隊の面々は、まさに鎌倉武士級の精神力だな。
野戦服姿の隊長が、小銃に着剣しながらこちらへ笑いかける。
「おお、なんだかよくわからんがドンパチか? 先鋒はそちらに譲るが、殺る時は一緒だぜ、長門さんよ。」
「勿論だ。殴りあいならば任せておけ。よし、やっぱり突撃するか。全艦、この長門に続け!」
「待ってください、長門教官。先ずは話し合いです。」
「悠長なことを。夫の身になにかあったらどうするというのだ!」
「私はまだ貴女の夫ではありませんよ、教官殿。」
「な、なんだと……。」
「ダメね。偵察機を飛ばしてみたけど、電子的妨害が掛けられて上手く機体を制御出来ないわ。」
「加賀教官、それほどの相手ですか?」
「ええ、科学技術的にはずっと上ね。」
海岸線に居並ぶ屈強の戦乙女たち。
何故か、大和級戦艦四隻がいつの間にか傍らにいた。
「面白そうじゃないか、提督?」
佐世保の武蔵がにやりと笑う。
不敵に笑うは、最強戦艦たち。
うわー、皆戦闘狂じゃないか。
鈍色の舟艇が海岸に着いた。
武装の展開など見られない。
緊張した面持ちの艦娘たち。
舟艇の側面にある出入口から、肌色が我々とさほど変わらぬ人間めいた存在が二名現れる。
ロボット兵ぽいのもいるが、皆手ぶらだ。
肌色が灰色の娘もいた。
彼女の耳は尖っている。
「ダークエルフよ、ダークエルフ!」
「ダークエルフって、肌色が褐色ちゃうんか?」
「作品によっては灰色の肌よ。だから、彼女はダークエルフ。決まりね。」
赤毛の女性士官がこちらへ向かってくる。
まるで勇猛果敢な姫騎士みたいに見えた。
「私はガミラス特務作戦群第二八三中隊所属の、ラミー・オルフォイス大尉だ。基地司令官と話がしたい。」
「日本語だ。」
「日本語ね。」
「なんだか洋画の吹き替えみたいだわ。」
「おそらく、翻訳機を持っているのよ。」
「ほんやくこんにゃく?」
「私がこの基地司令官で中佐を拝命しております、大尉殿。」
必死の形相で止める艦娘たちの間から、私はそう答える。
「女性兵士が殆どの軍基地か。なんとも珍しいな。」
「私もそう思いますが、現在このような形態の基地が惑星各地に幾つも存在しています。」
「ほう。我々はこの惑星の基本情報を知りたい。また、食料も分けてもらいたい。」
「先に我々の上層部に問い合わせてみますが、たぶん直に許可が下りるでしょう。」
「そうなるとありがたいな。」
「そうさせます。先ずは一緒に昼食でも如何ですか、大尉殿?」
「いいのか?」
「遠くの星からお越しくださったんです。もてなしは当然でしょう。」
「我々は侵略者かもしれないぞ。」
「まあ、その時はその時ですね。」
「案外肝が太いのだな、中佐殿。」
「いえいえ、私は臆病者ですよ。」
「ふふふ。」
「ははは。」
灰色の肌の少女はジレル人のアマーリエ・リルケというらしい。
階級は少尉。
機長のラミー・オルフォイス大尉に、寡黙な副機長のマルテ・ホーフマンスタール中尉。それと機械化兵のレイター。
妖精たちが素早く彼女たちの回りを巡り、骨頭の妖精が特に問題なしとして杖をくるくる回した。
ちなみに問題があった場合、杖を天にかざすことになっている。
幸い、彼女たちは地球に害をもたらす微生物や菌などを保持していなかった。
爽やかな顔で微笑む妖精たちは、何故か悪魔めいて見えたが気のせいだろう。
なにが口に合うかわからなかったので、羊羹にフレンチトーストに月餅を食べてみてもらう。
好評だったので安心した。
お礼に彼女たちの携帯糧食を一部分けてもらって皆で食べてみたが、ちょっとばかし微妙な味だった。
栄養価にすぐれるらしいが、味は兎も角長靴いっぱい食べたく……ならないなあ。
もてなしの酒宴が開かれた。
みんな、ドンチャン騒ぎがしたいだけではないのだろうか?
異星人に地球製の酒精は大丈夫なのかと思われたが、彼女たちの検査機で安全性は確認出来たようだ。
案外、祖先は同じだったりして。
……キャプテン・フューチャーみたいな展開は無いだろうな。
死屍累々になった戦場を、素面の艦娘たちと共に片付ける。
あ~あ、こんなに服をはだけた状態で。
困ったものだ。
翌日。
ゲンコーガー、ゲンコーガー、と呻(うめ)いていたマスター・オータムクラウドがひょいと函館に現れ、ガミラスの女性兵士たちを見て目を輝かせる。
「よしっ! 今回の薄い本の主題は決まった!」
「星間戦争にならないようにしてくださいよ。」
「大丈夫です! 全年齢対象で描きますから!」
饅頭やらケーキやらをおいしそうに食べる異星の女性たちを見て、ウキキと笑うマスター・オータムクラウド。
とてつもなく不安だ。
夏の戦場が近づいて参りました。
聖戦士の皆様、お体ご自愛ください。
決して無理をされ過ぎてはなりません。
ペットボトルや水筒の準備、一口羊羹やクッキーやビスケットやシリアルバーやエナジーバーなどの携行食品も重要です。
飴も持って行かれると尚よいでしょう。
過日は誤字脱字報告いただきまして、ありがとうございました。