今回はおよそ三〇〇〇文字あります。
どたばたラジオ番組、再び今ここに。
それは宵の時間から始まる艦娘ラヂオ。
「えーと、今夜もまた懲りずにお送りします『ハッチーモッチーステーション』です。進行役はハッチーこと初雪と。」
「モッチーこと望月でお送りします。」
ガサガサバリバリ。
「この固いお煎餅は歯応えがあって、おいしいねえ。」
「香川県のくつわ堂ってとこの堅焼き煎餅だってさ。」
バリバリバリバリ。
「あれ、今夜も制作統括が髪を振り乱しながら、ホワイトボードを振り回しているよ。」
「人気番組を担当しているんだから、もう少し落ち着けばいいのに。えっ? 毎回懲りていないようだが、放送中にものを食うな? でも、某声優さんの番組では……。」
「なんか追記しているよ。いちいちカンペの文章を読むな? あれ? 頭を掻きむしっているね。」
「あ、そうだ、モッチー。今夜も素敵なお客さまがいるんだよ。」
「そうなんだ。じゃあ、呼ぼう。」
「某教育放送の児童向け番組で、瑞鳳さんと共に披露したずいずいダンスが人気沸騰中の瑞鶴さんです。どうぞ。」
「大本営で教官職を務めている筈なのに、最近頼まれごとが多いんですよね。それでなかなか函館に行けない瑞鶴です。翔鶴姉、加賀先輩、みんな、聴いてる?」
「瑞鶴さん、ここでずいずいダンスを踊っても、聴かれている皆さんにはわかりませんよ。」
「それでも踊りを止めないその姿、そこに痺れる憧れる。」
「あはは、よろしくね。」
「モッチー、なにか質問して。」
「オッケー、あのずいず……瑞鶴さんは大本営で艦娘たちを指導されていますが、特に大変な点はなんでしょうか?」
「そうね、やっぱり死なないように教育するのが一番大変ね。基本を完全に覚えて、轟沈しないように戦う。口で言うのは簡単だけど、それを実行するのはけっこう困難よ。」
「「その節は、大変お世話になりました。」」
「いえいえ、どういたしまして。まさか、貴女たちがこのラジオ番組の進行役になるとはねえ。」
「「あはは。」」
「ねえ、あそこでホワイトボードを振っている人がいるわよ。」
「そろそろ一曲目に移れ? あ、また頭を抱えてる。」
「ええと、那珂ちゃんが歌う『あんころもち姫』エンディングテーマの『ようかんトロイカ』です。お聴きください。」
「でね、ずいずいダンスはここで一度くるっと回って両手をずいずいと……。」
「教官、こうですか?」
「そうそう、筋がよくて上手いわよ。」
「じゃ、そろそろ終わりにしよっか。」
「そうだね、体もほぐれてきたしね。」
「えっ、まだ時間が残ってるって、統括さんが怒ってるわよ。」
「「あっ、そっか。」」
「相変わらずねえ。なにか雑談でもしてみたら?」
「じゃあ、教官のコイバナですね。」
「仕事が恋人って言えばいいかな。」
「あのう、そういうのはいいんで。」
「大本営や横須賀に、魅力的な方はいないんですか?」
「うーん、そういう目線で見たことは無いかな。仮に可愛い男の子の提督でもいたら考えるかなー、なんてね。あはは。」
「えっ、教官、そういう趣味があったんですか?」
「わー、引くわー。引くわー。」
「貴女たち、わざと言ってるでしょ。冗談よ、冗談。」
「「バレテーラ。」」
「かすていらの方が好きね。」
「函館の提督なんてどうです?」
「あの人、普通のおじさんでしょ。」
「加賀さんは大好きみたいですが。」
「そこんとこがよくわかんないのよねえ。あたしたち自身、ピンとくる人が運命の人みたいに言われるけど、みんながみんなそうなっている訳じゃないし。」
「これって根幹的に難しい話ですよね。」
「千島の松輪島(まつわとう)の漣(さざなみ)は、提督といつもラブラブですよ。ほら。」
「うわー、これはちょっと……。 」
「えっ、こんなの撮ってんの?」
「こういう相手が欲しいなあ。」
「おっ、モッチーの恋人欲しい発言。ご希望される方はどしどしご応募ください。」
「えっ、本気でやるの?」
「統括がやれやれ! って乗り気だ。ヤるんだよ、モッチー。」
「よし、サーチ・アンド・デストロンだ。」
「秘密結社を一体どうするつもりなの。」
「おお、流石は教官。突っ込みも適切ですね。」
「あたりきしゃりきのこんこんちきよ。」
「ではここで二曲目。野際陽子さんの『非情のライセンス』です。どうぞ。」
「この豆大福、とてもおいしいわね。」
「東京三大豆大福の一つだそうです。」
「翔鶴姉や加賀先輩にも、是非とも食べてみてもらいたいわ。」
「お便りを読め読めって制作統括がやんやん言うから、モッチー、その山からどれか抜いて読んでよ。」
「よし。えいや! えーと、艦娘の皆さんは余暇にどんな読書をされるんですか、だってさ。教官は最近なにか読まれています?」
「そうねえ、時間があるようで無かったりするから、最近はネット小説でさっくり読めるものを時々かな。」
「色恋の話ですか?」
「日常系が気楽に読めていいわね。代償無しのチートってなんだか怪しげな感じがするし、普通の人の筈なのにゴブリンや盗賊を虐殺して平然としている姿は違和感があるし、中身が残念なのにモテモテってよくわかんないし、あんまり重い内容だと読む気が失せてくるし、やたら展開を引き延ばす系はうんざりするし、主人公の考え方が独善的過ぎてもう少し寛容になろうよと思うのもあるし、主人公たちが極めて優秀なのはいいけど、対比的な存在としての脇役たちが無能の塊とか二〇歳そこそこの若手が倍かそれ以上年上の相手を説教する展開はもやもやするわね。相手がいくら悪くても尖った対応をしていたら禍根が残るし、そんな人が年を取ったら円満になるかしら? そんな感じには見えないのよね。歳を取って余計に頑固になったりするんじゃないかしら? 自分たちがいろいろ出来て賢くて勤勉だからといって他を排除するようじゃ、多様性のある社会は生まれないわね。少なくとも、民主主義社会には程遠く見えるわ。無能な人間を動かせてこそ、有能な人間よ。無能を糾弾するだけなら、誰にだって出来るわ。選民思想が見え隠れして、やたらと説教くさい話は真っ平御免よ。あと、奴隷少女にやたらこだわる主人公がとってもこわい。差別的な要素に満ちている作品がちらほらあって、もにょもにょすることもあるし。どろどろの追放系悪役令嬢ものは食傷気味だし、寝とられ系は食指が動かないし、復讐ものはエグいと読みにくいし、『中世ヨーロッパ』一辺倒は作品世界を狭める要因だからもっと多様性を持たせたらいいのに。それに、主人公が暗い過去を持っていたからといって、なにをしてもいい免罪符にはならない。なんてことを、つらつら考えながら読んでいるわ。」
「よ、よく読まれていますね。」
「第一話で読むのを断念する話も、ちょこちょことあるけどね。」
「ちなみに、一番最近読まれたのはどんなお話ですか?」
「冴えないおじさんがいろいろ頑張った末に死んじゃって、その後異世界に転生して狩猟生活する話かしら。なかなか更新しないのよね、あの話。」
「へえ。」
「ここで三曲目です。MIOさんの『みえるだろうバイストン・ウェル』。お聴きください。」
「お別れの時間になりました。最後の曲は 松本典子さんの『儀式(セレモニー)』です。お聴きください。進行役はハッチーこと初雪と。」
「モッチーこと望月でした。本日のお客さ まは瑞鶴さんでした。ありがとうございます。」
「今日は面白かったわ。また呼んでね。」
「「「それではまた来週。」」」
尚、函館の提督はラジオ番組で現在怪談特集を開催している模様。