はこちん!   作:輪音

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いざこのような事態に巻き込まれたら、本当に大変だと思います。

今話は四九〇〇文字程あります。




CCL:光の戦士になりたくて

 

 

 

自分自身を艦娘だと思い込む子が、ここ数年増加中とのことだ。

そう言えば以前『前世はナントカ』というのが流行っていたし、木蓮で亜美ちゃんなナントカが流行していたようだ。

時代が変わっても、求められるモノは似ているということかな?

地方自治体が対応に困ってしまって政府に問い合わせ、その政府にもそういった事態の専門家なんていないから大本営へたらい回しされ、そして我が函館鎮守府にお鉢が回ってきたらしい。

嗚呼、お役所仕事!

てかさあ。

どないせえゆうのよ、このおっさんに。

心理学は大学の時に少しばかりかじったけど、詳しいことなど全然わからんぞい。

空間騎兵隊の面々と彼女たちとで、男女間の過ちが起こらないようにしないとな。

気のいい人たちなのだが、それとこれとでは話が全然まったくもって違うのだよ。

起こり得る不測の事態は、最小限に留めないとならないのである。

誰が誰を好きになるなんて、なかなかわかるもんじゃないからな。

荒くれ男どもの目附役として叢雲、曙、霞、吹雪、足柄、龍驤を特務班として任命する。

業務の合間に見張る感じで頼んでおく。

常時二、三名といったところだろうか。

彼女たちは揃って微妙な顔をしていた。

すまぬすまぬ。

手製のドングリクッキーを手渡しとく。

ま、私はおっさんだから員数外だろう。

冴えないアラフォーのおっさんが、女の子にモテる筈無いからな。

 

 

 

全国各地からおよそ六〇人ほどの、『己を艦娘と思い込む女の子たち』が講堂に集まっていた。

うわあ。

なんというか、彼女たちには独特の雰囲気が感じられる。

なんとも説明しにくいが、信念に燃えるとでも言うのか。

なんか、ヤバい。

少女十字軍ってこんな感じだったのか?

隣の大淀や島風に曙もひきつった顔をしていた。

血とオイルと硝煙にまみれていない女の子たち。

全員、きちんと整列している。

まるで少年兵みたいに見えた。

中高生が殆どだが、大学生らしい子も中に混じっている。

『彼女』たちを無事に『退役』させるのが我らの使命だ。

……出来るのかなあ。

『現役』でなければどうとでもなる、との理屈であった。

……大丈夫なのかな?

本人たちは自身を艦娘だと思い込んでいるのだけれど妖精が見えよう筈もないし、無論のことだが艤装の装備など出来よう筈も無い。

私の肩先で踊る妖精に、なにかしらの反応を見せる子は誰も見当たらない。

艦娘になれそうな子はいない。

なれてしまっても困るけどな。

男は艦娘に『加工』されたら妖精が見えるようになるけれども、女性はまた違う。

その理屈が今もってよくわからない。

わからないが、そういうものなのだ。

前にも確認したそうだが、改めてバッテンだ。

だが、それを今言う訳にもいかないのが辛い。

この世は不条理に満ちている。

心理学的に手探りの状況ナリ。

魔術師提督に倣(なら)って、短い言葉で話すにとどめた。

むっちゃ真剣な眼で私を見つめている。

ゾクリ、とした。

こわいで御座る。

ある意味騙しやすい子たちなのだろう。

或いは、洗脳しやすいとでも言うのか。

今ならなんでも言うことをききそうだ。

不味い、不味いよ。

取り敢えず、全員が再訓練の要ありとして小豆色のジャージ姿に統一する。

唯々諾々と従う彼女たち。

みんな、小豆になりたいかっ!

……なんか違う。

日々の合間に一人一人と面談を行い、各々の症状を知って個別対策を練る。

念のため、妖精にも同席して貰う。

厳しくやっている内に、自分自身が艦娘ではないと実感するかも知れない。

そうでないかもしれない。

どちらにせよ、全員不合格にしないといけないのだ。

期限は一応、半年以内だ。

バッドエンド確定の物語みたいで、個人的には厭也。

脱落して退役させるのも、それはそれでひとつの方策である。

あまり厳しくし過ぎても問題になりかねないから、なんちゃって陸軍式か?

実に悩ましい。

寄宿舎式の学校を参考にしてみる。

嗚呼っ、マリア様!! って感じ。

出たとこ任せっぽいが致し方ない。

彼女たちは二人一組として、常に一緒に行動させる。

訓練は陸上のみとし、模擬艤装を状況に応じて使用する。

これらは以前清霜用に作った武蔵型艤装を参考にして、全国各地の幾つかの町工場で製作された。

彼らはノリノリで引き受けたのだとか。

砲塔がモーターで回転したり、探照灯がLEDだったり、缶の部分に発煙筒が仕込んであったりとなかなかに凝った作りだ。

将来的には艦娘博覧会を開催する予定だとかで、この夏の同人誌即売会では西館四階で幾つか展示して反応を探るのだとか。

武蔵型艤装は迫力満点だし、三連砲塔がきちんと動く様はある意味興奮させられる。

また、廃棄予定でも程度のよい六四式小銃を陸上自衛隊から八〇挺貸与してもらい、管理は鎮守府側で行う。

ちなみに撃つのは空砲だ。

実砲(じっぽう)は暴発その他の問題を防ぐため、一切使用しない。

有志と共に数発ずつ試射して、作動性に問題が無いことを確かめた。

丁寧に扱わないとならんな。

陸上自衛隊から有志を頼んで訓練教官になってもらおうとしたら、何故だか相当数の応募が殺到した。

結局絞りに絞って面談する。

その結果、凛とした感じで豪胆な雰囲気の女傑っぽい三等陸尉を含む、三人の女性自衛官に頼むこととした。

空間騎兵隊からも、女性隊員が一人参加することになった。

計、四人の人間教官。

特に三尉は目配り気配り心配りの出来そうな人なので、悪い方向には向かわないだろう。

お茶を濁すにせよ、誤魔化すにせよ、訓練はある程度本格的にやらないと不味いし。

ガミラスの女性軍人たちは、戦時特例法を盾にして観戦武官扱いとした。

 

最悪、妖精が見えないことと艤装が扱えないことを暴露……いや、この選択肢を選ぶと大変よろしくない気がする。

ううむ、如何するべきか。

予備役にする訳にもいかないし。

悩ましい。

 

 

ぐだぐだでてんやわんやの受け入れがなんとか終わって一区切りし、夜中の厨房で浅漬けの仕込みに入った。

用意された漬物石にはそれぞれ艦娘の名が彫ってあって、誰が運んできたのかよくわかるようになっている。

ちょっとばかし多いな。

君たち、自重したまえ。

沢山作っても朝食時にすぐなくなるのは、ありがたいやらこわいやら。

五島列島の塩、児島の塩、多度津の塩を使い、三種類の漬物を作った。

長崎、岡山、香川の三県合同事業だべさ。

 

「あの、司令官。」

 

振り向くと、厨房入口には小豆色のジャージを着た女の子四人がいた。

ちなみに、彼女たちの運動着には白い上下の陸上部衣裳が用いられる。

ジャージの左胸に『駆逐』と書かれたワッペンが付けられており、彼女たちは駆逐艦扱いなのだとわかった。

確か、『駆逐』『軽巡』『軽空』『重巡』の四種の子がいるんだったかな?

だがしかしおかし。

既に就寝時間の筈。

 

「どうしました?」

 

やんわりと問いかける。

明らかな否定はよろしくないため、やわらかく接するように言われている。

安易な全否定は、バッドエンド直行の選択肢に感じられるが故に。

厳しくもやさしく、愛に満ちた母の如く。

言うは横山やすしだな。

やるは西川きよしだぞ。

小さなことからこつこつと。

いとむつかしきものよ。

 

「なにかお手伝い出来ることがあったら、と思いまして。」

 

四人が微笑む。

普通の女の子。

普通の中学生。

可愛い娘たち。

やりきれない。

どうして、彼女たちは自分自身を艦娘と思い込んでいるのだろうか?

なしてさ?

英雄願望なのだろうかな?

違う自分になりたいのか?

なんだか、もやもやする。

君たち、深海棲艦に向かって砲の引き金を引けるかい?

嵐の海や冷たい海や熱帯の海を渡ることが出来るかい?

吐かずに戦えるかい?

僚艦が次々に沈んでゆく中、砲撃出来るかい?

そうした思いをすべて飲み込んだ。

それらは、言うべき言葉じゃない。

 

「明日も早いのでしょう。こちらはもうじき終わります。気持ちだけありがたくいただきますよ。さあ、翌朝に備えて早くおやすみなさい。」

「は、はい。」

 

敬礼し、彼女たちは去っていった。

顔が赤かった気もするのだけれど。

うん、おっさんの気のせいである。

そんなことがある訳ないないない。

おっさんマニアな中学生はいない。

おそらく、いないんじゃないかな。

そんな稀な性癖の子はいないべさ。

年頃の女の子は扱いがむつかしい。

さて、どうやって扱えばいいのか。

教官たちと討議をせねばならない。

どうしてこんな仕事が増えるのか。

妙な仕事ばかりが増えてゆくぞい。

個人的な時間がどんどん減りゆく。

小説投稿サイトでの更新が遅れる。

異世界よりも現実の方が手強いぞ。

スローライフは遠きにあるものよ。

致し方なし。

悩ましいな。

 

「流石、司令官。人間の女の子をも容易く落としてしまうのですね。」

 

振り向く。

いつの間にか、早霜が背後にいた。

 

「人聞きの悪いことを言わないでください。彼女たちとは今日会ったばかりですよ。」

「『一目会ったその日から、恋の花咲くこともある』、って言うじゃありませんか。ゲーテだって、雷撃の恋をしていましたし。」

「そんなことは稀ですよ、稀。それと、爺さんの戯言を真に受けないようにしなさいな。」

「艦娘になりたい女の子、艦娘たらんとする女の子、艦娘であると信じる女の子、そんな女の子たちが目を向ける対象は誰になると思われますか?」

「それは、教官や先任といった先輩艦娘たちでしょう。」

「司令官、ですよ。」

 

そう言って、早霜は爽やかに笑った。

梅雨の晴れ間のように。

 

 

その後風呂に行ったら、男の子向け漫画のようなラブコメ展開が発生して大変な事態に陥った。

それなんてトラブル?

なしてさ!?

あれこれと見られてしまったが、致し方あるまい。

どうやら、わざと入ってきた雰囲気だ。

恥ずかしがらないとはどういうことだ?

エッチなのはいけないと、提督は思う。

おませな悪戯っ子たちには、なんとも困ったものだな。

私室に戻ろうとしたら、男の人と一緒の方が安心して眠れるとのたまう娘さんたちに遭遇する。

エンカウント!

逃げられない!

添い寝を懇願された。

私は『ライナスの毛布』ではないのだが。

無下には出来ないし、なんとも困るなあ。

伯父さんや叔父さん的立ち位置なのか、私は?

私室には、既に添い寝担当の艦娘たちが待ち受けている。

鉢合わせしてしまう訳にもいかないぞ。

こういう時、一体どうすればいいんだ?

どんな顔をすればいいかわからないの。

……って違う!

結局、シャツを渡して身代わりとした。

まるで、仏教説話や日本昔話みたいだ。

となると、御札は後二枚ってとこかな。

これが、君たちの『ライナスの毛布』だ。

人はにおいで安心することがあるらしい。

なんだか、昔話みたいな展開にも思えた。

おっさんのにおいは、加齢臭とかなんとかで嫌われるんじゃなかったっけ?

少女たちは嬉々として去ったから、結果的にはよかったのかもしれないが。

まさか、君たちは稀な属性なのか?

もしかして、フェチ?

いやいや、まさかな。

いあいあ、はすたあ。

複雑な気分だ。

 

さあ、寝よう。

私室に戻ったら、龍驤と叢雲に怒られた。

シャツを渡したのが逆鱗に触れたらしい。

かといって、私室に連れてくる訳にもいかないだろう。

なにかあったら、傷付くのは彼女たちだ。

 

「到頭、人間の女の子にまで手を出すんかいな、キミは。」

「そのシャツと同等のものを、こっちにも寄越しなさい。」

「君たちの発言が、いろいろな意味でおかしいんだけど。」

 

 

翌朝。

未明から雨模様の天気。

厨房へ行くと、私の手伝いをしたいという女の子が何人もいた。

アッチョンプリケ!

んなアホな!

あり得へん!

なしてさ!?

そうだ、これは気の迷いだ。

環境が激変して、心の安寧を得るためにおっさんを頼りにする代償行為なのだ。

たぶん、そうだ。

そうだったらいいなあ。

その路線で話をするべ。

鳳翔間宮を始めとする艦娘たちが全員めっちゃこわい顔をしていて、李さんを始めとする国内外屈指の料理人たちはいずれも困惑した表情だ。

気持ちはありがたいが、ご飯をちゃんと食べなさいと説得して食堂へ向かわせる。

早急にうちの艦娘たちに言い含めないと。

険悪な雰囲気になったらもうたまらんぞ。

こわい笑顔の大淀と長門教官に緊急集会の開催を伝え、せっせと野菜炒めを作る。

浅漬けと野菜炒めは争奪戦になった。

 

梅雨明けはまだまだ遠いようである。

 

 


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