今回は昭和ライダー風味を加味してみました。
今話は三〇〇〇文字少々あります。
「スパークル・トーネード!」
朧月夜の採石場に蠢(うごめ)く、幾つもの異形。
死闘の舞台。
一対多の戦闘。
双方、息が荒い。
やがて、電気鰻と飛蝗(ばった)を掛け合わせし改造人間の必殺技が放たれた。
電磁波の嵐が改造人間の周囲にいた屈強の戦闘員たちや古参の怪人を巻き込み、激しい怒号を周囲に響かせる。
或いは、それらは悲鳴。
逃亡中の改造人間の始末に動員された秘密結社の構成員たちは、焦げたにおいを放ちながら次々に倒れ伏した。
よろよろと、尚も闘志失わぬ瞳でショッカーの裏切者に制裁を加えようとする手練れの上級怪人。
一撃なりと、痛打を与えねばならぬ。
半ば折れし爪を振り上げた彼の胴体を、逃亡者の手刀が貫いた。
死した戦闘員たちは体内のナノマシンの判断により、次々とその肉体や戦闘服を溶解させていく。
怪人も程なく、同様の結末を迎えるだろう。
死して屍(しかばね)残す者無し。
倒れた怪人が逃亡者へ話しかける。
「ら、雷王。に……逃げてもいつかは、死ぬの……が定めぞ。」
「それでも、俺は闘い続ける。」
「愚か……者め。偉大なるショッカーの……理念すら、り……理解出来ぬ、か。」
「出来んな。俺はお前と違う。」
「な、な……らば、ぶ……無様に朽ち……果てるまで闘い続ける……がいい……。」
「ああ。そうするさ。」
ニヤリと笑い、かつての友は泡と消えた。
「雪屋や紙屋を頼る訳にもいかんか。」
彼らは函館鎮守府で博士として働いているという。
自分が訪ねてしまえば、迷惑がかかるに違いない。
茂城(もしろ)猛はため息を吐いた。
親友の隼人は生きているのだろうか?
あの逞しい胸板。
爽やかな笑顔。
きめ細やかな心遣い。
別れた時は元気そうだったが、無事でいて欲しいと思う。
先輩は息災らしいのだが、今もってその所在は掴めない。
ショッカーの諜報力は侮れない故、油断禁物慢心禁止だ。
『大使』、『大佐』、『博士』、『少将』、『アストロ』。
ショッカーの幹部たち。
いずれも異能強く、異彩溢れる異才たち。
彼らを全員撃破する道は果てしなく遠い。
ショッカーの真の強さは、基幹戦力の戦闘員の育成を怠らないところにある。
合理化省力化少数精鋭化が最近の日本企業に於ける特徴だが、人材育成を怠った企業に明るい未来は訪れない。
それは悪の秘密結社でも同様だ。
神奈川県川崎市の借家に拠点を置く某秘密結社は近所付き合いがよく、そこの責任者は人格者で配下たちに大変慕われているという。
また、鳥取県の鳥取砂丘内に本拠を有する組織の首領は部下思いで、配下たちは首領の為なら喜んで命を投げ出すそうだ。
思い悩んだ末、痕跡を残さないように気を付けながら猛は北へ向かうことに決めた。
愛用している強化服は傷だらけで、自己修復機能は既に破綻していた。
何処かで新しいモノを調達するか、この中古品を完全に直すしかない。
そうでなければ、以降の過酷な闘いを生き残れよう筈も無いのは明白。
苦渋の決断の末に彼は偽装した改造モーターサイクルを駆って、関東圏に点在するショッカーの詰所屯所工場直営酒場独身寮訓練施設芸能事務所カストリ雑誌編集部及びエッチな店を破壊しまくった。
その後大本営警察自衛隊に通報し、結果的に関東地区を大混乱へ陥れる。
那珂ちゃんがアイドルを辞めるという誤報も流れ、那珂ちゃんのファンが大混乱に陥るという一幕もあった。
その為、那珂ちゃんは急遽函館提督のラジオ番組に出演し、その噂が事実無根であることを伝える。
記者会見での毅然とした態度は新たなる那珂ちゃんファンを何人も生み出し、『那珂ちゃんのファン、やります!』という標語まで発生した。
この放送によって事態は急速に収束し、根も葉もない噂は終息する。
その代わりなのかどうかはわからないが、ショッカー系芸能事務所所属のモデルたちが人気芸能人や政治家や有名社長などとお泊まりデートしていたことをすっぱ抜かれ、いろいろなところが炎上した。
騒乱を待ち望んで何時でも暴れまわることが準備完了な者たちは激しく吠え叫び、騒ぎを助長する。
騒動を煽るのが大好きな彼らは法的に規制されることも無いことから、まるで遊びに参加するかのような気軽さで他者を傷つけてゆく。
一方的に他者を叩きのめす快楽に汚染された彼らは、一種の中毒状態にあるとも言えた。
いずれ天罰を喰らうだろうが、神仏をおそれぬ者たちは己の正当性を疑いもせずに凶暴な加害者と化し、言葉の刃で辺り構わず切り刻みながら電脳世界を暴れ回った。
そしてそれらは、異星人や悪魔たちの耳目を集める結果となる。
派手な動きをした者程、早期になにかしらの接触があるだろう。
破滅に至る道へのパスポートを、手渡されることになるだろう。
とある地方都市駅前にあるホテルの一室。
意外と充実した朝食を食べ終えた猛は、装備の点検に余念が無かった。
あのうどんは旨かったと考えつつ。
髪型を変え、服装も一新し、敬愛する隼人から別れの際に貰った真っ赤なスカーフは大切に傷多き旅行鞄へ仕舞い込む。
少しくたびれた感じの旧車へと新しく偽装したモーターサイクルは、とても何名もの戦闘員や怪人をほふった歴戦の鉄騎には見えないだろう。
愛車のシクローン。
早めに分解して点検修理した方がいい。
『彼』も自分も血まみれだな、と猛は自嘲する。
快晴の空の下、青森県と道南を結ぶ船が定刻通りに北進を開始した。
青函連絡船の船上で津軽海峡をぼおっと眺めながら、猛はこれまでの激闘に思いを馳せる。
一時期相棒だった滝とは乱戦の中ではぐれてしまったが、生きていてもらいたいと考えた。
最後に見かけた時は怪人たちを何名も育て上げたハリケーン・リッキーと死闘を演じていたけれども、果たしてどうなったのだろうか?
不意にあの拉致担当の女性陣からされた様々なことを思い出し、思わず彼は赤面する。
うぶな猛にとって、それはあまりにも刺激的な経験だったからだ。
手を握られたり、肩を抱かれたり、それから………………。
あの女たちは今も生きているだろうか。
感傷的になりながら、彼は強い風に身を任せる。
船の中には人が多いようだ。
函館は丁度港まつりの時期。
深海棲艦との戦いが続いているとは言え、緊張ばかりの自粛ばかりでは生きにくい。
なにかでガス抜きする必要はある。
秋田や仙台や青森で夏祭りをそれなりに楽しんだ彼は、人が笑顔で生きていける世界を作りあげようと改めて誓った。
宿泊したホテルでたまたま見た、『変身駆逐艦嵐』という朝の子供向け特撮番組に思わず引き込まれた自分自身へ内心苦笑いしつつ。
女の子の下穿きがちらちら見えるのはどうかと思ったが、敵の幹部の下穿きも同じくちらちら見えていたのでそういう演出なのかもしれないなと彼は考えた。
そろそろ函館だ。
港が視認出来る程の位置にある。
護衛の艦娘たちも、どことなく軽やかに海上を滑走しているかに見えた。
「あの、ちょっといいですか?」
数秒して、その声は自分に向けられたものだと理解した猛は振り向いた。
そこには見知らぬ少女たちがいる。
多分、中学生や高校生たちだろう。
どの子も美しくアイドルみたいだ。
観光と港まつりを兼ねて来たのか?
先頭にいる少女が猛を見て呟いた。
「やっぱり、なのです。」
やっぱり?
やっぱり、とはなんなのだろう?
少女たちに囲まれ、猛は戸惑う。
彼女たちに見覚えは無いし、ショッカーの手先にも見えないからだ。
一体、彼女たちは何者だろうか?
そして、少女たちは一斉砲撃を浴びせるかの如くに彼へ話しかけた。