はこちん!   作:輪音

262 / 347


吹き荒れる熱風
照りつける太陽
夏の甲子園は巨大な蟻地獄のように
冷涼な土地の球児たちを捕らえて離さない
ふんだんに金と手間暇をかけた強豪校
それに立ち向かうは北の公立農業高校
魔球遣いの投手を戦列に加え
絶対に勝つとの戦意に燃えた彼らは
何度も優勝した高校へ
鮮やかに戦いを求める

Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか




今回は三二〇〇文字程です。

※酒田鎮守府に関する表現を修整しました。秋田県並びに山形県の皆様、大変申し訳ありませんでした(一五時二五分に修整)。



CCLⅩⅡ:本気の夏、秋田の夏

 

 

 

第一〇〇回全国高等学校野球選手権記念大会は、初出場である秋田県立のとある農業高校が優勝を飾る結果となった。

普段農業で鍛えている足腰と東北勢の期待を一身に背負った気迫が、彼らの原動力になったらしい。

応援団の少女たちが懸命に短いスカートを振りつつ踊る様は多数の少年を興奮させ、少年の頃の魂を今も引き摺るおっさんたちも大いに興奮させた。

公共放送を自称する放送局の撮影者たちは相も変わらずねっとりと少女たちを映し、涙する彼女たちを素早く見つけて映してはその手腕と執拗さを全国の高校生マニアたちに知らしめる。

撮影者たちの好みが丸わかりな素朴系少女たちは全国のお茶の間に晒され、即席の品評会を行う者どもも散見された。

 

二人の投手の活躍も目覚ましかった。

主力の投手は安定した下半身と無駄の無い動きにて投げる豪腕系で、他の選手たちと連携しつつ次々と強打者を討ち取っていった。

一方の抑え役たる投手は、今大会から参加が認められた小柄な女の子。

やさしい顔立ちの秋田おばこ。

芯のしっかりした女の子。

左投げ左打ちのサウスポー。

憧れてきた女性投手のドリームボールを使えるようにと日々切磋琢磨し、そして県大会の時点で魔球を見事に開花させ、並み居る強き少年打者たちを続々中破大破轟沈に追い込んだ。

七色の魔球を操る、まさにちっちゃなハリケーン。

フォーク。

ナックルボール。

シンカー。

スクリューボール。

多彩な球種を巧みに使って討ち取る姿は、敵を斬り倒す女騎士。

『ハリケーン・ハニー』と友達が名付けた渾名(あだな)は瞬く間に全国各地で知られるようになり、『蜂の一刺し』で倒される打者たちの映像は同世代の女の子たちを熱く燃やし勇気付けるのであった。

そしてまたそれは歳上の働く女性たちにも好感を持って迎え入れられ、彼女は女性たちの圧倒的支持を受けるに至った。

彼女の活躍は女性たちの希望の星であり、その勢いは現在進行形で現役人気偶像群を遥かに凌ぐ程だ。

 

ヤっちゃえ、ハリケーン・ハニー!

 

彼女は特に美少女という訳でないし、凹凸がどうという程でもない。

少年向けの物語ならば脇役に甘んじる存在かも知れないが、現実世界ではばったばったと敵を斬り伏せる女騎士。

ちっちゃな女騎士は柔よく剛を制すの勢いで、夏に燃えるのだった。

 

優勝した秋田県はしばしの戸惑いの後、爆発的な歓喜へと変化した。

激しく燃える秋田県がここに爆誕する。

県民一体となって喜びを表し、観光客たちは秋田県側からのおもてなしを存分に受けることになる。

意気に感じた造り酒屋は蔵の酒を原価に近い価格で融通し、居酒屋は旨い秋田料理を観光客や地元民へ格安価格にて惜しみなく提供する。

きりたんぽや稲庭(いなにわ)うどんやさなづらや秋田かやきやしとぎ豆がきや金萬などの乱れ打ちが県内各地で見られ、秋田県南部の郷土食たる豆腐カステラもふんだんに他県へと進出する。

秋田県とお付き合いのある山形県もその勢いに呼応し、ダブルライダーの如く街は賑やかにさんざめくのだった。

この機を逃してはならじと岩手県宮城県福島県も連携要望の意向を秋田県に伝え、懐広き秋田県はこれを快く了承した。

また、秋田県にとって最強最大の好敵手たる青森県でも、普段のあれやそれやを忘れて団結することが決定された。

林檎の愛、今ここに。

東北六県の合従連衡的な催しは近年勢いを増してきている京都大阪神戸岡山広島博多などでも行われ、やる時はやります的な東北的攻勢によって賑々しく急拵(こしら)えの催しは日本の各地で行われた。

秋田県近隣の新潟県からも少し遅れて打診があり、一緒に喜びを分かち合おうという意識の秋田県は共にやりましょうと裏表なく手を握った。

 

 

したたかに二枚三枚の舌を使うことなく。

幾つもの手を使って陥れることすらなく。

 

 

 

今、全国で最も勢いのある県は間違いなく秋田県だろう。

隣県の山形にある酒田鎮守府も提督から艦娘まで大喜びであり、近隣の日本海側鎮守府は華やかさに満ちている。

料理上手を送って欲しいと秋田県知事直々の要望があり、大本営からの許可を即日取り付けた大淀は、やさしく微笑みながら許可証を私に見せた。

眼鏡の縁の小さな赤い斑点には気付かないふりをしておこう。

備前の刀工が鍛え上げた業物たるバールのようなモノは、彼女によると使いやすさが格段に違うのだとか。

わからんなあ。

それは兎も角。

どうやら、秋田市で大きな催しを開催するらしい。

夏祭りがあったばかりなのに忙しいことであるよ。

さっそく奥州うまいもの祭りへの参加者を厨房で決め、間宮率いる『おいしいもの作り隊』が秋田県へ向かうことを決定した。

彼女たちがいない間は他の間宮が埋めることになり、その間宮が開けた穴は……どうなるのだろう?

間宮が苦笑いしつつ言った。

 

「私と同姿艦だからといってどこででも重用されている訳ではありませんし、腕前が超絶的とは限りません。」

「そういうものなのですか?」

「そういうものなのですよ。」

 

大和型戦艦艦娘四名も参加してもらおう。

艦娘の宣伝にもなるし、丁度いいだろう。

舞鶴の武蔵が私に抱き付き少々駄々をこねて困ったけれども、他の三名からなにか耳打ちされて意見を翻(ひるがえ )した。

何故私を見てニヤリとするのだ?

 

 

船出した彼女たちを見送る。

艦娘と人間の目指すは秋田。

かつて、佐竹公が治めた街。

景気が少しでも上向くといいな、と思いつつ本日の第二秘書艦たる龍驤と共にぶんぶん手を振った。

 

「しっかし、今回は惜しかったなあ。」

「そうですねえ。」

「なんやキミ、秋田の高校が優勝して喜んどった癖に。」

「まあ、秋田県には親戚がいるんで。」

「ほしたら、大阪が負けても悔しゅうないやろ。」

「大阪にも親戚が住んでいるんです。」

「ホンマ?」

「ええ。」

「ふっふー、ええこと聞いたわ。ご挨拶する時は任せてや。」

「ご挨拶?」

「愛妻は親戚にも挨拶するもんやろ。」

「誰が愛妻やねん!」

「おお、ええツッコミや。ここにも突っ込んでええんやで。」

「子供たちの教育に悪いんで、下ネタはあまり……。」

「なにゆうとん。女の子はちっこくてもエロいことに興味津々やで。」

「まあ、その、ええと……。」

「式場が問題やな。人数の関係でおっきいとこがええし、大阪城でやるのもおもろいな。」

「名古屋城の方が大きいんじゃないですか?」

「大阪城でやったら、商工会が色付けてくれるで。」

「まさか、通じているんですか?」

「ははは、まさか。でもお城でケッコンゆうのもおもろいやろ?」

「五稜郭でやってくれ、って言われそうですね。」

「全国ツアーみたいに、あちこちでケッコン式しよか。」

「ライブイベントじゃないんですから。」

 

今日のお昼は彼女手製のお好み焼き定食の予定だ。

豚コマのお好み焼きに、かやくご飯とにゅうめん。

大本営から来た海防艦の子たちをおんぶしたり抱っこしたりしながら、執務室へ戻ってゆく。

チューは駄目だよ、お嬢ちゃんたち。

私をお父さんと呼んでもいけないよ。

 

 

雲行きの悪い天気だが、またその内晴れるだろう。

晴れない明日は無いのだから。

 

 

 

 

【脚註】

 

《秋田篇》

きりたんぽ:郷土料理の一。新米を炊いて粗く潰し、棒に巻き付けて焼いたもの。比内地鶏のだし汁で煮込むと誠に旨い。

 

稲庭うどん:乾麺の一。滑らかな舌触りと細麺ながらもコシの強さが特長。旨い。

 

秋田かやき:郷土料理の一。季節の魚や野菜山菜などを味噌塩醤油塩魚汁(しょっつる)などで煮込む。旨い。

 

金萬:秋田県民の魂の菓子。白餡とカステラ状の皮との合体口撃が風味豊かに口内を蹂躙する。旨い。

 

しとぎ豆がき:黒豆入りおかき。止められない止まらない。旨い。

 

さなづら:山葡萄を用いた名菓。旨い。

 

豆腐カステラ:豆富カステラとも。大豆と卵などで作る県南の郷土菓子。旨い。

 

 

《大阪篇》

豚コマ:豚の細切れ肉。旨い料理の元。

 

かやくご飯:加薬ご飯とも。薬味を入れた炊き込みご飯のこと。旨い。

ちなみに、火薬ご飯ではない。

 

にゅうめん:素麺を使った温かい汁物。旨い。

 





【オマケ】

「く、くくくっ、コ、コロスケーノー・フォーティーン。たとえ、お、俺が死んだとて大本営後方支援三課から第八、第九の強化人間型の刺客が……。」
「…………。」

パンッ!

「ぐはっ! か、閣下……俺の愛する閣下。あのやさしい夜は……に、二度と返ってこ、こないのですね……だ、だが、ま、まだ死ねん……一発なり……と……。」
「…………。」

パンッ! パンッ!

「ぐおおっ! か、閣下から激しくいとおしく何度も何度もいただいた、あ、愛の注入棒の力を侮るなよ、理想も……大義すらも無い、こ、殺し屋風情が……。」
「…………。」

パンッ! パンッ! パンッ!




「ははっ! 絶倫満点なコロスケーノー・フォーティーンと言えど、そんなにも出したら腰にくるだろうさ。さあ、そろそろ死ぬがいい! 末期のお祈りでもしなっ!」
「…………。」

パンッ!

「ぐはっ! な……なんで……。」
「ビール酵母、亜鉛、チョコレート、スッポン、高麗人参、山芋、オクラ。それらの力のお陰だ。」
「くっ、あたしの狙いはお見通しって寸法かい。なんとも小癪な男さね。」
「…………。」

パンッ!



「半世紀も昔はスメルシュ随一とうたわれた腕前も、随分と老いさらばえたものだ。待たせたな、コロスケーノー・フォーティーン。さあ、ワシを射つがいい。」
「お前にはまだ出来ることがある筈だ。」
「ワシに情けをかけるつもりか。」
「……生きろ。」
「くく、殺し屋に生を説かれるとはな。」



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。