俺たちは待った
三年の焦燥と共に
瞼(まぶた)の裏に揺らめくは
白い布
黒い布
赤い布
青い布
最早憧憬は
少女と共に
時の彼方か
だが
胸の奥にくすぶる炎は
突如として再点火する
ベッドの軋みと
男の呻き
ローラーダッシュに乗せて
大海を駆け抜けてゆく艦娘
確率二五〇億分の一の衝撃
異能の鎮守府は実在するか
生き残ったことが
幸いとは言いきれない
それは
次なる地獄への
いざないでもあるのだから
ここはお見合い最前線
様々なものを失った艦娘たちが
貴方はいらないと
呻きを上げる
呻きは悲しみを呼び覚まし
その仕組まれた心は
新たな提督を求める
求めあい
せめぎ合い
その夜を
互いの温もりで示せと
死兆星が
隠された狂気を促す
Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか
今回は八〇二四文字あります。
大本営預りの、艦娘無き提督たちが函館にやって来た。
総勢五人。
五人揃ってゴ…………まあ、それはいい。
彼らと艦娘たちを直接的に接触させてパチパチパンチでデートというかなんとか紅鮭というか、まあなんかそんな感じで一目会ったその日からを行うちゅう寸法だ。
鷹の目チェックも必要かな?
出会いの場はハイウェイジャンクショ……でなく、鎮守府食堂の一角。
既に着任や転属を望む艦娘たちがお見合い大々作戦に臨むべく、緊張した面持ちで待機している。
QⅡでない筈だが、なんだか遣り手婆さんにでもなったかのような気分だ。
「貴方たちを待っている艦娘たちは、あちらにわんさかいます。」
「「「「「オーッ!」」」」」
大変盛り上がる提督たち。
まあ、わからんでもない。
最初はこうなんだよなあ。
実際は艦娘が一方的に選ぶのだが。
ヘッドライナーとファティマの見合いに、なんとなく似ている気がしないでもない。
現在の提督二種の初期艦娘所有枠は公式発表で六名なのだが、実際着任するのは一名か二名がいいところ。
三名いたら御の字。
いやこれは酷いな。
相性というか、制御可能枠というか、許容範囲というか、なんだかよくわからない大きさで決まるらしい。
お猪口一杯の人もいれば、コップや洗面器やプールのような人もいるとか。
提督一種の場合は、艦娘との相性がさほどでなくとも……おっとこれ以上は言えねえ言えねえ言えねえな。
地道に信頼度を高めることは大切だと考える。
駆逐艦は正直に思ったことをずけっと言う風潮がある者も散見されるので、提督によっては一撃大破もしくは一撃轟沈することもある。
たかが駆逐艦と思って彼女たちを侮る提督は、さほど時を置かずに身分が失われることだろう。
艦娘の基幹戦力は駆逐艦であり、駆逐艦無くして鎮守府泊地警備府などは運営が成り立たない。
それがわからない提督は短命に終わるし、重々承知している提督は長生き出来るかもしれない。
うーん、今回の提督たちに艦娘たちはあまり乗り気で無いみたいだなあ。
提督たちは瞳孔を開き身振り手振りの大奮闘だが、結果が伴っていない。
詠唱する魔法のどれもが無効化されているみたいに見えなくもない様相。
ワイルドカードを切るしかないか?
出戻り系のケッコンカッコカリ経験艦も加え、彼らに一当てさせてみるとするかな。
一名ずつならなんとか所属させられる権限を有しているし、試しにやってみようか。
彼らが上手くいくよう、そっと祈っておこう。
私は北斗七星が描かれた漆黒の軍配団扇を振るい、転属希望の第一陣を引き下げる。
続いて訳アリの第二陣を戦場へ投入した。
現役から宙ぶらりんの彼女たちへの変更。
仲間を失った娘。
提督を失った娘。
基地を失った娘。
大人しそうな顔なのに、とある事態に於いて激しすぎたために提督を何人も比良坂へ送り込んだ娘。
格闘技が好き過ぎて、むにゃむにゃな事態を引き起こした娘。
エトセトラ、エトセトラ。
言うなれば
運命共同体
互いに頼り
互いに庇い合い
互いに助け合う
一人が五人のために
五人が一人のために
それだからこそ
戦場で生きてゆける
嘘つきね!
猜疑(さいぎ)に歪んだ
暗い瞳が提督を魔貫光殺砲する
貴方も
貴方も
貴方も!
私の提督になんてなれないわ!
彼女たちは
なにを思い描いて
ここにいるのか
それはあまりにも圧倒的な戦場だった
艦娘の一方的狩り場ナリ
提督と呼ばれる男たちは
戦歴も無き戦場童貞に過ぎない
大手鎮守府の提督程には
艦娘を知らず
その血塗られた過去への理解も又低い
それでも男たちは切に願う
可愛い艦娘たちと共にあらんことをば
仮にその命が風前の灯だとしても
先へ進むことを諦めてはならない
誘蛾灯へと招かれるがごとく
今宵も男たちは火だるまになって
まっ逆さまに墜ちてしまって
結果としてデザイアする
「私、格闘技がとてつもなく好きなんですよ。」
筋肉提督の分厚い密林系胸板の毛に指を探索者のようにくぐらせつつ、大人しそうな軽巡洋艦が興奮した面持ちで格闘技愛を語る。
どうやら、彼の筋肉は彼女の琴線に響いたようだ。
「そ、そうですか。」
「や、夜戦だけは得意なんですよ、私。」
「その、や、夜戦がお得意なんですね。」
「ええ、今度一緒に試してみませんか?」
「一緒に? 夜戦は、深海棲艦相手のものではないのですか?」
「ふふっ、いいですね、そういう反応。」
「あっ、わかりました。私を深海棲艦に見立てて訓練するのですね。」
「いいですよ、いいですよ、それでいいんです。」
「私でよければお付き合いしましょう。」
「はい、私も力の限り頑張りますから。」
ここで男の腹が、きゅるるると鳴る。
まるで出番を待っていたかのように。
おんなが間髪を容れずに小袋を出した。
「あ、あの、クッキーを焼いてみたんですが、如何でしょうか?」
「は、はい、ありがたくいただきます!」
むさぼるおとこ。
ほほえむおんな。
やがて両名は正中線とか陸奥圓明流がどうとか甲賀流忍術や伊賀流忍術やなにか余人にわからぬような、武技の話になってゆくのだった。
関節技の説明では彼女の双丘がむぎゅっと男に押し当てられ、彼は赤面する。
それを気にせず、彼女は益々熱の籠った武技談義に花を咲かせるのであった。
ブレザーをきちっと着こなしたその駆逐艦は、傍目からも頑張り屋に見えた。
「お助け出来ることがありましたら、なんでもお気軽におっしゃってくださいね。私、出来る限り頑張りますから。」
「は、はい、こちらこそ、よろしくお願いします。」
緊張した提督につつつと近づき、駆逐艦は彼のナニカの位置を素早く修正する。
「提督の魚雷菅の角度を直しますね。」
「え、あ、あの、え、その、あの、ちょ、す、スミマセン。こ、これからはそんなことをされなくても大丈夫ですよ。」
本音を隠し、男は紳士的に言葉をかけた。
「提督からはきちんと直すように指令を受けていたのですが……。」
「なんて羨ま……いえ、やはりこんなことはすべきでありません。」
「わかりました。」
「わかっていただけて幸いです。」
「それでどうでしょう? 私のようなふつつかものでも、提督の元で戦えますでしょうか?」
「勿論です。伏してお願いしたいくらいです。」
「ありがとうございます。では輪形陣を組んで、着任おめでとうございますとやった方がいいですか?」
「やめてください、それは自分の心に効きすぎますので。」
「では、お茶のお代わりは如何ですか?」
「いただきましょう。……ほう、これはお世辞抜きでおいしい。」
「私、お茶とお味噌汁とおむすびには自信があるんです。」
「いい奥さんになれるでしょうね。」
「そ、その、それはまだ早いです。」
「え、あ。あれ? あ、はは、少し気が早すぎましたか。」
「おいしいご飯はお任せください。」
「期待していますよ。」
「イワシのつみれ汁にとろろを掛けた麦飯もいいですね。」
そして、両名はにっこりとした。
元気で生真面目で頑張り屋ぽい駆逐艦が、力強く挨拶する。
「叢雲ちゃんを含む、ここにいる特型駆逐艦姉妹の監督役をしております! よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
先ずは丁寧なやり取りが繰り広げられる。
そしてそれはいとも容易く変化してゆく。
「下穿きを含めて準備完了です、司令官!」
「え? 一体なんの話ですか?」
「下穿きには見せ方があるんです。ちらりと見えるか見えないかが大切であって、わざわざ見せるのは下の下ですね。」
「はあ。」
「興味ありませんか、私の下穿き?」
「えっと、いろいろな意味で問題になりそうですから答えは保留とさせていただきます。」
「ちなみに今日は勝負下着です。」
「あの、着任についての験担ぎですよね?」
「勿論です! それ以外にも意味があります。お知りになりたいですか?」
「ええと、また今度でお願いします。」
「わかりました。それでですね、私は和食と蕎麦と蕎麦饅頭作りが得意です!」
「ほう、それはいいですね。」
「毎日お味噌汁を作ります!」
「期待していますよ。」
「お任せください! ところで、司令官の夢はなんですか?」
「平和な世界を築くことです。」
「それは素敵な夢ですね。私と同じです。ところで。」
「はい。」
「司令官、今度夜の羽根突きをしませんか?」
「はい?」
駆逐艦は素早く提督の傍に寄って、手を握り締めた。
ひっそり花咲く娘の如き駆逐艦。
何故か、彼女はキヤノンの大型写真機を装備している。
レンズは高性能の金属製単焦点。
昔の製品だが描写力にすぐれる。
はにかみながら、彼女は提督との距離を狭めてゆく。
「あ、あの、恥ずかしいです。」
「は、はい、俺も恥ずかしい。」
真っ赤な顔。
提督も同様。
「ここは、私も頑張る時なのです。一枚撮りますね。」
「撮るのか?」
「撮ります。」
パチリ。
彼女は撮影が趣味なのだろうと、提督は考える。
「ふふふ、なんだか緊張しちゃいます。それではもう一枚撮りますね。」
「また撮るのか?」
「また撮ります。」
パチリ。
撮影は彼女の意志疎通の方策なのかも知れないと、提督は再考する。
何枚か撮影し、彼女が提督に問いかけた。
「あの、提督って彼女はいますか?」
「い、いや、いない。誰ともしていないんだ。新品だよ、俺は。」
「……あっ、そうなんですか。ふふふ、成程。うふふ。」
「変かな?」
「いいえ、全然。そうだ、今夜、一緒に星を見に行きませんか?」
「そうだな、それもいいな。」
爽やかに両名は笑った。
ちょっとのんびり屋ぽい感じの駆逐艦が、提督の脇腹を揉む。
揉む揉む揉む。
提督は何故かそれに興奮した。
女の子にそんなことをされたことなど今まで無かったし、今後も無いだろう。
「司令官はゲーム好き?」
唐突に彼女が聞いてきた。
「昔、スーパーファミコンやセガ・サターンやPCエンジンで遊んだくらいかな。今はさっぱりだよ。」
「レトロゲーだね。お勧めは?」
「『フロントミッション』や『デビルサマナー ソウルハッカーズ』や『ジアンソルブド』や『サクラ大戦』はよく遊んだ。」
「ふーん。全部やってみたいかな。それらが手に入ったら、一緒にやってくれる?」
「いいぞ、勤務時間外ならな。」
「今の司令官の趣味はなに?」
「そうだなあ。提督になる前は殆ど毎日仕事漬けだったから、休日は釣りでもしようかな。」
「司令官、ネットでそういうことをするのはよくないよ。」
「そっちじゃない。」
「そっか。」
「そうだ。」
「私は読書と漫画とラジオを聴くことが特に好き。星新一のSFはマジお勧め。『魔法使いの嫁』もなかなかいい。それと、同姿艦の子が望月とやってる『ハッチーモッチーステーション』は毎回聴いてる。あれはいい。マジ感激する。最近は、あっけし先生の本を特によく読むよ。」
「へえ。」
「ごろごろ寝てだらだら過ごせたら最高だね。」
「それはまあ……でも無為に過ごすと虚しくならないか?」
「司令官との夜に備えないといけない。」
「夜?」
「夜。ヤれば、本当に出来るし。今夜確かめてみる?」
「なにをヤるのかな?」
「大丈夫。痛くしないから。」
「なんだか不安になってくるよ。」
「そうだ、一緒にひきこもろう。」
「なんで?」
「そうすればいつでも一緒だし。」
「先ずは仕事しろよ。」
「仕事漬けの人生は虚しくなる。」
「よし、先ずはお前がきちんと仕事をするように仕込むところから始めよう。」
「えええ!」
「勤務時間外でごろごろすればいいさ。」
「う~ん、やってみる。」
「よーし、その意気だ。」
困った顔の駆逐艦が提督の腰をぺちぺち叩く。
そしてそれは撫で撫でになり、やがて……。
しっかり者の雰囲気たずさえた駆逐艦が無常を見てきたかのように、静かな笑みを浮かべながら提督に相対する。
「大手鎮守府の各司令官の元には必ず同姿艦が配属されるんですけど、ずっと所属し続けられるとは限らないんです。」
「え、あ、その、そうなんですか。」
「そうなんです。その程度の扱いの女なんですよ、私は。」
「あまりご自身を卑下されるのは、よくないと思います。」
「あまりものの艦娘の駆逐艦。そんな女でいいんですか?」
「貴女は素敵に見えます。私はその直観を信じたいです。」
「お人好しなんですね。」
「よく言われます。」
「わかりました。雨の日も雪の日もご一緒しましょう。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「吹雪ちゃんと共に夜の羽根突きを一緒にしませんか? ……なーんちゃって。」
「ははは、お手柔らかに。」
「うふふ、特型駆逐艦の夜の力、後でお見せしますね。」
「ほう、それは楽しみですね。」
わかっていないような顔の提督に慈愛の笑みを見せる駆逐艦。
愛は深くやさしく限りなく。
さっぱりした感じの短髪の駆逐艦。
お目めくりくりで、いたずらっ子ぽい感じがそこかしこに漂う。
「よう。よろしくな。」
「こちらこそ頼むぞ。」
「ふっふっふっ、このスキンシップはどうかな?」
「おいおい、お前はやんちゃなんだな。」
「いっけるいけるぅ! 早く夜戦したいぜ!」
「そいつは頼もしい。」
「明日の朝は一緒に乾布摩擦しようぜ。」
「え? あ、まあ、そりゃかまわんが。」
「夜は深雪スベシャルを喰らわすから。」
「なんだそれ?」
「夜のお楽しみってことさ。」
「へえ。じゃあそうしとく。」
「吹雪、白雪、初雪と一緒に組めるのはとっても嬉しいねえ。艦娘冥利に尽きるよ。」
ボーイッシュな駆逐艦は、そして花が開くように微笑んだ。
「ふうん。あんた、あたしの提督になりたいの?」
「は、はい、そうです。」
「そんなにかしこまらなくても大丈夫よ。別に取って喰ったりなんてしないから。」
微笑むは歴戦の駆逐艦。
上がりっぱなしの提督。
青白き眼鏡男の声は完全に裏返っていた。
だが、それを指摘する野暮な者はいない。
足を頻繁に組み換える駆逐艦。
そのワンピースの裾はとても短い。
男は魅惑の秘奥的三角地帯を努めて見ないようにするも、偶然見えてしまって赤面する。
ニヤリとひそかに笑いながら、駆逐艦は圧倒的優位の元で男と対話する。
「あんた、女の子と付き合った経験が無いみたいだけど大丈夫?」
「は、はい、大丈夫です! 一生面倒を見させていただきます!」
「なにどさくさに紛れて求婚しているのよ。」
「あ、あの、緊張していまして、誠に申し訳ありません。」
「あのさ。そう思っているのなら。」
駆逐艦はどこもかしこもガチガチになった男の膝に指を這わせ、耳元でそっとなにかを囁いた。
男は一撃大破し、硬直してしまった。
その軽空母の胸元から、ちらりちらりと膨らみが僅かに見える。
きちっと着込まれている筈の赤いシャツの釦(ボタン)が何故か一つ外れていて、豊かな双丘と布地の一端を男に知らしめていた。
彼女は実に気さくに振る舞っている。
女の子に密着された経験など過去に存在しない強面(こわもて)男は緊張と興奮のあまり、己が下着に汗染みとそうでないものを倍加してゆく。
「へえ、女の子と今まで付き合ったことがないのかい。あんたはいい男だから、てっきり何人もの子と付き合ったことがあるのかなんて思ったよ。」
「い、いえ、私はそんな経験なんて無いんです。」
「勿体ないねえ。じゃあ、そのご立派な主砲も宝の持ち腐れじゃないか。」
「え? え?」
「なんだい。焦っちゃって。可愛いじゃないか。」
「は? あの、ええと?」
元客船は、男をどう調理しようかと微笑みかける。
男はそれを純粋な好意と捉え、真っ赤な顔をした。
彼女はむくつけき大男へなにかを囁く。
会心の一撃で男の視線がさ迷い始める。
初めて言われた言葉に動揺が隠せない。
「大丈夫。夜は長いからね。」
軽空母はやさしくやさしく男の背中を撫でた。
おんなの吐息におとこは濡れる。
おとこはおんなに絡め取られた。
「私の単装砲、きっと気に入るわよ。」
提督の真正面で親しげに話しかける軽巡洋艦。
逃がさへんでと彼女の瞳は語るが、おそろしく判断力の低下している男には彼女の短いスカートがふわりふわりとうごめく様しか見えてこない。
なにかが、彼女が動く度に見えたり見えなかったり。
それは誤誘導。
既に青年は彼女の手のひらの中。
経験無き彼にはわからない世界。
「単装砲、ですか。」
「て言っても、私に単装砲が生えている訳じゃないからね。」
「は、ははは。そ、そういうのもアリかも知れませんねえ。」
「あら、そういう子がいいの?」
「え、あの、べ、別にそういう訳でもないんですが、そ、その、あ、貴女が魅力的過ぎて焦ってしまいます。」
「お上手ね。そうやって、何人もの女の子を泣かせたんでしょ?」
「ち、違います! お、俺は童貞です!」
「ふうん。じゃあさ。」
「え?」
彼女が、背は高いものの容姿に今一つすぐれない男の耳元でなにやら囁く。
男は茹で蛸のように赤くなり、かくんかくんと首を振る頷き人形と化したのだった。
「ふふふ、可愛いわね。」
「お、俺は可愛くなんてないです。そんなことは生きてきてこのかた、親にだって一度も言われたことなんて無いです。」
「私が可愛い、って決めたから提督さんは当然可愛いのよ。だから、提督さんは私の価値観を信じたらいいの。でしょ?」
こてん、と首を可愛くかしげる軽巡洋艦。
びりびりと痺れるが如くに硬直する提督。
瞬時に距離を詰めた軽巡洋艦にギュッと抱きつかれ、ウッと一言漏らしつつ男は一撃大破した。
そんなこんなで日も暮れて。
なんとか二名ずつで、提督たちへの所属を成立させる。
無所属から転属まで、いろいろな背景を持つ艦娘たち。
上手くいくかどうかは、彼ら次第だぞい。
五人ともデレデレしているが大丈夫かな?
小樽の提督が、「腑抜けどもめっ!」と怒りそうな感じだが。
今夜早速夜戦を仕掛けられる提督もいるみたいだが、それはそれであちらの事情だ。
そこまで面倒は見ていられない。
まあ、ワセリンくらいは提供しておこうかな。
後、傷薬のキップパイロールとか絆創膏とか包帯とか消毒液とか。
夜間背中に刻まれた爪痕は、けっこうじわじわと痛むものらしい。
呉第六の先輩がしみじみと語っていた。
そうか。
あちらの鳳翔は……ええと、情熱家なのだろう。
ケッコンしたら、毎晩傷だらけになるのだろうか?
あんなことやこんなことをされて。
痛いのは好きじゃないんだけどな。
ケッコンカッコカリ経験艦も今回数名移籍出来たので、良しとしよう。
にこにこしている軽巡洋艦たちがどう豹変するのか、彼らは知らないんだろうな。
ヤバい子もいるんだけどな。
富田(とだ)流の『煉獄』なんておそるべき連続技を、目の前で見せられるとは。
長門教官の武技言語とか影技とか覚悟完了とか、妙高型重巡洋艦姉妹及び大淀島風吹雪の連携技も見事なもので、クンフー映画もびっくりの展開であった。
彼らは雑居鎮守府に配属されるらしいので近海哨戒から遠征艦隊及びそれなりの作戦までこなせる二艦隊という感じでまとめてみたが、長持ちして欲しいものだな。
民家改造型の派出所的な基地に、全員まとめて着任するとのことだ。
海沿いの廃旅館で共同生活するのだとか。
せめて来年まで無事でいて欲しきものよ。
彼らも重々気を引き締めねばなるまいて。
なにしろ、これから戦争になるのだから。
彼らと艦娘たちに幸多からんことを。
あの時。
燃え尽きた筈の私たち。
枯れ果ててゆくのが当然だと思い込んでいた私たち。
戦場で灼け、身も心も焦がしてしまった。
最後と思った、提督との夜。
余所行きの声さえ忘れた夜。
サヨナラを平坦に言った夜。
翌朝の水平線は美しかった。
季節で変わる所属基地。
違和感ばかり加速する。
本命など、とっくに何処にも存在しない。
海岸線を走っても空虚さは満たされない。
かつての避暑地をさ迷ってもなにもない。
沈みゆく夏。
暑い季節が終わり、私たちは新しい伴侶を迎える。
それが正しいことだと、あの冴えないながらもやさしい提督は言ってくれた。
彼の本命にはなれない。
層が分厚過ぎる。
それ故に、別の本命を見つけるしかない。
傍らにいる彼は本命になれるのだろうか?
頬を少年のように紅潮させた提督の彼が?
わからない。
わからない。
だけど、前に進むしかない。
細い細い、蜘蛛の糸の如くに細い道を辿って進むしかない。
希望の光が彼方にあると信じながら。
【今回雑居鎮守府へ着任した艦娘たち】
《駆逐艦》
◎叢雲(むらくも)
◎初霜
◎吹雪
◎磯波
◎初雪
◎白雪
◎深雪
《軽巡洋艦》
◎由良
◎名取
《軽空母》
◎隼鷹(じゅんよう)
※御協力いただきました源治様に感謝を。