はこちん!   作:輪音

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整った顔立ちに大きな瞳
長い髪に花飾りを付けた
お洒落な駆逐艦の艦娘が
小笠原鎮守府に着任しました
彼女は花咲く美しい島が
いっぺんに好きになりました
けれども
小悪魔系でおしゃまな艦娘の出現に
提督は戸惑うばかりでした

Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるでしょうか






ⅩⅩⅦ:海から来た娘たち

 

 

「あら、意外に早起きなのね。」

 

目覚めると、隣で豊口めぐみみたいな声が聞こえた。

その声の主はフェニックス。

金髪碧眼の美少女が微笑む。

軽巡洋艦のメリケン艦娘だ。

肌着姿で俺を見つめている。

それは驚く程の至近距離だ。

目のやり場にとても困った。

 

「おはよう、フェニックス。」

「フェニーでいいわよ。」

 

うーん、と背伸びしながら起き上がった彼女は、そのまま顔を洗いに行った。

下半身を見られなくて幸いだ。

女の子って、いい匂いがする。

俺の精神衛生状態に悪影響だ。

さて、朝食の準備を始めよう。

地元で産した珈琲を淹れよう。

梨の香りがするバナナも旨い。

 

 

ここは小笠原の父島。

なんちゃって鎮守府のある島。

風光明媚で美しい島。

艦娘が正当に配属されない島。

 

 

小笠原。

青い海。

白い雲。

水着姿のフェニーが波打ち際で手を振っている。

揺れる。

揺れる。

回るターレット。

彼女に向かって、手を振った。

まるで俺たちは……。

いや。

なにを考えているんだ、俺は。

……気の所為(せい)だな。

添い寝だって彼女の気紛れに違いない。

そうさ。

きっとそうに違いない。

 

 

東京湾とその近海を警備する特艦二課の能登提督に連絡を入れる。

電話で会話しただけだったが、なんか飄々とした感じの人だった。

 

 

小笠原の海は素晴らしい。

元々山国育ちなので、こういう風景はとても新鮮だ。

ん?

砂浜に誰かいる?

要救助者か?

近づくと大型の艤装を付けた娘だ。

美少女の艦娘だ。

知らない子だな。

海外艦だろうか?

この子も、出会った時のフェニックスみたいにボロボロだ。

艤装の大きさからすると、彼女は戦艦のような感じがした。

持ち上がらないのはわかっている。

 

仕方がないので一旦なんちゃって鎮守府な民家に戻り、棟梁姿の妖精に話しかけた。

 

「親方、砂浜に女の子がっ!」

「な、なんだって!?」

「ねえ。」

「なんだ、フェニックス。」

「フェニーって呼んでよ。それって、ジャパニーズコント?」

「素晴らしい国民的アニメーション映画へのオマージュだ。」

「ふうん。でさ、その子は誰かわかる?」

「オクラホマって艤装に記されていた。」

「オーキーね。」

「知り合いか?」

「まあね。シップガールはみんな知り合いと言えば知り合いだけどさ。」

「気を失っているみたいだから、俺一人じゃ運べないんだ。頼むよ、フェニー。」

「さっさと行きましょ。」

「おう!」

「もっと頼っていいのよ。」

「おう!」

 

俺たちは砂浜に打ち上げられたメリケン艦娘をじっと見た。

栗毛色……ブルネットというのか?

ストレートボブの頭に左目の下には黒子。

ミニスカにマントを羽織った巨乳娘が、両手に手斧を握り締めている。

斧や手に、なんか紫とか赤とか黒っぽい色合いの液体が付着していた。

 

戦艦と軽巡洋艦か。

これで駆逐艦数名と軽空母がいれば丁度いいかな?

まあ、そんなに都合よくはいかないか。

どこかから艦娘を複数名調達しないと。

函館の提督を経由して回して貰おうか?

大本営ってホント、なにを考えている?

常識や良識を振りかざす奴らは困るよ。

二重規範が当たり前の壊れた頭の連中。

砂浜でそうしたことをぼんやり考える。

彼女を回収しよう。

しかし、フェニックスは無防備な姿だ。

 

「あのさ、フェニー。」

「なに、アドミラル。」

「そんなに薄着だといろいろ見えちゃうしムラムラするから、あれこれ見えにくいような服を着てくれ。」

「あたしは困らないわよ。」

「俺がとても困るんだよ。」

「じゃあ、そのムラムラを収めてあげようか?」

「えっ?」

「ずいぶん仲がいいんですね。」

「えっ?」

 

斎藤千和みたいな声が聞こえてくる。

オクラホマがこちらを見つめていた。

 

「そうよ。アドミラルはあたしのダーリンだから。」

「えっ、俺たちステディ?」

「アメリカンジョークよ。」

「びっくりしたなあもう。」

「仲が大変いいんですね。」

「そ、そうかな?」

「でも! その話は後回し! とうっ! オープン・ゲーット!」

 

艤装から射出されるように飛び出すオクラホマ。

垂直方向に流麗華麗に飛び上がる。

その両手に握られしはトマホーク。

太陽を背にした彼女が武器を振りかざして叫ぶ。

 

「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ! 悪を倒せと輝き叫ぶ! 日輪の輝きを受けて! 今! 必殺の! ダブルトマホークブーメラン!」

 

どこからなにをどう突っ込んだらいいんだろうか?

 

二丁の手斧を深海棲艦に投げつけるメリケン艦娘。

それらは見事に敵対者を貫き、破壊に至らしめる。

くるくる輪を描きながら彼女の元へ戻る手斧二丁。

まさか、脳波制御なのか?

まるで、アイスラッガーの如き白兵戦用の武器だ。

いつのまにか、イ級二隻が我々を狙っていたのだ。

気づかなかった。

これ正に不覚也。

戦艦の出力で投げられた手斧は敵駆逐艦の船体を破壊し、それぞれ一撃で撃沈に至らしめていた。

 

イ級二隻の内、一隻は爆発して燃えながら沈んでゆく。

残る一隻の船体が光りだした。

 

傍にいた棟梁姿の妖精が呟く。

 

「あれが海域回収(ドロップ)だ。」

「知っているんですか、親方?」

「おうさ、見ていろ。あれが艦娘の海での『誕生』だ。」

 

ボッティチェリの『ヴィーナス誕生』みたいに、イ級の中から艦娘が生まれてくる。

イ級を完全にぶっ壊していたら、彼女はどうなっていただろうか?

イ級の中に最初から艦娘が詰まっていて、それを解放したのかな?

謎だ。

さっぱり、見当がつかん。

俺にはちっともわからん。

 

あれは睦月型駆逐艦の如月らしい。

艤装付き衣裳付きで生まれるのか。

てっきり、すっぽんぽんで生まれるのだと思っていた。

 

「……呉に……睦月……帰る……還る……人間……愚か……死して屍拾う者なし……海の底……睦月……みんな……。」

 

ぼんやりとした視線で俺を見つめた駆逐艦は、その場で倒れた。

 

 

次の日の朝、入渠を終えた二名から改めて着任の挨拶を受ける。

 

「戦艦のオクラホマです。この姿では活躍したいと思っていますので、どうか積極的活用をよろしくお願いいたします。」

 

「誘惑迷彩を実装した駆逐艦の如月です。お側に置いてくださいね。ふふふ。」

 

 

函館の提督に電話したら、その内演習しようと言われた。

先遣艦隊として近々メリケン艦娘たちを派遣するそうだ。

どんな子たちなのだろう?

 

 

「バイオニックジェミーみたい。」

「チャーリーエンジェルみたい。」

「私たち、セクシー路線艦娘よ。」

 

 

硫黄島にある自衛隊の基地へ挨拶に行ったら、滅茶苦茶歓迎された。

主に艦娘三名が。

 

 

 







南洋の
遠き海より
流れ寄る
艦娘一名
故郷(ふるさと)の鎮守府
離れて
汝(なれ)はそも
波に幾月

われもまた渚を枕
孤身(ひとりみ)の
浮寝(うきね)の旅ぞ

思いやる
八重の汐々
いずれの日にか
國に帰らん


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