今回はほんのりとエロいです。
それはいつもの、ウシミツ・アワー。
いつもの蒲団にて開幕される夜の戦。
短くも激しい交戦の末、男は果てた。
荒い息を吐く男からぬるりと抜け、女は汚れた服を見てため息を吐く。
「キミ、ヨゴシスギ。」
「す、すまん、龍驤。」
「キミガタイヘンナヘンタイナノハシットッタツモリヤケドナ、ココマデトハチットモシランカッタ。」
「面目ない。」
濃厚なにおいに満ちた六畳間。
小柄な駆逐艦めいた体格の女。
汗まみれのぼってり腹なる男。
ぐしゃぐしゃになった衣類が部屋中に散乱している。
朝潮型、吹雪型、夕雲型、陽炎型。
球磨型軽巡洋艦姉妹用の、深緑色した制服も蒲団近くに転がっていた。
念のいったことに、いろいろな色彩のカツラまで周辺に置かれている。
強力わかもとやハブ酒や亜鉛の錠剤の空瓶が、机上に並べられていた。
スライムから抽出されたという噂の潤滑油の消費量も洒落にならない。
つまり、男は女に夢中なのだった。
「センタクスルンハ、ケッコウテマヒマカカルンヤデ。」
「本当にすまん。」
「ナンドモナンドモユウトルヤロ。ホカノキチデモ、ナンドモナンドモツカウンヤッテ。」
「おっしゃる通りです。」
襖(ふすま)が三センチほど開いていて、駆逐艦二名がじっと彼らを見つめている。
彼らと違い、彼女たちはきっちりと白い身体にパジャマを装着していた。
男は彼女たちと会話を交わした記憶がちっとも無かった。
一緒に入浴した記憶も無い。
無口極まる娘たちで、紹介も答弁も代弁も龍驤が行っている状態だ。
報告すらも。
そんなにも嫌われているのだろうか?
もっと信用してもらえないだろうかと男は思うが、龍驤によるとまだまだ先は遠いようだ。
島風コスが不味かったのか、或いは時雨夕立コスが不味かったのか。
戦艦を上回る視線が最近心地よくなってきていて、少々ヤバいかも。
愛想も言葉も無い彼女たちだが、任務は着実にこなしているらしい。
毎回毎回覗くのは止めて欲しいな、と男は思う。
カサブランカ級航空母艦の衣装が入手出来なかったのは残念だが、まあ、また機会はあるだろう。
青いシャツに白いホットパンツの姿。
赤から青に変化させるのも悪くない。
メリケンには沢山存在するのだろう。
日本では稀少な艦娘に属するのだが。
四大鎮守府の何処かにはいるらしい。
龍驤を着せ替えさせたがる者は実際のところ、かなり多い。
ナース服やメイド服に着せ替えたがる者までいる程だとか。
函館の提督にそういった嗜好が無いことは非常に残念なことだと、男はつくづく考える。
先日大淀と共に現れた彼に自慢の押入れこれくしょんを見せたのだが、なんだか両者の表情が引きつっていたような気もする。
予備衣装の貸し借りなんて、ごく当たり前のことだろうに。
関係の停滞はやがて問題を引き起こす契機となるのだから。
「なあ、龍驤。」
「ナンヤノン?」
「今度ツインテールな金髪のカツラをかぶって、ベーイ! とか無理無理無理! って鳴いてみてくれないか?」
「テイッ!」
「はうっ!」
「キミ、ナニユウトンネン! コノタワケモン!」
「正拳突きは止めてくれたまえ。」
眼前で火花が飛んだけれども、男はなんとか耐えた。
なんと素晴らしいツッコミなのか。
これぞどつき漫才且つ夫婦(めおと)漫才の基本だ。
塵紙で乱雑に鼻血をぬぐってもらいつつ、男は自分自身を幸せだと感じる。
こんなに突っ込んでくれる愛しき存在が、いつも傍にいてくれるのだから。
夜のツッコミはこちらが先手だがな。
男がニヤニヤするのを見て、小柄な身体を濡れた手拭いでぬぐっていた娘が冷たい目付きで眺める。
「キモチワル。コノ、ヘンタイ。」
「うむ、俺自身に自覚はあるぞ。」
白い小柄な女を男はぎゅっと抱き締める。
満更でもない顔で、女は男を受け入れた。
夜の明ける時間まではまだ少しだけある。
悠久の闇をたたえた瞳六つが男を捉えるけれども、男はそれに気づく気配もない。
そして、塵紙がまた再び多く消費された。