はこちん!   作:輪音

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水平線の終わりまで
届け届けと缶唸る
我らは艦娘
鋼鉄乙女は
海走る
紅い蹄で
駆け抜ける
駆り立てるは
闘志か
或いは憎悪か
胸の片隅に
ちっちゃな恋心隠し
心は大海を
突き抜ける

『妖精』
その日、悪魔は
生きろと言った



今回、二四〇〇文字程あります。



CCLⅩⅩⅥ:ネルソン・タッチ

 

 

 

「ふっ……成程な。いいだろう。見せてもらおうか、深海棲艦の姫級の実力とやらを!」

 

肌寒い、灰色空の下の海原。

英国の誇るビッグセブンが海域で吼える。

その後ろには、猛威練達の艦娘が勢揃い。

対するは戦艦棲姫、ほっぽちゃん、港湾棲姫、ヲ級改、レ級、離島棲姫。

緊迫を孕(はら)んだ重い空気が、一触即発の流れを生まんとしていた。

 

「各々が責務を果たし、死力を尽くさば強大な敵とておそるるに足らん! さあ、深海の姫君たちよ、とくと喰らうがいい! これがネルソン・タッチだっ! 主砲、一番! 二番! 行くぞ、もう一撃だ!」

 

戦艦級艦娘の艤装が、彼女自身を挟む強襲形態に移行した。

ビッグセブンに随伴する陛下系三番艦と紅茶系五番艦が英国戦艦に呼応し、その主砲から強烈な砲弾を敵に向けてぶちかます。

痛打を浴び、苦悶する深海棲艦たち。

跪(ひざまず)く者さえいたほどだ。

 

「イケるぞ。ウォースパイト、金剛、もう一度ネルソン・タッチだ! …………ふっ、かかったな! ネルソン・タッチはここ一番の大技! 二度は出来ぬが、 余たちの連撃自体は可能! さあ、余からの会心の一撃を堪能するがいい! 逃さんぞ! シュート!」

 

絶望的な表情の彼女たちへ追撃をかけるは英国艦娘。

猛将の面影を見せる戦闘艦。

同じ艦隊の瑞鶴とアークロイヤルが高錬度の航空機隊を発艦させ、ラッキー・ジャーヴィスが雷撃し始める。

猛り、吼え出すは深海棲艦。

 

と、そこへ掛けられる言葉。

 

「OKです!」

 

とある重巡洋艦の終了を告げる声が、函館近海へ爽やかに響いた。

広報向けの撮影が終了したのだ。

迫力ある映像が撮れたとほくほく顔の娘。

これからの編集作業を楽しみにしていた。

艦娘特集雑誌への提供写真もよいものが多数撮れた。

万々歳の結果。

SSS勝利だ。

実際の艦娘と深海棲艦との激戦の様はなかなか撮影し辛いものだが、函館鎮守府ならば様々な再現映像をじっくり撮ることが出来る。

特に艦娘愛好家や深海棲艦愛好家たちからは、多くの要望が大本営広報課に連日連夜届けられていた。

数多のエロい要望を知って、エッチなのはいけないと思います! と大本営所属の大淀が言ったとか言わなかったとか。

 

艦娘と深海棲艦との双方に弛緩した空気が流れる。

おつかれー、お疲れ様といった声が聞こえてきた。

先程までのおそろしげな雰囲気は、既に雲散霧消している。

やれやれと背伸びしたり、艦娘たちに話しかけたり、おやつのことを考えたり、提督のことを考えたりする深海棲艦たち。

瑞鶴が、姉と思って水魚の交わりの如くに親しんでいる存在へ話しかけた。

 

「お姉、ヲ級改のコスプレがとっても似合っているね。」

「アリガトウ、ズイカク。フンソウシタカイガアルワ。」

 

微笑みあうは五航戦の姉妹艦。

今日も津軽海峡は平和である。

 

 

 

「なんだ、アドミラル。甘いな! そんな踏み込みでは余を倒すに至らんぞ。そこの壁に手をついて臀部(でんぶ)をこちらに突き出すのだ。そう、それでいい。では存分に味わうがいい! これが、ネルソン・タッチだ!」

 

鎮守府内にある訓練施設。

熱心に提督をタッチする英国戦艦。

床がどんどんと赤く染まってゆく。

鼻血も相応にどばどば流れている。

彼女の真似をして、同様に鼻血を流す艦娘までいた。

程なく、彼女たちは担架で医務室へと運ばれるのだった。

その後、提督を含めた全員が大淀から滅茶苦茶叱られた。

 

 

 

「ナガート! ビッグセブンの一員として、卿(けい)に会えたことを嬉しく思うぞ。では早速、演習しよう。日本のカンムスはシグルイとやらをするのだろう? 楽しみなことだ。」

 

函館鎮守府を代表する艦娘の長門へ親しげに話しかけるネルソン。

その姿はまさに威風堂々たる大貴族。

あらゆる敵を薙ぎ払わんとする強い意思持つ瞳が、北海道に駐留する最強艦娘へ注がれた。

 

「よかろう、ネルソン。それは私も望んでいることだ。」

 

ビッグセブン二名に挟まれるは提督。

時間をきちんと外した筈だったのに。

ここは提督私室にある個人用の風呂。

三名入っても十分な大きさある温泉。

密着する弩級的存在に困惑していた。

そして、三名共のぼせたのであった。

大淀に叱られ、全員しゅんとなった。

 

 

 

「アドミラル、貴様の手料理を余に食べさせるがよい。アイリッシュ・ウィスキーと共に楽しませてもらうとしよう。」

 

夜更け。

厨房でせっせと浅漬けの仕込みをしている提督へ、にこやかに話しかける余様。

その手には、信州産の英国林檎。

離島棲姫が持ち込んだ美味林檎。

日本に根付いた欧州の果物ナリ。

何箱も持ち込まれたために、いっぱいいる艦娘や深海棲艦たちも大満足な程だ。

提督は考える。

英国と言えばフィッシュアンドチップスだったか、それとも鰻のゼリー寄せか。

それともスコーンかサンドウィッチか。

エルマーの冒険では、ピーナッツバターとゼリーを挟んだサンドウィッチだったか。

結局、玉子サンドとわかめスープを提供する提督。

何故かどこかの軽空母が現れ、それはそれは見事な玉子焼きを作り上げ、両者を感嘆せしめるのであった。

 

 

 

「海軍の酒と言えば、ラムだ。これは取って置きの二〇年もの。さあ、アドミラルよ、共に呑もうぞ。砂糖黍から醸し出される、このふくいくたる香り。これこそが、船乗りの呑む酒なのだよ。」

 

深夜。

提督の私室で酒を呑む戦艦級艦娘。

やがて函館所属の艦娘たちや深海棲艦たちが乱入し、ちゃかぽこちゃかぽこな宴会へと突入するのだった。

 

「アドミラル・イズ・イン・サイト。では各々方、始めるとしようか。よろしい、今宵は余がアドミラルの傍にいてやろう。明日の朝は熱い紅茶を共に飲もう。キューカンバー……日本語ではキューリというのか、そのキューリのサンドウィッチを沢山用意するのだ。船乗りは沢山食べるものだからな。」

 

それが当たり前のことのように話すは、日本生まれの英国艦娘。

そんなものかなあ、と当惑しつつ受け入れるは函館の艦娘たち。

函館所属の深海棲艦たちと共に、彼女たちは痛飲するのだった。

 

そしてまたまた全員、大淀からむちゃんこ叱られるのであった。

 


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