はこちん!   作:輪音

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今回は二一〇〇文字程あります。


CCLⅩⅩⅦ:横須賀の赤鬼

 

 

 

四大鎮守府。

横須賀、呉、舞鶴、佐世保の各鎮守府はそれぞれ九人の提督と彼らを補佐する提督予備軍(副官、参謀、副提督、提督補、補佐官)が基地の多頭群として機能しており、お互いに切磋琢磨したり殉職したりいつの間にか行方不明となったりしながら厳しい戦局へ立ち向かっている。

 

そうした中、歴戦の艦娘たる横須賀第二鎮守府の赤城は『横須賀の赤鬼』と呼ばれている。

彼女はすべての赤城に於いて最優秀個体であり、戦争初期から戦い続けている同姿艦の最高峰でもあった。

何故そのように優秀な彼女が第一に所属していないのかというと、ひとえにその自由奔放な性格が災いしている。

今、彼女は函館鎮守府の食堂で舌鼓を打ち鳴らしていた。

赤城は函館提督からの御中元や御歳暮などで貰った焼菓子詰め合わせに夢中となり、それが高じてここまで来てしまったのだ。

はるばる来たぜ、函館。

ちなみに、わざわざ函館まで来る艦娘は彼女以外にもけっこうな数が存在する。

 

「この中華粥はとてもおいしいですね、吹雪ちゃん、霞ちゃん。」

 

両隣にいる、自らの護衛艦たちへ微笑みかける赤城。

思わず真っ赤になる吹雪と、対照的に冷ややかな霞。

 

「そ、そうですね。これはとてもおいしいと思います。」

「ええ、そうね。その意見には、全面的に賛成するわ。」

「あの、提督。」

 

横須賀鎮守府の誇る最強級正規空母は、近くを通りかかった提督に話しかける。

 

「はい、なんでしょう?」

「李さんをください。」

 

函館鎮守府の誇る名料理人が欲しい、と彼女は躊躇なく言った。

そこに痺れる、憧れる。

提督は即座に対応する。

 

「ダメです。」

「えーっ!」

「あの、赤城さん。それは大変無茶な要求じゃないでしょうか。」

「ムダよ、吹雪。こうなった赤城さんはどうにもならないから。」

「わかりました、提督。」

「わかってくれましたか。」

「では、鳳翔さんと間宮さんをください。」

「それもダメです。」

 

それを聞いた吹雪は、びっくらこいた顔をする。

 

「赤城さんが悪化してる?」

「くだらない戯れね。」

 

一言で斬り捨てる霞。

 

「仕方ありませんね。」

「そちらにも、全国的に名だたる料理上手が何人もおられるでしょう。」

「私、函館鎮守府に転属します!」

「更に酷くなった!?」

「まさに処置なしね。」

 

驚愕する吹雪とため息をつく霞。

 

「無理難題を仰らないでください、赤城さん。」

 

流石に函館提督が眉に皺を寄せる。

 

「うちでは赤城さんの食費を賄いきれませんから。」

「それは風評被害ですー! 私、量的にはそんなに食べませんから!」

 

ぷっぷくぷーと、頬を膨らませる一航戦の片割れ。

可愛い。

そこへ元同僚の加賀が通りかかる。

彼女は以前、『横須賀の青鬼』と呼ばれた猛者だ。

 

「加賀さん、私が函館にいられるように助力してください。」

「くまりんこ。」

 

何故か、重巡洋艦である三隈の口真似をする函館最強級正規空母。

一瞬、周囲の時間が停止した。

相変わらず無表情だが、周囲の艦娘たちは思わずぷっと吹き出す。

 

「やりました。」

 

どこか誇らしげな彼女。

 

「そこをなんとか!」

 

直ぐ様食い下がる赤城。

 

「わかりました。」

「わかってくれましたか!」

「函館の航空母艦群と同時対決して、全員に見事打ち勝てたらいいでしょう。」

「えええ、それは幾らなんでも無理ですよう。」

「教官、勝手に口約束しないでください。」

 

親友とケッコン予定の相手から同時に責められ、彼女の頬が赤く染まってゆく。

 

「気分が高揚してきました。」

 

それを見ていた霞が、吹雪にひそひそと話しかける。

 

「加賀さんも赤城さん程じゃないけど、そうとう変わっているわね。」

「えーと、あの、そのまあ、あはは。どちらも個性的だと思います。」

「あんた、もっとちゃんと自己主張しないとその内大火傷するわよ。」

「既に火だるまですから。」

「恋の炎で?」

「そ、そげなことはありもさん!」

「なんで急に九州弁になるのよ。」

 

なんやかやで赤城の実力を見たいとの話に変わり、赤城対加賀龍驤雲龍ヨークタウンという無茶ぶりで演習が行われることになった。

 

「なんでこんなことに……。」

 

ぼやきながらも月餅とジャスミン茶を堪能する赤城。

ここまで来ても、彼女は通常運転である。

 

「けっこう余裕そうに見えますよ、赤城さん。勝算があるんですか?」

 

どこかわくわくした顔で問いかける吹雪。

 

「単に食い意地が張っているだけじゃないの?」

 

にべもない霞。

 

「ふふふ、どうでしょう?」

 

身支度を調える赤城。

その表情に憂いなし。

戦鬼の片鱗とも言うべき波動が、その身体から漏れ始める。

 

「殺れない、じゃなくて殺らなくてはならないんですよ。」

 

彼女は既に、戦闘機械的な言動に移行しつつある。

苦境にあって尚輝く艦娘の鑑だ。

何年も最前線で戦い続けているだけの実力者の矜持が、そこに見てとれた。

 

「吹雪ちゃん。」

「はい。」

 

なにを言うつもりなのだろう。

知らず知らずの内に胸が高鳴る吹雪。

頬が紅潮してゆく。

まさか……まさか……。

 

「晩御飯は餡掛け焼きそばや雲呑(ワンタン)や焼売や春巻きなどがいいですね!」

 

爽やかに微笑みながら、赤城は演習場へと飛び出していった。

 

やがて、その笑みは素早く獰猛なものへと切り替わってゆく。

さあ、私を存分に楽しませなさい。

まるでそう描いているかのように。

 

そして、苛烈なる演習が始まった。

 

 


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