はこちん!   作:輪音

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CCLⅩⅩⅧ:奈良アニとあかんキネマ

 

 

 

「円盤が売れねえんだよ、コンチクチョーメッ!」

 

奈良アニメーションに勤めている先輩の口は悪い。

今も電話口で散々喚いている。

呉の先輩も口が悪いし、私はそういう星の元に産まれたのかも知れない。

通称奈良アニと呼ばれる先輩の所属せし会社は、業界内に於いて比較的健全な経営方針で知られている。

健全でない会社の内情を描いた漫画やアニメーション作品はちらほらあるが……うん、あれは無いよなあと思うことが時折ある。

『白い函』を、いつかはきちんと観たいものだ。

 

「型通りの異世界転移・転生でチート且つハーレムな展開なんて、みんなもう飽き飽きしてんだよ! そしてとどめに主人公が他の登場人物たちに覚悟しろ勇気を示せだとか言う終盤なんて、定型過ぎて泣けてくる状況だ! がっかりだよ。失望するよ。残念だよ!」

「はあ。」

「『こんそめちきん』が潰れてなんとか移籍出来たのはよかったし、『奈良アニ』が続けて三本それなりに売れる作品を作れたまではよかったんだ。」

「『らきすら』は今も人気ありますよね。」

 

流されるのも悪くないが、流されないことも悪くない。

ずっとずっと長く変わらず好きだっていいじゃないか。

人間だもの。

熱い思いはきっと伝わるから。

 

「おう、今も聖地巡礼してくれるファンがいるしよ。だがな、問題はそこじゃないんだ。例の『ノケモノ・ショック』は知っているか?」

「監督を降板させた結果、それを不安視した投資家投機家が株を売り払って鴨皮書店の株価が暴落した話ですよね。」

「折角アニメ業界の風向きが少しずつよくなってきていたのによ、鴨皮のア……。」

 

愚痴る先輩から危ない話を散々聞かされた。

邦画の駄作がどうしたとかこうしたとか。

洋画に於けるあんなんとかこんなんとか。

以前鑑賞した数々の酷い映画を思い出す。

気分がどんどん損耗してゆく感じだった。

気分屋な監督、破綻した脚本、思い込みの激しい演出。

棒読みの役者、顔だけの役者。

主演のごり押しだけが目的と化した映画。

やたらに暗いだけで救いの一切ない映画。

中身がぺらっぺらで原作を侮辱する映画。

そうだ。

現在あかんキネマ鑑賞の苦行をしている友人へ、鑑賞した作品とそうでないものを織り混ぜて勧めておこうか。

あの彼ならば、きっと人生の糧にしてくれることだろう。

必ずやシンボルを見つけ、霧の道をシヴェリア鉄道で抜けてゆくことだろう。

 

人気作品の漫画はアニメ化や実写化を言われやすいらしいが、落とし穴があちこちにあるので要注意だ。

小説投稿サイトで人気作品となって書籍化されたって、危地はあちこちにある。

表紙絵が作品に合わなくて、うぎゃーな感じになることだってよくある話。

それは絵師の責任というよりも、作品との相性を無視した出版社側の怠慢。

第三巻が出なかったりなんて当たり前だ。

先日も某小説がアニメ化寸前でコケたし。

それと鴨皮の関連会社による某監督への給与未払金問題もあるし、作り手は受け手が思っている以上に雇用側から蔑視されているし扱いが酷い。

 

悪循環がいつかどこかで断ち切られることを望んでいる。

 

 

業務を終えて、創作活動に当てられる時間は案外少ない。

提督稼業は多忙なのだ。

朝食昼食夕食の時間も艦娘の誰かと一緒だし、入浴時もなんやかやと話しかけられて集中しきれない。

上の空で返事したら、後が大変だ。

寝る時も必ず二名の艦娘が添い寝状態になるので、結局僅かな時間を利用して携帯端末に話を書き込むくらいしか出来ない。

それと、単身出張時を利用するくらいか。

それでも支持してくれる読者が存在する。

それは本当にありがたいことだ。

 

創作活動していることは、これからも艦娘たちに内緒にしとかないとな。

 

 

先日あかんキネマをいろいろ勧めた友人から、これは観るべき酷い映画だよんとばかりにいろんな迷作のDVD群が送られてきた。

急遽(きゅうきょ)『あかんキネマ祭』を開催してみたが、殆どの艦娘が途中で脱落してしまい、最後まで観たのは地球の文化吸収に意外と貪欲なメトロン星人と初雪と望月と妖精たちくらいだった。

 


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