はこちん!   作:輪音

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見合い
それは
艦娘を修羅へ走らせる道
一見穏健な駆逐艦たちを
狼へと変貌させる下策也
艦娘の道は帰れぬ一本道
戻ること能わぬ一方通行
提督は思い詰めた姿見て
その先を知り得るか否か

Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか



今回は二〇一〇文字あります。




CCLⅩⅩⅩⅠ:見合い、その遠き道

 

 

 

 

私が見合い結婚をするつもりだと艦娘たちに言ったら、何故か会議室は阿鼻叫喚の渦に包まれた。

もしかして、この警備府の経営方針が大幅に変化するとでも思っているのだろうか?

 

「なんだよ! 提督は俺たちをなんだと思っていやがるんだ!」

 

普段冷静沈着な軽巡洋艦がカンカンになっている。

何故だ?

 

「お前たちは私にとってかけがえのない部下だ。例え結婚したとて粗略にはせぬ。」

「ちげーよ! バッカじゃねえのか! そういうことを言ってんじゃねえんだよ!」

 

一体、なんなんだ。

 

「仮に結婚した後もこの警備府は私が提督として管轄するし、家庭に多少時間は取られるだろうが、君たちの待遇はこれまでのものと同等かそれに近い水準を保てるように最大限留意しよう。」

「違う! 違う! あんた、全然わかってねえよ!」

 

吼える軽巡洋艦。

 

「なんだ? 要望でもあるのか? それなら要望書を提出してくれ。吟味させてもらうから。」

「誰かこの天然ボケに思いきり突っ込んでやれ!」

 

なんだか今日は特別に失敬だ。

いつもはあんなに頼れるのに。

 

「天龍。」

「なんだ。」

「あなた、疲れているのよ。」

「俺はモルダーじゃねえぞ!」

「提督。」

「なんだ、時雨。」

 

しっかり者の駆逐艦が口を開く。

 

「提督の見合い相手はどこに住んでいるのかな? それを今すぐ教えて欲しいな。それと即時に携行小火器の臨時持ち出し許可が欲しい。」

「なんだか不穏な感じがするので却下だ。冗談を言っている場合じゃないぞ。」

「冗談はあんたの顔よ、司令官。」

「酷いな、叢雲(むらくも)。」

「簡単な解決方法があるわ。」

「ほう、聞こうか。」

「今夜、皆と一緒に寝ましょう。」

「却下だ。」

「ケチね。」

 

警備府の面々を見渡す。

何故か全員不機嫌な顔をしている。

八名の駆逐艦。

三名の軽巡洋艦。

一名の軽空母。

 

「全員、不機嫌のようだな。」

「当たり前ですよ、司令官。」

 

吹雪までがそんなことを言う。

 

「私が結婚することに不安を感じているようだが、お前たちは私の大切な家族だ。無理無駄無謀な作戦になどは絶対参加させないし、これからも函館鎮守府と連携を密にして安全海域の拡大に努める所存だ。」

「司令官は誤解されています。」

「なんだ、不知火。お前から話しかけてくるとは珍しいな。」

「迂遠な表現は好みませんので、単刀直入に申し上げます。」

「うむ、忌憚のない意見を頼む。」

「……せてください。」

 

あの不知火がボソボソと喋った。

珍しい。

 

「……すまん、なにを言いたいのかよくわからない。」

「あー、もうめんどくせえ! 搦め手はなしだ! 実力行使に移ろうぜ!」

「ダメです! 無理矢理なんて、情緒がありません!」

 

怒る軽巡洋艦に宥める駆逐艦。

さっきから、彼女たちはなにが言いたいのだろうか?

最も信頼している軽空母へ目を向ける。

演習時は肌脱ぎになる彼女だが、普段はきっちり着物を着ていて端然としている。

彼女ならば、この混沌をなんとか鎮めてくれることだろう。

 

「提督。」

「うむ。」

「これから、大本営に突撃します。」

「ん? な、なにを言い出すんだ?」

「提督を失うくらいならば、いっそのこと一花咲かせて参ります。」

「な、なにを言っているんだ! お前がいなくなったら、大変困るじゃないか!」

 

ピタリ、と彼女たちの動きが止まり、室内は静けさに包まれた。

なんだ?

 

「あのよ、提督。」

「なんだ、天龍。」

「その、な、なあ、オレが突然いなくなったら、どう思う?」

「バカなことを言うな。お前がいなくなったら大変困るぞ。」

「そ、そうか! そうだよな! 提督はオレがいなくなったら困るんだよな!」

 

その後は艦娘たちから似たようなことを聞かれた。

一体、なんなんだ?

情緒不安定なのか?

翌朝函館の提督に電話したら、もう少し触れ合った方がいいと言われた。

 

その日の午後に見合いを勧めてきた人から連絡があって、話は無かったことにしてくれと言われた。

都合が悪いのだろう。

もしかしたら、相手のお嬢さんに好きな人がいたのかも知れない。

まあ、今回ご縁が無かったのだ。

ご縁談、というくらいだからな。

午後、業務が一段落した後で艦娘たちと交流の時間を設けた。

やたらと艦娘たちがペタペタ触ってきたので、少し困惑する。

 

貰い物の林檎を使ったパイが焼かれ、皆からお食べとばかりにフォークを突き出された。

ちょっと胸焼けしそうになる。

 

夜、寝ようとしたら駆逐艦たちが私の寝床にいた。

このオマセさんたちめ。

どこでそんなエッチな寝間着を買った?

即時に追い出す。

函館の提督は、毎晩とっかえひっかえで艦娘たちと添い寝している?

それがどうした。

 

しかし、彼はよく耐えられるものだ。

私だったら、美人の彼女たちに毎晩迫られたら直に陥落してしまうかも知れない。

彼女たちが何故無愛想でご面相のよくない私に好意を持っているのかよくわからないけれども、出来得る限りは親切にしよう。

 

その夜、何名もの艦娘とケッコンする夢を見た。

その話を朝食時に艦娘たちへ話したら、何故か全員上機嫌になった。

嗚呼、彼女たちは謎がいっぱいだ。

 


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