はこちん!   作:輪音

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艦娘と提督の関係を
まざあ・ぐうすの調べに乗せ
野望の童謡が
セカイを震撼させる

『お歌をうたって通う道』

理解されないことをおそれてはいけない



CCLⅩⅩⅩⅡ:お歌をうたって通う道

 

 

提督はなにで出来ている?

提督はなにで出来ている?

努力と汗と思いやり

それに仔犬のしっぽ

そういったもので出来ている

 

艦娘はなにで出来ている?

艦娘はなにで出来ている?

砂糖に香辛料

それに素敵なものばかり

そういったもので出来ている

 

 

 

 

ビタン、ビタン、ビタン、ビタン、ビタン、ビタン。

なにか重たいものを、何度も何度も何度も床に叩きつけるような音が聞こえてきた。

しばらくしてその音は止み、ふうっと一仕事終えたような吐息が駆逐艦から漏れる。

 

「これでまた、司令官は普通に動けるようになるんでしょうか?」

 

やさしい声が、ひっそりとした家屋で紡がれた。

執務室兼居間の畳に転がる人間もどき。

長い手足が妙な方向にねじくれていた。

それをバキバキと直してゆくは駆逐艦。

パチパチとあちこちで小さな火花が飛んでいる。

黄色いT字型頭部をゴキッゴキッと捻り回している内、彼女の心を震わせる低い声が聞こえてきた。

それは愉悦。

暗い奥底のなにかを輝かせるヒカリ。

 

「なにかあったのかな? 私は気を失っていたようだが。」

「大丈夫ですよ、司令官。なにもありませんでしたから。」

「そうかい?」

「そうです。」

「私はなにか大事なことを忘れてしまったような……。」

「気のせいですよ、司令官。今夜のおかずは真っ赤な麻婆豆腐にしますからね、楽しみにしていてください!」

「あ、ああ、楽しみにしているよ。」

 

白い少女は、そしてとても嬉しそうに微笑んだ。

そろそろ夜の帳(とばり)が下りてくる。

辺りは真っ暗、闇の中。

ぽつんと灯り、ひとつだけ。

だけど、二名の心は温かい。

ほっかほっかとなっている。

古い発電機が音を立てていた。

ブーンブーンとうるさそうに。

静かな静かな海のそば。

壊れた壊れた海のそば。

他には、ザパーンザパーンと波が寄せては帰す音するだけ。

それでも二名はにっこにこ。

ずっとずっと、にっこにこ。

 

 

 

提督と艦娘、と祇園精舎の鐘が鳴るよ

いつケッコンしてくれるの、と艦娘が泣くよ

戦争が終わったらな、と提督が囁くよ

それ、いつなんですか、と艦娘が嘆くよ

それはわからない、と提督がため息つくよ

提督をベッドに案内する探照灯が来たぞ

提督の首をどうにかする大本営の役人が来たぞ

 

 

 

「俺は駄目な提督なんだ! もうやってらんねえ!」

 

酔っぱらった提督が民家改造型警備府でくだを巻く。

彼はやさしく、艦娘に怒鳴ることもない。

人のよい男はアルコール依存症で、玉や馬や自転車やボートがとっても好きなだけ。

赤鉛筆や新聞を手放せないだけ。

負けても負けても懲りないだけ。

持ち金を全部突っ込んで、あっという間に無くすだけ。

 

「大丈夫よ、司令官。もーっと頼ってくれていいのよ!」

 

漆黒のフード付きの上着を着た少女が、やさぐれて少しばかり豊満な提督を強く抱き締める。

慈母のような微笑みで、白い少女はいつまでもいつまでも彼をギュッと抱いて離さなかった。

ずっとずっと愛しているからね、と失神したむっちり男の頬を彼女はいとおしそうに撫でた。

 

 

 

白く白く美しきモノたちがうごめいている。

黄色い肌のモノの周囲にてうごめいている。

とろけた顔のおっさんの回りで泳いでいる。

水魚の交わりの如く。

白く白く美しきモノたちは微笑みを絶やさない。

廃屋に見える建物の中で、みんな仲良しこよし。

 

 

 

一〇人の提督

居酒屋へ食事に出た

一人が鳳翔に誘われ

そして一行は

九人になった

 

九人の提督

全員寝坊する

一人がとうとう

眠りから覚めず

そして一行は

八人になった

 

八人の提督

タウイタウイへ旅行

一人がそこに居残って

そして一行は

七人になった

 

七人の提督

刀を試し斬り

一人が自分を

ぶった斬り

そして一行は

六人になった

 

六人の提督

蜂蜜を取る

一人が失敗

蜂に刺され

そして一行は

五人になった

 

五人の提督

法律を学ぶ

一人が逮捕され

そして一行は

四人になった

 

四人の提督

海へ出る

一人が姫級に拐われ

そして一行は

三人になった

 

三人の提督

動物園に行った

一人が球磨に誘われ

そして一行は

二人になった

 

二人の提督

日向ぼっこ

一人が日向に誘われ

そして一行は

一人になった

 

一人の提督

一人で海辺に

住んでいた

しかし

彼が艦娘たちと

ケッコンすると

そして誰もいなくなった

 


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