はこちん!   作:輪音

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戦艦になりたいと願う少女
努力研鑽を惜しまない少女
彼女の希望は叶うだろうか
今日も彼女は無謀な夢見る
いつか必ず叶うと信じつつ



CCLⅩⅩⅩⅣ:清霜戦艦化計画

 

 

 

試行錯誤の続く『駆逐艦火力強化計画』は現在、大湊(おおみなと)と函館の共同計画として小樽や釧路や稚内などを巻き込みながらぼちぼち展開されている。

駆逐艦はけっこういるものの、他の艦種が少ない関係から火力の強化は必須事項と思われていた。

基幹戦力の底上げが為されることで、見えてくる局面が変わるらしい。

 

艦娘の中でも特に計画に対して積極的なのが大湊の清霜で、うちの霞や早霜や大淀や足柄、それと横須賀の朝霜を巻き込みながら元気に今日も走り回っている。

駆逐艦がわんさか参加しているため、女学校のような趣さえ感じた。

たっぷり用意した筈のお汁粉がどんどん減ってゆく。

味噌おでんや芋汁もその量をばんばん減らしていた。

食べ盛りの娘たちへ食わせているみたいにも思える。

お代わりをする娘さえいた。

さあ、どんどん食べたまえ。

 

 

N型艤装、通称『なんちゃって戦艦型艤装』は長門型艤装を模した形となっており、一見すると四一センチ連装砲四門を備えているかのようだ。

アサルトライフルを拳銃弾仕様化するような方向ではどうかと言ってみたら、それが何故か普通に通ったからである。

つまり、八つの砲身はそれぞれ二〇.三センチの砲弾を放つモノであって、外見こそゴツい砲台も中身は相応に簡略化されている。

それでも駆逐艦を圧倒する火力が得られるのだから、制御さえ出来れば強力な存在になれるだろう。

駆逐艦三名分の経費と重巡洋艦二名分の資材が飛ぶことから、ある程度の艦娘を抱える規模の基地でないとまともに運用出来ない。

駆逐艦決戦仕様という、皮肉及び揶揄をされているのは当然かも。

駆逐艦一名でひっそりやっている警備府は蚊帳の外、という訳だ。

そうした一名きりの警備府用に反動低減装置組み込み型の二〇.三センチ砲を開発中だが、今のところ扱える駆逐艦には限りがある。

何故か大淀がロケットランチャーを推しまくるのだけれども、同意する艦娘の少なさを嘆くのはなんだか違う気がしてしょうがない。

 

N型艤装自体の制御は駆逐艦が行えるように簡素化されていて、反動低減化機構も組み込まれている。

陽炎型や夕雲型の駆逐艦ならば、なんとか制御出来ないでもない仕様だ。

島風は興味が無いようでふーんという顔をしていたが、吹雪は面白がって動かしていた。

彼女は戦艦級艤装を難なく扱えるようだ。

まあ、元はレ級だしな。

これに触発された叢雲曙霞が起動に挑戦し、霞はなんとか扱えたものの、叢雲と曙は制御出来ないようだ。

そして何故か、私がやいのやいのと怒られる破目に陥った。

理不尽ナリヨ。

吹雪型や睦月型の子たちからもやいのやいの言われ、辟易(へきえき)する。

どこぞの改弐仕様な時雨や夕立は動かせたから、そうした艦娘は相性がよいのかも知れない。

 

どこからともなく現れた早霜が艤装を動かし、私へ手を振った。

それを見た駆逐艦たちが、次々とその艤装の起動に挑んでゆく。

初雪が挑戦して動かせず、吹雪へなんやかやと話しかけていた。

うちの吹雪は動かせるが、よその吹雪は動かせないだろうなあ。

初雪とかなり親しい望月が試してみるも動かず、お冠であった。

その後、ハッチモッチステーションにて彼女たちからいたぶられることが確定した。

知らんがな。

 

 

大本営から宣伝用の撮影をするために青葉衣笠磯波がやって来て、何故か磯波は私をぱちぱち撮影するのだった。

それを見た吹雪がムッとした顔で近づいてくる。

 

「磯波ちゃん、私の司令官になにやってんの?」

「吹雪ちゃん、大丈夫だよ。これは宣伝用の撮影。ただ、それだけのことだから。」

「撮影だけなら、司令官に腕を絡ませる必要なんて無いでしょ。そろそろ離れて。」

「私にはテイトクニウムが必要なの。補充出来たら離れるわ。」

「いい加減にして! 私の司令官に触るには許可が必要なの!」

 

やんやんやり出す駆逐艦たち。

仕方ないなあ。

 

「君たち。」

 

語りかけると、びくんとする駆逐艦たち。

 

「私は現在誰とも付き合っていません。」

 

えええ、という顔の彼女たち。

と、そこへ。

 

「ねーねー、司令官。私の勇姿を見てくれた?」

 

清霜が無邪気に抱きついてくるのだった。

そして、皆がゲキオコ状態へと変化する。

解せぬ。

 

 

 

雪降る津軽海峡で宣伝用の撮影が始まる。

ぽんぽん丸に乗った我々は、大戦艦清霜の姿を眺めた。

それはまさに勇壮なる威容。

いつの間にか現れた武蔵が、やさしい目で彼女を見つめている。

佐世保からわざわざ激励に来たのだとか。

九州の艦娘たちも興味津々の表情をしていた。

その目はいずれも武人のもの。

戦う乙女たちの本領そのもの。

両腕を胸元で組み、胸を張った清霜が高らかに叫んだ。

 

「戦艦清霜、抜錨する!」

 


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